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本の紹介「生命の歴史は繰り返すのか?」

「生命の歴史は繰り返すのか? 進化の偶然と必然のナゾに実験で挑む」ジョナサン・B・ロソス著、化学同人、2019年6月、ISBN978-4-7598-2007-2、2800円+税

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【西本由佳 20191020】【公開用】
●「生命の歴史は繰り返すのか?」ジョナサン・B・ロソス著、化学同人

 グールドは『ワンダフル・ライフ』のなかで、進化は予測不可能で、時間を巻き戻してもう一度進化させれば世界は全く違ったものになるはずだと言ったという。それに対し、モリスは「ある環境条件に適応する方法が限られているなら、似たような環境に暮らす生物種は同じ適応をとげると予測できる」と言った。収斂(「異なる生物種が、別々に似通った特徴を進化させる」)という現象である。イルカとサメが似ている、オーストラリアの有袋類フクロネコやフクロオオカミがネコやオオカミと似ている、最適解は一つだ、ということだ。著者は、野生下での魚やトカゲ、実験室での細菌類などの実験を取り上げ、この2つの理論を検証していく。周到な実験手順と、驚くような速さで進化していく生きものたちの姿が刺激的だった。

 お薦め度:★★★★  対象:生態学という言葉にわくわくする人
【萩野哲 20190920】
●「生命の歴史は繰り返すのか?」ジョナサン・B・ロソス著、化学同人

 もしも生命の歴史=進化を巻き戻しリプレイすることができたら、グールド説のように全く異なることになるのか?それともコンウェイ=モリス説のようにほぼ同じような道を繰り返すのか?大変興味深いが、進化はきわめてゆっくり起こることなので実証できないのが問題だ。というのがダーウィン以来の考えだった。しかし、オオシモフリエダシャク、ダーウィンフィンチ、グッピーなどの実証実験の結果により、間違っていることがわかってきた。進化は意外と早く起こるのだ。ならばこれを利用して、進化が繰り返すかどうか証明できないか?
 世代時間の短い大腸菌のような微生物を用いた多くのLTEEによると、複数の実験個体群が遺伝子レベルでも通常同様に適応度を上昇させるとの結果(必然>偶然)が得られているものの、稀に異なる結果も得られている。更に、グールドの本来の意図であるスタート地点や途中での異なる経験を検証した実験は少ないものの、時に大きく異なる進化的結果が生じている。ではどっちなのか?
 大型の動物でも、所謂収斂現象は、鳥とコウモリと翼竜の翼などの事例のように、よく見られる。一見、他に似たもののいないカモノハシでも、パーツ毎に見れば、収斂の寄せ集めである。これらを見れば、進化は繰り返すとも言えるが、各々の種は異なるものでもある。どちらかではなく、言葉の定義の問題である。本の最後に述べられているように、“私たち「ヒト」は幸運にも進化してつかんだこのチャンスを、存分に活用しない手はない。”

 お薦め度:★★★★  対象:進化を目撃したい人
【和田岳 20190925】
●「生命の歴史は繰り返すのか?」ジョナサン・B・ロソス著、化学同人

 邦題は内容をとても正確に表している。『ワンダフル・ライフ』でグールドは、生命のテープをリプレイしても同じ歴史は繰り返さないと述べた。ちょっとした偶然で結果がかわってくるから。一方、ヴァーチェスモンスターの研究で有名になったコンウェイ・モリス達は、進化の道筋は必然で、何度やり直しても似たようなことが起きて、遅かれ早かれ“人類”は生まれたと主張する。かつては宗教的とも言える議論に過ぎなかったが、近年の進化生物学では実験によって検証するようになってきている。その成果から、進化の偶然と必然についての議論を検証する一冊。
 第1部は野外で見られるパターンの話。遺伝的な解析が手軽になって、驚くほどさまざまなところに収斂進化が見出されるようになった。また、島でのニッチェ分割(著者の業績!)哺乳類等の島嶼化、寒冷地適応、家畜化などに、予測可能な進化のパターンが見出される。
 第2部は、進化についての野外実験の話が並ぶ。ダーウィンフィンチ、グッピー、アノールトカゲと有名どころが次々と紹介される。その結果明らかになるのは、野外でも驚くほど短時間で適応進化が見いだせることと、その結果の予測可能性が高いこと。ただし強い選択圧が存在した場合の話。
 第3部は、室内でのおもに大腸菌の進化の話。数万世代(28年以上!)の長期培養の結果、同じ条件下の大腸菌コロニーは、おおむね同じように進化した。一方で、1つのコロニーだけにおきたブレイクスルー。
 進化は予測不可能ではないけどの長期間の進化を予測するのは、とても難しそう。現在までの進化生物学の1つの到達点を知ることができる。

 お薦め度:★★★★  対象:進化は偶然か必然かが気になる人
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