SF関係の本の紹介(2004年上半期分)
【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】
●「サリバン家のお引越し」野尻抱介、2004年5月、ハヤカワ文庫JA、ISBN4-15-030758-X、680円+税
20040523 ★
クレギオンシリーズの文庫化第四弾。タイトル通り、惑星から軌道コロニーまで、一家の荷物をすべて、花壇までも運ぶ話。メイ初仕事の顛末記。冷静に見て、引っ越し仕事は失敗したように思うが、まあ一番大切なものは運べたってことで、めでたしめでたし。
●「地球間ハイウェイ」ロバート・リード、2004年2月、ハヤカワ文庫SF、ISBN4-15-011466-8、940円+税
20040512 ★
並行世界にある地球間が、一つのルートで数珠つなぎになっているという設定の、ちょっと変わったパラレルワールド物。並行世界の地球を次々と旅をしている<巡りびと>。主人公は、さまざまな地球をめぐる旅に乗り出していく。<巡りびと>の真の目的は? 地球間をつなぐルートの秘密は?
一つの大いなる流れをたどっていき、そこにさまざまな人類が暮らしている。ファーマーのリバーワールドを思わせる設定。斬新な設定なはずなのに、なぜかあまり新鮮味がないという不思議な作品。
●「アンクスの海賊」野尻抱介、2004年3月、ハヤカワ文庫JA、ISBN4-15-030752-0、600円+税
20040428 ★
クレギオンシリーズの文庫化第三弾。マフィアに追われたミリガン運送の面々は、塵やガスがただよう原始星系に逃げ込むが、マフィアには捕まるし、宇宙海賊にまで捕まるし。あとは、いかに機転をきかせて危機を脱するかという物語。知性派の妙な海賊団が、読みどころって感じ。
●「マインドスター・ライジング」(上・下)ピーター・F・ハミルトン、2004年2月、創元SF文庫、(上)ISBN4-488-71901-5(下)ISBN4-488-71902-3、(上)780円+税(下)780円+税
20040411 ★
【準備中】
●「塵クジラの海」ブルース・スターリング、2004年1月、ハヤカワ文庫FT、ISBN4-15-020353-9、660円+税
20040330 ☆
ファンタジーとして出版されてるけど、スターリングなのでSFのまな板で評価ということで。塵クジラから採取される麻薬中毒の主人公が、麻薬を手に入れるために、塵クジラを狩る船に乗り込んで、冒険をして恋をする物語。
砂の惑星の巨大生物から採れる麻薬といえば、デューンそのまんま。さらに麻薬中毒の主人公が共同生活していた様子、とーってもデカダンス。気分はヴァーミリオン・サンズってとこか。借り物の舞台で、薄っぺらいストーリーがつづられる。あのスターリングでも処女作はこの程度のもんなんだなー、と小説家を目指す人を勇気づける作品。
●「フェイダーリンクの鯨」野尻抱介、2004年1月、ハヤカワ文庫JA、ISBN4-15-030746-6、640円+税
20040225 ★
クレギオンシリーズの文庫化第二弾。ある恒星系で宇宙船が故障したミリガン運送の面々は、ガス惑星のリングで暮らす人々に助けられ、お返しに政府への抵抗運動に手を貸す。
読みどころは、リングでの暮らし。そしてクライマックスはガス惑星にすむ“鯨”。“鯨”の渡りの理屈はちょっとおもしろかった。
●「針」浅暮三文、2004年1月、早川書房、ISBN4-15-208542-8、1800円+税
20040216 ★
【準備中】
ハヤカワSFシリーズの1冊。
●「消えた少年たち」(上・下)オースン・スコット・カード、2003年8月、ハヤカワ文庫SF、(上)ISBN4-15-011453-6(下)ISBN4-15-011454-4、(上)780円+税(下)820円+税
20040201 ☆
ある合衆国南部の町に引っ越してきたモルモン教徒の家族の物語。お父さんは、会社で嫌な上司を相手に苦労をする。息子は学校で先生にいじめられる。妊娠中のお母さんは、家で神経質に子育てに大騒ぎ。といった日常が描かれていく。
主人公夫婦は、何でも話し合いによる合意に基づいて、いろんな苦労を克服していく。と言えば聞こえはいいけど、意見の相違をがまんしつつ、喧嘩しては仲直り、が延々と繰り返されるだけ。がんばって苦難を乗り越えていく家族の物語って意味では、少し「大草原の小さな家」を思わせる。最後にちょっとした謎解きと、お涙頂戴が待っている。
不思議な設定はあるものの、それがミステリとして動き出すのは、下巻の半分を過ぎてから。でも、ミステリというよりは家族小説。当然ながら、どう考えてもまったくSFではない。家族や夫婦のあり方を考えてみたい人、あるいはモルモン教ってどんな人たちなのか知りたい人が読めばいい感じ。
