SF関係の本の紹介(2000年上半期分)
【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】
●「銀河おさわがせマネー」ロバート・アスプリン&ピーター・J・ヘック、2000年、ハヤカワ文庫SF、820円、ISBN4-15-011310-6
20000527 ☆
「銀河おさわがせ中隊」「銀河おさわがせパラダイス」に続く、第3弾。宇宙軍のダメ中隊が、有能な大富豪の中隊長のおかげで、有能な中隊になって、大活躍して大儲けする話。脳天気に楽しく読めます。でも、SFじゃない。
●「みるなの木」椎名 誠、2000年、早川文庫JA、560円、ISBN4-15-030637-0
20000518 ★★
14編が収められた短編集。あとがきによると、現代のこの世界を舞台にしたちょっと変な話と、どこかの世界の最終戦争後の話の2系統の短編が混ざっている。後者の系統の話では、奇妙な生物の奇妙な生態が描かれていて、とてもおもしろい。
●「アンドリューNDR114」アイザック・アシモフ&ロバート・シルヴァーバーグ、2000年、創元SF文庫、700円、ISBN4-488-60410-2
19980517 ☆
「夜来たる 長編版」と同様で、アシモフの有名な中編「バイセンテニアル・マン」を、シルヴァーバーグが長編化したもの。映画化もされた。大量生産の家庭用ロボットの1台が、なぜか芸術的才能を持っていて。有力者であった所有者が、そのロボットに人間と同じ権利を獲得しようとする。その後は、そのロボット自身がどんどん人間と同じ権利と機能を獲得しようとする。その行き着く先は、予想通り。
元の中編をあまり覚えていなかったので、それなりに読める。でもやっぱり長くする必要があったとは思えない。
●「時の扉を開けて」ピート・ハウトマン、2000年、創元SF文庫、660円、ISBN4-488-71401-3
20000510 ☆
アル中で、妻に暴力をふるいまくる夫がいて、で、ついに夫は妻を殺してしまう。その息子は、たまたま過去に行ける秘密の扉の存在を知っていて、母の死のショックをきっかけに過去に行ってしまう。となると、過去に戻って母の死を阻止しようとするかと言えば、そうではなく、話はどんどん予想外の展開をします。あんまり展開に必然性がない。
と思ってたら、後ろの菅 浩江の解説によると、この話全体がアダルト・チルドレンの回復のプロセスを描いているのだそうな。この解説の方が、物語自体よりも読みごたえがある。
ともかく、話のはじめの1/3は、アル中の夫が暴力をふるっては反省し、また暴力をふるうの繰り返し。妻は、何度だまされても、もう酒は飲まないという夫の言葉を信じる。このあたりがさっぱり理解できない…。
●「ブレードランナー2 レプリカントの墓標」K・W・ジーター、2000年、早川文庫SF、740円、ISBN4-15-011307-6
20000502 ☆
ディックの「アンドロイドは電気羊夢を見るか」ではなく、タイトル通り映画の「ブレードランナー」の続編。レイチェルと逃げたデッカードが、再び戻ってきてレプリカントを追いかける羽目になる。それだけ。
●「人獣細工」小林泰三、1999年、角川ホラー文庫、495円、ISBN4-04-347002-9
20000429 ★★
「人獣細工」「吸血狩り」「本」の3編を収めた短編集。よく鳥や哺乳類の皮を剥くのやけど、「人獣細工」はさすがに恐い。つぎはぎが恐いんやなくて、自分が何かわからんのは、恐い。「吸血狩り」はまあ普通。「本」はおもしろい。ディックにもこんな感じのがあったような。
●「玩具修理者」小林泰三、1999年、角川ホラー文庫、480円、ISBN4-04-347001-0
20000412 ★
