SF関係の本の紹介(2001年上半期分)
【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】
●「ノービットの冒険」パット・マーフィー、2001年、ハヤカワ文庫SF、800円+税、ISBN4-15-011357-2
20010630 ★
帯から解説からに書きまくってある通り、トールキンの「ホビットの冒険」の設定を、スペースオペラに置き換えて、ルイス・キャロルの「スナーク狩り」を少し混ぜたお話。SFというより、宇宙を舞台にしたお話って感じ。
「ホビットの冒険」は一応読んでるけど、ちっともおもしろくなかった。ちなみに「指輪物語」は途中で挫折したまま(「王の帰還」を読んでない!)。「スナーク狩り」も、ベンフォードの「夜の大海の中で」を読んだ頃に参考文献として読みました。こちらも別におもしろいってわけでもなかった。
で、「ノービットの冒険」の方はと言うと、下敷きにした「ホビットの冒険」との対応関係を楽しむ分にはいいけど。これ自体そんなにおもしろいって訳でもないと思います。独特の哲学を持つパタフィジシャン、クローン集団で冒険家兼商売人揃いのファール一家、そして謎の超古代文明とその遺物。おもしろい要素はたくさんあるんですけど、いまいちいかしきれていない感じです。
●「BIOME」伊東京一、2001年、ファミ通文庫、640円+税、ISBN4-7577-0445-3
20010615 ☆
タイトルからして生態学SFかと思い買いました。大地の大部分を樹海に覆われた世界。森は人にとって厳しい世界で、容易に立ち入ることすらできない。そんな世界で、人々は森を何とか切り開いて町を作り細々と暮らしている。そういった町を、生態学の知識を使って、森の脅威から守るのがフォレストセイバー。そんなフォレストセイバーの主人公が、ある町で起こった害虫大発生の謎を解く、って話。
著者が生物の生態についてけっこういろいろ知ってるのは確かなようです。でも、ちょっと簡単に生物群集を”理解”しすぎな気がする。でもこれは、生態屋のひがみかな?
何より問題は、物語の要所要所で、新たな生物が登場して謎が解かれるってことです。ある意味、謎解きを物語の中心に据えてるのに、そのたびに隠し球を出してくるなんて、最低の展開でしょう。欲求不満がたまるたまる。
●「侵略者の平和 第三部 融合」林 譲治、2001年、ハルキ文庫、660円、ISBN4-89456-824-1
20000530 ☆
「侵略者の平和 第一部 接触」「侵略者の平和 第二部 観察」に続く、完結編。最後に二種属がそっくりだった理由が解明される。残念なことに、予想の範囲内であまり驚きがない。それにこのパターンは、どこかで読んだことがあるような…。
全体的に、状況設定自体はうまいけど、その展開のさせ方が(軍事シミュレーションを除くと)、ものすごく物足りない。軍事面でも、ハイテクのもろさは、(その理由は一々説明されているものの)ちょっとわざとらしいし、ご都合主義的な気がしました。
●「侵略者の平和 第二部 観察」林 譲治、2000年、ハルキ文庫、620円、ISBN4-89456-824-1
20000528 ☆
「侵略者の平和 第一部 接触」の続き。ファーストコンタクトの後、戦闘状態に入り、やってきた軍隊が惑星を制圧。したかに見えたが、少数のハイテク部隊と、ローテク部隊の物量作戦の戦いが始まります。このシチュエーションのシミュレーションがしたかったんでしょうね。著者が語りたがるメカや軍事面の詳細は退屈でした。
●「エンダーの子どもたち」(上・下)オースン・スコット・カード、2001年、ハヤカワ文庫SF、(上)660円+税
(下)660円+税、(上)ISBN4-15-011344-0 (下)ISBN4-15-011345-9
20010519 ☆
「エンダーのゲーム」「死者の代弁者」「ゼノサイド」と続いたシリーズの最新そして完結編、らしい。「ゼノサイド」で放ったらかしにされたままの、コンピュータネットワークに宿った知性ジェインの危機と、ルジタニア粛正艦隊への対策が図られる。「ゼノサイド」の後始末といったところ。「ゼノサイド」から続けて読んだ方がいいでしょう。
