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本の紹介「日本の高山植物」

「日本の高山植物 どうやって生きているの?」工藤岳著、光文社新書、2022年9月、ISBN978-4-334-046627-9、1200円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
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【萩野哲 20230209】【公開用】
●「日本の高山植物」工藤岳著、光文社新書

 高山植物は森林限界より上の苛酷な条件で生きている。まずは耐寒性が必要だが、常にこれを保持していると光合成活性が低下してしまうので、冬モードと夏モードの切り替えを行っている。生育シーズンが短く成長に時間を要するので長命である。ほとんどの種が他花受粉を行うのは、多様な遺伝子を持って環境変化に対応できるようにするためだろうか?高山植物のポリネーターはハエ類とハチ類が大半を占める。前者が匂いに頼るのに対し、後者は優れた色覚を有して訪花する。ハナバチ類のいないニュージーランドの高山植物が目立たないのはそのためらしい。各々の高山植物は風衝地と雪田という温度や湿度が両極端の間に生じる環境傾度の中で適した土地に分布する。子孫を残さない一代雑種が数百年も生きてキーストーン種であるマルハナバチを支えているコエゾツガザクラのような事例もある。予想外の発見も多い。まだまだ解明への道は続くが、高山植物の未来は厳しい。「生命は生きる道を見つけ出すのだ」が楽観的でなければよいのだが。

 お薦め度:★★★  対象:高山植物を通じて生命の強さと弱さを垣間見たい人
【里井敬 20230221】
●「日本の高山植物」工藤岳著、光文社新書

 高山植物の花の本はいっぱい有ったのに、山へのアクセスが悪く、夏の生育期間が短いせいで、生態については良く分かっていなかった。高山植物は、1年に数ミリしか成長できないので、小さくても見かけよりうんと長生きだ。10m超えの株もあり、1000年、ひょっとしたら数万年生き延びてきた可能性もある。高山は雪田があったり乾燥した岩地があったり、年によって長く雪に閉ざされることもある。そこで生き延びる為に、他家受精でしか種子ができないものが多いのは多様な子孫を作る為で、また同じ種類でも異なる環境で生えているものは、獲得した性質を失わないような工夫をしている。各地の植物のDNA解析では、氷期による分布の変遷も分かる。氷期が終わって取り残された高山植物は、固有種が多い。そんな高山植物が今、急激に減少している。90年代のわずか5年ぐらいでお花畑が消えた所もある。温暖化が大きな原因だ。一つの生物の減少は、他の生き物にも影響を与える。

 お薦め度:★★★★  対象:高山植物の生態を知りたい人。最近、山のお花畑が小さくなってきたと感じている人
【西村寿雄 20230218】
●「日本の高山植物」工藤岳著、光文社新書

 30年以上高山植物の研究に携わってきた著者が、過酷な環境の中で命をつないでいる高山植物の生きざまをくわしく書いている。高山植物に多種多様な花がみられたり、奇麗な花が多いのは昆虫を呼び込んで子孫を残すため、その役割をはたす昆虫としてマルハナバチがあげられている。中ほどから最近の遺伝子解析技術を駆使して解明していく研究の効果も大きい。後半には「消えたお花畑」にもふれ、温暖化による過酷な影響にもふれている。今まで、ただ美しい花園とだけ見ていた高山植物に科学の目が張り巡らされていることがわかる。

 お薦め度:★★★★  対象:高山植物の科学研究を知りたい人
【西本由佳 20230218】
●「日本の高山植物」工藤岳著、光文社新書

 森林限界を越えたところに広がるお花畑。地面にはりつくような背丈の低い植物だが、草だけではなく木も多い。風を避け、暖められた地面に近いことを求め、小さな姿をしている。お花畑がきれいなのは、ハエやハチなどの虫に来てもらうため。なるべく同じ種の花を続けて訪れてもらうために、それぞれが個性を出したことで、いろいろな花が咲くようになった。お花畑は結構あちこちで長く咲いているように見える。これは、雪解けの時期によってあちこちで咲く時期がずれていることによる。雪解けや虫の訪れにそって移り変わっていくことで、きれいなお花畑を長く楽しめている。しかし、気候変動の影響によって、生活シーズンが乱されたり、低地の生物が侵入してきたりして、いま高山植物は危機にあるという。温暖化というヒトがもたらした変化のなかで、影響を受ける生物たちへの対応が模索されている。

 お薦め度:★★★  対象:自然のつくりだすお花畑を見てみたい人
【和田岳 20230111】
●「日本の高山植物」工藤岳著、光文社新書

 35年に北海道大雪山系を中心に高山植物の生態を研究してきた著者が、高山植物の暮らし、お花畑ができる理由、日本の高山植物の由来、そしてその危機を記した一冊。
 小さい背丈、似たような葉っぱ、大きく鮮やかな花。そんな高山植物が次々と咲き乱れるお花畑。それは、優秀な送粉者であるマルハナバチの存在と、さまざまなタイミングで雪がなくなる複雑な高山環境が創り上げてきた。という話が、著者の研究成果の紹介を通じて説得力をもって語られる。
 繰り返される氷期の中で、250万年以上かかって育まれてきた高山植物の暮らし。それが、1990年代以降目立ってきた地球温暖化の影響の中で、急速に失われつつある。
 この興味深い生態系が失われるのは、とても残念。最後に、なんとかお花畑を復活させようとする試みが紹介される。なんとかなって欲しい 。

 お薦め度:★★★★  対象:植物や生態学に興味のある人なら誰でも、地球温暖化など環境問題に関心のある人も
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