SF関係の本の紹介(1998年下半期分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】


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●「ブギーポップは笑わない」上遠野浩平、1998年、メディアワークス電撃文庫、550円、ISBN4-07-308040-7
19981228 ★★

 高校を中心に起きる一つの事件を、5人の視点から語られる。最初の2話を読んでも、どんな事件が起きたのすらよくわからない。事件に関わった一人一人は決して事件の全容が分からない、というのは当たり前やけど、大抵は全容が分かっている正義の味方の視点から描かれるから、とても新鮮。

 SFかと言うと本質的にはSFではないと思う。むしろヤングアダルト。宇宙から謎の使徒がやってきて、正義の味方と戦うところはエヴァみたい。でもエヴァよりおもしろい。続編を買わなくては。

【おまけ1999/1/7】続編(ブキーポップ・リターンズ VSイマジネーター、 ブキーポップ・イン・ザ・ミラー パンドラ)もおもしろかった(★★)。どこかの書評にも書いてあったけど、確かにエヴァがあったから生まれた作品のように思う。綾波もでてくるし。エヴァと違うのは、結末に救いがあることやね(それともちゃんと結末があることかな)。

●「屍鬼」(上・下)小野不由美、1998年、新潮社、(上)2200円(下)2500円、(上)ISBN4-10-397002-2(下)ISBN4-10-397003-0
19981222 ★★

 上巻の前半は、閉鎖的な山村の人間関係などが延々と記述され、雰囲気作りに終始する感じで少し退屈。でも後半あたりから人が死に始め、下巻の初めにかけて、とても恐い。その後、何が起こっているのかわかってしまうと、あんまり恐くなくなる。最後の方は、だいたいおきまり通りの展開。

 ネタをばらすと、読むときに楽しみがとても減るので、あんまりいろいろ書かれへんけど。大雑把に言えば、村落共同体という一種の超有機体に、異物が進入して、超有機体が死んでしまう話。個々の現象はとくに珍しくはないが、それが村全体でこれほどたくさん生じるとなると異常、といった集団レベルでの記述があちこちに見られる。まずちょっとした症状が現れ、ある時点で急激に悪化して、手を施すこともできないまま、多臓器不全で死ぬ。人も村も同じような経過で死んでしまう。村は起きあがらなかったけど。

 下巻の679ページの会話がとても印象に残った。「自我がなければね。自分の子供は自分じゃないです。遺伝子を継承してくれても、自我までは継承してくれないんですよ。人が自我を残そうと思えば、自分自身が永遠に生きながらえるしかないんです。そしてその自我こそが、人の人たる所以でしょう。にもかかわらず自我だけは残すことができないんだ。それは虚空に出現し、落下して消える。」確かに、自我は遺伝によっても学習によっても複製しない。じゃあ自我は進化しない。人間(の進化)にとって、自我って何やろ?

●「スノウ・クラッシュ」ニール・スティーブンスン、1998年、アスキー出版局、2400円、ISBN4-7561-2003-2
19981121 ★★★

 スノウ・クラッシュというウイルス(コンピュータ・ウイルスであると同時に、直接中枢神経系に働きかけを行う物質的な基盤も持ち得、また視覚的な情報を介しても中枢神経系に働きかけられるらしい)をめぐる話。サイバースペースという舞台とハッカーの主人公のせいで、サイバーパンクの再来と言われてるらしい。でも重要なアイデアは、言葉の持つ魔術的な効果というか、人の無意識に直接働きかけることができる言語の存在。どこかの書評でも書いてあったけど、「幻詩狩り」(山田正紀だっけ?)を強く思い出させる。

 サイバースペースの描写や、そこでの法則がおもしろい。でも舞台となっているアメリカの現状はもっとおもしろい。連邦政府はその権威がまったくなくなり、あちこちにマフィアや富豪が経営するフランチャイズ国家がはばをきかせている。あーうまく説明できないけど、笑える細かい設定がいっぱいあって楽しい。

