自然史関係の本の紹介(2008年下半期分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】

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●「ワイルドライフ・マネジメント入門」三浦慎悟著、岩波科学ライブラリー、2008年6月、ISBN978-4-00-007485-8、1200円+税
2008/12/23 ★

 大型哺乳類が専門の著者によるクマ、シカ、イノシシといった日本の大型哺乳類の生息の現状と、その個体数管理の実例を紹介した本。合間には、個体数推定法や年齢査定など方法論に絡んだコラムがはさまれる。
 あくまでも生態学研究者の立場から、大型哺乳類との共存の方法論を紹介している。その主張は、綿密なモニタリングに基づいた順応的管理とまとめていいのではないかと思う。それに絡むトピックと実例が紹介される一方で、野生動物と人間の共存を考える上では欠かせない人間の社会的な側面はほぼ抜け落ちている。よくも悪くも、生物学者の一つの典型的な立場はこうなんだろうと思って読めばいいだろう。
 クマの捕獲数や野生動物による農業被害の年次変動。その原因に関係があるとおぼしきブナ林面積の減少、異常高温・異常低温の発生頻度、ハンター人口の推移。ブナの豊凶とクマの捕獲数の関係。興味深いデータがいくつも紹介され、大型哺乳類の生息の現状や人との軋轢の増加の原因についての説明はそれなりにわかりやすい。ただ、順応的管理の中身の話になると、著者が関わった実例紹介にとどまり、全体像が見えにくくなっているように思う。最後に紹介される個体群存続可能性分析に関しては、その中身が完全にブラックボックスのままに放置される。先進的にワイルドライフマネジメントに取り組んでいる地方自治体として、北海道、岩手県、兵庫県の名前があがっているが、自分が関わった岩手県の例しか紹介されない。肝心のマネジメントに関する部分が物足りないのが残念。

●「空を飛ぶサル? ヒヨケザル」片山龍峯著、中公新書、2008年8月、ISBN978-4-89694-916-2、2000円+税
2008/12/22 ★★

 1994年から約10年にわたってボルネオ島でヒヨケザルの撮影を続けてきた著者は、2004年に病死。その時にできていた絵本の草稿をベースに、妻が再編集したものが前半に収められている。後半には、ヒヨケザルの系統分類、飛行の力学、生態がそれぞれの研究者によって紹介されている。現時点で日本語で読める唯一のヒヨケザルの本と言っていいだろう。
 昼間、不思議な格好で木の幹に張り付いているヒヨケザル。前肢の指の間の膜まで広げて滑空するヒヨケザル。母親の腹にひっついている子どものヒヨケザル。ヒヨケザルの様子をこれほど見たのは初めてで、とても新鮮。また昼間どんな場所にヒヨケザルが見られるのかといった観察のコツがわかる。子どもを引っ付けたまま滑空したり、子どもが独り立ちしたらすぐに次の子どもを産むなど、興味深いヒヨケザルの子育ての一端も紹介される。
 後半の系統分類の話では、ヒヨケザルのみならず、最近の哺乳類全体の分子系統の研究の成果が紹介される。滑空の話は読み飛ばしてしまった…。生態の話では、今度はジャワ島のヒヨケザルを題材に、その生息密度、ねぐらの場所、行動圏など、ヒヨケザルの生活の様子がさらによくわかる。空飛ぶナマケモノ、ヒヨケザルについて知りたいならお奨めの一冊。

●「アマゾンの森と川を行く」高野潤著、中公新書、2008年10月、ISBN978-4-12-101969-1、1000円+税
2008/12/10 ★

 ペルーのアマゾン川源流部を中心に、アマゾンに通い詰めた写真家による動物を中心としたアマゾン紀行。写真を多用して、哺乳類を中心にアマゾンの動物が紹介される。
 写真はとても美しい。野生のペッカリー、ジャガー、ピューマ、バク。あまりお目に掛かることのない動物の様子が紹介されている。しかし、構成はあまりとりとめがない。あとがきに、アマゾンの自然がこれ以上失われないように云々とあるが、本文中ではあまりアマゾンの自然にせまる脅威はあまり感じられない。アマゾンの自然の変容の背景には、アマゾンに暮らす人々の暮らしの変容があるはずだが、それも断片的に記述されるのみ。あまりメッセージ性は期待せず、動物たちとの出会いと写真を楽しむ本なのだろう。一番気に入らないのは、哺乳類にはたいてい種名があるのに対して、鳥の名前にはあまり興味がないらしく、ほとんど種名が付いていない点だろうか。

