友の会読書サークルBooks

本の紹介「野生生物は「やさしさ」だけで守れるか?」

「野生生物は「やさしさ」だけで守れるか? 命の向きあう現場から」朝日新聞取材チーム著、岩波ジュニア新書、2024年7月、ISBN978-4-00-500988-6、940円+税


【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
 もし紹介文についてご意見などありましたら、運営責任者の一人である和田(wadat@omnh.jp)までご連絡下さい。
[トップページ][本の紹介][会合の記録]

【森住奈穂 20241025】【公開用】
●「野生生物は「やさしさ」だけで守れるか?」朝日新聞取材チーム著、岩波ジュニア新書

 野生生物を守るとは、どういうことなのか。かたや絶滅危惧種と聞けば保護の対象、かたや外来種と聞けば駆除の対象。住宅地に出没したシカ、漁師の網にかかった50匹ものウミガメ。さまざまな野生生物と向き合う現場の人々の葛藤をレポートする。単純に線を引く事のできない問いに対して、時代や状況によって変わっていく答えに対して、私たちができることは何だろう。どの現場も、この問いかけに真剣に向き合っている。イシガメを守る活動のなかで聞いた「クサガメは堪忍したってほしい」という言葉。悩みながらも立ち止まってはいられない現場。どちらにも深く共感し、考えさせられる。

 お薦め度:★★★★  対象:野生生物保護の現場を知りたいひと
【西本由佳 20241021】
●「野生生物は「やさしさ」だけで守れるか?」朝日新聞取材チーム著、岩波ジュニア新書

 生きものを殺すことをよくないと思う人は多い。それは大切な気持ちではある。しかし、個々の生きものと向き合う人には、「殺す」という選択肢を選ばないといけないこともある。本来そこをすみかとする生きものたちを守るために外来種を殺す、生業を維持するために増えすぎて困る種を殺す。生きものとじかに接する道を選んでいる人たちは、好きで殺しているわけではない。はたから見ている立場としてそれを非難するのではなく、なぜ殺さなくてはいけないのか、ほかの選択肢で可能なことはないのか、冷静に考えて、できれば人任せではなく、少しでも殺す生きものの数を減らす道を探っていかないといけない。

 お薦め度:★★★★  対象:生きものの駆除という言葉に抵抗をいだく人
【萩野哲 20241018】
●「野生生物は「やさしさ」だけで守れるか?」朝日新聞取材チーム著、岩波ジュニア新書

 野生生物のある種を守ると他の種を減ることになる、あるいは外来生物を駆除すると同時に命の大切さを教えることなど、矛盾が生じてしまう事例は枚挙に暇がない。かわいい生物も、そうでない生物も、在来外来にかかわらず命が大切であることに変わりはない。しかし、わたしたちは全員、何か生きものを食べなければ生きられないことを踏まえれば、自ら命を奪う場合も必ずしも悪ではない。生物を助ける、または殺すことに対しての一方的な投書や報道はともかく、白黒つけられない局面は多いので、どちらを選択するかは、それが及ぼす影響をできるだけ多面的に考えて決断すべきであろう。

 お薦め度:★★★  対象:生きものの命を直接的間接的に奪うことで悩む人
【松岡信吾 20241022】
●「野生生物は「やさしさ」だけで守れるか?」朝日新聞取材チーム著、岩波ジュニア新書

 一口に生物多様性の保全と言ってもそこには複数の層がある。種多様性、遺伝的多様性、諸々の異種群を含みこんだ生態系多様性。そうした種々の層において、この本では、絶滅危惧種の現状、密猟問題、生息地の破壊など、野生動物が直面している様々な問題を取り上げています。同時に、保護活動の最前線で活躍する研究者や保護団体の取り組みも紹介。これらの問題に対して、自分たちに何ができるのか。動物好きはもちろん、環境問題に関心のある方にもおすすめです。

 お薦め度:★★★  対象:生き物の命と向き合う人すべて
【和田岳 20241024】
●「野生生物は「やさしさ」だけで守れるか?」朝日新聞取材チーム著、岩波ジュニア新書

 著者は、朝日新聞で同僚だった3人の記者。3人とも大学で、生物の研究経験があり、野生生物についての基礎知識がある。きちんと判っている人が、ちゃんと取材して書き上げた一冊。
 市街地で見つかって捕獲されたシカが、捕殺されずに動物園に引き取られる。一方で多くのシカが駆除されている県での矛盾。沖縄での増えたアオウミガメと漁業との軋轢。増加したクマなど大型獣との共存の問題。
外来生物の駆除と、命の大切さを教える教育との葛藤。前半では、守られる命と守られない命をどう考えるかという問題が、まず取り上げられる。
 死んだマッコウクジラの処理問題。野焼きによって維持される自然と生物多様性。最後は、奄美大島でのフイリマングースの駆除。眼の前の命に対する「かわいそう」を越えたところで、守られる命、生物多様性があるというのが、後半のテーマ。
 野生動物とのつき合いの中で、どうするのが正解かは簡単には決められない。単純な正解はなく、一緒に悩む材料を提供しようという姿勢がつらぬかれており、本文でも、特定の意見が正しいような記述にならないように、とても気を遣っていることがうかがえる。

 お薦め度:★★★★  対象:野生生物がからんだニュースに接する機会のある人
[トップページ][本の紹介][会合の記録]