SF関係の本の紹介(2016年分)
【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】
●「ボロコーヴはミムジイ」ルイス・バジェット他著、ハヤカワ文庫SF、2016年11月、ISBN978-4-15-012102-0、980円+税
2016/12/21 ★
副題に「伊藤典夫翻訳SF傑作選」とある。その通り、日本のSF界の黎明期から活躍した伊藤典夫さんが翻訳したSF7編からなるアンソロジー。ポール、カットナー、ライバー、ブラナーと大御所の名前が並ぶが、1943年から1965年に書かれたSFは、今読むと古くささは否めない。むしろ日本のSF界黎明期の一端が分かる後書きやインタビューの方に価値があるかも。
緯度によって時間の流れが異なる世界での終わりのない戦争を描いた「旅人の憩い」の怖いエンディングが印象的。倒叙形式ですか?なハッピーエンドもなぜか楽しかった。とはいえ何故か一番忘れられないのは、「若くならない男」。どこに向かっているんだろう?
●「ヨハネスブルグの天使たち」宮内悠介著、早川書房、2013年5月、ISBN978-4-15-209378-3、1500円+税
2016/12/15 ★
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●「ゴッド・ガン」バリントン・J・ベイリー著、ハヤカワ文庫SF、2016年11月、ISBN978-4-15-012104-4、1000円+税
2016/12/5 ★
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●「放課後地球防衛軍1 なぞの転校生」笹本祐一著、ハヤカワ文庫JA、2016年11月、ISBN978-4-15-031251-0、680円+税
2016/11/29 ★
実は宇宙には宇宙人が満ちていて、しょっちゅう地球に宇宙人がやってきていて、それを密かに地球防衛軍が撃退してる。という荒唐無稽の楽しい話。
第1章が「謎の転校生」、第2章が「狙われた学園
」。そういう話をやりたいって高らかに宣言してるから、荒唐無稽でもなんでもいいのである。
学校の地下に謎の施設があり、先生は何かを知ってて隠している。ごく普通の海辺の田舎町に地球防衛軍の本部、普通のじいちゃんが司令官。そこに謎の転校生。そりゃ読んでて楽しいに決まってるやん。
●「さあ、気ちがいになりなさい」フレドリック・ブラウン著、ハヤカワ文庫SF、2016年10月、ISBN978-4-15-012097-9、920円+税
2016/11/29 ★
星新一訳のフレドリック・ブラウンの短編集?と思ったが、1962年に出版された短編集の、2005年の新装版の文庫化らしい。12編の短編が収められている。1940年から1955年に書かれた作品だけど、不思議と古い感じがしない。
どこかで読んだ作品も多いのだけど、改めて読むと、ちょっと怖い話が多いんだな。「みどりの星へ」「ぶっそうなやつら」「沈黙と叫び」とか怖すぎる。ブラウンってもっと愉快な感じのが多いという間違ったイメージを持っていた。最後にきた表題作を見ても、精神のすき間みたいな部分に強く惹かれる作家だったのかな。見慣れた宇宙人と楽しく終わる(?)「シリウス・ゼロ」とかがお気に入り。
●「アルファ・ラルファ大通り」コードウェイナー・スミス著、ハヤカワ文庫SF、2016年6月、ISBN978-4-15-012074-0、1200円+税
2016/11/25 ★★
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●「スキャナーに生きがいはない」コードウェイナー・スミス著、ハヤカワ文庫SF、2016年3月、ISBN978-4-15-012058-0、1200円+税
2016/11/14 ★★
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●「夢みる葦笛」上田早夕里著、光文社、2016年9月、ISBN978-4-334-91121-8、1500円+税
2016/11/7 ★★
10編をおさめた短編集。表題作は、平和に歌う白いイソギンチャクのような存在が、どんどん街に増えていく。ものすごく印象的で、怖くて、淋しく、忘れられない。「眼神」:神がくらす村の依り代との交流と神落とし。三次元に知性を持つ生物がいることは、ものすごい発見。
「完全なる脳髄」:腕や脚に生体脳を持つ合成人間、移植して一つの体に9つの生体脳を持つ存在をつくったら。ナノマシンで変容した肉塊から、合成人間をつくるというイメージが怖い。「石繭」:あちこちの電柱にはりつく、大きな白い繭。「氷破」:宇宙開発用人工知性が土星の衛星ミマスである種の変容を遂げる話。「滑車の地」:人をよせつけない海の世界。点在する塔の間に張られたロープをつたって移動して暮らす人々。「プテロス」:巨大な飛行生物が暮らす世界。その腹側に引っ付いて、その世界を飛ぶ人々。その世界に見られる凍石柱と呼ばれる300mもの塔はじつは…。「楽園(パラディスス)」:ライフログやメールなどすべての記録をもとに死者を蘇らせるサービス。「上海フランス租界祁斉路三二0号」:上海自然科学研究所に東京帝国大学の地球化学研究者が、未来の分岐の現場に出会う。「アステロイド・ツリーの彼方へ」:アステロイド・ベルトに向かった探査機が見聞きしたものを、まるで自分の経験のように情報を受け取るというお仕事。の話かと思ったら、リアルネコ型ロボットと暮らして、中のAIを育てるお仕事もしてみたり。
最初の4編は、人間が不気味に変容する話。AIの中の人は生きてるのだろうか?って話が2編。印象的な異世界を描いたのが2編。平行世界物1編。ネコ型ロボットと暮らす話が1編。多様な内容だけど、人間とは何か、知性とは何かという問いがしばしば出てくる。記憶に残る作品が並ぶ。