●「調査されるという迷惑 フィールドに出る前に読んでおく本」宮本常一・安渓遊地著、みずのわ出版、2008年4月、ISBN978-4-944173-54-9、1000円+税
2008/12/7 ★★★

 二人の共著となっているが、第1章の「調査地被害」のみが宮本によって書かれたもので、後は安渓の原稿が並ぶ。いずれも既出の文章であり、安渓は既出を改変している。キーワードは、宮本によって指摘された調査地被害という問題。調査地被害の実情や、自らの調査地(西表島)の人々とのつきあいを、安渓が語っている。
 二人は、民俗学や社会人類学の研究者であり、指摘されている調査地被害も研究者が各地に出かけて行って人々の暮らしを研究する際の問題点である。しかし、生物に関するフィールドワークにおいても地元の人たちやその暮らしとの関わりは必ずあり、ここで指摘されている事には充分配慮する必要があるだろう。のみならず、研究者が、そうでない人との係わりの中で調査を行う場合(たとえば市民参加型の調査など)にも、気を付けるべき点は多い。
 上から目線で偉そうに訊問を行ったり、地元で借りた資料を返却しない事は問題であるという指摘は、当たり前過ぎて、そんな事をする研究者がいること自体驚きではある。が、一方で、研究成果はなんらかの形で地元に還元しなくてはならないとする主張は、わかるけど、なかなかに難しい。地元に移り住んで、長年がんばってきているように見える安渓ですら、研究成果を地元に還元しているとはなかなか認めてもらえていない。これ以上が必要となるなら、うかつに地元還元と叫ぶのはためらわれる。それどころか、よほど慎重にフィールドを選ぶ必要があると思わせる。真面目に考えるなら、どこまで覚悟したならフィールドに出られるのだろうか? とまで考えさせる怖い本。

●「天敵なんてこわくない 虫たちの生き残り戦略」西田隆義著、八坂書房、2008年6月、ISBN978-4-89694-909-4、2000円+税
2008/10/29 ★★★

 京都大学の昆虫研究室を率いる著者が、この約15年ほどの間に同じ研究室の仲間と一緒に行ってきた研究を紹介した本。被食者が捕食者の影響をどのように受けているか、とくに捕食の非致死的効果に着目した研究が展開される。
 第1章は、そもそもの問題意識の解説。捕食者は被食者の個体数をコントロールするのか、食べること自体によるコントロールは難しいとしても、被致死的効果はどうだろう? 第2章は、適応的進化に付いての考えから。第3〜5章が、実際の研究の紹介となっていて、順にダイフウシホシカメムシとその捕食者、ヤノネカイガラムシとその寄生蜂、田んぼのバッタと捕食者のカエル・鳥が登場する。捕食者の存在が、被食者の行動に影響を与える例になっているが、熱帯から温帯へ、特殊な環境から普通の環境へ。より普遍性を求めていっているようだ。最後にまとめ。捕食者が被食者に与える影響についての、著者の一つの世界観。
 一人の研究者のある程度まとまった研究が、どのような思考の元に展開していったかを知るのは興味深い。そんな自伝的な本は他にもけっこうあるが、この本の面白さは、アイデアのオリジナリティの高さにある。他の人が見過ごしてきた中に、研究のアイデアを見い出して、データをとって形ある研究にしていくところはとても楽しい。捕食-被食研究の世界をリードする研究を紹介していると同時に、これから研究しようとする人に一つの方向性を与えるものになっている感じ。おまけに言えば、著者はけっこう身近にテーマを見つけて研究するタイプらしい。インドネシアにいっても、近所で研究してる。ここにもウラニワーズがいたのである。
 印象的なフレーズは、「捕食者の食事メニューを調べれば捕食者が被食者に与える影響を評価できるというやり方は正当化できない。むしろ捕食者はなにを食べることができないかがより大切になるだろう」。これからの捕食-被食研究では覚えておいた方がいいことかもしれない。競争関係の研究では古くから指摘されてきたことだが、捕食-被食よおまえもか、といった感じ。
 惜しむらくは、専門家にも興味を持ってもらえる内容の一方で、一般向けにはちょっと難しいかなというところ。字面はやさしそうなのに、中身は難しい。その手の議論やモデルに慣れていればすぐにわかっても、知らないと説明が不十分かもという部分もある。自然選択の説明も難しすぎ。アイデアに満ちた刺激的な本だと思うけど、普及書としての評価は微妙か。

