友の会読書サークルBooks
本の紹介「時を刻む湖」
「時を刻む湖 7万枚の地層に挑んだ科学者たち」中川毅著、岩波科学ライブラリー、2015年11月、ISBN978-4-00-029642-7、1200円+税
【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
もし紹介文についてご意見などありましたら、運営責任者の一人である和田(wadat@omnh.jp)までご連絡下さい。
[トップページ][本の紹介][会合の記録]
【森住奈穂 20160225】【公開用】
●「時を刻む湖」中川毅著、岩波科学ライブラリー
2013年、福井県水月湖の堆積物が、過去5万年もの時間を測る世界標準時計になった。遡ることおよそ30年、遺跡発掘調査のための湖底掘削によって偶然見つかった堆積物の縞模様。その縞は1年に1枚ずつ規則正しく並んでいるため、これを数え、中の落ち葉の炭素14量を測れば、年ごとの炭素14量が求められる。その量なんと5万年分!これを、化石や遺物の年代調査に用いられる放射性炭素年代測定の誤差を正す換算表にしようという挑戦が描かれている。偶然から始まり、ひとりの若き研究者が夢を描き、ライバルに敗れ、意思を継いだ国際チームが奮闘、と、紆余曲折ある様はまるでドラマのよう。日頃当たり前に使っている尺度だが、基準を作る、また、その精度を上げるという行為が、大変な努力の賜物であるということを、あらためて思い知った。
お薦め度:★★★★ 対象:遠い目になって、ロマンを感じたいひと
【中条武司 20160225】
●「時を刻む湖」中川毅著、岩波科学ライブラリー
福井県三方五湖のひとつ水月湖。その湖底には数万枚に及ぶ白黒の縞模様が刻まれている。この縞模様はプランクトンの死骸や有機物の濃集という毎季節に必ず起こる現象によって形成され、1セットが1年という規則正しい記録を残している。この縞模様の枚数を数える。ただそれだけのことだけど、数えることによって、過去の7万年分の時計の針を合わせることができるのだ。そのために、世界中の研究者がネットワークを組み、20年もの歳月をかけてただ縞々を数え続ける。目先の成果を追い求める研究が主流の中、すぐには成果のあがらない、ただただ数えるだけを追い求めた人たちに頭が下がる。
この本では年代論のみを扱っているが、水月湖の研究は古環境や古気候などにも大きな成果を上げているし、これらにも新たな展開が期待されている。そのあたりをもう少し触れてほしかった。
お薦め度:★★★ 対象:地球科学の変わった研究分野が知りたい人
【西村寿雄 20160222】
●「時を刻む湖」中川毅著、岩波科学ライブラリー
舞台は琵琶湖の北、三方五湖のひとつ水月湖(福井県)である。この辺ぴな小さな湖が「世界一精密な年代目盛り」を記録しているという。その年代目盛りを一つ一つ調べてきた研究者の足取りが延々と語られていく。
考古学研究の一端として掘られたボーリングコアから、奇妙な縞模様(年縞)が出てきた。このことをきっかけに細かな年縞の解析が始まった。そもそも、この年縞は、珪藻の繁殖や菱鉄鉱の堆積、植物プランクトンの堆積、黄砂の堆積などで一年のサイクルが記録されてできる。さらに、堆積した年縞が消されないため湖底が無生物状態である環境もいる。それらの条件を奇跡的に満たしているのが水月湖とのことである。
その水月湖を舞台に、ひとつひとつの年縞の成分を分析していく緻密な研究過程が語られていく。退屈な紙面が続くが、気の遠くなるような研究の一端を知ることができる。
お薦め度:★★★ 対象:湖底の土壌に興味ある人
【萩野哲 20160225】
●「時を刻む湖」中川毅著、岩波科学ライブラリー
過去数千〜数万年の時間を推定するには、半減期5730年の14Cを使えば分るのだと、漠然と知っていた。空気中には一定濃度の14Cが含まれており、生物が生きている時は同じ濃度の、死んでからは半減期に応じた14C濃度になるので、理論的にはそれで時代が計算できるからだ。しかし、実際には話はそんなに簡単ではなかった。先に書いた理論が成立するには前提条件@14Cの量が全世界の大気で均一であること、A植物の種類によって14Cを取り込む割合に差がないこと、B14Cの半減期が正確に見積もられていること、C大気中の14Cの量が時代に依らず一定であること、を満たす必要があるのだが、現実は必ずしもそうではなく、時間推定の精度が悪くなっている。なので、別の時計を捜して較正する必要がある。完璧な精度の時計は樹木の年輪であるが、これではせいぜい1万年程度しか遡れない。ここに現れたのが水月湖の年縞である。数々の奇跡的な偶然によって4万年もの間撹乱されずに残った年縞。これを時計に利用できるという発想、年縞を数えるための研究協力体制の構築など、壮大なドラマが本書には見える。
お薦め度:★★★★ 対象:科学の力によって謎を解き明かす作業が大好きな人
[トップページ][本の紹介][会合の記録]