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本の紹介「知床・北方四島」
「知床・北方四島 流氷が育む自然遺産」大泰司紀之・本間浩昭著、岩波新書、2008年5月、ISBN978-4-00-431135-5、1000円+税
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【和田岳 20080815】【公開用】
●「知床・北方四島」大泰司紀之・本間浩昭著、岩波新書
北方四島まで行けば、ラッコやシャチに出会える。ウミガラスやエトピリカもまだまだたくさんいる。トドもクラカケアザラシもツチクジラも。北海道ではなかなか出会えない様々な動物が北方四島〜ウルップ島には生息している。一度見に行ってみたい。でもその豊かな自然は、密漁や混獲や鉱山開発によって危機に立たされている。そんな自然を守り、みんながその自然を満喫できる方策はないのだろうか?
この本では、美しい写真を多用して、哺乳類と鳥類を中心に知床〜北方四島〜ウルップ島にかけての自然を紹介し、その危機に警鐘を鳴らし、対応策を提案している。北の果てで、ややこしい国境問題もあり、多くの人はあまり北方四島周辺の自然に目を向けてこなかったのではないだろうか? その豊かな自然を守るためには、できるだけ多くの人にその自然を知ってもらい、その自然環境保全について少しでも考えてもらう必要がある。まずは、みんなでこの本を読んで、内容を布教しよう! で、いつの日かラッコとシャチを見に行こう!
お薦め度:★★★★ 対象:自然とその保護に興味を持つ人、あるいはラッコやシャチが好きな人
【加納康嗣 20080814】
●「知床・北方四島」大泰司紀之・本間浩昭著、岩波新書
オホーツク海は豊穣の海である。オホーツク海北東部で凍結した流氷は、2月頃千島列島にたどり着く。氷からはじき出された塩分や栄養塩は、重くなって水深200-800mまで沈み、海流に流されて南下し千島列島の狭い海峡で攪拌されて表層に現れる。そこでは親潮や黒潮、オホーツク固有水の三水塊がせめぎ合いぶつかり合う。太陽の差し込む季節である春4月から11月にかけて栄養と酸素に富んだ海水の中で植物プランクトンが大発生し、すそ野の広い食物連鎖のピラミットが形成される。
ソ連崩壊後に可能になった日露米共同学術調査のもとで明らかになった北方四島の生き物たちを美しい写真等で紹介するとともに、豊かな生態系がロシアの資本主義化によって危機にさらされている現状を伝える。ロシア支配の辺境だったために奇跡的に残された自然をいかに守るか、英知を絞って考え出された案が、知床からウルップ島までを含めた世界自然遺産の指定である。狭小な国家主義を越えて、両国のメンツと原則に配慮しながら利益を共有し、不毛の対立を自然か緩衝してくれる妙案である。自然が壊滅的に破壊されてしまえば、この案は成り立たない。アホウドリが繁殖する尖閣諸島とその海域を同様の考えで、開発不能な世界自然遺産として棚上げすれば一石二鳥だと思うがどうだろうか。
お薦め度:★★★★ 対象:豊かな自然を守りたい人に
【萩野哲 20080812】
●「知床・北方四島」大泰司紀之・本間浩昭著、岩波新書
この10年ほどの間に、ソ連支配下では入れなかった北方四島でも科学的調査が行われるようになってきた。本書はその成果を初めて一般向けに紹介したものである。知床から北方四島にかけては、オホーツク海の北端でできた流氷とともに東カラフト海流により運ばれた栄養塩が宗谷暖流と親潮で撹拌され、多様な食物連鎖のピラミッドを形成する。この海と陸とのつながりについても1章を割いている。ソ連の崩壊はしかし、急激な市場開放路線を推進し、豊かな生態系に黄信号を灯した。著者は、打開策として、知床世界自然遺産の拡張案などを展開する。豊富な写真とともに北の自然とその保護を総合的にとらえた考えさせられる1冊である。
お薦め度:★★★ 対象:自然とその保護に興味を持つ人
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