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本の紹介「雪と氷の世界を旅して」

「雪と氷の世界を旅して 氷河の微生物から環境変動を探る」植竹淳著、東海大学出版部、2016年8月、ISBN978-4-486-02000-4、2000円+税


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【西本由佳 20170609】【公開用】
●「雪と氷の世界を旅して」植竹淳著、東海大学出版部

 雪と氷といえば、白い世界を思い浮かべるが、この本に出てくるのは黒とか赤とかの汚れて見える氷河だ。この汚れの主は微生物。氷河の上に生きものなんて住めるの?と思うが、夏の融け水を使ってがんばっているらしい。著者はこの微生物を、アイスコアの中で夏の季節を判別するのに使えないかと研究をはじめるが、しだいに微生物の生態そのものに興味を移していく。藻類、バクテリア、アルコール発酵する酵母(ただしお酒にするには弱いらしい)、コオリミミズにはちゃんと腸内細菌までいる。そのすごく小さな生きものたちの世界の違いが、その氷河のおかれた環境を反映している。氷河って死の世界じゃないんだなあと納得。

 お薦め度:★★★  対象:雑然とした世界の好きな人


【中条武司 20171019】
●「雪と氷の世界を旅して」植竹淳著、東海大学出版部

 映像で見る氷河の上が黒ずんでいるのは、ただ単にほこり(ダスト)が降り積もっているだけと思っていた。そうではなく、あの黒ずみはシアノバクテリアやコケなどを含み、場所によっては氷河の上が赤くなることもあるそう。そしてその黒ずみ(赤ずみ?)は太陽からの熱を吸収し、氷河を早く溶かす役割も果たしている。著者は南極やグリーンランド(←少し出てくるが)というような氷河研究のメジャーな場所よりも、小規模に残る山岳氷河を中心に、氷河上や周りに今生きている微生物を探したり、かつて氷河の周辺に棲んでいた生き物の痕跡を探して世界を旅する。結構すごい場所ですごいことやっているはずなのに、文章はわりと淡々と進む。著者の性格か何かしらないけど、ちょっと損しているような気になるのは確か。

 お薦め度:★★★  対象:氷河の多様さを知りたい人向け

【萩野哲 20170609】
●「雪と氷の世界を旅して」植竹淳著、東海大学出版部

 とても生物がいそうにない氷河の表面にも多様な藻類などの微生物が生息している! 著者は地球上の様々な場所に存在する氷河に行き、そこに住む微生物を探索する。これらは過去の気候変動の指標として利用できるだろう。とても単純な形態の微生物を、現在は遺伝子を用いて系統を明らかにできるのだ。それにしても、氷河表面で増える微生物は氷河のアルベドを下げ、氷河の衰退に手を貸しており、つまり自分で自分の首を絞めているような気がして、大変哀れに感じた。

 お薦め度:★★★  対象:氷河に住む微生物にも興味がある


【森住奈穂 20170616】
●「雪と氷の世界を旅して」植竹淳著、東海大学出版部

 著者の研究対象は雪氷生物(雪や氷の中で生きる生物)、世界各地の氷河が舞台である。『菌世界紀行』と比較して読んだものだから、「雪腐病菌は出てくるかな〜」とワクワクしていたところ、学生時代のアイスコア掘削調査に始まり、現在は氷河上の藻類を追っておられ、どうやらがタイプが異なるようだ。それにこちらの調査はずいぶんと規模が大きい。移動はヘリだし、コックさんが帯同している。場所が氷河で、環境変動を探るような調査は大きなプロジェクトになるようだ。当然マフィアは出てこないし、ジャコウウシはお肉になって登場する。全体にシュッとしていて、苦労話が少ない。冒険譚を期待していたために物足りなさを覚えた。

 お薦め度:★★  対象:氷河に興味のあるひと


【和田岳 20170430】
●「雪と氷の世界を旅して」植竹淳著、東海大学出版部

 フィールドの生物学シリーズ。氷河の中に暮らす微生物を調べるために、世界の氷河へサンプリングに行く。
 第1章は序章。雪氷生物学と出会い。以降は世界をまたにかけてのサンプリング。第2章と第3章でロシアのアルタイ山脈、第4章でアラスカ、第5章で中国の七一氷河、第6章でグリーンランドのカナック、第7章でウガンダのルウェンゾリ山。氷河って単なる氷の塊かと思ったら、赤くなったり、クリオコナイト粒や氷河ナゲット(著者命名)というコケや微生物の塊があったり、想像以上に生物の活動が豊富。その生物の豊富な層の重なりから年間の氷河の成長具合が評価できるとは知らなかった。
 寒い国々に調査と称して出かけるのだから、「菌世界紀行」と同じように、ロシアなどで飲んだくれているだけの話かと思ったら、とても真面目にサンプリングして帰ってくる。研究者としてはあるべき姿だけど、読み物としてはちょっと物足りない。

 お薦め度:★★★  対象:氷河好き、あるいは極限の生物好き、もしくは地史的な気候変化に興味があれば


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