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本の紹介「山火事と地球の進化」
「山火事と地球の進化」アンドルー・C・スコット著、河出書房新社、2022年10月、ISBN978-4-309-25454-8、2900円+税
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【萩野哲 20230308】【公開用】
●「山火事と地球の進化」アンドルー・C・スコット著、河出書房新社
山火事は酸素が地球を満たし、樹木のような植物が陸上に存在するようになった時点から始まった。しかし、山火事ついてヒトが誤解していることは多い。火事は鎮火で終わるのではなく、その後の侵食や燃えかすの移動もあり、何年もヒトや野生生物に影響を及ぼし続ける。かつて石炭起源と考えられていた遺物=フゼインは木炭化石であるとわかった。これは当時から山火事があったことを意味する。基本的な火事の三要素はよく知られているが、時空的な規模に応じて5段階が提唱されているそうだ。実験的に酸素濃度が30.5%を超えると湿った植物でも燃え、消火不可能らしいが、実際には燃料が尽きるため23%を超えると火事の発生は横ばいらしい。石炭紀や白亜紀のように酸素濃度が高かった時代に樹皮などが火に強い系統の植物が進化した。被子植物の出現も火事の貢献かもしれない。本書の表題は決して大袈裟ではない。
お薦め度:★★★★ 対象:山火事なんて局所的で小さな影響しか及ぼさないと誤解している人
【里井敬 20230426】
●「山火事と地球の進化」アンドルー・C・スコット著、河出書房新社
山火事によってできた木炭の化石により、地球の進化が分かる。山火事が起こるには、燃えるものと酸素がいる。なので4億年前以降の地球の進化だ。木炭は脆いので、走査型電子顕微鏡が発明されて植物の構造が分かるようになった。巻頭の木炭や木炭化石の写真は素晴らしい。
山火事と言えば人為的なもの、火山によるものを思い浮かべるが、人類以前にも山火事は頻発していたし、火山によるものの頻度もそれほど多くない。多くは落雷によるものだ。火事は植物の進化に影響を与えたし、生態系にも影響をおよぼした。しかし恐竜の絶滅に関係した小惑星の衝突により全地球が火に包まれたのではという仮説があるが火事の性質上それは考えられない。
木炭化石に生物のたくさんの情報が残っていることに驚いた。
お薦め度:★★★ 対象:木炭化石について知りたい人
【中条武司 20230317】
●「山火事と地球の進化」アンドルー・C・スコット著、河出書房新社
現在も地球の至る所で火事が起きている。火事といえば何らかの形で人の手が関わっていると思いがちだが、燃えるもの(=植物)があって地球上の酸素がある一定以上になったシルル紀後期から、火事はずっと起き続けているらしい。木炭となった植物化石は脆そうに見えるけど、とても美しい構造を持つのはびっくり。火事の頻度と酸素濃度が相関していることや、人間が関与しなくても草原の形成には火事が必須であることなど、火事は地球の進化に大きく関わっている。木材の構造や時には昆虫も一緒に焼かれて残っていることもあるようなので、地層の中の火事の痕跡を探してみたくなる。
お薦め度:★★★ 対象:大規模な山火事のニュースを最近毎年見るなあと思う人
【西本由佳 20230423】
●「山火事と地球の進化」アンドルー・C・スコット著、河出書房新社
山火事は対処すべき災害のように思えるが、実はそうではないらしい。火は「地球というシステム」を動かす歯車の一つであると著者はいう。火事は3つの要素「燃料」「熱」「酸素」がそろって起きる。燃料は主に植物で、これは地質的な時代によって性質が違ってくる。また酸素についても、大気中の酸素濃度は時代によって増えたり減ったりしてきた。著者は木炭を手がかりに、各地質時代における火事とはどのようであったか、順に示していく。地学的な時間の流れに関心があれば、各地質時代が火事という視点から見てどんな時代であったかを追っていくのは楽しいと思う。
お薦め度:★★★ 対象:地球史に関心のある人
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