日本の川の中でも、淀川は特徴的な歴史を歩んできました。
400万年前の琵琶湖の誕生から近現代の河川改修まで、その流れをたどってみましょう。
琵琶湖と淀川の形成史
淀川の源流、琵琶湖は約400万年の歴史があります。400万年前の琵琶湖から流れでていた川は、現在の淀川とは異なり、伊勢湾に流れていたようです。200万年前には大阪湾の方向に流れる川ができ、40万年前には現在の淀川と同じような流れができていたと考えられています。一方、大阪平野周辺は、約130万年前から海水面の上昇・下降で海になったり陸地になったりしていました。今から約5500年前の縄文時代にもほとんどが海になりました。その後、淀川と大和川からの土砂で海が埋め立てられ、現在の大阪平野ができていったのです。
人が作り変えてきた淀川
淀川は水量が多く、流域には多くの人が住んできました。その淀川が引き起こす大きな問題は「洪水」でした。近世以降、淀川では堤防が築かれたり、川の付け替えが行われてきました。しかし、人力での工事には限界があり、洪水の抜本的な解決にはなりませんでした。明治になって河川改修に近代的な理論や技術が導入され、全国に先駆けて淀川で実践されることになります。それに伴って、淀川は大きく作り替えられました。
淀川は大都会の真ん中を流れる川ですが、その本流には様々な環境があります。
汽水域、本流、ワンド、河川敷の4つに注目して、その自然と生き物を見てみましょう。
汽水域
淀川の本流は大阪市の北部を流れて大阪湾に流れ込みます。その途中にある淀川大堰から海までの約10kmの範囲(新淀川)は、淡水と海水とがまじりあう汽水域です。ここでは渇水時に海水が大堰直下まで侵入し、逆に大雨の時には塩分がゼロの状態が続きます。このように変動の大きな環境ですが、川幅が広く水ぎわの傾斜が比較的ゆるやかな新淀川の両岸には、干潟やヨシ原があちこちに発達して汽水域に特有のさまざまな生物がすみ、都市に残された貴重な自然の宝庫となっています。
本流域
淀川本流は、淀川大堰を境に、海の影響がある汽水域と影響がない淡水域に分かれます。淡水域の本流では、流れのあるところを好む生き物の生息場所や、ワンド・タマリを行き来する生き物の通り道として重要な働きをしています。しかし、淀川大堰ができてからは、大堰から枚方のあたりまで水の動きが少ないダム湖のような環境になっています。枚方付近から上流では、流れのある浅瀬が残っています。
ワンド
ワンドとは、川にできた入り江や池状の地形をいいます。淀川のワンドは明治から昭和にかけて作られた「水制工」に由来します。水制工に土砂が堆積してできたものが淀川のワンドです。蛇行した流路の内側にある水制工ではより多くの土砂が堆積し水たまりのようになりますが、これらは「タマリ」と呼ばれています。
氾濫原としての河川敷
洪水の時に流路から水があふれる場所である氾濫原では、しばしば底質などのかく乱がおこり、樹木の生育は妨げられ、草本植物を主とした植生が発達します。そのような場所のため、氾濫源には独特の生き物が多くすんでいます。しかし、淀川本流が拡幅され、淀川大堰が稼動することによって水位が安定化し、氾濫原の環境は大きく変わりました。かく乱が起こらなくなった河川敷には、樹木やつる植物が侵入し、樹林化が進みつつあります。
淀川は、北摂や生駒の山地の支流からも水を集めています。
里山から平野まで、プロジェクトYの調査の成果を踏まえながらこれらの自然と生き物を紹介します。
都市を流れる川でありながら、高い生物多様性を誇ることで知られた淀川。
しかし近年、急速にその自然が失われつつあるようです。その原因はどこにあるのでしょうか。
外来種の巣窟
外来種とは、もともとその地域にはいなかったのに、人間の活動によって他の地域から入ってきた生き物のことを言います。実は、淀川は外来種の「巣窟」とも言える状況です。その種数・生息数ともに、近年急激に増加しています。外来種の増加は、もともと淀川にいた在来種の生息をおびやかしています。
水位が変動しない、ダム湖のような川
淀川大堰ができる前までは、毛馬では年間の水位の変動幅が数mありました。しかし、大堰ができた後は増水するとすぐに水位を下げるようになったため、年間最高水位は大きく下がり、水位の変動幅は近年では年間数十cm以内に収まっています。その結果、河川敷やワンドが「氾濫原」として維持されなくなりました。環境回復のために増水時に水位を上昇させる運用も提言されていますが、実現には至っていません。
