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本の紹介「死体入門!」
「死体入門!」藤井司著、メディアファクトリー、2008年3月、ISBN978-4-8401-2301-3、900円+税
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【萩野哲 20090224】【公開用】
●「死体入門!」藤井司著、メディアファクトリー
著者はまず、ヒトが死んだときの経時的な変化を、通常の場合と特殊な場合(ミイラや屍蝋)ともに法医学者の観点から記述している。その後、救命措置、死体にまつわる法律、葬儀、死体の利用法、等の知識を披瀝する。最後に、死体に興味を持つことの重要さを説き、死体の専門家に対する偏見の軽減を求めて締めている。解説に利用されている資料は、著名な「九相詩絵巻」をはじめとしてシャーロック・ホームズや弘法大師が登場し、著者の幅広い知識の一端が覗われて興味深い。
お薦め度:★★★ 対象:将来死ぬ人、つまり皆さん
【加納康嗣 20081223】
●「死体入門!」藤井司著、メディアファクトリー
店頭で手に取ったときは、買うべきかしばらく迷った。今まで遭遇しなかった人類の死体の話である。しかし「死体を隠す文化」の中にいるものにとって当然の拒否反応は、著者である法医学者の博覧強記ぶりに打ち負かされる。死体にまつわる博物学、民俗学などが、あらゆる角度から考察され、好奇心を見事に満足させる。冒頭の九相詩絵巻のおどろおどろしさは、夢野久作の小説「ドグラ・マグラ」を思い出す。死から白骨まで進行する変化が語られる。ケモノの死臭はホネホネ団では日常的ではあろう。人のものは自殺のメッカ大阪城で経験済みであるが、ケモノと人とではまったく気分的に違ってくる。ミイラにまつわる歴史も詳しい。ミイラ人気、地理的分布、南アメリカの数々のミイラ、干し首の作り方、シシリイ島パレルモのカプチン派地下墓地の8千体以上の死体の中で萌えるように美しくかわいいロザリア・ロンバルドのミイラ、メゾン・アルフォード獣医学校博物館のフランス人フラゴナード製作の騎乗した人と馬のミイラなど。1826年、スコットランドで起きた解剖用死体が高く売れることを知った連続殺人事件などを読みすすんで行くと、「父さんのからだを返して」◆◆◆。
最後に、死体をなぜ研究するのかを語る。「死体がおもしろい」からであると断言する。不思議があるところには好奇心が起こる。それは決して「マッド・サイエンス」ではない。死体研究者がいなくなれば、交通事故での車改造の技術は生まれないし、死体からの臓器移植や病理学の研究は後退し、警察機能は崩壊する。警察が扱う死体は年間1万4千体、全国の法医学者は約160人とすると、一人平均87体、4日に1体の死体を解剖しなければならない。もちろん新鮮な死体は皆無に近いし、病気を移されることも、法廷に引っ張り出されることも考えると、精密な科学的検査を要求される。ハードでタブーと偏見のある仕事に就く若者は減っていると著者は嘆く。死体科学の分野でもアメリカは先進的である。驚くべきことにテネシー大学には人を腐らせる「死体農場」が山林につくられ、常時20体ほどが実験されているという。犯罪が多いアメリカならではの研究である。
まったく隠されていた多くのことを知った。最近葬儀屋をあつかった映画が世界の賞をもらった。最も身近な日常である死を見つめる意味で良い機会になった。
お薦め度:★★★★ 対象:刺激が多いので友の会会員に紹介しない
【六車恭子 20090619】
●「死体入門!」藤井司著、メディアファクトリー
確かに私たちの周りから死体が消えた!この著者は死体の復権を願ってこの一冊を世に送り出したようだ。私たちの生が光の部分だとしたら、死は闇の部分、光と闇は分つことで本来の機能が失われてきたのだ。
我が国にも鎌倉時代に死んだあとに肉体が変化するさまを「九相詩絵巻」が絵師によって残されている。また偶然ミイラとして残ったもの、死者への尊敬が遺体を保存する技術を高め、現存する世界のミイラ事情から、「実在しない生物のミイラ」まで、死体にまつわる蘊蓄でうめつくされている。チェコにある人骨で装飾された「骸骨堂」、世界で最も美しいロザリオ・ロンバルトのミイラ、テネシー大学にある死体農場・・・。今もむかしも世界は驚きに満ちている。
生命あるものに必ずおとづれる死を体験して、今の自分のたち位置を知るチャンスを与えらそうです。
お薦め度:★★★ 対象:恋する人も恋に破れた人も、すべての老若男女に
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