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本の紹介「蝶のきた道」

「蝶のきた道」日浦勇著、蒼樹書房、1978年9月、ISBN4-7891-1021-4、1800円+税


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【六車恭子 20040816】
●「蝶のきた道」日浦勇著、蒼樹書房

 生物の持つ分布域は人類活動の影響、気候で代表される現在の環境、およびその生物がひきずってきた歴史、この3つの要因で決まる。著者は生物地理学の立場からギフチョウのきた道を、研究者・アマチュア−を問わず文献を探り、統合するような独自の視点を綿密に再構築してナチュラル・ヒストリィの金字塔を打ち立てた。
 年一化の生活史、食草を巡ってギフチョウの分化説、ミヤコカンアオイとヒメカンアオイの分散速度の違いから、ギフチョウはヒメギフチョウを祖系と推理する筋道は、まるで壮大なドラマを読んでいるようだ。目の前の生物が私たちに語りかけているものを感じるにも技がいりそうだ。この本はその立派なトレーニングの場となるだろう。

 お薦め度:★★★★  対象:生物好きなら誰でも

【村山涼二 20041021】
●「蝶のきた道」日浦勇著、蒼樹書房

 ギフチョウのきた道(進化の道)の探求の記録である。ギフチョウとヒメギフチョウの分布の違いは食草(カンアオイとウスバサイシン)の分布の違いにある。食草の分布は、地質と地質年代の違いにある。など、いろいろな視点から、仮説の証明に執拗に挑んでいる。カンアオイの種子の分散とアリとの関係、カンアオイの送粉者としてのムカデなど面白い。保護のための放飼の成功・不成功が、ギフチョウへの理解度の正否の証明となるとの考えも面白い。ギフチョウの生息地として里山が貴重な存在であることも述べている。
 この本が出版された25年前、すでに大阪近郊ではギフチョウは絶滅に近づいていたが、今はどうであろうか?

 お薦め度:★★★  対象:ギフチョウを懐かしく大切に思う方

【和田岳 20041001】
●「蝶のきた道」日浦勇著、蒼樹書房

 春の女神ともいわれるギフチョウ(とヒメギフチョウ)が主人公。「ギフチョウは、ヒメギフチョウが食草を転換することで日本で種分化した」という仮説を、食草であるカンアオイ類をからめて、証明しようと試みる。小難しい内容を比較的わかりやすく書いているのは、さすがという感じ。
 話は、出だしこそギフチョウだが、やがて中心は食草であるカンアオイの話になっていき、読んでいてもギフチョウのことはすっかり忘れてしまうほど。むしろカンアオイの分布の話が、一番おもしろいかも!
 一つの研究を進めていくプロセスをたどるのにはおもいろい本。でも、そのせいか構成がわかりにくいし、研究としては仮説の証明に成功したとは思えない。今ならDNAを調べて、比較的簡単に結論がでそうな内容を、苦労した末に、かなり無理な仮定をおいて議論している感じ。昔は大変だったんだなー。

 お薦め度:★★  対象:かつての生物地理学の研究の仕方を知りたい人

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