自然史関係の本の紹介(2015年分)
【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】
●「クモを利用する策士、クモヒメバチ 身近で起こる本当のエイリアンとプレデターの闘い」高須賀圭三著、東海大学出版部、2015年10月、ISBN978-4-486-01998-5、2000円+税
2015/12/24 ★
フィールドの生物学シリーズの1冊。例によって、学生が研究者の道に進むプロセスが、自分の研究を交えて紹介される。珍しく海外に行かないのかと思ったら、最後にインドネシアに行った話が強引に挿入されていて笑った。
クモ類に外部寄生するクモヒメバチ類が、著者の研究テーマ。出だしから隣の部屋のMさんが出てくる。テーマをあげて、ことある毎に励まして、しばしば共同研究者にもなって、先行研究の多くにはMさんの名前が出てくる。事実上、Mさんとこの学生さんのような…。クモの研究パートでは、造網性クモを研究しているNさんも出てくる。著者本人は知らないけど、妙に身近。
オオヒメグモに寄生するマダラコブクモヒメバチが、研究対象。愛媛県の神社をめぐって発生の季節変化を調べ、テーマがクモヒメバチがクモを狩るプロセスになる中で、飼育下での実験にシフト。そして子殺しの話。
クモヒメバチの生態は面白いので、それなりに面白いのだけど、生に近いデータが多く、図表を見慣れてない人にはつらそう。データの合間には、観察や飼育、実験の失敗談が盛りだくさんだけど、失敗ばかりしている印象を与えているだけなような。ブレイクスルー(?)な工夫が語られるけど、追試をしない人には興味のない詳細が多い。そして所々に先輩が後輩に語るような講義がはさまる。英語苦手なんだ、ということは分かった。
フィールドの生物学シリーズの暗黙のフォーマットに合わせようとして、失敗してるような気がする。そして、むやみに分厚い。
●「カタツムリの謎」野島智司著、誠文堂新光社、2015年6月、ISBN978-4-416-11528-2、1500円+税
2015/11/3 ☆
カタツムリ好きの著者が、カタツムリのいろいろを語った本。
カタツムリはどんな生き物?おもしろ生態、周辺生物やヒトとの関わり、カタツムリに会いに行こう! とくにストーリーはなく、カタツムリのさまざまな側面を次々と紹介していく。地理的変異、分類、形態、日周・年周活動、食性、繁殖、捕食者、食用などなど。
それぞれの内容には面白いものもあるけど、つまみ食いばかりの印象が強い。というか、全体像を知ったと考えていいのか分からない感じ。鳥が産卵する際、カルシウム源としてカタツムリが重要というのは、どのくらい普遍的なんだろうか?
●「食べられて生きる草の話」高槻成紀文・菊谷詩子絵、福音館書店たくさんのふしぎ2015年10月号、667円+税
2015/11/2 ★★
シバは、シカに食べられて大部分は消化されてしまうけど、一部のタネが生きたまま糞に混じって排出される。果肉はないけど、一種の被食散布。著者が金華山で調べたシバの種子散布の研究が、金華山の景観の変化とともに語られる。
シカが増えて、ススキは減ったのに、シバは増えた。どうしてかな?という疑問から研究がスタートしたとは知らなかった。単にタネが食べられて運ばれるだけでなく、シバ自体が食べられること(つまり刈り取り)
に強いことなど、シバ自体の生態までが、実験を絡めて明らかにされるのがよかった。
●「しっぽがない」犬塚則久文・大島裕子絵、福音館書店たくさんのふしぎ2015年8月号、667円+税
2015/11/1 ★
さまざまな陸生哺乳類が集まる「りくのうえ学校」。そこの形態学の授業で、みなさんにはホネがあるという共通点があります。ホネのある動物の特徴として、尻尾がある、手足が4本…。と説明されたのだけど、コアラとヒトが反論する。ぼくには尻尾がありません!で、コアラくんが尻尾の謎を、いろんな動物に会って調べるという趣向。
尻尾がない哺乳類を見渡した上で、尻尾の役割にどんなものがあるかを列挙。探索は、哺乳類以外にも及び、系統をたどって。
