【和田岳 20180427】【公開用】
●「サルは大西洋を渡った」アラン・デケイロス著、みすず書房
島に生息する生物がどうやって島に到達したか、遠く離れた場所に同じグループが分布している現象をいかに説明するか。それは、生物地理学の大きなテーマです。その説明は時代とともに移り変わっており、20世紀の終わり頃には、大陸移動(プレートテクトニクス)と共に、生物も移動し現在の分布が出来上がっていたという分断説という考え方が主流でした。たとえばアフリカ(ダチョウ)、南アメリカ(レア)、オーストラリア(エミュー)という離れた場所に似たような大型の飛べない鳥が分布していることは、ゴンドワナ大陸の分裂によって説明できるように思えます。しかし、DNAの塩基配列に基づいて、分岐年代を推定する理論が成熟し、実証研究が進む中で、大陸の移動では説明できないことが明らかになってきました。つまりサルは大西洋をどうにかして渡ったようなのです。
この本は、この20年ほどの間に起きた、分断説から分散説への、生物地理学上のパラダイムシフトを紹介しています。長い目で見れば、動物よりも植物の方が長距離を動くらしいとか、浮島に乗ってカエルが島に渡った?といった、興味深い話題もいろいろ登場。
お薦め度:★★★★ 対象:生き物の分布に興味がある人
【西本由佳 20180218】
●「サルは大西洋を渡った」アラン・デケイロス著、みすず書房
はじめの3分の1くらいは、生物の分布は超大陸の分裂にともなって分断されてきたとする「分断分布」説にあてられる。「地球と生命はともに進化する」とする説が魅力的に語られ、本のタイトルを忘れてひきこまれそうになる。しかしその説では、できてから一度も他の大地と陸続きになったことのない海洋島にカエルがいることは説明できない。また、発展してきた分子年代推定という手法からは、系統の分岐した年代は大陸移動よりずっと新しいという結果が得られている。そこで著者らが主張するのは、自然の筏や浮島に乗ってしまった生きものたちが、ごく奇跡的な確率で海を渡ったというものだ。ちょっと想像しにくい出来事が、他に説明のつかない証拠を前にして現実味を帯びてくる。読み落としたかもしれないけど、分断主義者たちはカエルをどうやって説明しているのだろうと気になった。
お薦め度:★★★★ 対象:カエルを前にして地史的な時間を想像してみたい人に
【萩野哲 20180219】
●「サルは大西洋を渡った」アラン・デケイロス著、みすず書房
生物地理学上、生物の隔たった分布は、何らかの障壁の発生によって起こったのか、あるいは偶発的な生物の移動によるのか?この問題を最初に考えたダーウィンの時代には生物は何らかの方法で遠くに運ばれたのであろうと推測されていた。その後、大陸移動説が確立されると、尤もな説明を与え得る分断分布説が趨勢となった。しかし、DNAに基づく種分化の時期が明確になるにつれて、分断分布では説明できない事例が蓄積してきた。例えば、本書のタイトルとなっているサルの場合、現在南米に生息する新世界ザルと、アフリカなどに生息する旧世界ザルとの分岐年代より、両大陸の分裂ははるかに過去の出来事であるため、どうしても長距離移動を想定せざるを得なくなってきた。ということで、著者らは偶発的分散を主張する。
お薦め度:★★★★ 対象:現在見られる生物の不思議な分布に思いをはせる人