内容の大部分は、人間性を、そして人間の心理を問う内容にさかれていて、けっこううっとおしい。大和魂ってのまで出てくるし。「ゼノサイド」を読んで、続きが知りたくなったら読めばいいのでは。そういえば結局デスコラーダ・ウイルスの正体ははっきりしない。
●「3001年終局への旅」アーサー・C・クラーク、2001年、ハヤカワ文庫SF、660円+税、ISBN4-15-011347-5
20010514 ★
「2001年宇宙の旅」に始まるシリーズの完結編(一応)。「2001年宇宙の旅」の時に、HAL9000によって、ディスカバリー号から放り出されたフランク・プールが、1000年後に回収されて蘇生して。モノリスによって不思議な存在になったデイビッド・ボーマンと対面する。
モノリスを作った存在の目的という大問題が解決(?)するけど、基本的には1000年後にタイムトラベルしたプールによる未来世界案内、って感じが強い。軌道エレベーターにブレイン・キャップ、エウロパの生物。そんなに目新しい未来でもない。4001年にどうなるのかは、知りたいけど‥。
●「チョウたちの時間」山田正紀、2001年、徳間デュアル文庫、619円+税、ISBN4-19-905051-5
20010507 ☆
1980年に角川書店から出版された作品です。表紙が変わっていたので、すっかりだまされて、また買って読んでしまいました。しばらく読んで気付いたけど、内容を忘れていたので最後まで読みました。
歴史に手を加えて人類の進化をはばむ敵と、タイムパトロールが闘う話、とでもいいましょうか。”純粋時間”の中を行き来するタイムパトロール、という辺りですでについていけない。タイムパラドックスの問題の扱いもどうということもなし(タイムトラベル物は、歴史改変にともなうタイムパラドックスで楽しませてくれなくては!)。
というわけで、全然おもしろくなかった。2冊分の金と時間を返せ!
●「フラッシュフォワード」ロバート・J・ソウヤー、2001年、ハヤカワ文庫SF、840円+税、ISBN4-15-011342-4
20010507 ★
もし全人類が突然2分間気を失ったら?出だしの大惨事から、つかみは完璧。さらに次の設問は、もし、みんなが21年先の未来の自分(世界)を見てしまったら?SFらしい問題が提起されます。わくわくして話を読み進めました。
どうして未来が見えたかの謎解きは、大勢とは関係なく。最後に描かれる遠未来のビジョンも、どうでもいいおまけのように感じました。そして肝心の未来は固定しているのか、自由意志はあるのかの問題は、穏当な所に落ち着いてしまいます。SFの世界では”常識”の多世界解釈に対する交流解釈が出てきた時は、その後の展開を期待したのに。肩すかしをくわされた感じ。
●「レインボゥ・レイヤー 虹色の遷光」伏見健二、2001年、
ハルキ文庫、ISBN4-89456-843-8、720円+税
20010430 ★
30世紀過ぎ、人類は物理法則を越えた遷光機関(ようするにワープ機関)で、深宇宙に進出する。が、そこで”根源的な恐怖によって人を死に至らしめる存在”CI生物に出会う。ある宇宙ステーションがCI生物によって全滅し、その調査に赴くと。といった話。
超空間を認識できる限られた形而上学者(要するに超能力者)によってのみ駆動できるワープシステム。理解できないほど高度な科学技術は魔法にも等しい、というよりははっきり魔法です。魔法使いが宇宙を駆けめぐって、人類を守るために(?)闘う話とでもいいましょうか。一方で、遺伝子工学やサイボーグ技術で変容した人類、そしてアンドロイドも描かれ。いろんな勢力による権謀術数もあり。クトゥルー神話が下敷きにあるので、あの恐い神様も出てきます。と盛りだくさんです。
描かれている世界やガジェットは、とても魅力的です。ただ、一番のアイテム、あるいは物語の中心の背景にあるのは”魔法”(あるいは理解できない存在)なので、SF的には少し不満かも。
●「詩人の夢」松村栄子、2001年、
ハルキ文庫、ISBN4-89456-838-1、840円+税
20010415 ★★
「紫の砂漠」の続編。詩人見習いになったシェプシが描かれます。全体に穏やかな雰囲気で、社会の仕組みや世界の歴史を描いていた「紫の砂漠」から一転して、社会が変化の波に洗われます。かなり派手な活劇シーンに、スペクタクルにと盛りだくさんです。