 読んでて気になるのは、スノウ・クラッシュとミームとの関係。言語を介して伝播するのでミームのようでもあるけど(宗教を絡むところは正にミームの話かと思った)、学習というプロセスはなくても直接中枢神経に影響を与えるので少し違うような。現実と区別が付かないサイバースペースでは、コンピュータ・ウイルスもミームも区別は不可能なのかも。そういう意味では直接の情報のやり取りで伝播するコンピュータ・ウイルスとミームは似てる。単に情報の媒体が違うだけかな。視覚情報から、脳内にコンピュータ・ウイルスが進入するというイメージがとてもよかった。

●「時空ドーナッツ」ルーディ・ラッカー、1998年、早川文庫SF、620円、ISBN4-15-011249-5
19981110 ★

 ラッカーのSFのアイデアって、解説を読めばわかるけど、本文ではなかなかピンと来ない。たぶん物理屋さんには、とてもおもしろいSFなんやろうなあ。マクロ生物屋にしかピンと来ないSFがあればいいのに。

 この本でのアイデアは、原子の中のその中の中には宇宙が拡がっている。ってゆうのと、意識の源は自己言及的なパラドックスにある。ってなところ。ストーリー自体は、どうということはない。
●「蚤のサーカス」藤田雅矢、1998年、新潮社、1500円、ISBN4-10-409202-9
19981012 ★★

 SFと呼んでいいのかは微妙やけど、最後の部分はSFと言ってもいいと思います。蚤をまるでナノマシンのように扱うアイデアが、とても気に入りました。とても楽しくあっと言う間に読めました。

 作者とは同世代のせいか、シーモンキーやらポン菓子やら、なつかしいアイテムがいっぱいでてくるし。虫好きの変人たちの生態は、身の回りにいる人たちにも通じます。虫の食べ方の部分は、やっぱり作者の実体験に基づくんでしょうか? ミノムシは確かに炒めたりするとジューシィでおいしいけど、揚げコオロギですら食べるのに勇気がいった私には、とても揚げゴキブリは食べられへんねえ。
●「激闘ホープ・ネーション!」(上・下)デイヴィッド・ファインタック、1998年、早川文庫SF、(上)840円(下)840円、(上)ISBN4-15-011245-2(下)ISBN4-15-011246-0
19981008 ☆

 「大いなる旅立ち」「チャレンジャーの死闘」に続く、「銀河の荒鷲シーフォート」シリーズ第3弾。読む前に予想したとおり、ものすごーくつまらん。それが、上下巻を合わせると1000ページをこえる。まだ第4弾が控えてるという。いい加減にしてくれ。

 読まないことをお勧めします。もしも「大いなる旅立ち」を読んで、面白かった人は読んでもかまいませんが、そんな人とは、あんまり本について話をしたくないな。

●「神の目の凱歌」(上・下)ラリー・ニーヴン&ジェリー・パーネル、1998年、創元SF文庫、(上)740円(下)800円、(上)ISBN4-488-65410-X(下)ISBN4-488-65411-8
19980912 ★

 20年前にでた「神の目の小さな塵」の続編。モーティーという攻撃的で増殖力の強い異星人をめぐるシリーズです。上巻は人間同士の政治的な駆け引き、下巻はモーティーと人間での戦術的な駆け引きを描いていると言っていいでしょう。

 モーティーという種内での機能分化の発達した異星人の設定は面白くて、好きなのですが、「神の目の小さな塵」を読んだ方が楽しめるでしょう。駆け引きを中心に据えずに、モーティーに育てられて異星人の文化を引き継いだ人間をもっとストーリーの中心にした方が面白かったと思います。

