友の会読書サークルBooks
本の紹介「月まで3キロ」
「月まで3キロ」伊与原新著、新潮文庫、2021年6月、ISBN978-4-10-120762-9、670円+税
【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
もし紹介文についてご意見などありましたら、運営責任者の一人である和田(wadat@omnh.jp)までご連絡下さい。
[トップページ][本の紹介][会合の記録]
【中条武司 20230428】【公開用】
●「月まで3キロ」伊与原新著、新潮文庫
月、雪の結晶、アンモナイト、ハイエイタス、素粒子、火山層序、富士山をそれぞれ小説の主題に絡めながら、主人公やそれを取り巻く人たちについて語った短編集。小説の内容は科学的な題材と基本的には関係はないが、それを絡めて書くのはうまい。読書サークルでの評価としては難しいけど、こんなんをきっかけにそれぞれの科学的題材に興味を持ってくれたらいいなと高評価。
お薦め度:★★★ 対象:普通の小説好きの人
【里井敬 20230426】
●「月まで3キロ」伊与原新著、新潮文庫
7編の短篇の小説集。表題の「月まで三キロ」は、38万キロ離れた月の太古からの見え方を解説している。しかしたった三キロの所にも月があることで、人生に行き詰まった2人の男が、現実の生活を見つめ直そうとしている。
「アンモナイトの探し方」での『分かるは分ける』は、分かると分からないをきちんと分ける。分かるためのかぎは常に分からないことの中にある。と、哲学的に人生の指針を示している。
それぞれの短篇には月、雪の結晶、化石、地質学、地球物理、火山、富士山の科学的知識が盛り込まれている。
お薦め度:★★★ 対象:科学が好きだけど、小説も好きな人
【冨永則子 20230411】
●「月まで3キロ」伊与原新著、新潮文庫
事業に失敗し自殺を考えた男と我が子を自死でなくした元高校の地学教師だったタクシー運転手。婚期を逃したアラフォー女性とゲイの気象庁職員の男性。両親の離婚からストレスで円形脱毛症になった男の子とアンモナイト研究者の元博物館館長。元ブルースギターリストの60過ぎのプー太郎を叔父に持つ年縞研究者。乳癌で亡くなった女性の夫と娘と非正規で任期付きで素粒子の研究をする女性。夫が定年するまで専業主婦として生きてきた女性と火山研究者。それらの登場人物からなる六つのお話。いずれのお話にも科学的な理系の世界が語られているが、あまりにも身につまされる内容で架空の話とは思えない。身近なあの人のこと?と思ってしまう。プー太郎のオヤジが内田勘太郎に出会った阿倍野のロック喫茶って『マントヒヒ』やん。作者の年齢からみて『マントヒヒ』を知ってるとは思えないけど…。
課題本でなければ最初の話で読むのはやめたと思う。これだから大人の小説は嫌いだ。六つの短編の中で一番ストンと落ちたのは6年生の男の子が主人公のお話かな?そこに出てくるおせっかいなオバサンは私と同い年だった。
お薦め度:★★★ 対象:ちょっと理系な小説が読みたい人に
【西村寿雄 20230424】
●「月まで3キロ」伊与原新著、新潮文庫
科学的な内容をおりまぜた読み物である。帯には〇〇大賞受賞とかぎょうぎょうしく書かれているが・・。対話の中に、宇宙にくわしい人が出てきたり、気象予報士が出てきたり、北海道でアンモナイト化石を発掘する人が出てきたり、福井県の年鎬(糸偏)博物館が出てきたりするが、話の中身は常識程度。一つのテーマを追いかける書物でもない。軽いサイエンス読み物である。
お薦め度:★★ 対象:サイエンス話を知りたい人
【萩野哲 20230411】
●「月まで3キロ」伊与原新著、新潮文庫
6つの短編小説が収録されており、各々に科学的なテーマが含まれている。「月まで三キロ」:元高校教師の言葉を借りて月の蘊蓄が語られる。過去には月は現在のように同じ面を向けたままではなかったとは知らなかった。「星六花」:雪の結晶には全ての形に名前がついているそうだ。「アンモナイトの探し方」:標本の価値が分からず経済しか頭にない政治家はどこかで聞いたような話。ノジュールの解説が詳しい。「天王寺ハイエイタス」:大阪やったらありそうな話かなあ。ハイエイタスとは中断とか地球温暖化が一時停滞する意味があるらしい。「エイリアンの食堂」:素粒子と宇宙人。なっとう嫌い。「山を刻む」:ウチの先生が新田次郎に記述の訂正を求める手紙を書いたのを思い出した。これらの小説の登場人物は過去か現在にあまり幸福でない人生を送ってきたが、出会いとヒントで最後には何とかハッピーエンド(そうでなくっちゃ!)となった、と解釈してよいのかなあ。
お薦め度:★★★ 対象:月まで三キロ?と疑問に思った人
【六車恭子 20230428】
●「月まで3キロ」伊与原新著、新潮文庫
表題作以下短編が7編、それぞれ味わい深い。表題の「月まで三キロ」はかって高校受験失敗で息子を失った元高校教師のタクシー運転手の車に乗り合わせ、自分が見捨てた父がまだ施設で生きていることに気づくまでのいっぺん。
「星六花」 は天からの贈り物のような雪の結晶を収集する若い男女の淡いまじわり。
「エイリアンの食堂」は父と娘が営む食堂に訪れる若い素粒子の女性研究者、ブレアさんとの交流を描く。小さなル一ペを覗き、素粒子の振る舞いを見続けることで異文化圏でも居場所があることを確かめる!したたかさもほの見える一編。
お薦めは「山を刻む」。若い頃から、子育ての合間をぬって続けていた山登り。「僕達火山研究者は山を刻むんです。」いつの間にか私も家族のみんなに切り刻まれてきたことに気づく。彼女はこの時、「山小屋を買う」決断をして、電話で告げる。よしと思えることに立ち向かう潔さがこの作品の真骨頂!
お薦め度:★★★ 対象:準備の出来ている方なら
【和田岳 20230428】
●「月まで3キロ」伊与原新著、新潮文庫
6篇を収めた短編集。著者は地学畑の研究者出身。だからなのだろう、どの作品にも地学的な蘊蓄がからむ。登場するのは、月、雪の結晶、アンモナイト、ハイエイタス、素粒子、火山。でも、その蘊蓄がなくても成立する作品もチラホラ。
北海道でのアンモナイト発掘や博物館が出てくる「アンモナイトの探し方」。山で変な火山研究者と院生に出会う「山を刻む」。この2篇は、地学度が高い内容。でも、この本で地学を学ぶ必要はない。短編小説としては良くできたのが並んでるので、小説として読むべき。
お薦め度:★ 対象:ミステリの香りがする短篇小説が好きな人
[トップページ][本の紹介][会合の記録]