最初は水中での推進力を生み出す目的だった尻尾が、陸上で役割がなくなり、転用されなかったら無くなったという結論。絵本定番の展開で犬塚先生の講義を聴かせてもらった感じ。
●「カタツムリ ハンドブック」武田晋一著・西浩孝解説、文一総合出版、2015年7月、ISBN978-4-8299-8130-6、1600円+税
2015/10/30 ★
このハンドブックの一番の特徴は、生きたカタツムリの画像にこだわっていること。普通のカタツムリの図鑑は、貝殻の画像が中心。軟体部が付いた、角を出した、生きたカタツムリの画像は、ところどころに挟まれるだけ。ところが、この図鑑は、ほぼすべての写真が生きたカタツムリ。角を出したカタツムリ。こんな図鑑は日本で唯一。
それは良いところでもあり悪いところでもある。軟体部の色や模様や形の情報は貴重なのだけど、分類はたいてい貝殻で行われる。逆に貝殻の形や色や模様が見えにくくなっていることも多く、図鑑としては微妙。貝殻の写真も付ければよかったのに…。とは、うちの貝屋のコメント。
とはいえ、カタツムリを勉強するなら持っていて損はない一冊。でも、日本産約800種のうち、147種しか載っていない。野外で捕まえたカタツムリが似ていても、確信をもって断言できないのが残念なところ。
日本を10地域に分けて、それぞれの地域で見られる種(他に広域種も)を示すアイデアはいいけど、それをながめても、やはりどの種か確信を持てないという残念さ。
結局のところ真面目に勉強しないとカタツムリの種は分からないってことか。だとすると、このハンドブックはすでに分かっている人にのみ役立つってことになるのかも。あるいは、本当の初心者が陸貝の多様性を知るための一冊。
●「わらうプランクトン」平井明著、小学館、2015年2月、ISBN978-4-09-726561-0、1200円+税
2015/10/30 ★★
なにをしてるかと言えば、プランクトンの頭部を正面から撮影して、笑ってる顔に見える〜。と喜んでいるだけ。それだけなのに、驚くほど面白い。
出てくるのは、甲殻類、多毛類、軟体類、魚類、その他(ホウキムシ、ヤムシ)。幼生がけっこう多い。平べったいものでも、細長いものでも、とにかく正面から撮る。目が分かるように撮る。写真についたキャプションは、笑うヨコエビとか、ゆるキャラ大集合とか、主観的でふざけてる。
通常の図鑑には側面図や背面図が出てることはあっても、正面はまずない。普通に撮影したんじゃ、まず正面顔にはならない。
ふざけまくってはいるけど、意外と正面から見たらどう見えるかが分かる写真集として貴重。そして、見慣れているはずのプランクトンでさえ、正面から見たら、ぜんぜん違う表情をみせてくれている。
●「赤の女王 性とヒトの進化」マット・リドレー著、ハヤカワ文庫NF、2014年10月、ISBN978-4-15-050418-2、1280円+税
2015/10/29 ★
タイトルを見て、赤の女王仮説の解説だな、有性生殖の進化の話だな。と思って読み始めても問題ないが、内容はむしろ副題が正しい。有性生殖の進化の話は最初の1/3だけ。あとは、ヒトの進化の話に話題はシフトしていく。
イントロの第1章に続いて、どうして増殖スピードから見ると不利な有性生殖がこんなに広く見られるのかという疑問(第2章)から、寄生者に対抗するためという赤の女王仮説が紹介される(第3章)。そこから派生して、雌雄同体や性が2つである理由、性比の問題(第4章)、 異性間選択におけるランナウェイか優良遺伝子(ハンディキャップ)か
(第5章)が述べられる。第6章と第7章は、それぞれオスとメスからみた有性生殖における戦略の違いを、たぶんに人間を引き合いにしながら紹介される。曰く、多数のメスを求めるオスと、協働と同時にもてる遺伝子を求めるメス。第8章以降はヒトのみを対象に、性による心・心的な能力の違い(第8章)、性による異性に対する好みの違い(第9章)、知能(あるいは大きな脳)が進化した理由を検討している。
