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本の紹介「死んだ動物の体の中で起こっていたこと」

「死んだ動物の体の中で起こっていたこと」中村進一著、ブックマン、2023年12月、ISBN978-4-89308-965-6、1800円+税


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【犬伏麻美子 20240426】【公開用】
●「死んだ動物の体の中で起こっていたこと」中村進一著、ブックマン

 本書は、獣医病理医である著者が病理解剖を通して動物たちから教えてもらったこと、死んだ動物の体の中で起こっていたことを3章に分けてわかりやすく教えてくれる。著者は、動物園のアフリカゾウやカンガルー、水族館のペンギン、牧場のブタやニワトリ、個人の家で飼われているイヌやネコや鳥、タヌキなどの野生動物・・・依頼があればどんな動物でも病理解剖、病理診断をしている。
 第1章「動物の死から学ぶ」では、動物園や水族館のフンボルトペンギンが胃がんに。動物園のリスザルがトキソプラズマ症に。など第2章「この子は最期に苦しみましたか?」では、著者が依頼された動物を病理解剖した時のエピソードなど。第3章「珍獣〈エキゾチックアニマル〉たち」では、SNSやネット動画やテレビ番組など動物を利用したコンテンツを見て、かわいいから、癒されるから、珍しいからといって安易にミーアキャット、カワウソ、マイクロブタなど珍しい動物を飼うことを警告。など。生き物と暮らす人たちにぜひ読んでもらいたい。

 お薦め度:★★★  対象:獣医病理医のことを詳しく知りたい人に。獣医病理医になりたい人に。
【松岡信吾 20240425】
●「死んだ動物の体の中で起こっていたこと」中村進一著、ブックマン

 著者中村進一氏は獣医病理医で、生物の遺体を病理解剖し、主として光学顕微鏡などを用いて病理生態を探求することにより死因や病因を究明することにより「物言わぬ動物の遺体に刻まれたメッセージから過去を読み解く」と言うのがその仕事だ。
 全体では3章構成になっており第1章(動物の死から学ぶ)では主として動物園や水族館から著者の元へ持ち込まれるペンギン、ぞう、リスザル、カンガルー、狸(?)展示動物についてその死因や病因について語られている。私が印象的だったのは、現在世界中で最も飼育個体数の多い(自分も子供時代から大好きな)ペンギンの死因に、嘗てのような感染症死ではなく、昨今では胃ガン死が多く見られるということだ。冷凍魚餌の大量摂取ということもその一因だそうだが、野生下では稀な長寿化も一役かっているのだというが、高齢化の進む人間社会に鑑み、「これはヒトゴトではない!」などとペンギンたちも思っていそうだ。次節、文字通り体を張って行ったアフリカゾウの病理解剖のリポートも更に興味深いのだが…。第二章は「この子は最期に苦しみましたか」と題して、犬や猫などのペット・愛玩動物−今は伴侶動物−の話が語られる。表題は「家族であるペットを亡くした飼い主さんが」当然持っているであろう疑問からとったものだ。猫の腎臓死は猫をペット飼いしたことのある人にはよく知られたことだが、「慢性腎臓病は長生きした猫の宿命のようなもの」とまでは私も知らなかった。また「病理検査をして物言わぬ子達の「メッセージ」を読み取り、市に至るまでの経緯や、その動物が病気とどのように戦ってきたのかを飼い主さんにわかり易く説明」を獣医病理医さんにして貰えば、伴侶の死の受容に如何ほど助けになるかと思われる。更に人で言うところのエンバーミングに相当するコスメティック剖検というものもあるという。この章の最後二節には外飼のリスク及び異種同一場所飼いの弊害について述べている。前者について、戸外には農薬のような明確な毒物以外にも身の回りにある玉ねぎ、アボカド、チョコレート、コーヒー、タバコ、アルコール等は猫にとっては毒となるということだ。また後者について、昨今、テレビやネット上で異種動物がじゃれ合っている様子が癒やし動画などと称して放送されていることがある。著者はこれに対し「基本的に異る種の動物が同じ空間で暮らすことは多くの場合、望ましいことではありません。動物は種によって形態と生態が異なり、本来異る生活環境を必要とし、その生活様式も同じではないからです」。即ち、ニッチ毎の棲み分けが必要なのだ、と。これに加えて「ある動物にとっては常在菌で病気を起こさない微生物だとしても、それが異る動物と出会ったとき、その動物にとっては病原体となることがあるのです」と警告する。新型コロナウイルス感染症の感染源が当初疑われていたハクビシンではなくキクガシラコウモリであったことは我々の記憶に新しい。
 さて第三章(珍獣「エキゾチックアニマル」)、「子供を噛んだミーアキャット」やマイクロブタの飼育、ツシマヤマネコのロードキルによる死亡などあるが長くなったので最終節のみ触れておきます。それは、京都のある学習塾において実施された、病気で死んだ鶏の病理解剖学習の、著者によるリポートである。遺体の解剖を通じ、参加した子供らは「動物はなぜ死ぬのか」「どのように死んでゆくのか」「死んだらどうなるのか」「残された人や動物はどうするべきか」といった大切なことを学んでゆく。
 自宅死が普通だった私の子供時代、多くの臨終の機会に接し、死は今より間近にあった。私は今、あらためて人間の死について再考する契機がこの本によって与えられたと思う。語り口調の表現とルビや多く挿入された図版は子供にも読みやすくて良い。

 お薦め度:★★★  対象:動物について関心のある子どもから老人まで全ての人
【和田岳 20240424】
●「死んだ動物の体の中で起こっていたこと」中村進一著、ブックマン

 獣医病理医の著者は、開業医と研究者の中間的なスタンスで、死んだ動物を病理解剖して、その死因を追求する。その経験を中心に、学生時代の思い出話を織り交ぜて、20篇のエッセイが収められている。
 解剖したらゾウの腸が膨らみまくるとか、疥癬タヌキとか、ロードキルの話など、ホネホネな話題も多い。ヘビとカメ、ウサギとモルモットを一緒に飼わない方がいいというのは知らなかった。ネコの室内飼いを推奨する一篇はとてもよかった。
 個々のエッセイは、病理解剖の必要性を訴え、正しい飼育方法を普及する、といった観点での教訓話に落とし込まれていることが多い。

 お薦め度:★★  対象:獣医病理医や病理解剖に興味のある人
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