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本の紹介「「絶滅の時代」に抗って」
「「絶滅の時代」に抗って 愛しき野獣の守り手たち」ミシェル・ナイハウス著、みすず書房、2024年7月、ISBN978-4-622-09710-5、3800円+税
【注意】本の紹介は、それぞれの紹介者が自らの判断によって行なっています。他の人からの意見を取り入れて、変更をする場合もありますが、あくまでも紹介文は紹介者個人の著作物であり、サークル全体や友の会、あるいは博物館の意見ではないことをお断りしておきます。
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【西本由佳 20250209】【公開用】
●「「絶滅の時代」に抗って」ミシェル・ナイハウス著、みすず書房
生態学と環境倫理、どちらも今はそれなりに認知されている。でも、そうでない時代は長かった。神が人間のためにつくった生物が絶滅するとは思われていなかった。現在では生態系の上位に立ち、生態系のバランスを保つのに不可欠とされる捕食者は害獣として駆除されていた。そういったなかで、生態系ピラミッドのしくみを説き、ヒトをそのなかの一介のメンバーと位置づけたアルド・レオポルドは突出した人だったのだろう。土地や生きものたちのつながりが解明され、それらを守るために必要なルール(それはその土地の人の生活を犠牲にしては維持できない)が整えられてきた。それらをかたちづくり、いまだ現在進行中で頻出してくる土地や生きものたちの危機の解決に取り組むのは、生きものたちの近くで暮らしてきて、その場所が続くことを望む人たちだ。近づく、知る、共感するというとても個人的な経験は大切なことなのだろう。
お薦め度:★★★ 対象:「生物多様性は重要」ということがあたりまえと思っている人に
【萩野哲 20250206】
●「「絶滅の時代」に抗って」ミシェル・ナイハウス著、みすず書房
“絶滅危惧種”や“保全生物学”という単語を知らない人は今はいないだろう。しかし、かつて野生動物は守られる存在ではなかった。今でもベストではないものの、全体からみるとそれほど多くない人たち=リンネ、ホーナディ、エッジ、レオポルド、ハックスリー、カーソン、スーレ、オーウェン=スミス、フリンポンらの紆余曲折を経た奮闘があったおかげで、生物多様性の価値を皆が認める現状に至った。人類は下等な起源を裏付ける消えない刻印を残している一方、高次の能力にも恵まれているのである。コモンズの悲劇、万能薬、わたしたちはカエルのようなものだなど、多くの警句が印象的。
お薦め度:★★★ 対象:どのような歴史的過程を経て現在の自然保護が発達してきたか知りたい人
【森住奈穂 20250214】
●「「絶滅の時代」に抗って」ミシェル・ナイハウス著、みすず書房
SDGsの時代、「生物多様性」は世の常識となりつつある。本書は自然保護活動が、絶滅という概念の無かった時代から現代に至るまで、どのような道程をたどったのかが綴られている。よく知られているレイチェル・カーソンのほか、ロザリー・エッジ、アルド・レオポルド、ジュリアン・ハクスリー、ウィリアム・ホーナディなど、その時代の価値観に抗い行動を起こした人たち。また、現在まさに奮闘中の人たち。果たして、「貧しい人々が自然保護の重荷を背負い、裕福な人々が生態系サービスの大部分を享受する」という不均衡に希望はあるのか。私たちの無関心が、この問題に追い討ちをかけている気がしてならない。
お薦め度:★★★ 対象:生物多様性保全の歴史を知ろう
【和田岳 20250214】
●「「絶滅の時代」に抗って」ミシェル・ナイハウス著、みすず書房
1世紀半におよぶ自然保護あるいは絶滅しつつある動物を守ろうとする動きを見渡す1冊。それぞれの時代、それぞれのステップに関わった人物に焦点を当て、”現代の種の保全についての物語”のターニングポイントが語られる。
アメリカバイソンの保護に邁進した剥製士ホーナディ。ハクトウワシをはじめ鳥類の保護のため闘ったロザリー・エッジ。自然保護に生態学の理論を導入したアルド・レオポルド。国際自然保護団体の立ち上げたジュリアン・ハックスリー。化学物質が野生生物に大きなダメージを与えていることを人々に知らしめたレイチェル・カーソン。人が狩りまくれば動物は絶滅する、生息地を守ることが重要、捕食者の存在も重要。現在では当たり前のことが、知られていなかった時代があるのが新鮮。
保全生物学の成立から、共有地の悲劇を避けうるコミュニティベースの保全、普通種をいかに守るかは、ごく近年のできごとであり課題。今後の生物多様性保全を考えるのにも役立つ一冊。
お薦め度:★★★ 対象:自然保護、及びその歴史に関心がある人
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