●「霧に橋を架ける」キジ・ジョンスン著、創元SF文庫、2016年8月、ISBN978-4-488-76401-2、1060円+税
2016/11/3 ★
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●「裏山の宇宙船」(上下)笹本祐一著、創元SF文庫、2016年7月、(上)ISBN978-4-488-74107-5(下)ISBN978-4-488-74108-2、(上)840円+税(下)840円+税
2016/10/15 ★
タイトル通り、田舎町の勉強嫌いの高校生の家の裏山で、地面にめり込んだ宇宙船が見つかる話。
驚くほど登場人物は少なくって、主人公の高校生とその友達2人、先輩、お姉ちゃん。
もうこの5人と宇宙人だけと言っても過言ではない。なんやかんや言いながら宇宙船を掘り出して、それを動かそうと奮闘する。博士君的な幼なじみが活躍してくれる。
宇宙船の操作、宇宙人とのコミュニケーションなどなど、大問題になりそうな点が、いとも簡単に解決されるのが、拍子抜けなんだけど。人類が手にしていない超技術をいとも簡単に手放したり、模倣したり、これまたおいおいって感じだけど。それで、まあいいか、って思わせる。昔なつかしいジュヴナイルSFの匂いが心地良い。
●「セルフ・クラフト・ワールド3」芝村裕吏著、ハヤカワ文庫JA、2016年9月、ISBN978-4-15-031244-2、760円+税
2016/10/11 ★★
「セルフ・クラフト・ワールド1」「セルフ・クラフト・ワールド2」に続く第3弾で、完結編。
プレイヤーが来なくなって長い年月が経ったセルフ・クラフト・ワールドでは、民主主義神をあがめる宗教のもと万物の霊長たる竜が暮らしていた。そんな中、世界の一画が消滅する事件が頻発するようになり、人間の助力を求めて旅に出る。プレイヤーが来なくなった結果、セルフ・クラフト・ワールドに残る人間は、AIが操るNPCと、プレイヤーの写しである墓標。
リアル日本では、シェルターでかろうじてわずかな人々だけが生き延びた。AIとコンタクトして現状を把握した人々は、セルフ・クラフト・ワールドを利用して生き延びるべく動き出す。
違う視点を設定して、客観的に評するというありがちなやり方ではあるけど、竜が語る人や民主主義が面白い。時間の流れる速度が違う2つの世界があると、いろいろと面白い展開がある。そして、充分に発達したVRMMO世界は、リアル異世界となる。
●「青い海の宇宙港 秋冬篇」川端裕人著、早川書房、2016年8月、ISBN978-4-15-209630-2、1500円+税
2016/9/27 ★
「青い海の宇宙港 春夏篇」の後編。前編では、イベントで打ち上げ花火みたいなのを打ち上げただけだったが、後編では本格的な物の打ち上げを試みる。小学生のくせに優秀すぎるやろう〜。とか思ったりもするが、それも含めて、小学生が宇宙探査機を打ち上げる試み自体が、とてもジュヴナイルSFの王道な感じ。
それでいて、元宇宙少年のおじさんが、自分の道を見つける。という意味で成長物語でもある。宇宙で町おこしを考える人たちの人間模様も読み応えがあるし、意外な謎解きまでからんでくる。いろんな要素を混ぜつつ、一つ筋の通った話を楽しく読ませてもらえる。
小説としては、評価高いのだけど、あくまでもSFとしての評価だと★は一つかなぁ。ごめんね。
●「時を紡ぐ少女」ジェニファー・アルビン著、創元SF文庫、2015年5月、ISBN978-4-488-75501-0、1300円+税
2016/8/13 ★
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●「ラットランナーズ」オシーン・マッギャン著、創元SF文庫、2015年4月、ISBN978-4-488-75401-3、1040円+税
2016/8/8 ★
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●「怨讐星域」(I・II・III)梶尾真治著、ハヤカワ文庫JA、2015年5月、(I)ISBN978-4-15-031192-6(II)ISBN978-4-15-031193-3(III)ISBN978-4-15-031194-0、(I)880円+税(II)880円+税(III)880円+税
2016/8/5 ★
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●「青い海の宇宙港 春夏篇」川端裕人著、早川書房、2016年7月、ISBN978-4-15-209629-6、1400円+税
2016/8/1 ★
宇宙港がある種子島ならぬ多根島が舞台。宇宙遊学生として、一年間のいわゆる山村留学にやってきた小学6年生が主人公。昆虫や魚など生き物好きの少年は、島の自然を満喫しつつ、友達とロケットの打ち上げにも熱中していく。いやむしろ、ロケット打ち上げに熱中するのは、かつての宇宙少年のおじさん達かな。町おこし、宇宙産業の現状など、いろんな要素が混じってくるけど、すっきりまとまっていて、楽しく読める。
ちょっと不思議要素が混じってるけど、これが何かSF的展開につながっていくのか気になってるところ。なぜか主人公よりも、元宇宙少年が幸せになればいいなと思ったりする。
●「松本城、起つ」六冬和生著、早川書房、2016年7月、ISBN978-4-15-209628-9、1400円+税
2016/7/29 ★
松本市が舞台のタイムトラベルSF。現代の女子高生とその大学生の家庭教師が、江戸時代に飛ばされる。飢饉の中、高すぎる年貢に立ち上がる人々を助けようと奔走する。
前半は、ただタイムトラベルするだけかぁ、と思っていたら、後半では、まるで手術ですか?という真実が明かされる。というか、これって一種のアブダクション物?
