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本の紹介「歌うカタツムリ」

「歌うカタツムリ 進化とらせんの物語」千葉聡著、岩波科学ライブラリー、2017年6月、ISBN978-4-00-029662-5、1600円+税


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【六車恭子 20171020】【公開用】
●「歌うカタツムリ」千葉聡著、岩波科学ライブラリー

 遠いハワイの地では「カタツムリが歌う」、と住民は信じていたという。そのロ一カルなカタツムリの進化を巡るその後の200年間の研究者たちの絢爛たる論戦は生き物の進化を巡る研鑽の最前線を観戦しているようだ。ギュリックの「地理的隔離説」、ライトの「遺伝的浮動による平衡推移理論」、フィッシャ一の「自然選択の遺伝学的理論」、外にもドブジャンスキ一、グ一ルド、木村資生ら日本の研究者も多数参戦した。著者自身もその一人だ。まさにカタツムリが世界の潮流を席巻するモデルであり、カタツムリの謎に迫ればなにかが見える、そんな進化の実験場だったようだ。カタツムリの殻の渦巻きのように少しづつ理解のステージは上がっていく。まさに進化のらせんの物語の醍醐味が味わえる希有な一冊!

 お薦め度:★★★★  対象:軽やかなタイトルに誘惑されるのも可な方なら


【西本由佳 20171015】
●「歌うカタツムリ」千葉聡著、岩波科学ライブラリー

 生物の種の違いを示す性質は自然選択によるとする適応主義と、その性質の大半はランダムで自然選択に中立だとする遺伝的浮動説、この2つの立場の対立が描かれる。材料は膨大な数のカタツムリの標本と採集データ。野外調査から室内実験や遺伝子解析、数値シミュレーションまで、あらゆる手段が駆使される。登場する人たちの多くは、自然に学び、観察事実を重んじるまっとうな研究者。それでも、それぞれ違う答えを導き出し、対立する模様は、進化という現象の奥深さを感じさせる。

 お薦め度:★★★  対象:進化に興味のある人

【萩野哲 20171010】
●「歌うカタツムリ」千葉聡著、岩波科学ライブラリー

 古くハワイでは、カタツムリが歌うと信じられていた。しかし、ハワイマイマイが姿を消した現在では、それは確かめようもない。
 カタツムリも歴史も、螺旋を描いて繰り返す構造が似ていると、著者は述べる。進化は偶然なのか適応なのか? 多様な形と色をもつカタツムリの進化を専攻した著者は、カタツムリがまだ“歌っていた”19世紀に遡り、ジョン・トマス・ギュリック、ヘンリー・クランプトン、ロナルド・フィッシャー、エドムンド・フォード、シーウェル・ライト、テオドシウス・ドブジャンスキーらの登場人物の視点・人生から大蝸牛論争を軸とした進化論の歴史を語る。さらに彼らの系譜は続く。ジョージ・G・シンプソン、ノーマン・ニュ−エル、エルンスト・マイア、スティーブン・J・グールド、速水格、そして著者。確かに、進化が適応や偶然によって進むのと同様、進化論の論争に参加した進化研究者の人生も様々であり、歴史的には螺旋を描いているようにも見える 。

 お薦め度:★★★★  対象:進化の機構のみならず、科学史についても興味を持っている人。


【和田岳 20171019】
●「歌うカタツムリ」千葉聡著、岩波科学ライブラリー

 カタツムリの研究で、現代進化論の歴史を紹介するという大胆な本。そんなことできるんか?と思うかもしれないけど、それができたんだな。
 カタツムリの殻にいろんな色や模様があるのは、適応なのか遺伝的浮動なのかという大論争が紹介されるのだけど。ギュリック、フィッシャー、ライト、ドブジャンスキー、モース、グールドと有名人が次々とカタツムリの論争に参入していく。現代進化論を語る上ではずせない人がちゃんと登場し、カタツムリの研究を論争で、現代進化論形成における中心的な論争が紹介できるとは、カタツムリはあなどれない。
 論争の出だしは、ギュリックのハワイマイマイの研究。ギュリックは、後に大阪で暮らし、日本の貝類研究にも大きな影響を与えたんだそう。だからあの大きなカタツムリに、ギューリキマイマイと付いてるんだな。

 お薦め度:★★★★  対象:現代進化論の成立の過程に興味がある人


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