●「極微機械ボーア・メイカー」リンダ・ナガタ、1998年、ハヤカワ文庫SF、820円、ISBN4-15-011243-6
19980903 ★★★

 ナノテクノロジーが進み、ほとんど何でもできるナノマシンを作り出せるような未来が舞台。あまり高度な能力を持つナノマシンは、連邦法で禁止されています。で、禁断のナノマシンが”ボーア・メイカー”です。話は”ボーア・メイカー”を体内に入れて逃げるヒロインと、それを捕まえて破壊しようとする連邦側、手に入れようとする企業体側(夏企業社)の3者が絡みながら進みます。

 ”ボーア・メイカー”は、人間の体の変形から、他人の行動の修正まで、ほとんど何でもできます。まるで魔法のように。むしろ魔法をナノマシンでSFらしくしてみせたといった方がいいくらい。”ボーア・メイカー”が世界に広まったら、どんな世界ができあがるのか。予感はさせるが、描かなかったのは正解かもしれません。ありきたりなファンタジーになりそうやし。

 この世界では、人間の精神をコード化して、回線を通じて送るという技術も進歩しています。ナノテクノロジーよりも、このテクノロジーが蔓延した世界が見事に描かれています。各人は、送られてきた他人の精神を受け入れる”枢房”というものを持っており、人々は互いに(”幽霊”と呼ばれる)自分の精神のコピーを、相手に送り込むことで、他人とコミュニケートすることができます。”枢房”の中の幽霊は、その”枢房”の持ち主の感覚情報をヴァーチャルに体験できるので、居ながらにしてさまざまな体験が出来てしまいます。他人の”枢房”のアドレスに幽霊を送るだけ。自分の精神を載せたメールを他人の精神に送信するといった感じ。メールの究極の姿やねえ。

 でも何と言ってもイメージが気に入ったのは、夏企業社自体でした。自律的な生物発生システムで、生態系を形成していく森。夏企業社の都市の森の描写がもっとあれば、よかったのに。

●「凍月」グレッグ・ベア、1998年、ハヤカワ文庫SF、560円、ISBN4-15-011242-8
19980829 ★

 「女王天使」や「火星転位」と同じ未来を舞台にしたノヴェレット。時代的には2作の間に入る。大量の冷凍頭を月に持ち込んだために、ある宗教団体との間で起きる政治的なごたごたの話。量子コンピューターとか、絶対零度の達成、といったハードSFっっぽいガジェットに関する部分も多いけど、政治的なごたごたの話とはあまり絡んでこない。
 量子コンピューター、絶対零度の達成、宗教団体との間での政治的なごたごた、あまり関係のないものをぶち込んでいる感じがした。

●「市長、お電話です」草上仁、1991年、ハヤカワ文庫SF、460円、ISBN4-15-030361-4
19980828 ★

 また古本屋で見つけて、なんとなく買いました。短編が5編入っている。「ポルノグラフィック」はすぐに落ちが分かってつまらなかったけど、後は楽しく読めます。

●「星界の戦旗II−守るべきもの−」森岡浩之、1998年、ハヤカワ文庫SF、540円、ISBN4-15-030603-6
19980823 ☆

 ”星界の紋章”3部作の続編、”星界の戦旗”3部作の第2弾。”星界の紋章”では、アーヴという宇宙種族とその文化、その支配による人類帝国、といったそれなりにオリジナルな世界を作ったけど、”星界の戦旗”ではとくに新しいものは出てこない。アーヴによる人類帝国の細部は充実してるかもしれんけど。

 ”星界の紋章”を読んで、気に入った人だけが読めばいいでしょう。

●「ダークシーカー」K・W・ジーター、1998年、ハヤカワ文庫SF、740円、ISBN4-15-011239-8
19980805 ☆

 意識を共有するドラッグを使用する殺人カルト集団の話。このドラッグ”ホスト”は、一度使用すると、脳内に不可逆な変化をもたらし、(他の薬で影響を押さえることは出来るけど)意識の共有から抜けられなくなると言う恐い物。さらにその意識の共有空間には、恐ろしいものが住み着いているらしい。このホストと意識の共有空間に焦点を絞って話を進めればいいのに。話は自分の息子が本当に生きているのかどうかと、現実か幻覚かで悩むことが中心になる。中途半端にディックされても、仕方がないと思うが。そんな話やったら、意識の共有のない普通のドラッグでええやん。