「玩具修理者」と「酔歩する男」の2編を収めた短編集。よく鳥や哺乳類の皮を剥くので、「玩具修理者」ですら、まったく恐くない。生物と非生物に関する議論は、無邪気やな、って感じ。なぜサングラスしてるかはすぐに想像がつくし。まあどちらもそれなりにおもしろかった。世が世ならSFとして売られたと思う。
●「二重螺旋のミレニアム」清水義範、2000年、マガジンハウス、1600円、ISBN4-8387-1200-6
20000412 ★
21世紀半ばの日本。環境省の外郭団体の近未来研究局の職員と警視庁の刑事が狂言回し役で、10の短編が収められている。脳に影響を与えるドラッグやゲーム、若返りと不死、遺伝子操作、人工生命など、多くは生命に関わるテーマを取り上げたSF仕立ての話。それほど目新しいアイデアはなく、まとまりもないけど、そこそこ読むことができる。
●「星の海を君と泳ごう 時の鐘を君と鳴らそう」柴田よしき、2000年、アスペクト、2200円、ISBN4-7572-0688-7
20000411 ☆
人類が恒星間宇宙に広がった未来の話。地球からはるか170光年離れた場所で、人類と同じ起源を持つ異星人と遭遇している。どうやら地球でクロマニヨン人が現れた頃に、どうにかして170光年離れた星に移住したらしい。という謎を背景に、恋愛と冒険話が進む。といったところ。タイトルの前半と後半がそれぞれ収められている中編のタイトル。
作品中で本人が言っているように、何の役にも立たないちょっとかわいいだけの女性が主人公。ただただ周りの男や女友達に引っ張り回されているだけ。設定された大きな謎も、社会や政治の問題点も、何も少しも解決されない。目の前の事件が収まって、主人公の恋愛が少し進むだけ。この話は何なの?
●「言壺」神林長平、2000年、中公文庫、933円、ISBN4-12-203594-5
20000409 ★★
文章書きにまつわる話が10編(9編というべきか?)収められた短編集。その多くにワーカムと(たいてい)呼ばれる万能著述支援用マシンがでてくる。このワーカムは、単なるワープロやアイデアプロセッサーではなく、充分学習させておけば、いくつか要素を入れるだけで小説を書き上げてくれるほどの優れ物。さらに通信を通じた外部とのやり取りまで代行してくれて、やがて人はワーカムとだけコミュニケートするようになる…。みたいな感じで、いろんな話が語られる。
人は言葉によって世界を認識している。言葉が変わると、人の世界認識が変わる。だけでなく世界そのものが、言葉によって変容する。そして人の言葉を支配したワーカムは世界を支配する。このイメージがお気に入りです。
それから【人+ワーカム】の神林らしいマン・マシン共生体のイメージもいいです。ただ、最後では共生体ではなく、マンVSマシンの闘いのようになっています。共生体として進化した遠未来のイメージが描かれた方がよかったのに…。
●「月の裏側」恩田陸、2000年、幻冬社、1800円、ISBN4-87728-398-6
20000408 ★★
九州の水郷都市で、人間が失踪して数日後に戻ってくるという事件が立て続けに起きる。調べていくうちに明らかになる水に住み着いている謎の存在と、それによって人間が次々と「人間もどき」と置き換えられている事実。徐々に恐るべき事実がわかってきて、ついににカタストロフが訪れ、最後に…。という話。初めは心理サスペンス風やけど、後半はかなりヴィジュアル的に印象的なシーンが連続する。映像化されそうな感じ。帯にはホラーと書いてあるけど、そんなに恐くはない。
作品中で何度も言及されているように、設定はジャック・フィニィの「盗まれた街」に似ている。あと居住者が知らぬ間に「人間もどき」に入れ替わってしまう恐怖は、ウルトラセブンにそんな話があった。それから、集合無意識による人類の変容というイメージが、梶尾真治の「OKAGE」を。一つの町の住人が次々と人間以外の存在になって行くというイメージは、小野不由美の「屍鬼」も思い出させる。他にもいっぱいありそう。意識的にやってそうな気がする。
