【萩野哲 20180425】【公開用】
●「溺れる魚,空飛ぶ魚,消えゆく魚」鹿野雄一著、共立出版
淡水魚のホットスポット=モンスーンアジア。その中で、東南アジアから5地域、東アジアから5地域を選んでどのような魚がどのような環境に住んでいるのかが紹介されている。
世界で確認されている魚種が約30,000種、その内淡水魚が12,000種で東南アジアに3,000種以上が生息すると考えられている。こんなのがいるのか!という魚たちが、その生息域や人間の生活の描写とともにいささか早足で紹介されている。ところで、溺れる魚とは何か?そう、魚にも鰓呼吸のみでは不足で空気呼吸が必要なタウナギやキノボリウオの仲間がいるのだ。空飛ぶ魚とは?これはトビウオ的な形態をした種がいるのみで実際に確認されたわけではない。消えゆく魚は?やはり人間活動(アブラヤシのプランテーション開発による泥炭湿地の減少、ダム建設による流域の断片化など)が深く関与している。
本の体裁から苦情を少し。@12箇所あるBoxが変な場所から始まり、読書の連続性を阻害する。特にBox化せず、章の1つとして流れをよくしてもよいのではないか?A写真が小さく見辛い。写真の横には結構な空白があるのに。まあ、ほんの一部はグラビアにあるし(ならば重複やめろ)、全ての写真はネットでカラーで見ることができるので”そうせよ”ということか?
お薦め度:★★★ 対象:魚好きの人
【西本由佳 20180422】
●「溺れる魚,空飛ぶ魚,消えゆく魚」鹿野雄一著、共立出版
魚に対する予備知識はなくても、本文に出てくる魚はだいたい写真があるので、問題はない。著者の趣味なのか、なかなかかわいらしい魚が多い。純粋な生態学のお話というより、人的な要素と魚との関係を調べた話が多い。それだけ淡水魚の分布域は人の生活域とかかわっているようだ。生態学的な研究としては、最後の方にでてくる、西表島で滝によって外と隔てられて独自に進化したキバラヨシノボリや、白神山地でダイナミックな移動をするイワナの話は生き生きとして楽しい。しかしいま、自然の守られたこれら以外の場所ではこういう研究はできないのだろうか。「消えゆく魚」という言葉が印象に残った。
お薦め度:★★★ 対象:魚をよく知らない人でも
【和田岳 20180411】
●「溺れる魚,空飛ぶ魚,消えゆく魚」鹿野雄一著、共立出版
カンボジアのトレンサップ湖やカルダモン地方、半島マレーシア、サラワク、ミャンマーの古代湖インレー湖、メコン川。東南アジアのさまざまな場所の淡水魚が次々と紹介される。コイやナマズだけでなく、フグやカレイまでいる多様性には目を見張る。それが、プランテーション、外来魚、ダム開発などに脅かされているとは心が痛む。そして、人と淡水魚のいい関係が残されている場所で営まれている水田漁労。かつては日本でも水田漁労が営まれ、それが淡水魚の多様性の維持に役立っていた。日本の淡水の生物多様性の保全にもつながるモンスーンアジアの状況が描かれる。
お薦め度:★★ 対象:淡水魚や生物多様性に興味がある人