今度は、シェプシの周囲の人物(その愛や苦悩)も、丁寧に描かれます。自己中心的だったシェプシが、成長して他人に目を向けるようになったことを表しているのかもしれません。
子どもの入れ替えという社会システムの由来について語られるなど、世界に新たな角度から光が当てられます。神とは何か、といった議論まであり、活劇だけでなく相変わらず盛りだくさん。
「紫の砂漠」とどちらが好きかは、好み次第でしょう。物語としては、メリハリのあるこちらの方が上かもしれません。終わり方も明るいし。
●「星界の戦旗III−家族の食卓−」森岡浩之、2001年、ハヤカワ文庫SF、560円+税、ISBN4-15-030660-5
20010412 ☆
「星界の戦旗」約2年半ぶりの第3弾。相変わらずのジントとラフィールの珍道中記、かな。今回の新情報は、「星界の戦旗」は3部作ではなく、これからも続くということ。まあなんとなく、このまま続いていくんでしょう。
「星界の紋章」はともかく、世界設定ができてしまった「星界の戦旗」シリーズはもはやSFから離れてるな、という感じです。
●「ゴールド −黄金−」アイザック・アシモフ、2001年、早川文庫SF、920円+税、ISBN4-15-011343
20010314 ☆
3部に分かれていて、第1部はSF短編集。第2部と第3部は、SFやSFの書き方に関するエッセイ集となっている。SFとしては、とりたてて読むほどの作品集でもない。
●「銀河帝国の弘法も筆の誤り」田中啓文、2001年、早川文庫JA、580円+税、ISBN4-15-030658-3
20010226 ★
表題作、及び「脳高速」「火星のナンシー・ゴードン」「嘔吐した宇宙飛行士」「銀河を駆ける呪詛」の5編が入った短編集。短編のタイトルを見れば、どんな感じの話が並んでいるかはわかるって感じ。1950年代くらいまでの宇宙SFで、遊びまくったという感じ。さらに各作品には、一人ずつSF作家からの「作者の悪口」が書かれているし。表紙から、後ろの<人類圏>攻防史年表と著者あとがきまで、遊びに遊んでいる。
話自体は、かなりえぐい。それに随所にでてくる駄洒落の山。わけのわからん展開。と盛りだくさん。とっても楽しく読めます。それにしても”シラカベ星系人”や”ハギヤ星系人”で笑えるのは、関西人だけでは?
●「メルサスの少年」菅 浩江、2001年、徳間デュアル文庫、648円+税、ISBN4-19-905031-0
20010220 ★
砂漠の中の歓楽の街メルルキサス。生まれ変わり、さまざまな動物と混ざり合った異形の遊女の街。子どもを産めないはずの遊女からなぜか生まれ、遊女の中でほとんど唯一の男として暮らしている少年イェノムの成長の物語。かつての高度に発達した文明を戦争で失い、過去の遺産を掘り出して、再び文明が発達しつつある世界が舞台。SF的な骨格を持ったファンタジーといったところ。
聖なる獣ラーファータ、不思議な知識を持つ予言者カレム翁、そして主人公イェノムの正体など。魅力ある謎が、解き明かされていく。垣間見えるこの世界の歴史も魅力的。
●「時の果てのフェブラリー −赤方偏移世界−」山本 弘、2001年、徳間デュアル文庫、648円+税、ISBN4-19-905035-3
20010215 ★
ある日、地球上の6ヶ所にスポットと呼ばれる場所が出現する。スポットの周辺では、時間の流れや重力の大きさに異常が生じているようで、調査隊は次々と失敗する。スポットの出現によって、地球規模の天候異変が生じ、食糧危機が予測される。で、そんな地球規模の一大事に、ある特殊能力を持った少女が解決に立ち向かう、というお話。
スポットの存在自体、ゾーンを思い出させるし。その背後に人類よりはるかに高度な知性体の存在の示唆するとなると、完全にストルガツキー兄弟の作品を意識させます。が、この作品では、スポットとそれをつくった知性体の正体がわかってしまうところが、大きく違います。正直に言って、あっさりわかってしまうのが、一番の不満な点でしょうか。それも少女の持つ不思議な能力のおかげやしねえ。
そういえば、少女の持つ特殊能力(オムニパシー)の扱われ方は、「宇宙船ビーグル号の冒険」の総合科学(ネクシャリズム)を思わせます。わけのわからんもので、何でも解決されてもねえ…。