気に入ったのは、「周囲から受けとる情報を自分の中で処理する時に、通常とは違う組み立て方をする人は、幻ではなく本当に別のものが見える」という議論。そして大多数にとって”見えた”ことが、事実とされる。この作品では、起きなかった事件が描かれてるってことになるんでしょう。誰もが気づかない(振りをしている)間に、人類が変容していく。それが、一番恐いかも。
気になる設定や解決されない謎は多いけど、それでもおもしろい。
●「ミクロパーク」ジェイムズ・P・ホーガン、2000年、創元SF文庫、980円、ISBN4-488-66322-2
20000406 ★
ナノマシンならぬ、ミクロサイズのマイクロマシンのテクノロジーを利用したテーマパークを作ろうとする企業と、その技術を奪い取ろうとするライバル企業の争い。を家族の対立のレベルで描いたって感じか。結局は、子どもが活躍して、ライバル企業の陰謀を阻止する。悪者ははっきり悪者、味方の大人はおおむね頼りない。
マイクロマシンに人間が神経接続して直接操るってゆうのがミソ。ミクロの決死圏とまではいかないけれど、昆虫と戦ったり、狭い室内で大冒険ができる。単に小さくなるだけでなく、摩擦力の比重が増すなど物一つを動かすにしても勝手が違う世界での、さまざまな問題解決の仕方が面白いところ。
でも全体にSF的なアイデアの突っ込みが足らないと思う(驚きが少ないゾ!)。物語は前半退屈、最後は一気に盛り上がるけど、アメリカ的なエンターティンメント小説みたいな感じ。
●「フレームシフト」ロバート・J・ソウヤー、2000年、ハヤカワ文庫SF、880円、ISBN4-15-011304-1
20000326 ☆
ヒトゲノム計画、ナチスによるユダヤ人虐殺、ハンチントン病、テレパシー。最後に一つにまとまって壮大なヴィジョンが。と思いきや、遺伝子つながりはあるものの、とくに関係はありません。一つの陰謀が暴かれるまでが描かれるサスペンスといったところか。ストーリーは、まったくSFではない。
唯一SF的なのは、フレームシフトによる進化のシステム。これにテレパシーを絡めて、もっとSFらしい小説にもできたろうに…。
●「焔の眼」マイクル・ビショップ、1982年、早川書房、1400円、ISBN4-0397-880440-6942?
20000320 ★
「翼人の掟」と同様、長い間探していたけど見つからなかった本。またしても大阪市立図書館にありました。人類が宇宙に広がりインターステルという連邦(?)をつくっている未来。ヒューマノイドの住む惑星グラ・タウスに、企業の代表として惑星開発の交渉のために派遣された主人公らが、トラブルに巻き込まれる。接収された宇宙船を返してもらう代わりに、特使としてもう一つのヒューマノイドの住む惑星トロープに派遣される。そして今度は、惑星トロープでの、少数派への弾圧に巻き込まれてしまう。といった話。
文化人類学的SFと評されるだけあって、読み所はトロープ人の生理的な特徴であり、それに基づく文化。でも完全に別種の異星人なのに、妙に人間くさすぎる。生殖機構とか”眼”の部分を除けば、人類とそれほど違わないような(とくに精神構造)。これなら地球上で異民族を登場させれば同じ話ができる。わざわざ異星人にする意義があまり感じられないのが、残念。とくに目新しい視点もないし。
●「時に架ける橋」ロバート・チャールズ・ウィルスン、2000年、創元SF文庫、960円、ISBN4-488-70602-9
20000313 ★
不思議な古い屋敷を購入した主人公が、地下に過去に続くトンネルを発見する。トンネルを通って1960年代に行き、恋をして…。ノスタルジックな1960年代に戻る話、という点でジャック・フィニィを思わせる。一方、タイムマシンを隠した屋敷の存在は、ちょうどクリフォード・D・シマックの「中継ステーション」のタイムマシン版みたいな感じ。