河床低下
三川合流の手前、木津川にかかっている旧御幸(ごこう)橋(京都府八幡市)は1930(昭和5)年に作られました。橋脚を見ると、橋ができた時に川底だった境目がわかります。つまり、この付近は80年間で約4mも河床が下がっています。これは淀川本川での川砂の採取や河川改修によるしゅんせつに対し、上流からの砂の供給が追いつかずに砂が流れていったためだと考えられます。
淀川の自然環境はこの数十年で大きく変貌し、様々な問題が起こっています。河川改修によるワンド・タマリの消失、外来種の増加、河床低下、氾濫源のかく乱頻度の減少、淀川大堰の設置による下流部の停水化などです。このような状況の中で、ワンドや干潟の再生事業など自然回復への試みがなされています。それらの取り組みははじまったばかりのものがほとんどですが、そのなりゆきと成果が注目されます。
ワンドの再生
平成21年(2009年)3月に国土交通省近畿地方整備局が策定した「淀川水系河川整備計画」では、淀川下流においては、水辺にすむ生物の生息・生育・繁殖に重要な水から陸への移行帯など良好な水辺環境の保全・再生を図ることが求められています。平成20年3月現在51個あるワンドを、10年間で90個以上とするワンド倍増計画が進められ、楠葉地区、赤川地区などにおいてワンド・タマリの再生工事が行われています。
干潟の再生
昭和20年代には新淀川の左右両岸に干潟が連なり、その面積は約180ヘクタールあったとされています。ところが平成10年(1998年)には約50ヘクタールに減少しました。上流側からの土砂の供給がほとんどないことや、地盤沈下、河川改修などの影響によるものと考えられます。現在、干潟の面積を元に戻すことを目標にして、海老江、柴島(くにじま)、大淀など可能な所から干潟の再生事業が進められています。
ホットスポット-残された貴重な自然-
生物学でいうホットスポットとは、保全生態学の用語で、とくに保全の必要性が高い場所を指します。その定義はさまざまですが、ここでは希少な水辺の生き物が多く見られる場所、または水辺の生き物の生物多様性がとくに高い場所という意味で用います。プロジェクトYの調査を通じて、淀川水系内のホットスポットがいくつか明らかになりました。
標本では生きている時の姿がわかりにくい生きものもたくさんいます。この特別展では、淀川水系にすむ魚類や両生爬虫類、淡水貝類、甲殻類などを中心に水槽展示を行いました。
キミの手で氾濫原をとりもどそう!
淀川大堰シミュレータ川では時々勢いよく水が流れることで、一部の生き物が増えすぎることを防ぎ、結果として多くの種類の生き物がすめるようになります。淀川大堰ができてから、ワンドや河川敷には外来種や樹木がはびこるようになり、生き物の多様性は下がっているようです。では、どうすればいいのでしょうか?
このシミュレータで淀川大堰を操作して、淀川の水位の調整にチャレンジしてみましょう。
淀川クネクネシミュレータ
むかしはクネクネだった淀川。どうしてまっすぐにしたんだろう?
ビー玉を2つ同時にころがしてかんがえてみよう。大雨で水がふえても、海まで速く流れるのはどっちの川?川の生き物は、どっちが住みやすそう?
工作やお絵描きなどをしながら、特別展の内容を子どもたちにわかりやすく理解してもらうプログラム「子どもワークショップ」を会場内特設コーナーで開催しました。開催したプログラムは以下の3つです。
【なりきり 淀川のいきものたち】
淀川にすむ いきもののお話をハカセが聞かせてくれるよ。教えてもらったいきものの気持ちになりきって、ハカセやみんなとお話をしてみよう。
【つくろう!よどがワールド】
魚、貝、鳥にカエル、トンボ、水草…。淀川には楽しいいきものがいっぱい。会場の中にいるお気に入りのいきものを見つけて淀川の絵にかきこんで、みんなで大ずかんの1ページをつくろう。
【おしえて!調査隊】
淀川のいきものを調べている人が展示室で調査道具を持って待っているよ。どんな道具が登場するかな?
お話が聞けたら調査隊員からカードをもらってフィールドノートを完成させよう!!
主催:大阪市立自然史博物館、大阪市立自然史博物館友の会
淀川水系調査グループ「プロジェクトY」、特定非営利活動法人大阪自然史センター
後援:国土交通省近畿地整備局淀川河川事務所、環境省近畿地方環境事務所、大阪府教育委員会
連携協力:生物多様性方条約第10回締約国会議支援実行委員会、水草研究会、水道記念館 / 助成:日本財団