●「ダーウィン以来 進化論への招待」スティーヴン・ジェイ・グールド著、ハヤカワ文庫、1995年9月、ISBN978-4-15-050196-9、800円+税
2008/9/20 ★★

 小説を読んでいて、なぜか次の展開が読めてしまう。次から次へとわかってしまう。おいらは天才か、もしかしたら小説家になれるんじゃないかと思いつつ、最後まで読んで思い出す。この本、以前に読んだことがある! 「ダーウィン以来」もしばらく読み進めて気付いた。読んだことがある。そして、どうも進化に関する考え方のルーツになってる本らしい。思い起こせば、十年以上前(どのくらい前かはおいといて)、大学に入って最初に読んだ(というか読みはじめた)進化の本は「種の起原」であった。読みにくかった。その上、当たり前の事をクドクドと買いてあるだけ(と当時は思った)。で、口直しに次に読んだのが「ダーウィン以来」だったはず。おもしろかったらしい。当時はそんなに感激もしなかったのだが、今でも覚えていることがこれほど多いところをみると、かなり気に入ったらしい。
 グールドは、「ナチュラル・ヒストリー・マガジン」に延々と進化にまつわるエッセイを連載し、それがまとめられてたくさんの本が出版されているが、その最初の本が本書らしい。ダーウィンが大好きで、人種差別に反対し、社会生物学に苦言を呈してみせる。そんなグールド節が満載の一冊。
 今読んで興味深かったのは、斉一説と天変地異説の間での論争の話。勝てば官軍で、今では斉一説が正しいってことになっているが、当時の議論の中身を見れば、天変地異説側は今見ればそれほど素頓狂な事を言ってたわけではなく、むしろ科学的な主張としては天変地異説の方が真っ当であった。って話。

●「素数ゼミの秘密に迫る!」吉村仁著、ソフトバンククリエイティヴ サイエンス・アイ新書、2008年7月、ISBN978-4-7973-4258-1、952円+税
2008/9/13 ★

 「素数ゼミの謎」の著者が同じ内容を大人向けに書き直した本らしい(まえがきにそう書いてある)。驚いたことに別の出版社なのに「素数ゼミの謎」の広告も載っている。子ども向け絵本といった体裁の「素数ゼミの謎」と違って、こちらの方が読みやすい(大人には)。著者がアメリカにセミの調査に行った時のエピソードもあり、日本のセミとの比較などもあり、視野が広がっているのも大きい。ただ、13年ゼミは4種、17年ゼミは3種からなり、13年ゼミに3つ、17年ゼミに12のブルードがあり、各種がそれぞれののブルードに分かれ、ととてもややこしい。素数ゼミの進化のストーリーの理屈も丁寧に説明されていて分かりやすいのだが、同時にややこしくもある。一つの仮説なので、当然ながら突っ込み所もあるわけで、それを考えながら読める人には、とても楽しい本になっている。けっこう高度な頭の体操の本と言えるかも知れない。
 全7章の内、4章までが素数ゼミの進化に関するストーリーと研究の紹介になっている。第5章は、日本は狭い割には虫の種数が多い理由を解説、第6章は、昆虫のメイトチョイスについての解説めいた内容となっている。この2章はとって付けた感がいなめない。そして、最後の第7章は、どうして我が輩は素数ゼミの謎を解明することができたのか、について語ってくれる。「生物の”なぜ”に疑問を持つことが大事」で、「ムシの身になって考える」ことが大事なんだそうな。
 著者は、2007年になってはじめて、アメリカで生きた素数ゼミに出会ったらしい。著者自慢の論文は1997年、「素数ゼミの謎」出版が2005年。純粋培養な理論屋さんが、どうしてフィールドに行こうと思うにいたったのか。それも今頃。むしろそれが知りたいように思った。