未来から来たタイムトラヴェラーによって明かされる悲惨な未来像(ちょっとターミネーターみたい)。そのさらに遠未来の怪しげな人類の末裔。間接的に提示される未来像は、おもしろい。しかし、タイム・パラドックスの問題は、”複雑な高等数学…”てな感じでごまかして、わざとらしく説明を避けてしまう。むしろ、現在とは何かという問いの方に興味があるのか。
●「童話物語」向山貴彦、1999年、幻冬舎、2000円、ISBN4-87728-292-0
20000307 ★★
SFではなく、指輪物語のようなハイ・ファンタジー。指輪物語なんかよりもはるかに面白い。とても第1長編とは思えない。とても面白いし、とても泣ける。悪役は、行動原理が不明だが、とにかく恐い。
両親ともおらず、食事もろくにとれないほど貧しく、子供たちにいじめられ、保護者代わりにも虐待を受けている。その結果、誰も信じられず、心を閉ざしている13歳の少女ペチカが主人公。その主人公が、妖精と出会ったことがきっかけで、旅に出て、心を開いていく様子が語られる。そして、かつてはペチカをいじめていたが、それを後悔し、過ちを償うためにペチカを探して旅をするルージャンが、もう一方の主人公。成長の物語であり、贖罪の物語であり、探求の物語であり、愛の物語であり、世界を救う物語でもある。いろんな要素を持ちながら、よくまとまっている。
描写はかなりヴィジュアル的で、すぐにアニメ化できそう。解説でも触れられているように、高い場所でのシーンが多く、宮崎駿のアニメを強く連想させる。実際、カリオストロやラピュタ、魔女の宅急便などに似た場面がけっこうある。宮崎アニメやナルニア国物語、その他ファンタジーや童話が好きな人には、絶対にお勧め。
●「翼人の掟」ジョージ・R・R・マーティン&リサ・タトル、1982年、集英社ワールドSF、1400円、ISBN4-10367-773038-3041?
20000229 ★
長い間探していたけど見つからなかった本。またもや大阪市立図書館にありました。舞台は、広い海洋に島が点在する惑星ウィンドヘヴン。島々には、難破した宇宙船の子孫が、翼人・領主・平民といった階級社会の元に暮らしている。翼人は宇宙船から作られた翼を使って、ハンググライダーのように空を飛び、島から島へと情報を伝達する。海が荒れやすく、獰猛な肉食動物が生息しているため、海路での移動が制限されているため、翼人による情報伝達は重要で、領主に匹敵する特権階級となっている。物語は、平民出身の主人公が翼人になり、空を一般に開放しようとする一生を描く。
地縛人と呼び、翼人以外を馬鹿にし、空への門戸を閉ざそうとする世襲的な翼人たち。門戸は開いた後に生じる、地縛人出身の翼人と世襲的な翼人の対立。その中で先駆者である主人公が、苦労する、という展開。結局、社会は変化を始めるんやけど。主人公は、平等な社会を作ろうとしたというよりは、自分の都合のいいようにシステムを変えようとしただけという感が強い。
●「太陽の王と月の妖獣」(上・下)ヴォンダ・N・マッキンタイヤ、2000年、早川文庫SF、(上)760円(下)760円、(上)ISBN4-15-011298-3(下)ISBN4-15-011299-1
20000215 ☆
ルイ14世時代のフランスはヴェルサイユ宮殿を舞台に、少女が活躍する物語。少女は、財産がないとは言っても、上流階級には違いがないし。両親がいないとは言え王様のお気に入りやし、多くの貴族が味方やし。そら活躍できるよな、と思う。ストーリー自体は、それなりにおもしろい。男は感じが悪いのが多いけど。
歴史改変小説と銘打たれいるが、海の妖獣という知的種族が登場する以外は、単なる歴史小説に過ぎない。現代からすれば、異星人のようなヴェルサイユ宮殿での貴族の生態だが、それをSFと言えば、時代劇はすべてSFになる。海の妖獣の存在は、まったく貴族の生態に影響を与えてないし、まったくその後の歴史を改変していない!
