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本の紹介「世界遺産をシカが喰う」

「世界遺産をシカが喰う シカと森の生態学」湯本貴和・松田裕之編、文一総合出版、2006年3月、ISBN4-8299-1190-5、2400円+税


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【萩野哲 20060620】【公開用】
●「世界遺産をシカが喰う」湯本貴和・松田裕之編、文一総合出版

 シカが全国的に増えており、森に大きな変化が起こっている。本書は2004年に開催されたシンポジウム「シカと森の『今』たしかめる」をもとにまとめられており、北海道、大台ケ原、屋久島等の過去から現在にいたる実例を踏まえて、シカの特性と増加原因、植生との関係、今後の予測と対策が述べられている。人の生活形態の変化がここでも大きな影響を与えていることが理解できる。また、必ずしも安定維持がよいとは限らないことや、理論通りにいかない実践の難しさを学ぶことができる。

 お薦め度:★★★  対象:人と野生生物との関わりに興味を持っている人

【六車恭子 20060825】
●「世界遺産をシカが喰う」湯本貴和・松田裕之編、文一総合出版

 この本はシカ問題に関する2004年までの研究の成果とこれからの展望をさぐる各地のエキスパートからの報告集だ。
 南は屋久島から北は知床まで全国的にニホンジカ、エゾジカが奥山にある貴重な植生からなる世界遺産や国定公園の自然林を食害しているという。林道の整備でシカは奥山へ導かれ、針葉樹の植林化がすすんで越冬地や餌場を恒久的に獲得し、いまでは林業や猟師を生業とする人々も減少してしまい、彼らの生活は安泰なのだ。貴重な自然遺産が食害される過程、どのように保護するか具体的な戦術が日々の活動から詳細に語られている。失われた極相林を修復するのに180年はかかるんだよ、そんな歯ぎしりが聞こえてきそうだ。「シカと森と人の『今』をたしかめる」現場が導きだした貴重な検証からシカ問題は明日の私たちに課題を投げかける好著だ。

 お薦め度:★★★  対象:奈良公園のシカと遊んだことのある人たちすべて

【和田岳 20060623】
●「世界遺産をシカが喰う」湯本貴和・松田裕之編、文一総合出版

 日本各地でシカが増えて問題になっている。このシカ問題を、研究者による取り組みを中心に紹介した本。シカ問題とは何かは、表紙の2枚の写真を見ればわかりやすい。1963年には苔むした鬱蒼とした森だったのが、1997年には林床には陽が差し込み、芝生の間に立ち枯れた木が並んでいるようになっている。これが同じ場所とは思えない。シカが増えると、下層植生はほとんど食べ尽くされ、樹皮をはがれた木は枯死してしまうのだ。しかし、シカ問題が生じた原因は人間にある。人とシカ、人と森林の付き合い方の変化こそが、シカと森林の関係に変化をもたらしたと研究者達は考えている。じゃあ、どうしたらいいのかは、本書を読んで考えよう。 もしどれか一つの章だけ読むのなら、第4章「大台大峯の山麓から」がお薦め。奈良県の小さな山村で暮らした著者の子どもの頃の日常が紹介される。毎日、いろんな動植物とかかわり合いながらの毎日。昭和30年代の日本にはこんな暮らしがあったらしい。現代の都会っ子からすると、完全にファンタジー。宮崎アニメにでもできそうな感じ。「もののけ姫」と「となりのトトロ」を足したような感じか。

 お薦め度:★★★  対象:日本の自然について関心のある人

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