●「フライドチキンの恐竜学」盛口満著、ソフトバンククリエイティヴ サイエンス・アイ新書、2008年6月、ISBN978-4-7973-4694-7、952円+税
2008/9/10 ★

 御存じゲッチョが、鳥について書いた本。ゲッチョだから興味があるのは鳥の骨。食卓のフライドチキンの骨から話をはじめて、恐竜の骨に話をもっていこうと、少なくとも出だしはそうなっている。
 大雑把に前半は、鳥の骨の話。鳥の骨を生徒に見せると、鳥という答えより、恐竜!という答えが多いといったエピソードから始まる。あとは、ダチョウやフライドチキンの骨を例にしつつ、翼、頭、目や耳の骨なんかを紹介。後半は、鳥の分類の話。最近のシブリーの分類が紹介されている一般書は珍しい。最後にちょっと鳥の骨格標本の話。知らぬ間に自分が登場していて驚いた。全体的には、鳥の骨つながりではあるけど、それ以外に一環したストーリーはなく、とっちらかった印象が強い。後半はフライドチキンも恐竜もどこかへ行ってしまう。自分の骨経験に絡めて、文献で調べたことを書いて、導入や合間に生徒とのやりとりをまぜる。いつものゲッチョの手法が使い回されている。悪いがこのパターンはもう飽きた。
 もう一つ、この本には重大な問題があると思う。この本のほぼすべてのページは、見開きの左にゲッチョの文章、右に可愛い絵が並んでいる。絵を描いたのは、なにわホネホネ団団長として知られる西澤真樹子氏。この体裁でどうして、共著ではないのか? そもそもこの本を買う人の少なくとも半分は、文章ではなくイラストを気に入って買うだろう。読んだ後に残るのも、文章ではなく可愛いイラストの方である。貢献度に比べて、イラストレーターを粗末にしすぎなんではなかろうか? ちなみに★1つは、文章だけの評価だったりする。

●「タヌキたちのびっくり東京生活」宮本拓海・しおやてるこ・NPO都市動物研究会著、技術評論社、2008年7月、ISBN978-4-7741-3525-0、1580円+税
2008/8/19 ☆

 副題には「都市と野生動物の新しい共存」とある。とても惹かれるタイトル。期待して読んだ。残念。
 第一著者は都市動物研究会の理事。都市動物研究会として第一著者中心になって行った調査について、第一著者が文章を書いたものらしい。第二著者は漫画家で、イラストを担当するほか、タヌキの暮らしについてと、タヌキを見せてもらいに行った時のエピソードについてのマンガを描いている。内容は、一般的なタヌキの生態の解説を除けば、東京の市街地にもタヌキが暮らしている、ということだけ。
 著者たちは、東京都23区でのタヌキの分布状況を調べているらしい。メッシュに分けて、それぞれのメッシュでの目撃地点数を色別に表した分布図が示される。示されるデータはほぼこれがすべて。タヌキ分布のグループ分けと称して、目撃されたタヌキを7つのグループに分けているのだが、分け方も、そのグルーピングの妥当性を示す根拠も書かれていない。その他、東京都でのタヌキの暮らしについていろいろと記述があるが、推測に推測を重ねているだけで、少なくともデータはほぼ示されない。
 2ページの分布図を見ればそれだけで充分だと思う。買って読むほどではないだろう。