●「不思議のひと触れ」シオドア・スタージョン、2003年12月、河出書房新社、ISBN4-309-62182-1、1900円+税
20040131 ★
「夜明けのエントロピー」に続く奇想コレクションの第二弾。10編が収められている短編集。内、デビュー作「高額保険」とドラマーの話「ぶわん・ばっ!」の2編にはまったくSF色がないが、残る8編は広い意味でのSF。
人間社会にまぎれて存在している、あるいは隣り合って暮らしている宇宙人や神様といった異質な存在、そんな存在とであった人の話が多い。中でも気に入ったのは子供たちが“よい子”になってしまう「タンディの物語」。印象的だったのは、核戦争で滅び行く地球をえがいた「雷と薔薇」ってとこか。この短編集では異質な感じ。
「海を失った男」よりは幻想色が強くなく、軽いタッチの作品や昔風のわかりやすいSF短編って感じのが多いように思う。
●「ヨットクラブ」デイヴィッド・イーリイ、2003年10月、晶文社ミステリ、ISBN4-7949-2738-X、2600円+税
20040128 ★
“異色作家”デイヴィッド・イーリイの初の邦訳短編集。不思議な話が15編収められている。ジャンルは様々で、広い意味でSFと言えそうなのは、「理想の学校」「面接」「カウントダウン」「タイムアウト」「オルガン弾き」の5編ってところ。
「理想の学校」は、軍隊方式を全面的に取り入れた怖い学校の話。「面接」はタイトル通り面接がどんどん盛り上がって怖いことになる話。「カウントダウン」は宇宙ロケット発射の時に起きたやはり怖い話。「タイムアウト」はある国の“完全な”復興計画の話。「オルガン弾き」は最新鋭のオルガンを入手したオルガン弾きの話。印象に残ったのは、「理想の学校」「面接」「タイムアウト」といった不条理な話。
●「シャドウ・オブ・ヘゲモン」(上・下)オースン・スコット・カード、2003年11月、ハヤカワ文庫SF、(上)ISBN4-15-011463-3(下)ISBN4-15-011464-1、(上)700円+税(下)700円+税
20040126 ★
「エンダーズ・シャドウ」の続編。バガーとの戦いが終わり、傷ついたエンダーが地球を去った後、ビーンと地球各地に散らばったバトル・スクール出身の子ども達のストーリー。同時に、ロックが正体を現して、ヘゲモンになる話でもある。
要するに天才児達が、大人を手玉にとって、地球規模の戦略ゲームを展開する。楽しいのだけれど、SFとしてはさほど見るべき所はない。でも、伝言板に書き込み、メールを投げかけるだけで世界を動かす存在、という設定は魅力的。年齢、性別、人種、国籍を越えて、知性のみで世界が動く可能性。もっと話を読んでみたい気もする。
●「海を失った男」シオドア・スタージョン、2003年■月、晶文社ミステリ、ISBN4-7949-■、■円+税
20040103 ★
日本オリジナル短編集で、8編が収められている。ラインナップは、「ミュージック」「ビアンカの手」「成熟」「シジジイじゃない」「三の法則」「そして私のおそれはつのる」「墓読み」「海を失った男」。
いずれも初出は50年以上前の作品。普通にSFっぽい「シジジイじゃない」「三の法則」「海を失った男」、いわば超人物の「成熟」「そして私のおそれはつのる」、奇想といっていい「ミュージック」「ビアンカの手」「墓読み」。ちょっと古い感じはするものの、50年以上経ってこれだけ読ませることに、ただびっくり。
お気に入りは、ラストできれいに決めてくれる「成熟」。「墓読み」もよかったのだが、最後にはっきりさせて欲しいような…。全体的には、スタージョンは愛を語るんだなぁ、と改めて認識。
●「メシアの処方箋」機本伸司、2004年1月、角川春樹事務所、ISBN4-7584-1025-9、1900円+税
20040101 ★
ヒマラヤで発見された方舟から、謎の木簡が大量に見つかり、そこにはメシアの処方箋が。で、メシアを生み出して救いを求めようと思ったら…、てな話。
タイトルのせいで、木簡の謎は読者にはすぐにわかってしまう。それはいいとしても、登場人物までが(それも科学者の端くれまでが寄ってたかって)あの程度の事実から、単純に神の存在やメシアの復活を信じるなんて。ましてや、そのために仕事もすべて投げ打って、犯罪者になってまで、メシアの再生に走るとは、主人公の行動にはぜんぜん説得力がない。
そんな登場人物の行動の理由はまるですっ飛ばされている一方で、DNAの塩基配列から生物を合成する技術的難しさや、経済的に立ちふさがる壁などはやたらとこだわってストーリーは展開する。結局、メシアの救いとは、まあ単純で、ありがちなオチ。それでも、小説がうまかったらかなり泣けたんだろうと思うけど、さっぱり泣けなかった。