神秘に満ちた神話の生き物「龍」が実在の生物だと言ったら信じますか? これは、それを様々な見地から考察している本です。
漢字、伝承、生態。そんなものから「龍」の正体がワニであるという推測を披露して下さっています。ただし、この本の主題はそこではありません。恐らく自他とも認めるであろうワニオタクである著者のワニへの愛と、ワニとはこんなに親しみやすいものなんだよと言う魅力を示すことが主題のようです。
全体的に、軽快な語り口と様々な視点からの考察でさくさくと読めました。ただ、生物的な素養が無い私には生態的な説明が少し難解でした。は虫類好きでしたら読んでみても、損はないのではないでしょうか?
お薦め度:★★★ 対象:神話伝承やワニが好きな人
著者がいかにワニを愛し信奉しているか、隅々から伝わってくる。分野は異なっていても、マニアと呼べる趣味を持つ読者があれば、共感できる部分は多いと思う。中国の龍信仰とワニとの関係の謎解きに始まり、恐竜絶滅に関する学説にわくわくと引き込まれるのは、それらが丁寧な形態学・分類学的記述と文献の引用に裏打ちされているためであろう。
お薦め度:★★★ 対象:動物好きorマニア指向の人
9歳の頃はじめて仔ワニを購入した筆者は、ワニの雌雄判別法に興味を抱き、中学時代には英文書片手に死んだ仔ワニを解剖、高校時代には金魚問屋でワニの死体を分けてもらってワニの性分化の観察を続けた。
熱川バナナワニ園での観察に基づくワニ各科の形態上の違いや、ワニによる世界各地の人身事故のデータも豊富。皮革業界人がワニをよく見ている点を評価し、「耳触りのいいことをいっている方たちから聞いた話で感心したことがない」と言い放つ。
ワニが龍であったことを説く筆者は、ワニの形態の精妙さの一部については、「それを語りうる地球上で唯一の人間である」と書く。全編に溢れる筆者の生きざまと独特な文体は、好きなことをして生きる人生の魅力を存分に伝えてくれる。
お薦め度:★★★ 対象:マニア向け
ワニに関するネタ、恐竜も絡めてあれこれ、な本。
アジアの「龍」は今は絶滅してしまった温帯性のワニのことだった。恐竜が絶滅したなか、生き残ったがために恐竜として区分されなかったワニ。絶滅しなかった理由は当時の生活様式にあった。
クロコダイルとアリゲーターの違い、唇が退化した特殊な口、ワニの一重マブタと二重マブタ。ワニの食性。ワニのあごの構造と威力。原始哺乳類との競合。ワニの共食いの真偽。
人との関わり。古来から信仰の対象とされ、同時に人間によって絶滅させられた種がいる。飼育技術の発展は皮革製品としての価値の賜物だった。
動物園では印象の薄いワニ。マスコットとして馴染み深い動物でありながら。
専門的で内容の難しい部分が少しあるけれど、意外と知らないワニについて。読んでいて楽しかったです。語り口調が真面目すぎず、クスと笑えるところも。ワニの写真もかわいくて、腕立て歩きなワニの写真はオススメです。ついつい、ワニについて語りたくなる一冊。
本書は冒頭サン・テグジュペリの「星の王子さま」で始まる。サン・テグジュペリは生前既に世界的に著名な作家であり、第二次世界大戦中偵察飛行に飛び立ち不帰の人となった。その作風ゆえに伝説化された人物であった。
少年時代からワニの魅力に取り付かれた著者が古来中国の伝説の動物「龍」の正体に挑む。伝説は人々を圧倒する実像があって後生まれたのだ!約1000年周期でおとずれる気候の寒冷化が中国人の視界からワニが消える現象をもたらした。人を呑み、トラを絶つという凶暴な種「マチカネワニ」が西周の時代に姿を消したことが神格化された龍のイメージを形成したのだろう。
動物学や古生物学、考古学を駆使して、膨大な資料の中から巨大なワニ(マチカネワニ)の実像を紡ぎだしていく過程は揺るぎなく緻密だ。
恐竜になれなかった(絶滅しなかった)故に、この星の王の座を追われた、この魅力あふれる動物の復権を問う”ワニ学事始め”はこの一冊から。
ワニの形態・分類学の第一人者であり、何よりワニオタクの著者が、思いつくままにワニについて書いて、ワニの魅力を布教しようとしたような本。おかげで、すっかりワニが好きになりました。
第一章「龍は実在の動物だった」では、龍とは古代中国に生息したマチカネワニのような温帯性の巨大ワニの事だと力説。第二章「恐竜にならなかった龍・ワニ」では、ワニの話をしつつも、恐竜の絶滅の原因として紫外線不足という説を展開。第三章「ワニのかたち」では歯・唇・瞼などワニの形態を、第四章「ワニの食卓」ではワニの食物を、それぞれ紹介。第5章「人との関わり」は、エピローグみたいな感じ。
とにかく全編、ワニへの愛と、爬虫類の形態への造形の深さがあふれている。盛んにでてくる骨の名前など形態学の用語はさっぱりわからなかったけれど、そんな所は読み飛ばしても充分楽しめます。