●「コケの謎」盛口満著、どうぶつ社、2008年7月、ISBN978-4-88622-339-5、1500円+税
2008/8/16 ★

 御存じゲッチョが、今度はコケについて書いた本。導入はいつもと同じ授業風景。いろんな生き物屋がいるという話からコケ屋の話が始まる。コケ屋のキムラにであって、最初はコケ屋に興味があったゲッチョが、だんだんコケ自体に興味を持ち、キムラさんに付きまとっているだけだったのが、やがて独りでコケに立ち向かって行くようになる。一人のおじさんが、コケに目覚めて独り立ちしていく過程を描いた成長物語である。
 いつものゲッチョのパターンは、自分での体験を導入にしつつ、コアな部分はしばしば文献をひっぱって来ているだけ。話のネタに困ったら、生徒のエピソードを交える。何度も繰り替えされる内に、生徒のエピソードは逃げにしか見えないし、文献を紹介してもらわなくても、それならそっちの本を読むし、と思っていた。が、この本はいつもとはひと味違う。まずゲッチョ自身が、いつもの生徒役をやっている。そして、専門知識はどこかの本ではなく、キムラさんからの教えとして提示され、違和感なく説得力も高い(なんせあのキムラさんの教えである)。なによりゲッチョがコケに目覚めてコケ屋として成長していくというしっかりしたストーリー展開。近年のゲッチョ本では出色の出来だと思う。
 というわけで、ゲッチョ本という分野での評価も高いが、そもあわさってコケの魅力を伝える本としてもいい出来だと思う。事実これを読んで、自分でも身近なコケを見てみたり、とりあえず標本にしてみようかと思ってしまったくらいである。そこまで踏み込まなかったのは、近所にキムラさんがいないからに違いない。吉野は遠い。

●「トイレのおかげ」森枝雄司写真・文・はらさんぺい絵、福音館書店、1996年12月、ISBN978-4-8340-2296-4、1300円+税
2008/8/15 ★

 スペインのガガネー(ウンコをしている人の人形)、ベルギーの小便小僧。ヨーロッパでは排泄行為が大ぴらに表現されている。恥ずかしいことではないのか? そこから、昔のヨーロッパや日本のトイレ事情。さらに現代も残るウンコをブタや魚に食べさせるトイレ。最新鋭の新幹線や宇宙船でのトイレ事情が紹介される。ウンコをするのは恥ずかしいことではなく、また水洗トイレが一番というわけでもないよ、というのがメッセージ。
 自然史関係の本とはいいにくいか?

●「サンゴとサンゴ礁のはなし 南の海の不思議な生態系」本川達雄著、中公新書、2008年6月、ISBN978-4-12-101953-0、840円+税
2008/8/10 ★

 歌う生物学者による「サンゴ礁はやわかり」(あとがきより)本。前半の大部分を「教えて! サンゴ礁」と称してQ&Aが並んでいる。後半は、サンゴと褐虫藻の共生、サンゴの分類・進化、サンゴと他の生物との共生、サンゴ礁の危機と保全と話は続く。
 Q&Aはくり返しが多くて、通しで読むとちょっとイライラする。が、思い付く質問はたいてい載っているので、「サンゴ礁はやわかり」として後から拾い読みするにはいいかもしれない。褐虫藻との共生と白化現象、さらには貝までも取り込んだ共生システムは面白い。そもそもサンゴやサンゴ礁をめぐるさまざまな生物間の相互作用はとても面白い。一押しは、この本のメインではないのだが、サンゴとホシムシの共生関係。海底を動き回るサンゴって…。
 本の最後には例によって歌の歌詞と楽譜が載っている。今回は英語の歌詞付き。題して「サンゴのタンゴ」。こういうタイトル多いよね。

●「皮膚は考える」傳田光洋著、岩波書店、2005年11月、ISBN4-00-007452-0、1200円+税
2008/7/30 ★

 「第三の脳」の著者による同じような内容の本。こちらの方が発行が2年ほど古い。皮膚は最も大きな臓器であるというコンセプトのもとに、皮膚のバリア機能、電気に対する反応、情報伝達機能、外部刺激センサーとしての機能、精神や健康との関係などが順に述べられる。
 「第三の脳」との大きな違いは、こちらがやや子ども向きに書かれていることと、超能力や進化についての話題がないこと。東洋医学への興味はこの頃からあったようで、こちらにもちらっと書かれている。子ども向けなので穏当な内容にとどめたのか、この2年の間に超能力や進化への興味が俄然湧いてしまったのかは、少し気になるところ。ちなみに皮膚は第三の脳であるというコンセプトはこの頃からあったらしい。
 先に「第三の脳」を読んでしまったせいか、皮膚の機能に関するインパクトは弱かった。でも、こちらの方がコンパクトによくまとまっているようには思う。わけのわからない進化についての記述がない分、こちらの方がお薦めできる。

