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本の紹介「他者の心は存在するか」
「他者の心は存在するか 〈他者〉から〈私〉への進化論」金沢創著、金子書房、1999年11月、ISBN4-7608-9405-5、2400円+税
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【和田岳 20040625】【公開用】
●「他者の心は存在するか」金沢創著、金子書房
「心」とは「私」に属することがらで、「他者の心」という言葉自体が矛盾している。とまあいきなり本のタイトルを否定するというか、タイトルの疑問の答えがいきなり出てしまう。もちろん話はそれで終わりにならず、そこから議論は続き、最終的な疑問「私」ってなに?に行き着く。
いたって哲学的なテーマではあるが、理学部系の著者は科学的な立場を維持しながら話を進めていく。日常的に当たり前に存在すると考えているものに、次々と疑いの目を向け、いずれも「進化の過程で獲得してきた生存に必要なモデル」として説明してくれる。第1章を読んで眠くならなければ、お薦めの1冊。
お薦め度:★★★ 対象:他者の心、現実、コミュニケーション、私といった“当たり前”なものに疑いの目を向けてみたい人へ
【寺島久雄 20040406】
●「他者の心は存在するか」金沢創著、金子書房
色も形もない心、しかし感覚情報世界では存在している。そして他者の心という論理的に矛盾する概念を、著者は自然科学で矛盾を見極めると述べている。
ヒト、チンパンジー、鳥、虫等に於ける認知の機構、情報の中の顕著な顕在性、環境に存在を刺激する認知環境からコミュニケーションの事例をモデル化し、これ等の事例から推理、推論を重ねてレベルのランク付けを行っている。その中で、ヒトは個体の意図を読みとる生物、他者の心という理論的矛盾した観念を持った。私の身体が感覚情報を持つ私と言う存在と推論付けられた。感覚情報だけでそれ以外のものはすべて仮説にすぎないと、考察のもととなっているイメージは一つの感覚情報として存在していると著者は理論づけている。
(犬が自分の尾を追ってくるくる廻っている感じがする)
お薦め度:★★ 対象:睡眠薬としては役割を果たしてくれる
【西川裕子 20031226】
●「他者の心は存在するか」金沢創著、金子書房
他者の心は存在しない。唯一存在すると言えるのは自分の心のみであり、他者とのコミュニケーションを通じて、他者にも心があるという推測をしているに過ぎないのだ。
と、いう訳でこの本はコミュニケーションの本。人工知能分野における「心」を定義する方法、ニホンザルとチンパンジーとヒトの推論能力の実験、人間が持つ他者の心の推論能力「心の理論」、コミュニケーションでは何が行われているかを説明した「関係性理論」、こういった内容を経て、コミュニケーションのレベルによって自分と他者の関係がどう変化するか述べられている。
どうもタイトルと内容が合っていない気がする。扱っているのは哲学でも生態学でもなくて、心理学。内容が面白いだけに手に取る人がズレてしまうのはもったいない。
お薦め度:★★★★ 対象:心のありかを人間の内にではなく、外に求めるという心理学の時流に乗りたい人向け
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