この配役だと女子高生視点で描かれそうなものだけど、大学生視点で描かれる。自分だけ頑張ってるつもりだけど、実は他の人の方が頑張ってたかも。っていうのが意外と新鮮。話し合えよ!って思ったりもする。
●「レッド・ライジング2 黄金の後継者」(上・下)ピアース・ブラウン著、ハヤカワ文庫SF、2016年6月、(上)ISBN978-4-15-012075-7(下)ISBN978-4-15-012076-4、(上)980円+税(下)980円+税
2016/7/28 ☆
「レッド・ライジング 火星の簒奪者」の続き。エリート養成校で命がけの試験に、仲間とともに勝ち抜き成功して終わった前作。が、続編では士官学校での失敗から始まる。そして再び成功。衝撃のラスト。
前作に続きこちらも成り上がりの物語。前半は宮廷劇、後半は内戦。ひたすらだましだまされ、裏切りと、殺し合いが繰り返される。そして、いくつかの仮面がはがれる。
太陽系を舞台に展開しているけど、地球を舞台にしても、戦国時代を舞台にしても、成立する。宇宙が出てくる以外にSF要素は見あたらない。
●「アステロイド・ツリーの彼方へ」大森望・日下三蔵編、創元SF文庫、2016年6月、ISBN978-4-488-73409-1、1300円+税
2016/7/27 ★
2015年の年間SF傑作選。もちろん1冊に何編も入れるのだから、対象は短編のみ。でも近頃短編を発表するSF雑誌が減っていて…。で、普通小説の雑誌、同人誌からWEB公開作品まで。さまざまな媒体から引っ張ってきているのが面白い。で、苦労して集めた19作品と、第7回創元SF短編賞受賞作品「吉田同名」が収められている。
気に入ったのは、びっくり発明の「ヴァンテアン」、詩の世界(?)を描いた「La Poesie sauvage」、並行世界を自由に行き来する人々の中の障がい者を描く「なめらかな世界と、その後」、AIとの交流をえがく「アステロイド・ツリーの彼方へ」。純然たるSFとは言えないけど、ミステリの法則が生きる世界を描いた「法則」、インタビュー形式の不思議小説「インタビュウ」も面白かった。 残念に思ったのは、「たゆたいライトニング」。著者は進化をというか、系統に関する知識もろくにないのに、それを扱っている。
●「多々良島ふたたび」山本弘・小林泰三・他著、早川書房、2015年7月、ISBN978-4-15-209555-8、1800円+税
2016/7/26 ★
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●「ウルトラマンF」小林泰三著、早川書房、2016年7月、ISBN978-4-15-209623-4、1800円+税
2016/7/25 ★
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●「人類再生戦線」(上・下)A・G・リドル著、ハヤカワ文庫SF、2016年6月、(上)ISBN978-4-15-012080-1(下)ISBN978-4-15-012081-8、(上)780円+税(下)780円+税
2016/7/25 ☆
「第二進化」の続き、三部作の第2作らしい。地球をおおった伝染病で、次々と人々が死んでいく。それを救おうとする人々と、この機会を利用しようとする人々ってところだろうか。前半は、生存者のキャンプからの脱出が描かれる。後半はこの危機を救うキーとなる、いわば聖櫃を探す競争。
人類を操作しようとする宇宙人が2派。地球人側も2派。でも実は各派は互いに関係し、人類の運命をもてあそんでいる感じ。人類進化の秘密がけっこう明かされたので、ちょっとSFっぽくはなった。無駄に人間関係や恋愛感情が書き込まれ過ぎな感じ。
●「君を愛したひとりの僕へ」乙野四方字著、ハヤカワ文庫JA、2016年6月、ISBN978-4-15-031234-3、620円+税
2016/7/11 ★
「僕が愛したすべての君へ」と同じ世界設定、でも少し違う並行世界での、暦と栞の物語。虚質科学の研究者の息子の僕は、同じ研究所の研究者の娘である君に出会う。その君を助けるための物語。その方法がそれしかない、と主人公は思い込んでるのだけど、読者の一人としては、そこが今一つ理解できない。
いわば体と魂が分離する虚質素子核分裂症(イメージとしては幽霊)。というのが、なんか唐突。そして、タイムトラベル物になったのにも違和感。並行世界との行き来のアナロジーでいくなら、その延長線で過去にタイムシフトしたら、過去の自分と入れかわるだけなのでは? それは解決になるのかな? あと、時間線の監視というのが、どのように行われてるのかが、イメージできない。
「僕が愛したすべての君へ」を読んでいたら、暦と和音の関係が気になって仕方がない。そこを楽しむ物語なんだろう。
●「僕が愛したすべての君へ」乙野四方字著、ハヤカワ文庫JA、2016年6月、ISBN978-4-15-031233-6、620円+税
2016/7/10 ★★
少しだけ違う並行世界と、人々が無意識に日常的に行き来している世界での、暦と和音の物語。
並行世界との交流を研究する虚質科学。虚質科学研究所の研究者の息子の僕は、並行世界との行き来を繰り返す。両親が離婚してる世界としていない世界、おじいちゃんが死んだ世界と生きてる世界、恋人がいない世界といる世界? 不思議な出会いとすれ違いが面白い。で、この世界の僕と、並行世界の君との不思議な関係。僕が愛した君はどの君なんだ、って話になってからの、タイトル。
IPを測定する技術に続いて、並行世界との移動を制御する技術も生まれる。必然的に、不幸な世界から離脱する人や、並行世界をまたにかける犯罪者が出現するし、それを追う警察組織が必要になる。という展開はややこしくてとても面白い。だけど、掘り下げが少し物足りない。
●「宇宙探偵マグナス・リドルフ」ジャック・ヴァンス著、国書刊行会、2016年6月、ISBN978-4-336-05920-8、2400円+税
2016/7/6 ★★
「ジャック・ヴァンス・トレジャリー」の1冊目。マグナス・リドルフ物全10作を収めた作品集。お金に困り、お金にこだわる探偵さんが、さまざまな宇宙人が行き交う宇宙で、さまざまな異星人の文化や、異星の生き物の生態をいかして大活躍。ある意味、謎は解くのだけど、探偵というより詐欺師か投資家のような。いっぱい儲けるのに、すぐ文無しになるのが不思議。
「ココドの戦士」、ココドで行われる合戦賭博を中止させることを依頼され。探偵というより詐欺師のように立ち回る。で、賭博で儲ける。
「禁断のマッキンチ」、正体不明の横領犯にして、連続知性体殺しの正体を突き止めることを依頼され。さまざまな種族の正確から推理する。
「恐鬼乱舞」("恐"は、本当は下が心ではなく虫)、儲かると言われて農地に投資したら、恐鬼に作物を荒らされ。狸の化かし合い。「海への贈り物」のような話。
「盗人の王」、高価な鉱石をめぐって、ライバルと争い、盗人の王も含めて三つ巴に。やっぱり詐欺師の投資家やん。
「馨しき保養地」、オオウミクワガタをはじめとする獰猛な地元の動物に客が次々に殺されるという恐ろしい保養地。動物を追い払うように依頼され。今回はまっとうに謎を解く。けど、なんというか臭い仕返しは徹底的に、欲深く。
「とどめの一撃」、機密ドームの中で、石器文化人を連れた人類学者が殺された。その犯人を突き止めて欲しいと依頼され。驚いたことに本当に突き止める。詐欺も投資も抜きで。容疑者であるさまざまな宇宙人を尋問して、その文化的背景から犯人を導き出す。予想外に探偵らしすぎて、思わず二度見。
「ユダのサーディン」、ある惑星から出荷された魚の缶詰に、よく分からない細工がされていて、困った缶詰工場の社長から、原因追及を依頼され。賢いイワシの謎を解く。やっぱり自分の懐にも入れてるよね?