●「知床・北方四島」大泰司紀之・本間浩昭著、岩波新書、2008年5月、ISBN978-4-00-431135-5、1000円+税
2008/7/17 ★★

 著者は、哺乳類屋とジャーナリストといった組み合わせ。写真を多用して、哺乳類と鳥類を中心に、知床と北方四島、ウルップ島にかけての自然を紹介し、その危機に警鐘をならし、対応策を提案する。
 北海道沿岸にもラッコがやってくることがあるのは知ってたけど、択捉島やウルップ島にはそんなにいるんだねぇ、とか。シャチやツチクジラやクラカケアザラシが見られるのかぁ、とか。鳥の方は知ってたけど、ウミガラスやエトピリカが群れになっているし。と、その自然の豊かさには目を見張る。同時に海獣類の混獲やカニなどの乱獲には目を覆う。とくに放棄されたカニ篭が永久にカニを殺し続けるという話は、ショックが大きい。
 このように豊かな自然をはぐくむ北方四島周辺は、同時に国境紛争のエリアである合間をぬって、海産物の乱獲が行われ問題も多い。今度は鉱物採取による開発の恐れが出てきているという。そんな中で、著者たちが提案する環境保全の対策は、世界自然遺産への登録である。現在、知床が世界自然遺産として登録されているが、これに北方四島とウルップ島にまで拡張し、日本とロシアの共同管理にするというもの。国境紛争を回避しつつ、自然環境を守るには共同管理というのはうまい考えかもしれない。
 知床には行ったことがあるけど、もちろん北方四島に行ったことはない。どっちかと言えば、ややこしいエリアだし、情報も少ないし、日本領と主張しつつも現実にはロシア領っぽい。あまり興味を持っても仕方がないエリアってイメージだった。が、この本を読めば、興味がわくのは間違いない。そして、一人でも多くの人がこのエリアの自然環境の保全に興味を持てば、この本は成功だろう。まずは手にとって、読んで、布教すべし。

●「進化論という考え方」佐倉統著、講談社現代新書、2002年3月、ISBN4-06-149598-4、660円+税
2008/7/16 ★

 ダーウィンを起点に、現代までの進化論の系譜を紹介した本。その視野は、情報をキーワードに、人間の心や文化にまで及ぶ。
 まえがきに曰く、「執筆の途中で何人かの方々に査読していただいた。(中略)ある研究者からは至極当然の意見が多いと言われ、別の人からは個人的な思いつきを羅列するなと指摘された。」とある。私は、前者であるらしい。著者とはほぼ同年代。大学に入ったと同時に、社会生物学の洗礼を受けた。その頃は社会生物学一色だったといってもいい。で、その頃に思ったことが、ほぼそのまま書いてある。誰でも同じ環境に置かれると同じようなことを考えるものらしい。というわけで、内容についてのインパクトはぜんぜんなかった。
 自然選択の理屈はアルゴリズムであり、生物だけでなく、一定の条件をみたせばあらゆるシステムに当てはまる。当たり前やん。人間の精神も文化も、全てではないにせよ、なんらかの形で遺伝子の進化の影響を受けている。そらそうやろ。でも、ミームって考え方も気になる。そうやね。
 むしろ新鮮だったのは、著者が自分の役割を、「遺伝子」や「情報」と、「人間」とを橋渡しすることにあると述べている点。ただの進化オタクではなかったらしい(失礼)。そして、安易に進化をキーワードに人間行動を語ることに警鐘を鳴らしていること。というより、その慎重な警鐘の鳴らし方だろうか。
 科学的なアイデアを提示する著作というよりは、著者の立ち位置を示した一冊というのが正確かもしれない。

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