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本の紹介「深海問答」
「深海問答」川口慎介著、エクスナレッジ、2024年8月、ISBN978-4-7678-3318-7、2200円+税
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【中条武司 20241024】【公開用】
●「深海問答」川口慎介著、エクスナレッジ
深海、というよりも海洋全般について、「〜なのか?」という問答形式の章題にしながら、海洋学・海洋科学のありとあらゆる範囲を網羅し紹介していく本。情緒と科学のバランスを考えながら書かれたという本書は非常に読みやすく、海洋学にかける著者の思いが伝わってくる。基本的な海洋とは何かというところから、プレートテクトニクスや物質の循環、著者の専門である生物化学的な内容、果ては海洋資源や気候変動について、わかっていること・わかっていないこと、メリット・デメリットを著者の視点で問答していく。シンプルな挿絵に付けられたキャプションから著者の本音とユーモアがにじみ出ていていい感じ。
お薦め度:★★★ 対象:海洋科学を知りたい方、理系高校生〜大学生以上
【西村寿雄 20241021】
●「深海問答」川口慎介著、エクスナレッジ
著者は深海調査船に700回以乗船してきた深海研究のベテラン。「深海問答」というタイトルが示すように、いろいろな問題を「問答」形式で書いている所が親しみやすい。各タイトルの初めに「人類は海とどのように付き合ってきたのか?」といった問いかけで始まる。文章も平易で科学書としては読みやすい。深海は普通の研究者は近寄りがたいだけに、「深海にある液体は水だけか?」「微生物は海底下のどこまでいるか?」など、深海にまつわる話がたくさん出てきて興味深い。最後に「海洋立国」日本を支える海洋人材が増えることを願ってこの本を閉じている。
お薦め度:★★★★ 対象:深海に興味のある人
【萩野哲 20241018】
●「深海問答」川口慎介著、エクスナレッジ
深海は近そうだが宇宙より遠い。何となく違和感のある文章を読み進めて、海に潜る方法、海水の性質や観測方法、海底とは何か、ある程度判ったかも。40億年前の岩石が大陸にあっても、2億年より古い海底は存在しない理由もよく判った。でもそれは物質が岩石という固体になってからの時間を基準にしているからであって、物質自身としては古いも新しいもないのではないのか?
海の化学、生物、生態系、熱水、それに生命の起源。海は広く、知るべき事項は膨大だ。その中でも、海底資源と気候工学は人類の未来に関わってくる。増え続ける人類は温暖化を明白に促進するほど大量の二酸化炭素を排出し、新たな技術上必要な資源を海洋から採取している。実際に研究に携わっている著者が困難と考える事項を、読者たちはどうすればよいのだろうか。たくさん使用されている白黒の図にはわかりやすいものもある。
お薦め度:★★★ 対象:深海研究で何がわかるか(役に立つのか)知りたい人
【和田岳 20241024】
●「深海問答」川口慎介著、エクスナレッジ
中学の理科くらいの知識を前提に、海の物理、化学、生物学、さまざまな角度から海について、その研究について紹介する一冊。約4割が生物学的な話題。
概論的な第1部では、海底の地形、水循環、海水の化学成分、海の生物多様性とバイオマスといった話題が紹介される。
第2部がたぶん本論で、生物関連の話題が中心。炭素循環、海の生態系で不足しがちな窒素や鉄、海底の熱水活動域、そして海底熱水生命誕生説。
第3部は、海と人との将来。海底資源と気候工学。地球温暖化対策として、アルベド比を高める物質、鉄などの栄養塩、アルカリ性の岩石などさまざまな物をまくプランがあるとは…。複雑系への影響を考えて無さそうで怖い。海底資源開発も、海への影響が懸念される。
それぞれのテーマは面白いのだけど、必ず物足りないところで終わるのが不満だった。が、最後に「参考文献にかえて」として読書ガイドが付いている。この読書ガイド自体、読んで面白い。
お薦め度:★★★★ 対象:地球規模の物質循環、海の生態系、熱水鉱床、生命の起源、海底資源、気候工学のどれかが気になる人
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