 それにしても、妻に暴力を振るう夫が、たくさんでてくる。夫による家庭内暴力は、アメリカではとても深刻なのか? 
●「ホログラム街の女」F・ポール・ウィルスン、1998年、ハヤカワ文庫SF、660円、ISBN4-15-011240-1
19980731 ★

 未来の地球を舞台にしたハードボイルド。気取ってるけど、実は情にもろい探偵が、美人or謎の依頼者の依頼を受け、人捜しをするって感じ。ストーリーはありきたり。3部からなっていて、第1部と第2部は独立の中編として読める。第3部ですべてがつながる。

 舞台となっている地球には、クローンと落とし子という2種類の下層民がいます。クローンは人間扱いされていなくって、誰かの所有物となっています。またこの世界は子供が一人までという厳しい産児制限があって、二人目の子供は殺されてしまいます。二人目を産んだけど殺されるのが忍びない親に捨てられた子供が、落とし子です。主人公が依頼される事件は、このクローンと落とし子に関わっています。

 おもしろく読める話ですが、あまり新味はないと思います。

●「無重力でも快適」草上仁、1989年、ハヤカワ文庫SF、360円、ISBN4-15-030286-3
19980725 ★

 古本屋で見つけて、なんとなく買いました。フレデリック・ブラウンのような短編SFを書く、とあとがきに書いてあるが、確かにその通り。お笑い系の短編が5編入っている。楽しく読めるけど、とくに気に入ったのはない。

●「夜来たる 長編版」アイザック・アシモフ&ロバート・シルヴァーバーグ、1998年、創元SF文庫、920円、ISBN4-488-60409-9
19980717 ☆

 アシモフの有名な出世作である中編「夜来たる」を、シルヴァーバーグが長編化したものらしい。夜が来るまでを描いた第1部と第2部は中編の内容を膨らませたもの、夜が明けた後を描いた第3部はシルヴァーバーグのオリジナル。

 中編を読んでいなくても、少し読み始めればどんな風に展開するかは、すぐにわかる。読者がすでにわかっている”謎”を、わざとらしい会話で解明して行くところが、いかにもアシモフ。シルヴァーバーグはうまい。主要登場人物が、カップルになっている点を除けば、アシモフが書いたと言って通用すると思う。

 第1部と第2部はページ数が増えたけど、SFとして何かが増えたわけではない。第3部はまるっきり不要。中編を読めば充分。

●「魔女も恋をする」風見潤編、1980年、集英社コバルト文庫、280円、ISBNなし
19980713 ☆

 「たんぽぽ娘」のシリーズの海外ロマンチックSF傑作選1です。こちらもとっくに絶版で、大阪市の図書館で借りました。恋愛を語った話が5編入っていますが、そのうち3編はファンタジーと呼ぶべきでしょう(SFの定義はともかくとして)。
 著者は、トマス・バーネット・スワン、マーガレット・セント・クレアと、やっぱりあまり翻訳されていない作家が入っていて、そういう意味では貴重な短編集です。でも、あまりいい作品は入っていない。

●「光の帝国 常野物語」恩田陸、1997年、集英社、1700円、ISBN4-08-774292-X
19980707 ★★

 さまざまな超能力を持った一族が、一般人の間に混ざってひっそりと暮らしているという設定。あとがきには、ゼナ・ヘンダーソンのピープル・シリーズみたいなのを書きたかったとある。確かにとてもよくにた設定とタッチの連作短編集。あと筒井康隆の七瀬三部作も思い出した。
 個々の話には、SF的な設定に関係なく成り立つものも多いが、話自体がおもしろかった。好きなのは、「大きな引き出し」、「光の帝国」、「国道を降りて・・・」。泣かせる話が好きなんです。

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