その1.変形菌って何?
変形菌、をご存じだろうか。またの名を粘菌。南方熊楠が研究していたことで有名な、小さな生き物だ。小さなキノコから飛んだ胞子は、菌糸ではなく、アメーバーとなる。バクテリアを食べて増え、やがて接合して大きな変形体となり、子実体(キノコ)をつくる。このふしぎな変形菌についてもっと知りたい人には国立科学博物館の変形菌ページを推薦しよう。
日本にも300種を超える種類がいるが、これを各地で調査している人々の集まりが、日本変形菌研究会だ。くわしくはそのホームページを見てほしい。
ただ、どちらのホームページを見ても、大阪の情報はほとんどない。これまで大阪は野外の変形菌研究の空白域だったのだ。
クモノスホコリ
その2.私と変形菌
かつて、野外でキノコを見ている学生であった私にとって、よく見かけるけど私の専門ではないよ〜という微妙な存在であった。もっとも、当時はサルノコシカケはおろか、葉っぱに生える落葉分解菌も今ひとつ調べる気にならない存在だったから、私も視野が狭かったんだなあと思う。
それでも、多少なりとも興味を持ったのは朝日町立福井総合植物園学芸員の松本さんや神奈川県立生命の星地球博物館学芸員の出川さん、茨城県林業技術センターの小林さんらとの交流のおかげだ。ちなみにであった当時はみんなコキタナイ学生だったのだ(もちろん私もだが)。
そんな状況で、私も博物館に就職し、たくさんの質問・疑問・好奇心に応えていく立場になった。変形菌はわかんない〜とも言いにくい状況になっていったのだ。そうして、いわば必要に迫られて、変形菌を見るようになったのだが、そういう状況に迫られたのは友の会会員の田中さんの影響がやっぱり大きい。
その3.田中コレクション
田中さんは、Nature Studyや変形菌研究会の会報に変形菌に興味を持ったいきさつなども書いているので、そちらをごらんいただきたい。実際、変形菌だけでなく、冬虫夏草や植物病原菌と広く興味を持って野外を歩く、驚異の主婦である。田中さんが博物館に持ち込んだ変形菌標本は軽く1600点を越えている。大阪で過去の研究成果がないところへの積み上げだから、これは貴重だ。
そこで、この2年ほどかけて、これらの標本を整理してもらうことにした。顕微鏡同定をし、必要なものは外部の専門家に依頼した。
その上で、季節消長などについての解析を加え、このたび、
大阪市立自然史博物館研究報告58号に
「大阪府河内長野市で採集された変形菌類とその子実体の季節性」
としてまとめることができた。以下はその要旨である。
「大阪府河内長野市で採集された変形菌類とその子実体の季節性」
田中久美子・佐久間大輔
大阪市立自然史博物館研究報告58号p53-68
抄録:大阪府下の河内長野市で変形菌類相を調査し、10科24属82種(種内分類群として13変種・品種を含む)を採集した。大阪府下での変形菌調査は過去ほとんど行われておらず、本報告が初のまとまった調査記録である。主に照葉樹林及び暖温帯二次林を調査し、その代表的種群を確認した一方、アオウツボホコリなどの希産種も採集された。出現種数は夏期に多く、月ごとの観察種数と気温、降水量に有意な相関があった。
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