環境庁における絶滅危惧種(菌類)の検討経過
1993年 絶滅危惧種のリストアップ
1994ー1996年 候補種の選定・文献調査・標本調査・生育調査
1997年 レッドリスト種の公表
1998年以降 レッドデーターブックの公表
菌類におけるカテゴリー
6つのカテゴリーについて定義した。1.絶滅EX 最初の日本産菌類として報告後、約50年にわたり再発見の記録がなく、しかも生育環境の消失あるいは破壊があったためすでに絶滅したと考えられる種。2.野生絶滅EW 国内に分布していた記録はあるが、現在は培養菌株のみで存続している種。3.絶滅危惧泓゙CR+EN 国内の分布に局在性があり、開発や気象の変動などにより従来の環境が不安定となったため植生や動物の存在が脅かされ、それに伴い絶滅のおそれが考えられる種。調査不十分なため絶滅が確認できない種も含む。定量的な評価は確立していないので、CR+ENとしてランク付けする。4.絶滅危惧類VU 国内の分布域は広いが、開発や気象の変動などにより従来の環境が不安定となったため植生や動物の存在が脅かされ、それに伴い採集報告が減少している種。野生植物に着生する菌も対象とする。5.準絶滅危惧NT国内の分布域は広いが、従来の環境が不安定となったため植生や動物の存在が減少し、それに伴い採集報告が減少している種。栽培植物に着生する菌についても対象とする。6.情報不足DD 現状では十分な情報のもたらされている菌類はないので、今回のカテゴリーには検討対象としない。昨年公表されたレッドリスト種は絶滅28種、野生説絶滅1種、絶滅危惧I類51種、絶滅危惧II類11種の91種で、準絶滅危惧と情報不足については今回候補種をあげなかった(地衣類は絶滅 3種、野生説絶滅 0種、絶滅危惧I類 22種、絶滅危惧II類 23種、準絶滅危惧 17種、情報不足 17種であった。)(環境庁ホームページを参照 www.eic.or.jp/eanet/)
「絶滅」という概念をどう決めるか?
環境庁の検討会では特に定性的のみならず定量的な評価をめざしていたようである。しかしながら菌類を含む非維管束植物の検討グループでは定性的評価に留めた。このような定性的評価に関して更に藻類では、微細な藻類を今回の検討からは除外し、肉眼的に確認できるものを取り上げた。菌類では微小菌類に限らず「どのように取り上げるか」という調査・検討方法によりリストされる菌類が大幅に変わる可能性がある。方式としては大きく2つのやり方が考えられよう、すなわち1.すべての菌類を調べる方式、2.特定種・希種の菌類のみを調べる方式である。今回の検討では、後者の方式をとっている。しかし菌類のライフサイクル、分布、頻度を重ねて考えると、「一つの判断」ではあるが、十分納得のいくものとはいえない。そこで、生育地の環境が変化には維管束植物との共生状況が見逃せず、菌類は着生する場やライフサイクルを主に森林環境に大きき依存しているので、その評価を反映させるような考え方として「環境共生(1998年度日本植物分類学会第
28回大会シンポジウムで提案)」(IUCN カテゴリーConservation dependant)のカテゴリーから検討することで、基礎的な位置づけを固める方法も考えられる。
日本菌学会の学会アクションは?
菌類レッドデーターブックの将来を考えると、日本菌学会は「日本産菌類目録」を作成することが必要である。その項目として新産・新種の記載標本の文献情報と標本庫情報(含む標本番号)を欠かさず載せるべきである。特に日本にある標本に基づいた新種記載は一覧を作り始めるべきである。本シンポジウムの他の演者の提案と重複するかもしれないが、正しい標本情報がなくてはインベントリーを遂行することは困難である。また、国際植物学会が提案し、1998年度より試行されている「新学名の登録」活動に積極的に取り組んではどうであろうか?「イギリスのIMIでは化石を含む菌類全体の関連登録センターとして活動することを了承済み(www.bgbm.fu-berlin.de/iapt/registration/)」(日本植物分類学会ニュースレターNo.90
pp.13ー16,1998)との情報もある。
このページは著者から寄せられた講演要旨をHTML化し、掲載したものです。
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