この本は、電車で読んではいけない!つい声を出して笑ってしまうだろう。
生き物を飼い一緒に暮らすという事は、こんなにも愉快でワクワクし興味深いのだろう。
この本に、子供のときに出会わなくて良かった!
トカゲと その切れたしっぽに包帯を巻こうと悪戦苦闘している子供が、
この本を読めば、
カラスの子を家の中で飼うんだと泣き叫び、親を困らせたに違いないから。
著者ローレンツは、子供の頃、理科で習った鳥のヒナの「刷り込み」など、動物の行動がどのような意味を持つのかに光を当てた研究者である。
著者は、『まえがき』で告白している。この本は、怒りから生まれた。
「いままでに私が怒りをもってなしたことがあったとすれば、それはこの動物の本を書いたことである。」と。
それは、ちまたにあふれる虚偽にみちた動物の話しを書いた本。
動物のことを語ると称しながら動物について何一つ知らぬ著者たちに対する怒りだ。
旧約聖書の物語の中から取られた、「ソロモンの指輪」というタイトル。
動物と話す事ができるという魔法の指輪の物語だ。
ローレンツは、魔法の指輪などなくても話しはできると書くが、
つまりそれは、この本を貫いているローレンツの伝えたいこと、
動物たちの真実を見るということの大切さを訴えているのだろう。
ローレンツが同じく『まえがき』で語っているように、
「自然について知れば知るほど、人間は自然の生きた事実にたいしてより深く、より永続的な感動を覚えるようになる。」という事なのではないだろうか。
同じく「怒りは、やはり愛から生まれたものだから。」 と書くように、
その真実を知るためには、「けもののような鈍重さ」を身に付け、
動物たちの時間の中に入っていく事が必要だとも伝えている。
この本でローレンツが伝えようとした哲学は、いまも何一つ色あせてはいない。
特に、最後の章では、動物が持つ武器の使用とその使用を禁止しようとする抑止力は、
天文学的な時間からなったものだと語る。
そして、人間が手に入れた武器はどうなのかという、
今現在の人間への強烈なメッセージでもある。
しかし、動物の行動という点では、
今現在の研究では、どうなっているのだろう?とも正直に感じる。
訳者が『あとがき』で書くように、これは[ドイツ語原版1960年版]の日本語訳だ。
それから今までで、動物の行動の研究は、大きく変わっている。
動物の言語や、意識的な目的をもって動物がなにかを語るのかなど、
ぜひ最新の研究を知りたいものだ。
最後に、訳者が『あとがき』で書いているように、
〔凝ったドイツ語の訳〕は、やはりかなり読みにくい。
類を見ない動物好きの筆者が動物を友として家族として受け容れる様子がなんとも素晴らしい。そして登場する動物は現代の人間より時として人間臭くもあった。メスを求めたり自分の巣を守るために闘う魚たちや浮気をして駆け落ちをするするコクマルガラスのオス、嫉妬に燃えるそのメス等がいきいきと描かれている。しかし筆者はこれらの動物を擬人化しているのではないと言い、「いわゆるあまりに人間的なものは、ほとんどつねに、前人間的なものであり…中略…どれほど多くの動物的な遺産が人間の中に残っているかをしめしているにすぎない。」と述べる。昔この本を読んで感銘を受けた高校生が海を渡り、今でもアメリカで動物や環境学について研究しているはずだ。
「旧約聖書ののべるところにしたがえば、ソロモン王はけものや鳥や魚や地を這うものどもと語ったという。そんなことは、私だってできる。」と語るのはこの本の著者コンラート・ローレンツです。彼は、持つと動物の声がきこえるというソロモンの指輪なしに、ハイイロガンから首を伸ばしてあいさつしてもらい、自分の呼び声でついてきてもらうことができました。ワタリガラスに優しく毛づくろいしてもらうこともできたのです。彼は動物と生活を共にし、その生活のテンポにあわせるという観察の中で、動物たちの言葉と物語を聞き取りました。それには多大な不都合がおこります。じゅうたんに動物の糞のしみができ、シャンデリアは壊れてしまいます。コクマルガラスによって耳には虫を押し込まれ、手にはくちばしで穴を開けられます。そんな不都合をものともせず、彼は観察を続けます。この本の中には、そんな彼と動物たちとの暮らしがいきいき描かれ、そこでの発見が鮮度よく伝えられています。
かつて旧約聖書によると、ソロモン王はけものや鳥や魚や地を這うものどもと語ったという。ただこの古代の王様は魔法の指輪を必要とした。20世紀のローレンツはじぶんのよく知っている動物たちの事を語るのに、そんなものは必要としない。ただ彼は自分の全生涯をかけて彼らを友としたのだ。
この本が世に出て半世紀、アルテンベルグでなされた実験から彼が案内する自然界への扉は野生が演じる不思議と驚異を伝えて色褪せることがない。
ハイイロガン「マルティナ」との信頼の絆、生命あるもののみが知りうるコクマルガラス「チョップ」の風と戯れるアクロパットの妙技、人間の言葉を語った唯一の動物、ワタリガラスの「ロア」、ジャッカル系のシェパード「ティトー」の瞳が全霊で訴えるものを叶えること・・・。ローレンツの一日は彼らへの奉仕に追われているようだ。
動物を飼いたいという願望は文化を持つようになった人間が自然という失われた楽園にたいしていだくあこがれなのだ。
そして彼ら野生の行動はローレンツによって学問として蘇る。この本から動物学へとかりたてられた人は少なくない。子どもにも大人にも幸せを運んでくれること請け合いです。