「暗黒神降臨」、鉱山惑星からスタッフを消えた謎を解く。ここまでずっと生物学的あるいは文化社会学的なソフトなSFだったのが、ここにきてハードSF的。今回はいわば借金の形に、謎解きをさせられる…。
「呪われた鉱脈」、次々と作業員が殺されていく採鉱地。犯人さがしを依頼され。シャーロック・ホームズのあの密室殺人トリックを思い起こさせるけど、真相はぜんぜん違う。しかし、異星生物といわばファーストコンタクトで、簡単にコミュケーションできすぎ。あと、めずらしくお金にがめつくなかった。
「数学を少々」 、陥落惑星で立体ビリヤードに手を出して大儲け。と思ったら、海賊事件の犯人をペテンにかける感じ。よく分からない数学と物理学が駆使される。
異星人の不思議な慣習や、異星生物の突飛な生態の話が好き。物理には手を出さない方がいい。
●「喪われた巨大戦艦」ヴォーン・ヘプナー著、ハヤカワ文庫SF、2016年6月、ISBN978-4-15-012077-1、1200円+税
2016/7/5 ☆
裏の粗筋を読んだ時から、読み始めてしばらく。頭の中を流れるのはあのテーマソング。地球をはじめとする人類は、なぞの異人からの攻撃を受ける。異人の圧倒的な力に人類はなすすべが無い。そこで、地球の危機を救うため、主人公は仲間とともに、宇宙の彼方にある異星種族の巨大戦艦を手に入れるべく旅立つのである。さらばー、地球よー。異人の肌は、青ではなく、金色だけど。手に入れに旅立つのは、コスモクリーナーDではないけれど。でも、地球を旅立つ時に、攻撃を受けてあわたやられたか!というところをギリギリでかわしてみたり。目的の物を手に入れて地球に戻っても、事態は根本的には解決せずに、続く…、となるところも一緒。てっきり、敵の本拠地は目的地の隣だと思ったなぁ。おそらく「さらば…」とか「…よ永遠に」なんてのが続くんだろう。
地球にすでに潜入しまくっている敵をかわしつつ、地球や監獄惑星で仲間を集め、目的の巨大戦艦にまんまと乗り込み、
うまくだまくらかして地球まで帰ってくる。まあそれだけ。もっとスパイ風に、そしてだましだまされと展開すれば、少なくともストーリーとしては面白かったかも。でも、妙に仲間内での人間関係にページを割きすぎ。
あと巨大戦艦のコンピュータが、あまりに阿呆すぎ。
●「帰還兵の戦場2」ギャビン・スミス著、創元SF文庫、2016年6月、ISBN978-4-488-76102-8、880円+税
2016/6/20 ☆
「帰還兵の戦場1」の続き。原書を3分冊で発行する2冊目。「帰還兵の戦場1」で、少女と共に(地球に侵入した異星人を伴って)追われる立場になった帰還兵の主人公。この巻では、なぜか仲間が増えていき、格好良かった主人公がどんどん格好悪くなっていく。そもそもマッドマックスみたいな世界を、どうしてウロウロする必要があったのかよく分からない。仲間を集める巡礼ってことだろうか。仲間に加わってくる理由も分からなければ、根拠薄弱な反転攻撃に登場人物たちが命をかける理由も分からない。
途中から途中までの2巻目だけでの評価は難しい。そして、もちろん今後の展開では、評価が上がる可能性は残っている。 でも、なんとなく分かってきた戦争が始まった理由は、まあ予想通り。あとはネットの神に期待するしかないのか?
●「ガンメタル・ゴースト」ガレス・L・パウエル著、創元SF文庫、2015年12月、ISBN978-4-488-75901-8、1300円+税
2016/6/13 ★
第二次大戦中の英空軍を模したゲーム。脳を一部をジェルウェアに置き換える技術。その発展形としてのジェルウェアに人格を転写する技術。空飛ぶ国家とも言える飛行船。こうしたガジェットを軸に、フランスをも統合したイギリスの王子が、いわばお家騒動に巻き込まれる。
拡張現実SFと銘打ちゲーム世界と現実世界の両方を描くなら、ディックばりに現実とは何か?という話に展開しそうなものなのだけど、現実はきっちりと現実のまま。それでいて、悪者達は意味不明の大胆計画を推し進めている。それ自体が非現実的に思えてならない。ただ、人格転写技術の延長として、死の概念が曖昧になる雰囲気が少し出てくるのは面白い。続編があるらしいので、新たな生の形が描かれ始めるなら、もっと評価できるかもしれない。
●「亡霊星域」アン・レッキー著、創元SF文庫、2016年4月、ISBN978-4-488-75802-8、1200円+税
2016/6/12 ★
デビューで賞をそうなめした「叛逆航路」の続き。銀河帝国の皇帝から任命された艦隊司令官が、派遣された星系で世直しと、異星人が絡む陰謀に挑む。というストーリーには違いないのだけど、その艦隊司令官は実は人間ではなく宇宙戦艦のAIだし、皇帝は分裂して二手に分かれて戦っているし、人の人格を破壊して乗っ取る属躰の技術、性別を区別しないラドチの文化。さまざまな背景を知らないと、とても読めない。そして、複雑な背景に基づいた多視点的な記述、文化の違いを押さえた人と人の複雑な関わり。それこそがこの作品を他と異なったものにしている。
何が何やら分からないままにストーリーが進んでいく「叛逆航路」よりも読みやすく楽しめる。ただし、「叛逆航路」を読んでいないと理解できない。
●「ボーン・アナリスト 骨を読み解く者」テッド・コズマトカ著、ハヤカワ文庫SF、2016年5月、ISBN978-4-15-012069-6、1140円+税
2016/6/11 ☆
人骨オタクの主人公が、インドネシアのフローレンス島の発掘現場で、謎の人骨と出会う。それを調べようとした矢先、人骨は失われ、追われる立場に。なんとかアメリカに帰り着いた後は、主に密かに持ち出した謎の人骨のサンプルを、密かに分析しようとする主人公が再び追われ、命を狙われる。
全体を通じた大きな仕掛けがあるにはあるのだけど、それに基づく矛盾点の指摘が随所に出てくるのだけれど、その問題は掘り下げられない。ストーリーにも結末にも関係ない。なんのための仕掛けなのか意味不明。