海の種族とのファーストコンタクト物として読むこともできるが、この程度では「ET」といい勝負。海の種族をマウンテンゴリラに替えても、物語は成立するでしょう。というわけで、SFとしてとくに読むほどのことはありません。
●「いさましいちびのトースター火星へ行く」トーマス・M・ディッシュ、1999年、早川文庫SF、540円、ISBN4-15-011297-5
20000203 ☆
「いさましいちびのトースター」の続編。トースターをはじめとする電気製品達が、地球侵攻を防ぐために、火星に向かう。子供向けのSF調のファンタジーってとこか。とくにどうということはないが、字が大きくてすぐに読めるので、それほど時間の無駄にはならない。
●「ライオンルース」ジェイムズ・H・シュミッツ、1986年、青心社、980円、ISBN4-97-865033-4034?
20000201 ★
「惑星カレスの魔女」で知られる作者の短編集。たぶんとっくに絶版。また大阪市の図書館で借りました。「テルジーの冒険」や「悪鬼の種族」と同じハブ連邦という宇宙を舞台にした短編集。収録されているのは、「ライオン・ルース」「時の嵐」「ポークチョップ・ツリー」「トラブル・タイド」の4編。いずれも変わった能力・生態を持った宇宙生物が出てくる。
どことなくヴァン・ヴォークトの「宇宙船ビーグル号」に似ている。「トラブル・タイド」以外は、謎の宇宙生物との闘いやし。どうやら1960年代に書かれた短編のようで、全体に話自体が古い感じがする。
●「終わりなき平和」ジョー・ホールドマン、2000年、創元SF文庫、920円、ISBN4-488-71201-0
20000123 ★
「終わりなき戦争」で有名な作者だが、まったく違う設定の話。21世紀の地球、原材料さえ与えれば、エネルギー源も何も気にしないでも、何でも作れるナノ鍛造機。このナノ鍛造機は先進国の政府が押さえており、先進国の国民はまったく働かなくても配給される物で暮らしてゆける。一方、発展途上国は、実質的にナノ鍛造機の恩恵を受けられない。その結果、現在の南北問題がさらに先鋭化して、先進国(と発展途上国の傀儡政権)と発展途上国の民衆の間で何年にも渡る戦争が続いている世界。
もう一つの重要な技術的な設定は、頭部に取り付けたジャックを通じて、電子的に人間同士の精神をつなげることができるテクノロジー。先進国は、人間が遠隔操作するロボット兵器(ソルジャーボーイ、他にもソルジャーボーイの戦闘機版のフライボーイなど)の活用の際に、このテクノロジーを利用して、兵士同士の精神をつなげて、あたかも一つの有機体として機能するロボット軍隊を実用化している。ところが、精神がつながることで、人類が変容(それとも進化?洗脳?)してしまうという話。
木星の衛星軌道上で、ビッグバンの初期の状態を再現するという壮大な実験が、重要なエピソードとして出てくる。でも、それに付随した軍の上層部や狂信者との絡みを含めて、本を分厚くするのに役立っているだけで、話の本筋とはあまり関係ない。
解説では、「”個”とはなんぞや」を問いかけた小説と書いてあるけど、その割にはつながって集合知性となったときについての掘り下げがない。なぜか人間の精神が変容するだけで、とくに目新しい考察もないし。アイデアの寄せ集めだけでつくられた小説という感が強い。
だいたい、そんな風に人間の精神が変容して行くなら、民間で娯楽用に精神接続をしている中からも精神が変容した人間がすぐに現れて、すぐに広まってしまうと思う。人間の精神がいつのまにか変容してしまう(ブラッドミュージックの精神版!)、そんな話にした方が面白かったんでは?
