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本の紹介「雷鳥が語りかけるもの」

「雷鳥が語りかけるもの」中村浩志著、山と渓谷社、2006年9月、ISBN4-635-23006-6、1500円+税


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【六車恭子 20070222】【公開用】
●「雷鳥が語りかけるもの」中村浩志著、山と渓谷社

 カワラヒワ、カッコウ研究の第一人者が半世紀近くかけてたどり着いたライチョウ研究こそ、恩師羽田健三氏の生涯をかけた仕事だった。日本のライチョウの生息域は世界の最南端に位置し、その高山の自然こそ世界遺産に登録するに値すると確信するまでの著者の軌跡は、図らずも昔気質の恩師の語らずして逝った遺志を見いだす旅だったろうか。ライチョウの学名「ウサギ足のだんまり屋」が日本の高山という楽園で生き続けるための挑戦は羽田氏から著者へとバトンは受け継がれた。この本は遅ればせに届けられた恩師への詫び状のようであり、しかもライチョウ保全への思いが地熱のように脈打って心地よい。

 お薦め度:★★★★  対象:ライチョウのことを知りたい人もそうでない人もぜひ

【加納康嗣 20061121】
●「雷鳥が語りかけるもの」中村浩志著、山と渓谷社

 雷鳥は奥山に住む神の鳥だった。人間を恐れない習性は世界的に見ると特異なもので、日本文化の産物である。著者が恩師羽田先生の執念に動かされて始めた雷鳥生息数調査は、1984年約3000羽の生息を確認して終わった。それから約20年、外国の雷鳥を見ることによって日本雷鳥が日本文化の産物だと認識できたとき、ようやく恩師の執念を理解することが出来るようになった。
 2001年著者は生息数調査を再開して愕然とする。南アルプス白根三山の生息数が激減していた。世界で最も南に生息する個体群の激減である。
 雷鳥は氷河期の遺存種である。今生存を脅かす多くの災難が降りかかっている。産地が孤立し遺伝子の多様性が失われている。御嶽山、立山、南アルプス南部は時に深刻である。温暖化により高山域が狭くなり、生息域が圧迫されている。平均気温が3度上がれば、御嶽山・乗鞍岳は全滅し、南アルプスは35羽まで減少する計算だ。人とケモノの棲み分けの崩壊はまさに深刻で、温暖化も手伝って高山帯までシカやサルが侵出し、お花畑が消え、毒草だけの草地に変わっている。餌資源が枯渇し、その上キツネ、ハシブトガラス、チョウゲンボウまでもが登ってきて雛を捕食する。
 「日本に残された最後の自然を、これからは人間に代わって野生動物が破壊する段階にまできてしまっている。」と著者は断言する。具体的な保護策は語られていない。
 ギフチョウの保護活動の中で、シカやイノシシによる産地や食草の荒廃が深刻である現実を体験しているだけに、雷鳥の危機に大きなショックを受けた。心は重い。

 お薦め度:★★★★  対象:鳥が好きな人、自然が好きな人、自然の荒廃を何とかしたい人

【和田岳 20061220】
●「雷鳥が語りかけるもの」中村浩志著、山と渓谷社

 信州大学の故羽田健三にとって、ライチョウは特別な存在だったらしい。その愛弟子が、師の意志を継ぎ、ライチョウの調査と保護活動に携わる。そこに至る過程と、ライチョウの現状が紹介される。
 同じライチョウなのに、日本のライチョウは人を怖がらないが、外国のライチョウは人の姿を見たらすぐ逃げる。どうやら世界的に見ると、日本のライチョウはとっても変わっているらしい。そして、そこには人とライチョウの長い歴史が関係しているらしい。
 人との幸福な関わりの中で生き残ってきた日本のライチョウには、いま大きな危機が迫っている。高山へのサルやシカなどの進出、地球温暖化によって縮小する高山のお花畑。このままでは、そう遠くない未来に、日本からライチョウがいなくなってしまうだろう。トキやコウノトリの二の舞から、日本のライチョウを守っていくにはどうしたらいいんだろう?

 お薦め度:★★★  対象:ライチョウが気になる人

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