はじめに
コケは小さな植物のなかまで,昔は木の毛のような小さくてよくわからない植物のことを指していました.小さなコケでもたくさん集まるときれいな景色になります.「もののけ姫」の舞台となった森は鹿児島県の屋久島という島にある「コケの森」をモデルにしたものです.京都のお寺や神社にある庭にはコケがたくさんあって,きれいなことで有名で,西芳寺(さいほうじ)という寺はその名も「苔寺(こけでら)」という別名まで付いてしまっていて,むしろこっちの名前の方が有名なほどです.
ちなみに日本には約1700種類ものコケが生育しています.
<コケって言うけどコケじゃない?!>
生物学でいうコケ植物以外にもコケと名の付いた紛らわしい種類がいくつかあります.これらを見分けるだけでも観察としては生き物を見分けるという大きな意味があります.
地衣(ちい)類 |
菌類(キノコの仲間)と藻類が共生しているもの.菌類が安定した水分とすみかを提供する代わりに藻類は光合成で得た有機物を与えている.
(見分け方)藻類は光の当たる表面に集まり緑色になりますが,裏側は菌類の色で違う色をしている.・・例)ウメノキゴケ,ハナゴケ,リトマスゴケなど.トナカイが北極で食べているコケは地衣類の仲間でコケ植物は食べません. |
シダ植物・
種子(しゅし)植物 |
クラマゴケ,コケシノブ(シダ植物),モウセンゴケ(種子植物)など紛らわしいものが多い.
(見分け方)茎を裂いてみると筋(維管束)がある(コケ植物にはない). |
藻(そう)類
(藻もの仲間) |
「鮎の食べるコケ」,「アクアリウムの水槽」につくコケというのも藻類です. |
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がっこうのこけ
コケは根っこがないので,水を空気中の湿度から吸収している生き物です.空気も汚い空気は苦手で,きれいな空気のところが好きです.そのため,空気のきれいな山などの湿ったところにたくさんの種類が生活しています.
それでは街の中にコケはないのかというとそうでもありません.たくましいコケの仲間は街中にも生きていますし,なんと南極にだって生きているのです.
学校の校庭みたいな開けた乾いた場所は多くの種類にとっては苦手です.それでも,そんな乾いた環境にも耐えていける種類のものも,探せば結構あるものです.このホームページのなかには,そんな学校の中でもよく見られる種類を30種ほどを大体名前がわかるようにまとめています.探したコケの名前が知りたいときに使ってみてください.
学校のこけ図鑑
コケをしらべてみると
コケの名前を調べるのは何も難しいことではなくて,ただよく観察してみれば良いのです.パッと見てその場所にコケが1種類しかないと思っていても,近づいてみると何種かのコケがいっしょに生活していたりすることもあります.まずは,よく観察することです.わたしたちのまわりにこんな生き物もいるんだという発見をしてみてください.どんな生き物でもパッと見てわかることはわずかのことで,くわしく観察してみると今まで気づかなかった特徴やくせなどもわかって楽しいものです.
コケは空気の汚れとともに生きていける種類が少なくなってきます.種類の区別がつくようになれば,わたしたちがいつも吸っている空気がどのくらい汚れているのか,またはきれいなのかを知ることだってできます.
<木に付くコケと大気汚染>
クスノキやイチョウなどの広葉樹(こうようじゅ)に付くコケ植物を調べることで周辺環境の大気汚染を調べることができます.こういった環境を調べることができる生き物のことを指標生物(しひょうせいぶつ)といいます.
大気汚染は機械で計測することも可能ですが,たいていはいくつもの汚染物質が混ざりあっているので細かく調べることは困難です.生き物の住む場所は1つの汚染物質に制限されるのではなく,たいてい混ざった汚染物質に制限されます.この点で,指標生物(しひょうせいぶつ)を使って環境を推測することは優れています.下表をもとに調べることができます.
亜硫酸ガス濃度(年平均) 出現種
区域 l |
0.05 ppm 以上 |
たいへんよごれている |
なし |
区域 ll |
0.04-0.05 ppm |
↓ |
コモチイトゴケ,サヤゴケなどが極わずか |
区域 lll |
0.02-0.04 ppm |
↓ |
コモチイトゴケ,サヤゴケがごく普通の他1-2種を加える程度 |
区域 lV |
0.01-0.02 ppm |
↓ |
ヒロハツヤゴケ,コハイゴケ,ナガハシゴケ,ヤマトヨウジョウゴケなど一カ所で4-5種 |
区域 V |
0.01 ppm 以下 |
きれい |
カラヤスデゴケ,イワイトゴケ,ラセンゴケなどを含み一カ所で5種以上 |
Taoda (1972) を改編
(引用文献)
Taoda, H. 1972. Mapping of atmospheric pollution in Tokyo based upon epiphytic bryophytes. Jap. J. Ecol. 22(3): 125-133.
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