結局のところ、いらんことに首を突っ込んだ主人公が逃げ回り、周りで関係者が軒並み殺されまくる。それ以外に大したストーリーはない。「ドクターモローの島」を何も超えてない。主人公はなんにも骨を読み解かないし。
●「光速艦インパルス、飛翔!」デイヴ・バラ著、ハヤカワ文庫SF、2016年5月、ISBN978-4-15-012071-9、1100円+税
2016/6/7 ☆
いわばある星の王子様的地位にある主人公。サッカーはプロになれるレベル、女性にはモテモテ、士官学校ではずっと首席。とまあ非の打ち所のない主人公が、宇宙軍に入っても活躍しまくるって話。無意識かしらんけどモテまくる利点をいかして、宇宙船内の人間関係も外交もこなす姿は、まるでどっかのビジネスマンガを思い起こさせる。「宇宙士官S耕作」というタイトルが適当。
●「第二進化」(上・下)A・G・リドル著、ハヤカワ文庫SF、2016年4月、(上)ISBN978-4-15-012065-8(下)ISBN978-4-15-012066-5、(上)780円+税(下)780円+税
2016/6/7 ☆
「アトランティス・ジーン」三部作の第1部。出だしは、世界企業を隠れ蓑にした世界的テロ組織と、 各国の諜報機関をも配下にする世界的対テロ組織の戦い。対テロ組織が壊滅の危機に陥り、その中でメンバーの一人である主人公は、テロ組織の陰謀の秘密を握る女性研究所を救い共に逃げることに。
大昔から存在する謎の組織イマリ。地球の人口を強引に減少させてボトルネック効果を通じて人類を強引に進化させようとする計画。ジブラルタルと南極をつなぐ謎の古代技術。そしてアトランティスの流れをくむ遺伝子を受け継ぐ者。楽しげな仕掛けが次々と繰り出される。繰り出されてみて分かるのは、何でもかんでもぶち込めば面白くなるって訳でもないんだなぁ、ってこと。なんかどこかで見たような展開にしか思えない。映画になったらそこそこヒットはしそう。
●「SF JACK」日本SF作家クラブ編、角川文庫、2016年2月、ISBN978-4-04-103895-6、920円+税
2016/6/5 ★
日本SF作家クラブ50周年記念出版として編まれた、世代を超えた書き下ろしアンソロジー。11編が納められている。
死者をメモリアルアバターとして残す影響を考える「楽園(パラディスス)」。ヴァーチャル技術が発達して、人同士の直接の接触が失われつつある世界を描いた「リアリストたち」。長年働いてくれたアンドロイドとの別れを描いた「さよならの儀式」。さほど遠くない未来、特定の技術の発達が人の暮らしと心をいかに変えるかを描いた作品に惹かれる。あと気になったのは、「宇宙縫合」。関空のみならず、萩ノ茶屋や蕎原といった地名が出てくる。SFにこんな大阪の地名が出てくるとは! あと印象的だったのは、「あの懐かしい蝉の声は」。新井素子の作品はデビューの頃から読んでいる。最初に読んだ中学生の頃は、あの文体が目新しく気に入っていたのだけど、いま読んでみると、なぜかイライラする。あの頃の自分とは違うんだなぁ、とちょっと切ない。
●「失われた過去と未来の犯罪」小林泰三著、角川書店、2016年5月、ISBN978-4-04-103469-9、1600円+税
2016/6/5 ★★
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●「オービタル・クラウド」(上・下)藤井太洋著、ハヤカワ文庫JA、2016年5月、(上)ISBN978-4-15-031228-2(下)ISBN978-4-15-031229-9、(上)680円+税(下)680円+税
2016/5/31 ★★
衛星軌道で密かに進められる陰謀。衛星軌道上の物体を監視している趣味人のデータから、その陰謀を察知した主人公が、相棒の天才技術者と、なぜかコンタクトをとれたCIAとともに陰謀に立ち向かう。基本的な骨格は技術者が中心となったスパイ小説なんだけど、壮大な技術背景とビジョンによってSFとして成立している感じ。
軍隊スペックで宇宙を衛星軌道を監視する趣味人やら、宇宙産業に乗り出すべく自らの宇宙船を打ち上げる起業家、といった大金持ちも印象的だけど。圧倒的な技術力を持ちながらも日本で冷遇され、心ならずも敵味方に分かれることになる技術者たち。それは日本の技術者の現状を反映しているようで、切ない。
それ以上に応援してしまうのは、イランで独りがんばる研究者。インターネットにつながらず、まともなコンピュータもないので紙と鉛筆で軌道計算をし、お金がないので手作り気球を上げて実験を繰り返し、その中から斬新な理論を打ち立てる。自分の理論を発表したくてもできず、世界の研究者とつながりたくてもつながれず。世界はどれほど進んでいるのだろうと思いをはせる姿が、あまりに切ない。ようやく自分の理論を議論できる相手が見つかった時の喜びと、悲しみ。泣きそうになってしまった。
●「帰還兵の戦場1」ギャビン・スミス著、創元SF文庫、2016年5月、ISBN978-4-488-76101-1、880円+税
2016/5/21 ☆
地球規模の核戦争「最終人類間戦争」後の荒廃した地球。宇宙に拡がった人類は、謎の異星生命体<やつら>との戦争に突入。戦争は激烈で、多くの戦死者が生じ、次々と地球から兵隊が投入され消耗されていく。荒廃した地球では、一部の冨を持った者が、圧倒的多数を消費し続けている。<やつら>との戦いからの元特殊部隊の帰還兵である主人公は、現役に引き戻され地球に侵入した<やつら>の1体を追うという指令を受ける。やがて主人公は、偶然巻き込まれた少女とともに追われる立場になる。
原書を3分冊で発行するらしい。1冊目だけでは、何も解決しない。<奴ら>の正体と戦争が始まった理由、そして<奴ら>が地球にもたらすもの。謎だらけのまま何も解決しない。解説にあるように、宇宙での地獄から戻った男が、地球の地獄で逃げ回る。とても暗い。ただ、今後の展開では、評価が上がる可能性は残っている。