●「王の眠る丘」牧野修、2000年、早川文庫SF、600円、ISBN4-15-030630-3
20000119 ★
「MOUSE」は1996年の日本SFのベスト。最近はホラーっぽい作品ばかりのようなので避けていたけど、久しぶりに牧野作品を読んでみました。SFの匂いのする異世界ファンタジーって感じ。
馬奴(毛の生えた小型の肉食恐竜みたいなの)や貨虫(人が乗れるくらい大きなムカデみたいなの)に乗って、大陸横断レースをする。パリ・ダカールラリーみたいに。そこに大陸を支配する霊ノ国への反乱が絡む。といった話。
霊ノ国が支配下の国民に対して行なっている圧政は、かつて日本が朝鮮や中国で、今でもいわゆる先進国が発展途上国で、あるいは政府が少数民族にやっていることを、明らかになぞっている。
●「模造世界」ダニエル・F・ガロイ、2000年、創元SF文庫、580円、ISBN4-488-71301-7
20000116 ★
仮想人間の住む仮想社会を使ったシミュレーターの開発中、何かを知ったらしい開発責任者が死亡する。開発責任者の後がまに座った主人公の周りでは、現実では考えられないような減少が次々と生じる。その謎解きを中心に話は進む。現実がおかしいのか、主人公の精神がおかしいのか。ディックのような設定だが、最後にはわかりやすい答えが用意されている。
はっきり言って、謎の答えは読み始めたらすぐに予測できてしまう。ホーガンの「仮想空間計画」とまったく同じ不満が残る。途中で、無限連鎖が示唆された箇所があったのになあ…。でも1964年の作品とは思えないできでした。
●「パヴァーヌ」キース・ロバーツ、1987年、サンリオSF文庫、640円、ISBN4-387-87037-0
20000112 ★
オルタネート・ワールド物の傑作、と評判の高い作品です。でも今は亡きサンリオSF文庫なので、幻の名作でした。ずーっと探していたのに見つからなかった。でも灯台もと暗し、大阪市立図書館が持っていました。所蔵しているサンリオSF文庫の点数は少ないのに、不思議。ともかくようやく読むことができました。
英国女王エリザベスI世が暗殺され、スペインが英国を占領、世界の西半分をカトリック教会が牛耳っている世界が舞台。路上を走る蒸気機関車、信号塔による情報伝達システムなど、一風変わったテクノロジーが利用されている。構成は、序章と終章以外に、それぞれ主人公が違う6つの章からなっている。それぞれの章では主人公の生活(蒸気機関車乗り、信号手、絵のうまい修道士、蒸気機関車による輸送屋、女領主)を、リアルな感じで描き出す。その背景にある教会による圧政と、それに対する抵抗運動が、見え隠れする。
確かに印象的な作品やけど、女領主による教会への反乱を描いた6番目の章以外は、かなり退屈したのも事実。
●「エンジン・サマー」ジョン・クロウリー、1990年、福武書店、1500円、ISBN4-8288-4013-3
20000103 ★
今から1000年以上(?)未来の北アメリカが舞台。一度は、空中に浮かぶ都市(その名もラピュタ!)までも造るほど発達した文明は、’嵐’と呼ばれる文明崩壊でほとんど失われた。それからさらに数百年後、地球上では’古代’文明の遺物を利用しながら、細々としかし牧歌的に人々が暮らしている。話は、リトルビレアという街(たくさんの部屋がハチの巣のようにひっつくという構造をしてるらしい)で育った主人公が、世界の秘密と恋人を求めて旅立っていく。
主人公が誰かに話しているという設定で物語は進められていき、その中でも多くの物語が語られる。出てくる物語は現実とも寓話ともつかないもので、数々の謎を秘めている。謎と寓意に満ちたまま物語は進んでいく。こういった雰囲気が好きな人にはお勧め。
●「グレイソン攻防戦」(上・下)デイヴィッド・ウェーバー、1999年、早川文庫SF、(上)640円(下)640円、(上)ISBN4-15-011294-0(下)ISBN4-15-011295-9
20000101 ☆
「紅の勇者オナー・ハリントン」シリーズの「新艦長着任!」に続く第2弾。真面目で有能な女艦長が、男尊女卑の文化を持つ惑星に行って、女性差別と戦いながら、侵略者を撃退し、その惑星で認められる、というストーリー。「新艦長着任!」とほとんど同じ。SFではありません。