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本の紹介「生命 最初の30億年」

「生命 最初の30億年 地球に刻まれた進化の足跡」アンドルー・H・ノート著、光文社文庫、2023年9月、ISBN978-4-334-10049-0、1800円+税


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【中条武司 20240628】【公開用】
●「生命 最初の30億年」アンドルー・H・ノート著、光文社文庫

 地球上の生命の誕生はいつか、そしてその化石や痕跡を見つけることができるのか。先カンブリア時代(冥王代・太古代・原生代)の化石やその痕跡をさぐることを専門にしている著者が、世界各地のフィールドとそれにまつわる研究を紹介しつつ、現在(本著が書かれた2003年ごろ)の到達点を紹介する。化石そのものだけでなく、有機物の分析やDNAの解析、現生生物との比較など、過去の生命と地球環境を知るための様々な研究がわかる。各章の最初に野外での地道な調査を紹介することで、古生物学が室内だけで完結するものではなく、総合的な学問であることがわかる。

 お薦め度:★★★  対象:恐竜だけの古生物学に飽きた人
【西村寿雄 20240424】
●「生命 最初の30億年」アンドルー・H・ノート著、光文社文庫

 多細胞の生物が一気に出現したのはカンブリア紀(5億4000万年前)。約30億年前はどんな生き物がいたのだろうか。約30億年前というと酸素がほとんどない時代、そのような時代にも生きていた微生物の数々の姿がくわしく書かれている。今回新しく見つかった微生物など加え第2版となった。「太古の岩石に刻まれた生命のしるし」「生命誕生のなぞ」「酸素革命」「真核細胞の起源」など核心部にせまる。文章は口語調で読みやすいが内容は多岐にわたる。生命の元はどこにあるのか、惑星にまで研究は広がる。

 お薦め度:一般には★★、地球科学に関心のある学生には★★★  対象:生命の起源を知りたい学生
【萩野哲 20240517】
●「生命 最初の30億年」アンドルー・H・ノート著、光文社文庫

 本書は生命が始まった約40億年前から5億年前ぐらいの生命の歴史を扱っている。40億年前にタンパク質、核酸、膜組織の相互作用、35億年前までに代謝の多様化が始まり、ストロマトライトや細菌のような生物の痕跡らしいものが残っている。27億年前には細菌と古細菌の分岐、更には古細菌と真核生物の分岐は終わっていた。22億年前に酸素濃度が上昇したが、ガンフリント(19億年前)、グレート・ウォール(13.5億年前)、アカデミーカーブリーン(6〜8億年前)とシアノバクテリアの時代が続く。ドウシャントゥオ(7.6〜5.9億年前)には初期の真核生物化石が現れた。真核生物とは内部共生できる特性を持ち、有性生殖、細胞骨格、遺伝子制御やその他の相互作用を複雑化させた。更に、酸素に富んだ世界への移行が多様化に拍車をかけた。5.5-5.3億年前のナマ層群では左右相称生物が現れるに至り、刺胞動物が始めた捕食という性質を完成させた。そしてカンブリア紀へ。
 生物の誕生、その後の進化についてはもちろん、これらをめぐる諸説、難題、疑問についても触れている。同位元素による年代測定法、分子時計、原核生物と真核生物の見分け方などの説明もわかりやすい。様々な比喩を多用した文章は格調高い。

 お薦め度:★★★★  対象:カンブリア爆発に至る経緯を詳しく知りたい人
【和田岳 20240426】
●「生命 最初の30億年」アンドルー・H・ノート著、光文社文庫

 原題は、「Life on a Young Planet」。邦題の方が内容がわかりやすい。邦題通り地球の最初の生命の痕跡がある約35億年前から、古生代がはじまる約5億4300万年前までの約30億年の生命の歴史がおもなテーマ。すなわち、多くの生命の歴史の物語ではスタートであったりするカンブリア爆発が、この本ではゴールになる。
 単細胞の生命が生まれ、シアノバクテリアによって酸素革命が起き、真核生物が生まれ、多細胞の動物が生まれ、カンブリア爆発につながる。地球環境史から、カンブリア爆発が生じた理由も考察される。
 生命の出現、酸素革命、真核生物の出現。太古の地層のどのような証拠からそう判断できるのかが説明されており、それは難しくもあるが興味深い。そのノウハウは、宇宙生物学にもつながっていく。

 お薦め度:一般には★★、地球科学に関心のある学生には★★★  対象:カンブリア爆発の前に何があったか知りたい人
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