●「スチームオペラ」芦辺拓著、創元推理文庫、2016年4月、ISBN978-4-488-45606-1、860円+税
2016/5/17 ★
電磁気学や内燃機関ではなく、エーテル物理学と蒸気機関が発達したビクトリア朝のイギリスのような世界が舞台。SFでいうところのスチームパンクで、本格推理小説。スチームパンクな世界が舞台だから、ホースオペラやスペースオペラにならってスチームオペラなんだそう。著者が後書きで曰く、「天空の城のラピュタ」の本格ミステリ版なのだそう。幸いバルスはかろうじて回避される。
主人公の女学生は、宇宙空間で保護された謎の少年と共に、当代一の名探偵の助手見習いとして、お金持ちのお嬢様を巻き込みつつ、ホテルの密室殺人事件をはじめとする不可能犯罪に立ち向かう。
本格推理物かもしれないけど、謎解きを楽しむというより、この不思議な異世界と大時代な語り口を楽しみ、殺人事件の謎よりもこの世界の謎を楽しむ感じ。そういう意味では、推理物というよりはSFというカテゴリーに近い気がする。
とりあえず、この世界の謎の1つは久しぶりに聞くそれですか〜、って感じ。なのはいいけど、最後に明かされるこの世界の秘密には、ええーっ!と思わず声が出てしまった。最後にそんなギャグを出してくるとは。あとがきに著者が、めっちゃ好きに書かせてもらったと書いているけど、ほんとにねぇ。という感じ。
●「セルフ・クラフト・ワールド2」芝村裕吏著、ハヤカワ文庫JA、2016年4月、ISBN978-4-15-031227-5、720円+税
2016/5/13 ★
「セルフ・クラフト・ワールド」第2巻は、リアル日本でのゲーマーあがりの首相を中心とする物語と、変貌した「セルフ・クラフト・ワールド」での超戦士の物語が交互に語られる。なぜか首相は公的秘書のAIに迫られ、超戦士は可愛い魔法使いだか巫女だからにまとわりつかれる。そして、リアル日本でも、「セルフ・クラフト・ワールド」でも最後に衝撃の展開が。
ストーリー自体は、上にざっと書いたのですべて、人とAIとの恋愛ばっかりが目立つ。展開は、最後の数ページだけ読めば充分。と言っても過言ではないかなり薄っぺらいもの。
人が自分自身を「セルフ・クラフト・ワールド」に移植できるか、というのが大きなテーマのはずだけど。心や意識の問題は、ほぼ触れられずに流される。そんな中で、「セルフ・クラフト・ワールド」への移住を考える人がいるという展開が、さっぱり共感できない。
●「セルフ・クラフト・ワールド1」芝村裕吏著、ハヤカワ文庫JA、2015年11月、ISBN978-4-15-031211-4、720円+税
2016/5/9 ★
異世界でRPGを、多くの人が楽しむオンラインゲーム「セルフ・クラフト・ワールド」。そこでの登場人物(NPC)や生物が変異・増殖する設定を持ち込んだおかげで、進化が生じるようになり、そこで生まれた生物資源が現実世界で価値を持つ。その価値に現実日本の産業が依存するようになった未来3部作。
この巻では、突出した価値をもった日本の「セルフ・クラフト・ワールド」が、外国からの襲撃を受けるというストーリー。全体的には世界の紹介に重点が置かれる。そしてなぜか主人公とNPCとの恋愛話が進行していく。
チクワの適応放散は面白いけど、進化のメカニズムがさっぱり見えない。どうして日本の「セルフ・クラフト・ワールド」でだけうまく行ってるのかも分からない。進化がキーの話なのに、進化をまともに扱っていないのが、気になってしようがない。
●「ロックイン 統合捜査」ジョン・スコルジー著、早川書房、2016年2月、ISBN978-4-15-335025-0、1600円+税
2016/5/9 ★
とあるウイルス病の蔓延で、身体の自由がきかない人々が大量発生。さらに他者の意識を受け入れて、操り人形になれる人も発生。そのウイルス病は治せないが、身体の自由がきかない人々が、意識を投影して活動するための個人輸送機は発達した世界。
そこでの殺人事件を追うウイルス病生き残りの連邦捜査官二人。その片方が主人公。これが有名な大金持ちの子どもで、上流階級とつながりや、金にあかせて捜査を展開する。なぜかマイクル・ヴォルコシガンシリーズを思ってしまう。ハンディキャップを持ちつつも、恵まれた部分も持っていて、それをある意味活用して大活躍。当然ながら面白い。
他者の精神を受け入れて乗り物としてふるまえる人々の存在が、ミステリに新しい要素を付け加えていて面白い。意識を投影すればいいだけの個人輸送機の存在が、旅行に与える影響も面白い。ウイルス病でのハンディキャップを持った人々専用の仮想世界の可能性については、まだまだ掘り下げが少なめだけど、それはこれからのシリーズで展開されるのかな?
●「楽園炎上」ロバート・チャールズ・ウィルスン著、創元SF文庫、2015年8月、ISBN978-4-488-70609-8、1380円+税
2016/5/8 ★
地球の上空を薄く覆う異星生物。それが通信をコントロールして、人類を自分の都合のよい方に誘導。それに気付いた人々は秘密組織を作って、その生物を研究し対抗しようとするが、異星生物が投入した模擬人類(シミュラクラ=シミュ)に襲われた。それから数年後、生き残った秘密組織関係者は、アメリカ各地に隠れ住んでいたが、再びそこにシミュが襲いかかる。命からがら逃げた子ども達、異星生物の基地に決死の攻撃をかけようとする秘密組織の生き残り。そこに異星生物の寄生者まで絡んで、事態は思わぬ方向へ。
と書くと、ものすごく面白そう。人間に見えても、実は異星生物に操られているかもしれない。他の人間が信じられない恐怖。古き良き侵略物の名作を思い起こさせる設定に、ドキドキしながら読み始めたのだけど。なんか欲求不満だけが募る。人間関係の問題満載の逃避行を描いた第1部、ずさんな攻撃計画が描かれる第2部、そして、なんだかあっけない第3部。最後に衝撃の事実がある、といえばあるんだけど、それを知ってから読み返すほどの仕掛けでもない。そもそもどうしてこんなタイトルなの?
