環世界センスをキーワードに、分類学の歴史をたどり、現在の分類学が抱える矛盾を読み解く。環世界センスとは、ヒトが進化の過程で身につけてきた自然を認識するツール。我々の認知システムに深く刻み込まれていて、それを無視するのはとても難しい。しかし近年、遺伝情報をもとに発展した科学的分類学は、生物の系統を反映させた分類と、我々の環世界センスは少なからず相容れないことを明らかにしてしまった。それがつまり、魚は存在しない。
リンネが打ち立てた分類学は、環世界センスに基づく。ところが、ダーウィンが進化の概念を広め、分類は進化の道筋、すなわち系統を反映したものでなくてはならないという考え方が広まる。そこで出現したのが進化分類学。その代表格はマイヤーだが、依然として環世界センスを色濃く残してきた。その後、数量分類学や分岐分類学が現れ、ついに分類学はDNAの塩基配列という系統分類を考える上で最強の形質を手に入れた。ようやく科学としての分類学が成立した。
しかし、科学的分類学の成立は、分類学と環世界センス、分類学と一般市民を隔絶させ、それが生物多様性への関心の低下を招いているのではないか。生物多様性の保全を考える上で、けっこう重要な指摘がされているように思う。
お薦め度:★★★★ 対象:分類学の歴史に、生物多様性に関心のある人