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本の紹介「進化生物学者、身近な生きものの起源をたどる」

「進化生物学者、身近な生きものの起源をたどる」長谷川政美著、ベレ出版、2023年10月、ISBN978-4-86064-739-1、2200円+税


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【里井敬 20231219】
●「進化生物学者、身近な生きものの起源をたどる」長谷川政美著、ベレ出版

 色々な生き物の共通祖先からの進化を、系統樹マンダラで表している。木の形にせずに輪の形のマンダラにしたのは、同一円上に描くことによって、すべての生物が分岐してから違った方向に進化してきたと示しているのだろう。系統樹マンダラを中心から、先のほうからと眺めるのは楽しい。仲間名の外側の種名例に添えられている写真を、進化の近い、遠いと見比べることができる。
 身近な生物の話題も豊富である。例えば、タマムシの脚は艶のある葉に適応して吸盤があるが、滑らかすぎるガラスやプラスチック面では離れないこともあるそうだ。ダーウィンの進化論では、進化には「進歩」という考え方があるが、「退化」もあるし「中立進化」もある。DNAにも中立的な変異がある。個々の事実の積み重ねだけでなく、全体を見る多面的なものの見方が大切である。

 お薦め度:★★★  対象:進化の系統をたどるのが好きな人
【冨永則子 20231217】
●「進化生物学者、身近な生きものの起源をたどる」長谷川政美著、ベレ出版

 現在の生物の持つ様々な特徴は全て進化の産物。進化の歴史を遺伝子のDNAの塩基配列の情報を使って描かれた系統樹を元に、著者が出会った“身近な”生き物たちの進化に関するよもやま話をまとめたもの…と『まえがき』にあるが、いきなり数式が出てきたり、理系オンチには、なかなかに手強い。それでも、巨木と菌類の関係や、なぜ哺乳類より鳥類のほうが種数が多いのかとか、音楽の起源とか、興味をそそられるエピソードはいくつかあった。ただ、共通祖先から分岐していく様を系統樹として、なんとなく「ふ〜ん、そうなんやぁ」と分かった気になって眺めていたが、分岐する時って、一瞬? 朝起きたら違う種になってるとか? まさかぁ、そんなことないよね? だんだん変わっていくんじゃないのかなぁ? などなど、“進化”って、よく分からなくなりました。

 お薦め度:★★★  対象:いろんな系統樹が見たいヒトに
【萩野哲 20231215】
●「進化生物学者、身近な生きものの起源をたどる」長谷川政美著、ベレ出版

 「書きかえられた系統樹」では、DNA分析に基づく主に哺乳類の系統が示されて衝撃を受けたが、本書ではさらに範囲を広げ、身近な動物、植物とそれに依存する生物、および昆虫の系統関係について系統樹マンダラを展開している。以前、甲殻類は単系統と考えられていたが、本書によるとそうではなく、その内ミジンコの仲間は昆虫に近縁というか、むしろ昆虫は甲殻類に近縁なのだとは驚きであった。昆虫の章の最後にモルフォチョウに言及し、オスが金属色でメスが地味なのはメスが派手なオスを選択した結果ではと推測しているが、この類には両性とも派手な種や地味な種もおり、なぜそうなのか、その点も考察する必要性を感じた。最終章「進化する進化生物学」はトピックス的な進化に関わる事項について話題を提供している。

 お薦め度:★★★  対象:最新の系統進化の道筋を知りたい人
【和田岳 20231222】
●「進化生物学者、身近な生きものの起源をたどる」長谷川政美著、ベレ出版

 著者は、もともと分子系統屋さん。で、近年次々と作られる様々なグループの系統樹。それを紹介しつつ、その生物群の進化や生態について、いろいろ語った連載を1冊にまとめたものらしい。とにかく系統樹はたくさん出てくる。
 第1部は、身近な動物ということで、イヌ、ネコ、ウマ・ロバ、クマ、コウモリ、スズメ目。第2部は、植物とそれを食べる甲虫や菌類。第3部は昆虫テーマで、節足動物、膜翅目、鱗翅目。第4部は進化の話らしい。退化と中立進化、歌の起源、海を越えた移住などの話があって、最後は思い出に残る生きものたち。
 とにかく系統樹はたくさん出てくるので、沢山の系統樹を見たければいい本かもしれない。ただ、丸く配置した系統マンダラは、系統関係が把握しにくい。分岐年代が比較しにくいし、どの順番で分岐したかも直感的に分かりにくい。ビジュアル重視に過ぎず、議論には適さないと思う。
 進化の話はいっぱい出てくるが、中立進化や性選択の説明は妙な部分がある。個体数の増加がS字カーブになるのを最初に生態学に取り入れたのは、マッカーサー&ウィルソンと書いてあるけど間違い。水辺から離れないからセグロセキレイはハクセキレイに負けたという話もおかしい(都市は水辺が少ないからセグロセキレイは少ないらしい)。変な説明がいろいろ出てくるので、間違いに気付けない人は読まない方がよい。

 お薦め度:★  対象:いろんな系統樹マンダラを見たいだけの人
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