惑星を覆う生物とその寄生者の生態と生殖様式は、とても面白かったんだけど、なんか物語が…。
●「クロニスタ 戦争人類学者」柴田勝家著、ハヤカワ文庫JA、2016年3月、ISBN978-4-15-031222-0、800円+税
2016/4/18 ☆
すべての人が体の中にネット環境を持ち、人類全体で感情までも共有できる“自己相”という技術が発達した世界。心にトラウマを抱えた人は、感情の総体に負の感情を捨てて、その前の自分の心に再復する。“自己相”を持たない者は、難民と呼ばれ、迫害され、次々と“自己相”を植え付けられていく。
“自己相”を持たない難民に、“自己相”を押しつけようとする軍隊。その中で、難民への共感を持ちつつも軍隊の走狗として活動する人類学者。そんな主人公が、謎の少女と出会って、道を踏み外していく。ってところ。
“自己相”を使って,相手を操ったり攻撃したり。どうしてその技術を主人公だけが繰り出してるんだろう? その技術を使って戦い合えば面白いのに。どうして主人公だけが、他の人と違う妙な思想を維持してるの? そもそも、“自己相”が発達したら、人の心のあり方、人という存在自体ももっと変わってしまうんじゃない? それが殺意がらみのあれだけって。
謎の少女も不思議すぎる。なんで主人公になついたのかも分からないし、その行動原理が謎すぎる。そして、認知速度が少し違う程度で、脳容量が少し違う程度で、そこまで違いが出るとは思えない。未来が分かってしまったら云々も、さっぱり納得できない。全体的に、さっぱり納得できない。“自己相”とか再復とか面白いアイデアだと思うのに。
●「遠隔機動歩兵 ティン・メン」クリストファー・ゴールデン著、ハヤカワ文庫SF、2014年4月、ISBN978-4-15-012064-1、1200円+税
2016/4/17 ☆
アメリカが最前線に世界の紛争地帯に投入した、遠隔で操作する強力な人型兵器ティン・メン。死を恐れること無く、世界中でアメリカの正義が押しつけられ、アメリカに押しつけられた平和が維持される。その陰で拡がっていくアメリカへの憎しみ。アメリがを憎む勢力が、ついに人工衛星を使って全地球規模の攻撃を仕掛け、世界の文明は壊滅の危機に陥る。その中で、ティン・メンに何故か取り残された主人公達の部隊が、中東からドイツへ決死の突破をはかる。
設定はけっこう面白げなのに、展開がまるで楽しくない。ティン・メンが狙われ、やり返し、次々と人が死んで、ティン・メンがバラバラになっていくだけ。最後もなにも解決しない。世界は混沌のままなのに、その中で何故か主人公の恋愛が成就?してハッピーエンドなの? 大使のエピソードいらないし、大統領もドイツでどうする気やねん、って感じ。
●「深紅の戦場2 勝利の代償」ジェイ・アラン著、ハヤカワ文庫SF、2016年3月、ISBN978-4-15-012060-3、840円+税
2016/4/11 ☆
「深紅の戦場」の続編。宇宙を舞台にした地球の列強諸国の戦い。ってゆう横軸に、各国の現場で戦う軍隊と、本国で偉そうに他国をそして自国の軍隊まで陥れて支配しようとする政治屋という縦軸が加わる。味方に足を引っ張られながらも戦い、逆境を乗り越えて勝利する海兵隊の強者達。ってことで、アメリカの海兵隊という名の宇宙軍が、三人の英雄に率いられて、多数の犠牲者を出しながら勝利する。前編の主人公が今回も無茶な戦いを生き抜く。
●「ウルトラマンデュアル」三島浩司著、早川書房、2016年1月、ISBN978-4-15-209594-7、2000円+税
2016/3/27 ★
光の国からやってきて、地球を守るために戦ってくれる宇宙人がウルトラマン。ウルトラマンが地球人に憑依してることはあるけど、怪獣を退治してくれるのは、あくまでも宇宙人。でも、このウルトラマンは違う。なんと地球人がウルトラマン化する。いっぱい小さなウルトラマンやウルトラウーマンが生まれ、その中にごく一部、巨大化して戦うことのできるウルトラマンが現れる。まあ、光の国の聖者が地球人をウルトラマン化させるんだけど。
光の国の宇宙人(良い者)と、それに刃向かう宇宙人(悪者)。双方が地球にやってきて、難破状態。ともに本星に救援を求めた上で、地球上でいがみ合い。地球人を支配する悪者、飛び地のような領土に立てこもる良い者。中立を維持しようとする地球人が多い中で、良い者を支援したり、ウルトラマン化する人々。
テレビのウルトラマンシリーズの設定を盛り込みつつSFに仕立てて見せた一冊。面白いんだけど、結局軸はラブストーリーかい!と突っ込んでみたり。
●「月世界小説」牧野修著、ハヤカワ文庫JA、2015年7月、ISBN978-4-15-031198-8、980円+税
2016/3/15 ☆
空想によって新たな世界が実際に生まれる。ニホン語を消滅させてニホン人を消滅させようとする神との、言語を武器にした戦い。そして訳のわからないたくさんの世界で、日本が、ニホン人が、ニホン語が語られる。
日本SFに時々見られる現実がなにやら分からなくなるパターン。山田正紀が解説していることが、これがどんな小説家を示しているんだろう。日本語版ディックの世界ってところか。誰もニホン語を知らずに、英語を喋っている世界は面白かったんだけど、その後の展開が…。この手のストーリーにはよくある感じにはまっていく。
●「ラグランジュ・ミッション」ジェイムズ・L・キャンビアス著、ハヤカワ文庫SF、2016年2月、ISBN978-4-15-012054-2、920円+税
2016/3/13 ★
月で採掘したヘリウム3を、地球に運ぶ途中、ラグランジュポイントで奪おうとする海賊、それを阻止しようとする軍。といった感じで、宇宙の海賊の話。ではあるけど、宇宙で動いているのは、無人の小さな衛星や宇宙船。海賊も軍も、悪者も良い者も、地球から遠隔操作でのやり取り。それでいて、緊迫した宇宙での戦い(ってゆうか一部実力行使付きのハッキング合戦)と、それをめぐる地上での陰謀や戦いが繰り広げられる。
宇宙にいかない宇宙海賊。どっかの王立宇宙軍のよう。最初は過去の因縁がある二人が、海賊と軍に別れて決着を付けるのかと思ったら、予想外の展開。終わりには感動の展開が盛り込まれている。のだけど、宇宙海賊がもっとしっかりしてたら、よかったのにって思った。
●「異種間通信」ジェニファー・フェナー・ウェルズ著、ハヤカワ文庫SF、2016年1月、ISBN978-4-15-012048-1、1000円+税
2016/3/12 ★
小惑星帯に謎の異星からの宇宙船が発見され、コンタクトするべく6人の男女が向かう。と普通にファーストコンタクト物かと思いきや、なぜかメンバーの内の一人の言語学者だけがコンタクトに成功。ってゆうか、テレパシーな感じで異星人と交信。他のメンバーから正気を疑われ、チームはぎくしゃく。本人も現実が何か分からなくなり。異星人の目的は何か? はたしてファーストコンタクトはうまくいくのか?