一番おもしろかったのは、スポットの近傍の世界。スポットに近づくに連れての世界の変貌の様子はなかなかよかったです。でも、他がいまいち。
●「かめくん」北野勇作、2001年、徳間デュアル文庫、648円+税、ISBN4-19-905030-2
20010208 ★★
二足歩行型カメ型ロボットが主人公のお話。フォークリフトの運転ができるかめくんが、博物館の倉庫での仕事を見つけて、なぜか怪物と戦い。図書館に行くのが好きなかめくんが、司書の人たちと友達になり。アパートでは、ねこを飼ったり、クーラーと電気屋さんが戦ったり。のほほんとしたかめくんの周りの、非日常的なドタバタギャグのような日常が語られる。
ぜんたいにゆったりした感じだが、現実と虚構についての考察があるなど、けっこう思弁的。背景世界や登場人物もなかなかに魅力的。そして何よりかめくんが住んでいるのは、大阪。通天閣や新世界はあるし、そもそもかめくんの就職先は万博の会場跡にある博物館。アパートは淀川の近くにあるのかな。とにかく、なんかわからんけど、よいのです。
●「タクラマカン」ブルース・スターリング、2001年、早川文庫SF、800円+税、ISBN4-15-011341-6
20010208 ★★
7編を収めた短編集。いずれも現在から見ると、異様に変容したそれでいて妙にリアルな近未来を描いて見せてくれる。最後の3編(「ディープ・エディ」「自転車修理人」「タクラマカン」)は、同じ世界を描いた作品で、登場人物も重なる。
お勧めは、「招き猫」と「タクラマカン」。「招き猫」では、風変わりで魅力的な新たな社会システムを示し、「タクラマカン」では地球の主人公の交代を予感させてくれる。お勧め以外の作品については、いまいち作品に入り込めなかった。
●「オルファクトグラム」井上夢人、2000年、毎日新聞社、1900円+税、ISBN4-620-10608-9
20010127 ★★
ある連続殺人事件に巻き込まれた主人公が、イヌにも負けないような嗅覚を得て、それを利用して事件を解決する話。マスコミやら、大学教授が出てきて、主人公を利用しようとして、それに主人公が巻き込まれてかなりイライラします。
でも、嗅覚を、視覚的に捉えるという設定。そしてその描写がいいです。ふだん身の回りにありながら、まったく実感できない臭いの世界を、視覚的に見事に描いて見せてくれます。たった一つの設定で、ふつうの世界を、センス・オブ・ワンダーに満ちたまったく別世界に見せてくれます。
●「鵺姫真話」岩本隆雄、2000年、ソノラマ文庫、571円+税、ISBN4-257-76912-2
20010126 ★
「星虫」や「イーシャの舟」と同じ世界を描いた最新作。これはほんとに2000年の作品。時間的には「星虫」の少し後の時代が中心だが、タイムトラベル物なので…。例によって、恋愛の物語であり、成長の物語であり、ファーストコンタクト物。
時間を行ったり来たりするので、バック・トゥ・ザ・フューチャーのような感じで楽しい。楽しい代わりに、けっこうご都合主義的で、SF的にはまあとくに目新しくもない。テイストや読後感はやっぱり「星虫」や「イーシャの舟」とそっくり。昔懐かしいジュヴナイルSFって感じです。
●「イーシャの舟」岩本隆雄、2000年、ソノラマ文庫、619円+税、ISBN4-257-76919-X
20010124 ★
「星虫」と同じく10年近く前に出版された作品の改訂版。「星虫」と同じ世界の少し前の事件を扱っていて、登場人物にも重なりがある。”妖怪”の子どもを育てる羽目になった貧乏でお人好しの青年の話。「星虫」と同じく、恋愛小説であり、ファーストコンタクト物でもある。読後感も似てる。まあおもしろいけど、「星虫」ほどのインパクトはなかったように思います。
●「タイムライン」(上・下)マイクル・クライトン、2000年、早川書房、(上)1700円+税
(下)1700円+税、(上)ISBN4-15-208282-8(下)ISBN4-15-208283-6
20010120 ☆
