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本の紹介「鹿と日本人」

「鹿と日本人」田中淳夫著、築地書館、2018年7月、ISBN978-4-8067-1565-8、1800円+税

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【和田岳 20200828】【公開用】
●「鹿と日本人」田中淳夫著、築地書館

 ナラシカという言葉が出てくる。奈良公園で鹿せんべいを食べに近寄ってくるシカたちのこと。著者の造語で、“ナウシカ”に似てる。日本のシカによる獣害の話も少し出てくるが、大部分はナラシカの関係者と歴史と現状の話。この本の正しいタイトルは「ナラシカと日本人」だろう。
 かつては興福寺や春日大社といった社寺勢力が、神鹿としてナラシカを利用してきた。その後は観光資源として利用されている。都合の良いときは所有権を主張して、他所に売却する癖に、シカによる被害を訴えられると、所有してないと言い張る。昔は過失であってもシカを殺したら死罪、今でも罪に問われる。この状況をなんとかしようという試みが繰り返されるが、いずれも失敗。そして、昔から現在にいたるまで、神鹿は周辺で農業被害を起こしまくって、近在の農家に迷惑をかけてきた。1000年前から同じ構図の、不合理な状況が維持されてきた。どこにも知恵はない。副題の「野生との共生1000年の知恵」はギャグなんだろう。
 奈良公園でシカを見かけたら、こうした歴史と現状を思い出してもいいと思う。

 お薦め度:★★★  対象:奈良公園のシカの負の歴史と、面倒な現状を知りたい人
【冨永則子 20200824】
●「鹿と日本人」田中淳夫著、築地書館

 「奈良のシカ」とは、奈良県に生息するシカ全体のことではなく、もっと狭い範囲、主に奈良公園にいるシカのこと。奈良在住の著者が身近な野生動物として「ナラシカ」に改めて注目し、その誕生と現在に至るまでの歴史を追いつつ、広く鹿の生態や害獣問題について考える。「ナラシカ」に人と野生動物が共生するヒントが見つかるのか? 「ナラシカ」は神様の遣いになったり、狩りのマトになったり、食料になったり、観光の目玉になったり、害獣になったり…。1000年の共生の知恵というより、まったくニンゲン様の都合次第だ。そもそも野生動物である「ナラシカ」に人間との共生意識は無い。共生しようとする側の人間がその自覚を持ち、出来得る限りの最善を尽くすしかないのでは?

 お薦め度:★★  対象:奈良公園で鹿せんべいを買ったことがあるか、買ってみたいなぁと思ってる人に
【西本由佳 20200823】
●「鹿と日本人」田中淳夫著、築地書館

 鹿と日本人といっても、書かれるのはほとんど奈良公園のシカだ。奈良公園のシカをめぐる人々の行動を見ることで、シカ、ひいては野生動物と人間の関係を探ろうとしている。シカの行動や生態の話も出てくるが、権力者や一般市民がシカをどう扱ってきたかや、奈良の鹿愛護会の話などが多く紹介される。害獣としての奈良のシカ、また全国のシカ害問題やジビエとしてのシカなど、広くシカに関する話題が扱われる。野生動物との付き合い方について考えさせられた。

 お薦め度:★★★  対象:シカをかわいいと思うなら
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