って話かと思ったが、チーム内のいざこざメインのファーストコンタクトものって側面もあるけど、ス物語はなぜか、おもにラブストーリー中心に進行するような。それもメゾン一刻ですか?って感じのすれ違いラブストーリー。
これがディックなら、現実がなにか分からないまま、意味不明の結末になだれ込みそうなのだけど、それなりに話は収束する。ってゆうか、この話は長い話の序章に過ぎない感じ。最初のバック・トゥ・ザ・フューチャーの終わりのように。to be continued!
●「叛逆航路」アン・レッキー著、創元SF文庫、2015年11月、ISBN978-4-488-75801-1、1300円+税
2016/2/5 ★
宇宙に広がった人類の文明世界を支配し、さらに新たな世界を併呑し続ける専制国家ラドチ。その宇宙戦艦のAI(の属躰)が、人間の体をまとって、ある種の復讐をもくろむ。
併呑した世界の捕虜の人格を消去して、AIの人格を転写された存在を属躰。多数の属躰を操って人間に奉仕する船というアイデアが面白い。ラドチの支配者もまた多数の躰に分散した人格として存在する。そして、その支配者にはある秘密が…。
まあまあ面白いけど、英米のSF関連の賞7冠。というほど、すごいわけでもない。登場人物の行動の動機も分かりにくいし、ってゆうか、基本は恋愛模様を描いてるのか?
●「母になる、石の礫で」倉田タカシ著、早川書房、2015年3月、ISBN978-4-15-209520-6、1700円+税
2016/1/27 ★
3Dプリンタが極限まで発達した未来。身の回りの物だけでなく、食べ物も、生物も自由に生み出せる世界。地球を飛び出して、宇宙への進出をもくろんだ一団が、生み出した2世たちが主人公。
材料さえあれば、3Dプリンタで何でも生み出せる中、自らの体も自由に改変。人を含む生物体を生み出すのも3Dプリンタだからか、3Dプリンタを”母”と呼ぶ子どもたち。
テクノロジーの発達が社会や、人の認識までを改変していく様子が描かれるのは、とても面白い。でも、描かれるのは地球から孤立した一群の様子だけ。
3Dプリンタの発達の結果、ヒトと呼べる存在がまだ生き残っているか分からない地球、宇宙へ飛び出したヒトが次々と駆け込んでいる土星の社会。そうした魅力的な設定の伏線を張りながら、充分には描かれない。とてももどかしい。
●「ユートロニカのこちら側」小川哲著、早川書房、2015年11月、ISBN978-4-15-209577-0、1600円+税
2016/1/4 ★★
アメリカにできたアガスティアリゾートという特別区をめぐる6篇の連作短編集。個人情報の使用権を託す情報銀行が発達し、個人が情報等級で評価される世界。個人が目にするもの、耳にするもの全ての個人情報の権利を売り飛ばす代わりには働くことなく暮らせるのが、アガスティアリゾート。トイレと風呂場以外でのプライバシーが一切ない状態がなにをもたらすのかが描かれる。
同時に重要なのが、BAPと呼ばれる犯罪抑止システム。そして、人にベストの選択を提案する携帯端末サーヴァント。判断をすべてコンピュータ任せにする人々、犯罪を犯さなくてもその傾向があるだけで、監視がつく世界。そんなシステムの中でも平気で暮らせる人々。一番怖いのは知らぬ間に人の価値観やものの考え方が変わること。想像できることがシフトすること。そんなメッセージが繰り返される。
各章の間に挟まれるインターミッションが、各章をつなぎつつ、かなり興味深い。 第五章と第六章の間には、ドーキンスが出てくる。プライバシーがぜんぜんない世界では、フリーライダーが存在できなくなる。そこでは、フリーライダー対策として進化してきた様々なヒトの能力が不要になる。意識まで失われるというのは極端としても、その観点からどんな社会になるのか考えてみるのは面白そう。
付け加えると、巻末に第3回ハヤカワSFコンテストの選評が載っている。この作品を読んだ後、選評を読むとけっこうトンチンカンに思える部分がある。かなりの書き直しをしたのか、選者がトンチンカンなのかどっちだろう?
●「波の手紙が響くとき」オキシタケヒコ著、早川書房、2015年5月、ISBN978-4-15-209538-1、2100円+税
2016/1/2 ★★
武佐音響研究所に持ち込まれる音に絡んだ4つの事件をめぐる連作短編集。
最初の2篇は、それぞれエコーロケーションをできる人、超音波の特性、SFではなくミステリと呼んでもいい内容。一転して、後半の2篇はSF色が強くなる。音楽で人を操作するというアイデアはとても魅力的、さらに音(波)にアプリケーションを載せて、受け取った側を操作することでメッセージを伝えるとまで行くと、もうさらに色んな展開が期待できそう。
魅力的なキャラクターと設定、アイデアなので、この連作短編はまだ続くかも。
●「世界の涯ての夏」つかいまこと著、ハヤカワ文庫JA、2015年11月、ISBN978-4-15-031212-1、660円+税
2016/1/1 ★
異次元からの浸食者<涯て>が突如現れ、世界は滅亡の危機に陥る。人の脳をプロセッサとして連結して、かろうじて均衡を保っているかにみえる世界。プロセッサ役の老人、その子ども時代、3D人物モデルデザイナーの3つの視点で、交互にストーリーが進む。あとガイアの独り言とか。
なぞの美少女ミウ。その正体はまあ、予想できる範囲。どうして主人公の前にミウが現れたのか、という謎は残る。<涯て>が妙に人を理解している割には、人へのアプローチが中途半端なのも気になる。そして、人による推論機能をまとめぶつければ、<涯て>に対抗できるかの説明も苦しい。なぞの美少女ミウだけで最後まで読ませる。美少女強し。