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本の紹介「都市に侵入する獣たち」

「都市に侵入する獣たち クマ、シカ、コウモリとつくる都市生態系」ピーター・アラゴナ著、築地書館、2024年3月、ISBN978-4-8067-1662-4、2700円+税


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【和田岳 20240919】【公開用】
●「都市に侵入する獣たち」ピーター・アラゴナ著、築地書館

 都市で暮らす動物の歴史を語り、共存を考える一冊。舞台は、ほぼアメリカ合衆国なので、あくまでも北アメリカ中心の歴史。出てくるのは、哺乳類と鳥類が中心。
 さまざまな動物が暮らす場所に、動物を追い払って都市がつくられた。当初、都市に野生動物はおらず、家畜が闊歩していた。19世紀後半から20世紀初頭、都市の緑地にリスが暮らすようになり、オジロジカが復活。そして、次々と都市に進出する動物が目立ち始める。コヨーテ、アメリカクロクマ、ハクトウワシ、そしてピューマ。危険な大型の動物の街への進出は、さまざまな議論を引き起こす。むしろ都市の方が成功しているコヨーテやクマが印象的。
 都市に進出する哺乳類が大型過ぎて引くけど、同じような事態は日本でも起きている。日本の状況をある程度知った上で読んだ方が、より身近な問題として考えられる。

 お薦め度:★★★★  対象:クマが街に出現するニュースを見たことがある人
【里井敬 20240920】
●「都市に侵入する獣たち」ピーター・アラゴナ著、築地書館

 都市を造るのに適した場所は、元々野生動物が繁栄していた場所だ。ニューヨークは生物多様性に富んだ国立公園よりもっと豊富な生物が生きていた所だった。
 現在のアメリカの都市にも、野生動物が多く生息しているらしい。コヨーテ、アメリカクロクマ、ピューマ。コヨーテはオオカミより小型だが、イヌより獰猛で子どもがかみ殺される事件も起きている。ほとんどは生ゴミを好む動物をターゲットにして都市環境を使いこなして生きている。アメリカクロクマは、多くは森林に棲んでいるが、餌付けされて見世物になっている例もある。害獣→狩猟種・パフォーマー→共存? 不快生物としてコウモリがあげられるが、ヒトと共通の病原体でコウモリが宿主となるのは2%未満である。他の動物と比べて少ない。コウモリを心配しすぎる必要はない。また、同じ動物がある状況ではある人には害獣で、別の状況で別の人にとってか価値があることもある。 多くの動物が都市に侵入して来ているが、戻って来ているとも言える。戻るための条件を整え、管理し都市と共に進化し、共存していくのか。

 お薦め度:★★★  対象:動物との共生を考えたい人
【西本由佳 20240824】
●「都市に侵入する獣たち」ピーター・アラゴナ著、築地書館

 都市をつくることで、人はそこに本来すんでいた獣たちのすみかを奪ってきた。都市は人以外の動物にとってあまり住みやすい場所ではないはずだった。しかし、都市の緑化や狩猟者の減少、魅力的な食物であるゴミの大量発生や餌付け等の影響で、都市に獣たちが入ってくるようになったという。初めは、自然から切り離されている都市住民は身近にきた獣たちに好意を向けることがある。しかし、人や、人が心を寄せる生きものを襲うことがあったり、病気をもちこむことがあったり、獣たちとの接触は楽しいことばかりではない。しかし、アメリカでは環境に対する意識の高まりや法律の整備によって、獣たちが受け入れられることが増えている。都市の快適さを享受しながら、本来のすみかである場所に戻ってきた獣たちとどうやって共存していくかが、これからの課題になっていく。

 お薦め度:★★★  対象:すぐに身近な野生動物の問題の解決にはつながらないけど考えを整理したい人に
【萩野哲 20240804】
●「都市に侵入する獣たち」ピーター・アラゴナ著、築地書館

 近年都市で目撃されることが多くなった野生動物。なぜか?それは、都市はヒトばかりではなく全ての生物にとって元々住みやすい場所に造られたからである。騒音や夜の照明などの悪条件はあるにせよ、街路樹、公園などが整備されると野生動物が戻ってきた。米国ではリス、コヨーテ、クマ、ハクトウワシ、コウモリ・・・・・。そしてヒトとこれら動物の軋轢が強まった。害獣として駆除するのか?逆に歓迎するのか?いや、そんな単純な問題ではない。都市の生態系とそれを共有する生物に、私たちが実際に何を求めているのかを問うことが最も重要だと著者は言う。簡単なことではないが、野生生物への配慮を、科学に基づいた対策を採用し、地域社会の支持を得ながら実施し、信頼できる公共投資で維持し、最も弱い立場の人々にも配慮することで、私たちはよりよい多様性と共生に満ちた社会に住めるようになるだろうと結論している。

 お薦め度:★★★  対象:都市に(侵入ではなく)戻ってきた動物とどのように共存したらよいか考える手がかりを見つけたい人
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