ボルネオの熱帯雨林のフィールドへ向かう途中、飛行機事故で死んだ著者の絶筆。熱帯雨林の魅力が、さまざまな生きもの同士のつながりを中心に描かれる。
ツリータワーとウォークウェイによる林冠の調査方法、1996年に起きた一斉開花、様々な送粉共生系など、ボルネオ島サラワクの熱帯雨林での研究成果が紹介されている。熱帯雨林研究の最先端が比較的わかりやすく紹介される。
解説「林冠に架けた夢」を読むと、著者の人となりや熱帯雨林研究にかけた情熱がよく伝わってくる。先に、解説を読むのがお薦め。
お薦め度:★★★ 対象:熱帯又は生態学に興味のある人、高校生以上
熱帯雨林・マレーシアサラワク州の樹冠調査に生涯を捧げ、夭折した著者の絶筆。NHK「人間大学」のテキストとして発行予定であった原稿を基に構成されている。一般向けのテキストらしく、熱帯雨林の生態系における膨大なしくみの一部と、その魅力を、具体的にわかりやすく解説している。著者の魂とともに、サラワクの森を深く楽しめる。
お薦め度:★★★ 対象:ナチュラリスト一般
ボルネオ島サラワクの熱帯雨林。その林冠部で一斉に開花する花たちと、そこに集まる虫たちとの共生関係を一般向けに解説したハンディ本。
著者井上民二さんは、地上数十メートルの高さの林冠部を観察する二つのツリータワー(やぐら)と、それを結ぶウォークウェイ(空中回廊)を開発し、研究隊を組織した。集まった膨大なデータを基に、一斉開花のメカニズムを、オオミツバチ媒花を例に、送粉者共有仮説から説明している。
この本の校正を終えて、サラワクへ向った井上さんは、飛行機事故で帰らぬ人となった。巻末の加藤真さんの解説「林冠に架けた夢」は、井上さんの志を余すことなく語っている。巻頭の31枚のカラー写真も美しい。
お薦め度:★★★ 対象:熱帯雨林やエコツアーに興味のある人
井上民二さんの事を詳しく知ったのは、NHKでの追悼番組でだった。それまでにもツリータワーやウォークウェイの新聞記事を何とはなしに切り抜いてはいたが、あまり意識してはいなかった。その番組で人間大学の一部が紹介され、この講座が見られないのを大変残念に思った。幸い「テキストは完成していた」との事だったので、出版されるまで半年間、待ちに待った。その期待を裏切らない充実した内容の本である。
熱帯雨林のあらましから、そこに棲む虫と植物との送粉共生の巧みな仕組み。”生物多様性”を説く代表選手のような本だ。そしていつか一斉開花のサラワクへ訪れてみたい!という気にさせる。なんて魅力的な本なんだ!何度となく読み返し、何人かの知人にも「ほんまにええでぇ。読んでみてぇ。」とすすめていた。
今回改めて読んでみて、例えば、イチジクとイチジクコバチの話などは、博物館の行事でも何度となく耳にして知ってはいるのだけど、読んだ感じが新鮮で気持ちがいい。それは、この本全体にも言える事で、本当に読んでて気持ちの良い本だと思う。
お薦め度: 対象:
夢やロマンをさそう熱帯雨林、ランビルでの地上70メートルの林冠部の壮大な調査、それはおびただしい数の生き物たちに包まれた研究であった。
熱帯雨林の価値は生物多様性にあり、生命が陸上にあがって展開した一億年の歴史としての価値であると言っている。
アジアの熱帯雨林研究の拠点作りから共同利用、研究協力のネットワークを結ぶ壮大な構想を実現させた。
一斉開花現象、送粉・種子散布の昆虫や動物との共生、共進化関係を見ると自然の神秘さ、不思議さに目を見はる。そしてその新鮮で美しい感動を受ける。
お薦め度:★★★★ 対象:自然史に関心のある人に
以前テレビで熱帯雨林の林冠に作られたウォ−クウェイ(空中回廊)を見たことがある。そこを歩く人々はどこまでも広がる林の中では、本当に小さな存在だった。熱帯雨林の中にはまだまだ知られていないことがたくさんある。名もつけられていない植物や生き物たちが住み、それぞれの歴史を積み上げている。そこにロマンを感じ研究を重ねた著者の思いが本書にはつまっていた。かなり専門的はことも書かれているが、研究者としての情熱と、「生命の宝庫としての熱帯雨林をたいせつにしたい」という思いはストレートに伝わってくる。解説に載っている、熱帯雨林の中で微笑む著者の写真をぜひ見てほしい。
お薦め度: 対象:高校生以上、これからの進路に悩んだときに
1996年、サラワクのランビルの森でこれまでの人知をかけた林冠への挑戦がみのり、フタバガキ科の5年に一度という一斉開花から、一斉結実をもたらす熱帯雨林の秘密のヴエールが明かされる。熱帯雨林研究のパイオニア、井上民二の情熱が一つの結実を見た瞬間でもあった。
一億年の地球の歴史が刻まれたこの森で繰り広げられる命の饗宴に研究者たちは日々興奮と驚異の面もちでデーターを蓄積した。イチジクとイチジクコバチの究極の共生関係、オオバギとアリの共進化、フタバガキときのこの共生・・・。それはまだ熱帯雨林が開いてみせるだろう生命の営みの端緒にすぎなかった。
はからずも1997.9.7志し半ばにランビルの森に消えた井上民二さんが私たちに生命の宝庫への夢や憧れ、未来へ引き継ぐ情熱を語った奇跡の書となった。
お薦め度:★★★ 対象:熱帯雨林の生物多様性に感心のある人
熱帯雨林は地球の全森林の5−6割を占め、炭素の貯蔵庫であり、地球温暖化に重要な役割を担う。熱帯雨林の動植物の種の数の中、既知のものが数%に過ぎないほど生物の多様性に富んでいる。温暖、寒冷の繰り返しに耐え、進化した種が熱帯雨林に残されている。
著者らは、これまで観察が出来なかった熱帯雨林、特に樹冠の研究・観察のために、2本のツリータワーと300mのウオークウエイを、マレーシア・サラワク州のランビル国立公園に造った。これにより、熱帯雨林での「一斉開花」と動植物との関わりを明らかにした。イチジクとイチジクコバチの送粉共生系など。熱帯雨林の植物の防衛戦略(葉を食べられることからの)として、物理的(トゲなど),化学的(難消化やアルカロイドなど)、花外密腺によるありの誘引など生物間共生の見事な仕組みが明らかにされている。
最後に、熱帯雨林の保全の必要性と提案が述べられている。コスタリカのエコツアーも成功の一例として述べられている。著者井上民二氏はNHK「人間大学講座」で1997年10月に、この内容を放映される予定であった。その直前、9月6日に、ランビル国立公園の熱帯雨林中に墜落なくなられた。この本は上記講座のテキストである。その後、この研究プロジェクトは、高さ80m、長さ75mのクレーンが設置されるなど、更に進められている。(Ref.科学2001.9「林間クレーンが導く熱帯雨林研究の未来」)
お薦め度: 対象:高校生以上、これからの進路に悩んだときに