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本の紹介「温暖化に負けない生き物たち」
「温暖化に負けない生き物たち 気候変動を生き抜くしたたかな戦略」ソーア・ハンソン著、白揚社、2024年5月、ISBN978-4-8269-0257-1、2900円+税
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【萩野哲 20240804】【公開用】
●「温暖化に負けない生き物たち」ソーア・ハンソン著、白揚社
温暖化を痛切に感じる季節に本書を読む。フェノロジーのずれ、高温による種の除去と追加は生物にどのような影響を及ぼすのか?どのようにプラスチックに応答するのか?移動、適応、レフュージアへの逃避、死、それとも進化か?著者はそれぞれの事例をそれぞれの専門家に聴取したり、現地に赴いたりして紹介する。カリブ海のハリケーンの多い島に住むアノールトカゲは前肢の指球部が発達して、強風中を枝につかまって旗のようにたなびいているという。なぜ風の弱いどこかに降りなかったのか不思議。さて、他の動植物と異なり、気候変動に対して上記のような単に応答する以上の能力を持っているヒトには何ができるだろうか?
お薦め度:★★★ 対象:気候変動を憂慮している全ての人
【西本由佳 20240824】
●「温暖化に負けない生き物たち」ソーア・ハンソン著、白揚社
気温に左右される花は、春の開花時期が早まっているという。しかし、鳥の渡りは日長の変化に従うので、ハチドリがいつも通りに渡って来た時には、餌となる花の蜜はすでに時期を過ぎているという事態が生じている。生き物たちは温暖化への対応を迫られている。クマは栄養的に良好なベリーの結実が早まれば、好物のサケの漁をあきらめてでもベリーに向かう。トカゲは、激化したハリケーンが終わると、木にしっかりしがみつける足の形のものが数を増やすという揺らぎが生じている。木々は標高の高いところ、もしくは緯度の高いところへ、散布される種子の成長という形で、寒冷な(本来の適地に近い)ところへ移動している。変わったところでは、地形的にわずかに周囲より冷たい空気の維持される場所に避難するものもいる。これはレフュージア(避難所)と呼ばれるが、そういった場所の孤立した個体群がこれからの温暖化にどこまで耐えられるかは懸念されている。温暖化に対応できるものもいれば、もともとシビアな条件で生存が成り立っていて、対応できる余地のないものもいる。ヒトができることは「できることは何でもやることだ」として締めくくられる。
お薦め度:★★★★ 対象:生き物が好きな人
【里井敬 20240920】
●「温暖化に負けない生き物たち」ソーア・ハンソン著、白揚社
ボストンの近くのウォールデン湖では、2000年代の初めにブリマックの調査で、1854年のソローの記録より、種によっては開花時期が4週間も早くなったのが明らかになった。池での平均気温が160年間で2.4℃上昇していた。
気温が上昇すると、動植物は移動する。大抵は北方へ移動するが、通常より冷涼な条件のある場所では小さな孤立した個体群が残ることがある。気温上昇で、ある種の生き物が減少する場所があり、逆に増加する場所がある。生物種の変化は捕食・送粉・寄生などの関係性も変化させる。遠く離れた所でおきた出来事が、予想外の影響を及ぼす。捕食者がいなくなり、ムラサキイガイ一色の海になることもある。気温上昇で開花の早まる種があるが、早まらない種もあり、それらは稀少になり絶滅することもある。気候の変動は種の行動だけでなく形態も変える。ハリケーンにより前肢の指球部が厚くなったトカゲがいる。風で吹き飛ばされないように木にしがみつくためだ。この形質は受け継がれて行く。
気候変動により分布域を変えてきた樹にジョシュアツリーがある。しかし、最終氷河期以降、移動は停止している。大きな実をつける植物で種子散布は大型の動物が担ってきた。体長3mにもなる絶滅したオオナマケモノだ。現在は小型のバックラットが実を食べているが、周辺にしか散布できない。
今までに5回の大量絶滅が起きているが、その内4回は気温が極端に低いか高いかで起きている。現代の温暖化は始新世初期と似ている。地球が暖かくなり、温室効果ガスが現在の3〜4倍もあった。気温は8〜12℃高く、赤道から南極までほとんど差のない状態であった。現代の温暖化は22世紀の半ばまでに始新世の水準に到達し始める可能性がある。始新世の急速な温暖化に数百年で起きたのか、5万年かかったのかは分からない。動植物が適応しなければならなかった期間という意味では重要な意味を持つ。
お薦め度:★★★★ 対象:地球温暖化に興味のある人
【和田岳 20240919】
●「温暖化に負けない生き物たち」ソーア・ハンソン著、白揚社
負けないかどうか、したたかかどうかはさておき、地球温暖化の中で生物がどのように反応しているかを紹介した一冊。
第1部のイントロに続き、第2部は、温暖化が生物にどんな問題を引き起こすかを紹介。タイミングのミスマッチは、密接な関係にある種間関係を妨げる。暑さは、生存の限界にならなくても、活動時間に影響を与え、病原体への抵抗性を弱める。分布域がかわって生じた新たな種間関係は、しばしば不利益をもたらす。寒冷な山頂が失われると行き場を失う生物が出現し、温暖化に伴う海の酸性化は炭酸カルシウムの殻をもつ生物を危機に陥れる。
第3部は、温暖化に対して生物がどのように応答するかを4つに整理。より寒冷な地域に移動し、温暖化に適応し、進化し、レフュージアに逃げ込む。食性をシフトしたヒグマ、2つのハリケーンで進化したアノールトカゲ、めざとくレフュージアで生き抜くナキウサギ。生物のたくましさも垣間見える。
気候変動の影響がこんなに目に見える形で、すでに表れていることは、衝撃的。問題解決の第一歩は、みんなが関心を持つことだ。から始まり、「できることはなんでもやることだ」で終わる。否が応にも行動すべき時というのは実感できる。
お薦め度:★★★★ 対象:地球温暖化の影響は、まだそれほど深刻じゃないような気がしてる人
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