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本の紹介「野生のオランウータンを追いかけて」

「野生のオランウータンを追いかけて マレーシアに生きる世界最大の樹上生活者」金森朝子著、東海大学出版会、2013年8月、ISBN978-4-486-01991-6、2000円+税


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【森住奈穂 20131212】【公開用】
●「野生のオランウータンを追いかけて」金森朝子著、東海大学出版会

 群れを作らず、樹上で単独生活を送る野生のオランウータン。著者は海外で野生動物の研究をしたいという目標からスタートし、思いがけずオランウータン研究に取り組むことになる。樹高50〜60メートルの巨木がそびえたつ原生林。さぞやワクワクする調査かと思いきや、現実は果てしなく地味な作業。とにかく忍耐。忍耐に次ぐ忍耐。その上に降りかかる病気やアシスタントとのトラブル。でも著者は逃げ出さない。困難な出来事に教訓を得て、常に前を向いている。ぶれない人だなぁ。絶滅の危機にひんするオランウータン。第7章では、私たちにできることも紹介されている。

 お薦め度:★★★  対象:無報酬の報酬について考えてみたいひと

【冨永則子 20131127】
●「野生のオランウータンを追いかけて」金森朝子著、東海大学出版会

 オランウータンの調査日記といってしまうには、あまりにも過酷で濃密な時間を感じる。著者がオランウータンを研究対象に選んだのは偶然のようだが、そこに至るまでの過程が興味深い。
 高校3年生の進路調査に「アフリカ」と書き、親まで呼び出される始末!(そりゃそうだろ…) ところが、本当に卒業後の4月にアフリカのケニアへ単身で渡航してしまう!!(なんてこったぁ〜)
 1年後、日本の大学進学を目指して帰国し、20歳で日本大学生物資源科学部・動物資源科学科に入学。「海外で野生動物の調査をしてみたい」という想いを叶えるため、宮城教育大学の修士課程に進学し、野生のニホンザルを研究する。
 初めは、不本意な思いで取り組んだニホンザルの調査だったが、調査に面白さを感じ、更に研究を続けようと東京工業大学の大学院に入学する。ところが、そこの指導教官に提案されたのは“オランウータン”だった。こうして、著者は博士課程1年からボルネオに渡航し、オランウータンの研究を始めることになる。
 自分の夢に対して頑固なまでにこだわるが、一方で、何に対しても好奇心をもって取り組む姿勢に著者の柔軟な思考力を感じる。『シロアリ…』の著者:松浦健二も「人生の決断はシンプルなほどよい。大事なのは覚悟だ」と書いていたが、まさしくそれを実践していると思った。
 共同研究者の久世濃子さんのブログによると、本著は、おそらく、現在、オランウータンの生態や科学的知見に関して日本語で読める、ほぼ唯一の本とか。(写真集や子ども向けの本はあるが、初学者や研究者が読むに耐えるレベルとしては、ほぼ唯一)日本人が書いた大人向けの専門書としては初となるらしい。

 お薦め度:★★★★  対象:大型霊長類の生態に興味のある人に。オランウータンのことが知りたい人に。研究者を目指す中高生と、その保護者に

【萩野哲 20131130】
●「野生のオランウータンを追いかけて」金森朝子著、東海大学出版会

 霊長類の研究例は多いが、その中でもオランウータンの研究例は少ない。なぜか? それは他の霊長類と比較して、オランウータンの行動が極めて乏しいからである。この性質ために、まず発見が大変難しい。本書は、オランウータン研究の先駆者、J.マッキノンの言葉「毛むくじゃらで不機嫌なナマケモノのごとき代物と向き合い、うんざりするほど長い時間じっと観察するために鉄の意思をもたねばならない」を地でいく、数々の困難を克服していく鉄の意思を持った著者のフィールドノートである。

 お薦め度:★★★  対象:フィールド調査周辺の様々な困難にも興味がある人

【和田岳 20131213】
●「野生のオランウータンを追いかけて」金森朝子著、東海大学出版会

 野生のオランウータンは、そもそも見つけるのが困難で、見つけてもあまり動かず、かと思うと見失い、継続観察がとても大変。そんな対象を研究する人がいるとは思えない。そして確かに他の類人猿と比べると研究の歴史は短く、まだまだ謎がいっぱい。それに挑戦した女性研究者の話。
 調査地をさがし、調査地立ち上げ、アシスタント探しに苦労して、ようやく調査を開始する。そして3年にわたる調査の成果が紹介される。なんせ木の上にいて観察の難しいオランウータン、単独で社会行動もほとんど観察されないオランウータン。その成果は、一日の間になにをしていたかとか、何を食べたかに限られる。労力の割には成果は少ない。でも、他の研究者の成果をまじえ、少しずつオランウータンの暮らしが明らかになっていく。
 一番、気に入ったのは個体識別のところ。なるほど一人一人顔が違う。ニホンザルよりもよほど、人間のような違いがある。これなら顔を見分けられる気がした。

 お薦め度:★★  対象:熱帯での野生哺乳類調査に興味のある人、サル好き

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