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本の紹介「したたかな寄生」
「したたかな寄生 脳と体を乗っ取り巧みに操る生物たち」成田聡子著、幻冬舎新書、2017年9月、ISBN978-4-344-98470-7、780円+税
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【萩野哲 20220601】【公開用】
●「したたかな寄生」成田聡子著、幻冬舎新書
寄生虫による数々のマインド・コントロールの事例とその機構が要領よくまとめられている。鳥に食べられやすいようカタツムリを操るロイコクロリディウム、自分では運べないほど重いゴキブリの運動能力を完全に奪わず自分の巣まで歩かせるエメラルドゴキブリバチ、自分が食ったイモムシに死ぬまで守らせるコマユバチなど、寄生虫の能力は驚異的!複雑な彼らの生活環を全うするには、このようなワザも必要か。ダーウィンの時代に知られていたら、進化の反例に挙げられたのではなかろうか?このような寄生虫の中でも、ハリガネムシの事例はよく知られていると思うが、それにしても 渓流魚が得る総エネルギー量の60%が川に飛び込んだ宿主であるとの研究例には恐れ入りました。
お薦め度:★★★ 対象:ネコを介してトキソプラズマに操られている人
【六車恭子 20230224】
●「したたかな寄生」成田聡子著、幻冬舎新書
我々人間よりも先にこの世に存在した生き物たち、想像を凌ぐ戦術を磨いて生き延びてきたのだ!この書はそれぞれの生きる戦略がせめぎ合う寄生の世界への招待状だろうか! かつてダ一ウィンは「個体が遺伝子よりも優先する」ととなえた。1976年ド一キンスが利己的遺伝子説で「遺伝子が個体よりも優先する」と反論した。ド一キンスはビ一バ一の遺伝子が作るダムを「延長された表現型」(1982年に発表)と説明した。寄生者が宿主の行動を支配するということはどういうことだろう。
また、共生と寄生の違いも明らかにしておかねばならない。互いに得する「相利共生」、片方だけが得する「片利共生」。この書は驚くべき寄生の症例がわんさか盛り込まれている。ゴキブリを奴隷かするエメラルドゴキブリバチは幻覚作用のあるダツラの葉を与え、卵を産み付け、4週間後、ゴキブリの亡骸を突き破り成虫がとびだしてくる。外部寄生、内部寄生、卵寄生と様々だが、かれらはゾンビ化しつつ、必死に蛹を守り続けるのだ。また、「ハリガネムシがつなぐ森と川」もいい。渓流魚の命を育むのもハリガネムシの幼生を取り込んだ昆虫たちの入水自殺を操っているからだろうか?
「相利共生」の事例はアリとアカシアの木。鋭いトゲにはアリが入れるような穴があり、ここから甘い密が提供される、蔗糖を分解するインペルタ一ゼが含まれているのでOKだという。ヤドカリに寄生するナガフクロムシのメスは体内にぶら下がっており、オスは外皮にぶら下がって、脱皮の度につかいすてにされているらしい。小型の生き物がなぜ群れるかも、まずは希釈効果、抵抗性の増加、体温や水分の温存、分業や協調行動による効果、そして、生殖の機会もふえるだろう! 最後に腸内細菌が人の免疫システム全体の70パーセントをしめるという。第二の脳と呼ばれる所以でもあろうか。
お薦め度:★★★★ 対象:日々私たちが目にする光景のもうひとつの意味を探ってみたいかた
【和田岳 20220825】
●「したたかな寄生」成田聡子著、幻冬舎新書
寄生者が寄主をあやつるさまざまな事例を紹介した一冊。カマキリの入水自殺やゾンビ行進するアリなど有名な例も多い。が、寄主から脱出した後も、自分の蛹をガードさせるコマユバチ。アリを他の蜜は消化できない体にしてしまうアリアカシア。サナダムシと微胞子虫の両方に操られるブラインシュリンプ(どっちみちフラミンゴに食われる)。と不思議な例も色々出てくる。
言われてみれば、狂犬病のイヌが噛みつくのは狂犬病ウイルスに操られてだし、サムライアリの奴隷になったクロヤマアリも、カッコウのヒナを育てるオオヨシキリも、寄主に操られている。そして我々も腸内細菌やトキソプラズマに操られている。もう、みんな何かに操られている感じ。
お薦め度:★★★ 対象:寄生者が寄主を操る事例をいっぱい知りたい人
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