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本の紹介「タネまく動物」

「タネまく動物」小池伸介・北村俊平編著、文一総合出版、2024年9月、ISBN978-4-8299-7255-7、1800円+税


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【萩野哲 20241123】【公開用】
●「タネまく動物」小池伸介・北村俊平編著、文一総合出版

 植物が動物の力を借りてタネをまくことを動物散布という。どんな作戦があるのか?本書は18人の動物研究者が、各人の研究対象動物の種子散布のしくみを語っている。タネの周りを果肉で覆い動物に食べさせることでタネを散布してもらう被食散布。本来は種子食者がタネを蓄え一部を忘れる習性を利用した貯食散布。鉤や粘着物質でタネを運ばせる付着散布。タネのサイズと動物による移動距離はまるで計算されたよう。消化管を通したほど発芽率が高くなる工夫は食べられることを前提としている。これらの動物と植物の相互関係の多様性がどうやって今のような形に進化してきたのか、実に不思議。あまりにもウマくできた話なので、何かの意思があったのだろうかと誤解してしまいそう。

 お薦め度:★★★  対象:植物と動物の共進化の妙をもっと知りたい人
【里井敬 20241219】
●「タネまく動物」小池伸介・北村俊平編著、文一総合出版

 種子散布にかかわっている動物は大型の哺乳類から、小さい昆虫まで様々だ。種子や実を食べて口から吐き出すこともあれば、うんちで離れた場所に運ぶ場合もある。また、体に付着させて運んで行くこともある。うんちを長く体内にためておく大型の哺乳類は鳥よりも遠くへ種を運ぶが、鳥が離れた島に運んで分布を広げることもある。アリやナメクジが種を運んでいる例も知られている。ラン科の小さい種子も小さい昆虫により運ばれている。キノコの胞子はヤマナメクジにより運ばれる。色々な動物による種子散布と、その特徴がイラストやコラムを含めて書かれている。

 お薦め度:★★★  対象:動物による種子散布の概要を広く知りたい人
【冨永則子 20241218】
●「タネまく動物」小池伸介・北村俊平編著、文一総合出版

 多くの植物にとってタネは大切な子孫であり、移動するための手段でもある。植物は水や風の力を使ってタネを飛ばしタネまきを行う。中には動物の力を借りるものもいて、このようなタネまきを「動物散布」と呼ぶ。動物散布は生き物同士の複雑な関わりの上に成り立っている。日本の自然が生き物同士の関わりの結果として存在することが実感できるよう、日本の動物によるタネまきに焦点を当てている。哺乳類、鳥類、その他の小さな生き物たちにまとめ、お互いがどのように関わっているのかを考察していく。
 種子散布の研究を志す若手が減少していることから、日本の種子散布研究の現状を紹介するためにまとめられた。18人の研究者の最新の研究成果が紹介されている。きのしたちひろさんによって描かれたイラストが分かりやすい。

 お薦め度:★★★★  対象:生き物の意外な姿と自然の成り立ちを知りたい人に
【西本由佳 20241123】
●「タネまく動物」小池伸介・北村俊平編著、文一総合出版

 さまざまな動物(哺乳類ではなく動く生きもの)が、さまざまなかたちで種子散布に関わっているという。各地の研究者の種子散布の研究を、1テーマ見開き2ページとイラストで紹介した本。種子散布は哺乳類や鳥類の独壇場ではなく、昆虫やナメクジやカメ、魚までがさまざまな食べ方、散布距離で貢献している。三宅島で噴火の影響の強い場所のツバキほどメジロによる花粉媒介がうまくいっているという話は、生態系のおもしろさを感じた。

 お薦め度:★★★  対象:ナゾの場所に生えている植物が気になったら
【和田岳 20241219】
●「タネまく動物」小池伸介・北村俊平編著、文一総合出版

 クマの研究者と、鳥の種子散布研究者のとりまとめの元、日本の現役の種子散布研究者オールスターで作られた一冊。前半は哺乳類による種子散布、後半に鳥類の種子散布。最後には、魚、ナメクジ、虫、カメによる種子散布まで登場する。
 哺乳類による種子散布は、ツキノワグマ、ニホンザル、タヌキ、テン…、とおおむね貢献度の高い順。ネズミやリスの貯食散布、オオコウモリ、そして付着散布も紹介される。
 鳥類の種子散布は、なぜか海鳥から始まる。カケスやホシガラスの貯食散布。そして、ヒヨドリ、メジロ、カラス。最後は再び島間で種子を運ぶアカガシラカラスバト。
 近年の種子散布研究の面白いところが詰め込まれていて、最前線が判り、とても勉強になる。コミミズクが、食べたフィンチのそのうの中の種子を散布する。というややこしい種子散布まで出てくる。

 お薦め度:★★★★  対象:種子散布、あるいは動物と植物の関係に興味があれば
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