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本の紹介「進化生物学への道」

「進化生物学への道 ドリトル先生から利己的遺伝子へ」長谷川真理子著、岩波書店、2006年1月、ISBN4-00-026989-5、1800円+税


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【萩野哲 20060821】【公開用】
●「進化生物学への道」長谷川真理子著、岩波書店

 この本の内容は著者の仕事面からの半生記であり、読書遍歴である。行動生態学や進化理論が著者の思索過程を経由して非常にわかりやすく解説されている。その思索のガイドになっているのが関連する書籍であり、これらの著者や関係者とのエピソードが随所に現れるのも本書の魅力である。読者も、読んだ本については別の角度から再考できるし、読んでいない本についてはデータも全て巻末に載せられているので、次に読む参考になる。

 お薦め度:★★★  対象:動物の行動と進化に興味を持つ読書人

【加納康嗣 20060824】
●「進化生物学への道」長谷川真理子著、岩波書店

 読書遍歴を通じて人生を語るシリーズの1冊である。
 著者がマハレでチンパンジーの母子関係を研究し、博士号を取りながら、いかに日本の霊長類学を唾棄していったかその軌跡を知りたいと思って読み始めた。日本霊長類学の学問的伝統と1970年代の社会生物学の台頭によるパラダイムの転換との葛藤の最中で、著者の進む道が定まったと言えるが、あまりに鮮やか過ぎるという印象は拭いきれない。確かにその理由を文脈から憶測できる。アフリカやチンパンジーが嫌いだったこと、マハレでの研究者と現地政府や日本政府との関係、文化の違い、人間関係に疲れたこと。あまりに人間に近いためにいっそう不可解なチンパンジ−の行動解析より、もっと理解しやすい理論的枠組みのはっきりした研究を求めたことなどである。さらに憶測して加えるなら、東大理学部出身であり、日本霊長類学の学風を忖度する必要がなかったからであろう。動物行動学者の中で論争になったと思われるハヌマンラングールに見られる子殺しの進化について多くを語っているが、著者の論理は今一つ理解できない。著者はケンブリッジ大学動物学教室に留学する。社会生物学の立場からチンパンジー研究で精力的に活躍する多くの学者を輩出している大学に席を置いたことも皮肉な巡り合わせである。日本霊長類学がその後新しいパラダイムとどのように折り合いをつけたか私は知らない。シンパとして気になるところである。
 著者の現在の研究課題は、人間本性の進化生物的研究である。あらゆる試行錯誤や読書遍歴の中で研究の重要なヒントやブレーキ・スルーを得ている。人間進化の産物としての「意志決定アルゴリズムalgorithm」(社会や文化に規制される千差万別の行動の基礎にある問題解決の段階的手法)の存在。その「意志決定」は、論理的思考だけでなく、感情系と密接に関わっている。理性的働きの背後にある感情系の無意識の働き、この感情系の働きが、人間の長い進化史の中で形成された適応的アルゴリズムではなか、といった研究のヒントを得ている。さらに、文化システムの進化生物学的研究に興味を持ち、歴史的流れに沿ってシステムの動向を概観し、異なるシステムどうしの競合関係を分析する手法よりも、ジャレッド・ダイヤモンドの「銃・病原菌・鉄」が取っている手法、人間を取り巻く生態系、人間の持つ社会・経済システム、文化システムを「複雑適応系」として分析する手法に興味を示している。動物の行動や生態、進化の研究が最終的に行き着いたところはやはり人間とは何かであった。
 著者の言う「複雑適応系」の意味ははっきりとはわからないが、文化システムは人間の生物学的差異で決まるのではなく、複雑な環境との適応系から作られるということであろうか。「銃・病原菌・鉄」を再読する必要を感じた。

 お薦め度:★★★  対象:進化に関心のある方

【和田岳 20060825】
●「進化生物学への道」長谷川真理子著、岩波書店

 さまざまな分野の人が、魅力ある本とどのように出会い、自分がどのように変わっていったかを自在に語るシリーズの1冊。霊長類研究からスタートし、進化生物学で多くの本を書いている著者が、本をネタに自らの半世紀を語る。
 各章で紹介される主な本は、講談社の学習大図鑑、ドリトル先生シリーズ、「ソロモンの指輪」、「森の隣人」、「利己的な遺伝子」、ダーウィンのとくに「人間の進化と性淘汰」、「生存する脳」と並ぶ。動物好きの少女が、大学で霊長類学の道に進み、アフリカでさまざまな研究をし、やがて社会生物学に目覚め、進化生物学を研究の中心にすえ、やがて人の研究に目を向けていく。
 「ソロモンの指輪」までは、動物好きのかなり多くの人が、同じように通る道だろう。その後の歩みは、日本における社会生物学の浸透に興味のある人にはおもしろいかもしれない。本を紹介し、半世紀を語りながらも、進化生物学の理論を説明しようとする。限られた紙面では、それはちょっと欲張りすぎかも。

 お薦め度:★★  対象:研究者の人生の一つの例に興味があれば

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