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本の紹介「ワンダフル・ライフ」

「ワンダフル・ライフ」スティーヴン・ジェイ・グールド著、早川書房、1993年4月、ISBN978-4-15-203556-1、2700円+税


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【萩野哲 20091212】【公開用】
●「ワンダフル・ライフ」スティーヴン・ジェイ・グールド著、早川書房

 本書は、カンブリア紀初期に起こった海洋生物の多様性の顕著な拡大(いわゆる”大爆発”)の中で最も著名なバージェス頁岩を紹介しており、今では多数出回っている類書の中の嚆矢となっている。著者は、これらの化石を発見したウォルコットの標本を管理するハーバード大学比較動物学博物館の教授として、これらに関わる立場であった。「多様性は地史を通じて逆円錐形状に増大したとの先入観があるが、そうではなく、カンブリア紀初期にのみ多細胞生物の最初で最後の拡大が起こり、その後はそこで生き残った少数の群の変異に限定される。それら生き残った少数のものたちは、決して他のものと比較して特に優れていたわけではなく、滅びた多数のものたちは”悲運多数死”であった。」と著者は説く。各論では”悲運多数死”した「驚嘆すべき生物」(または「すばらしい生命」)の各々がどのようなものでいかに発見されたかを生き生きと解説している。本書のすごいところはこれにとどまらず、発見者のウォルコットの「すばらしい人生」や、再記載したウィッティントン、コンウェイ・モリス、ブリッグスたちについても多くのページを割いているところであろう。著者が本書を書かなかったら、類書も出版されず、一般の人がアノマロカリスの名を知ることもなかったかもしれない。

 お薦め度:★★★★  対象:生物進化に興味がある人の必読書

【六車恭子 20100226】
●「ワンダフル・ライフ」スティーヴン・ジェイ・グールド著、早川書房
ブリティッシュ・コロンビア州のバージェス頁岩の発見と解釈にまつわるほぼ80年間におよぶ忘れられた人間ドラマがグールドが黒子になって語ることで脚光を浴びる場所に据えられた。1909年、カナダでウォルコットによって発掘されたこの動物群に下した陳腐な解釈がイギリスのアイルランドの三人の古生物学者が二〇年にわたって展開した詳細を究める解剖学的研究によって覆されたのだ。学問の世界の小さな出来事を人類の共通の遺産に登録すべく挑戦したグルードの「ワンダフル・ライフ」は今でも氏の代表作だろう。
 カンブリア紀の大爆発とその悲運多数死はこれからもこの小さな化石群のリストが書き加えらだろう。これら奇妙奇天烈な生物の行進が実現しえた世界の「ほんとうの歴史」の偶発性をまざまざと証言して、壮大な進化の物語のはじまりの奇跡を実感できるのだ。

 お薦め度:★★★★  対象:この世でワンダフル・ライフを謳歌するすべての人に

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