14世紀の中世フランスに行って、なんとか帰ってくる話。クライトンの小説は、出だしがうまくて、ワクワク読んでいくと、展開がどんどん陳腐になっていって、最後はなんやそれ〜、と終わるのが常識。ところが今回は、出だしからつまずく…。タイトルからして、どう見てもタイムトラベルネタなのに(正確には違うのはともかく)、登場人物の考古学者は、遺跡から出てくる現代的な物に驚いて見せてくれる。それが上巻の半分も続くとイライラする。
あとは、タイムトラベル(実は平行世界への移動)の説明は適当にごまかして、14世紀に行って大騒ぎするだけ。14世紀の中世フランスの風俗・技術などに興味のある人だけが読めばいいでしょう。
●「エンダーズ・シャドウ」(上・下)オースン・スコット・カード、2000年、早川文庫SF、(上)720円+税
(下)720円+税、(上)ISBN4-15-011330-0(下)ISBN4-15-011331-9
20010109 ☆
ヒューゴー賞とネビュラ賞のダブルクラウンに輝いた「エンダーのゲーム」の続編ならぬ、書き直しならぬ、別視点からの物語。「エンダーのゲーム」で重要な脇役を演じた天才児ビーンを主役に抜擢。前半は、ストリート・キッドとしてのビーンの生い立ちを語り、後半では「エンダーのゲーム」をビーンの視点から描き直す。
「エンダーのゲーム」自身、短編を長編化した経緯があるが、この本を付け加えることで、「エンダーのゲーム」がさらに大長編化されたというのが正確なところ。SF的に新たな要素はなにもなし。短編版の「エンダーのゲーム」が一番よかったと思うう。
●「祈りの海」グレッグ・イーガン、2000年、早川文庫SF、840円+税、ISBN4-15-011337-8
20010106 ★★★
11編を収めた日本オリジナルの短編集。それぞれの短編はおもしろいし、いずれも自己のアイデンティティを問いかけるという点で、短編集としてもまとまりがある。と解説者も書いてるけど。
1999年の「宇宙消失」と「順列都市」の二つの長編は、アイデアはおもしろいものの、長編としては不要にダラダラ長くて、展開も結末も納得できず、で評価は低め。ところが短編を読んで見直しました。アイデア一発で楽しませる短編に向いた作家のようです。
はずれ作品は驚くほどないのですが、特にお気に入りは、「貸金庫」と「ぼくになることを」。自分はいったい誰?って感じがいいです。あと「放浪者の軌道」は、笑った。アトラクターって単語がでた時点で、落ちがわかるけど、あれをこんな話にするとは
。
●「過ぎ去りし日々の光」(上・下)アーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター、2000年、早川文庫SF、(上)660円+税
(下)660円+税、(上)ISBN4-15-011338-6 (下)ISBN4-15-011339-4
20010104 ★★
ある企業が、ワームホールを用いて地球上の2点間の瞬時の通信に成功する。このテクノロジーがどんどん発達し、地球上のどこでも見ることができる技術になり、宇宙までも、そして過去までも見ることができるようになる。やがて、小型化も進み、全ての人が過去と現在を自由に見ることができる装置を持ち歩けるようになり…。テクノロジーの発達が社会に文化にどんな影響を与えるかを、さまざまなガジェットを盛り込みながら描いてみせる。
自由に覗きができると、どうなるのか。全世界から、さらには未来からも見られ、プライバシーがなくなった状態に人々がどう反応するか。さまざまな、歴史の真実が明かされると…。とにかく盛りだくさんに、詰め込み過ぎなくらいに、テクノロジーの発達が引き起こすいろんな状況を見せてくれる。
最初の世界設定では、500年後に地球に衝突する小惑星によって、地球の生命の滅亡が予見されていて、人類は未来への希望を失っている。ということやったけど、そんなことは途中でどうでもよくなる。
生命誕生から、遠未来までのヴィジョンを示し、まるでステープルドンの「スターメイカー」のよう。登場人物やストーリーは、あまりどうでもいい。という点も似てる。同じく、過去に未来に100万年からのヴィジョンを見せてくれたバクスターの「タイム・シップ」にはあまりはまらなかったのに、これにははまった。テクノロジーの発達による社会の変化から、人類の進化までを描こうとしてるからかな。これも結局は「幼年期の終わり」やし。