読み終わってみると、著者がおおいに語りたいのはヒトの進化なんだなと分かる。赤の女王はついでに出てきたに過ぎない感じ。ヒトの進化を語るときは注意が必要で、著者も繰り返し、遺伝的な本性はどうであってもそれが道徳的・倫理的に正しいわけではないとか、男と女には進化的に大きな違いがあるが、それは性差別を肯定しないということを述べている。それでも、ちょっとヒトを使った例えが安易かなと思う部分はあるし、きっと勘違いするヒトがいそう。
動物を対象に構築された理論では、うまく説明しきれないヒトの特性も多くて、そこは素直に歯切れが悪い。
たとえば、どうしてヒトは女性の方が着飾るのかとか、どうして男は女性のルックスを選びがちなのかとか。
書かれた時代の最先端で、興味深い話題がいっぱいでてくるが、全体的には、説明があまり上手でない印象。論理の筋道が一本ではなく、行ったり来たりする感じ。
なつかしい話題が目白押しで、昔を思い出しながら読んでしまった。
●「クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して」堀川大樹著、東海大学出版部、2015年5月、ISBN978-4-486-01996-1、2000円+税
2015/10/19 ★
フィールドの生物学シリーズ第15弾。ついにクマムシ博士登場。
クマムシ博士が、クマムシと出会い(その前にあの教授に出会ってるが)、なんとか卒論を書き。いきなり国際クマムシシンポジウムに出かける。
必死で飼育して、今度はなぜか宇宙生物科学会議に出かける。学振に落ちて、NASAに採用されて、無職になって、本を書いて現在に至る。
研究内容は、クマムシがさまざまな極限状況にどの程度耐えるかどうか。話はいろいろ聞かされていても、実際にきちんと調べた例は限られることがよく分かる。そして、研究者として日本では冷遇といっていい状況なのに、海外ではそれなりに評価される。日本よりも海外!という気持ちがあちこちに表れるのも宜なるかな。
さほど英語ができないのに、NASAで働いてみたり。
職が無ければないで、むしろどこからも縛られずに研究ができるとうそぶいてみたり。無謀にも飛び込んでいって、どうにかなってしまう感じは、ある種の才能を感じさせる。
クマムシって、樽になったら色んな極限状態に耐えられるんだと思っていたけど、放射線に対しては、樽にならない方が耐えるとは知らなかった。
●「空を飛ばない鳥たち 泳ぐペンギン、走るダチョウ 翼のかわりになにが進化したのか?」上田恵介監修、誠文堂新光社、2015年2月、ISBN978-4-416-11504-6、2200円+税
2015/10/18 ★
飛ばない鳥は、走鳥類、ペンギン類、島で暮らす鳥、家禽の4つのタイプに分けられる。というところから始まって、さまざまな飛ばない鳥が紹介される。
走鳥類は走り、ペンギン類は水中を飛ぶ。捕食者がいない島では飛ばない鳥がうまれ、人に飼われると飛ばなくなったりする。飛べるのにあまり飛ばない鳥を間にはさんでから、最後に絶滅した飛ばない鳥を紹介してから、飛ばない鳥の保全の話。
飛ばない鳥というテーマで関連しそうな内容は一通り出てくるし、よくまとまっていると思う。46ページに「クイナ類はヒナから成鳥になる際、飛ぶのに重要な胸骨の発達がほかの部分よりも遅いため、未発達な胸骨を持った成鳥が生まれる可能性がほかの鳥よりも高く、飛ばない鳥が生まれやすいのです」ってのは本当かなぁ。
●「カラスの常識」柴田佳秀著、子どもの未来社寺子屋新書、2007年2月、ISBN978-4-901330-73-2、838円+税
2015/10/11 ★★
科学ジャーナリストの中には、ろくな知識もなく、いい加減な事を書く人もいるので注意が必要だが、この著者は違う。カラスなど都市鳥をはじめとして、鳥にとっても詳しい。鳥とつきあってきた時間も長く、書いてる内容も信頼できる珍しいケース。
第1章では、いきなりカラスに関する誤解・都市伝説が列挙される。
・カラスは黄色が嫌い。
・カラスは人を襲う凶暴な鳥。
・大きなくちばしで攻撃する。
・生ゴミの曜日を知っている。
・群れにはボスがいる。
などなど。この章だけでも一読の価値がある。第2章はカラスの分類・生態の紹介、第3章はカラスの不思議な行動(遊び、貝落とし、車を使ったクルミ割り、道具使用)の紹介、第4章は東京のカラスの生息数と生態。最後の第5章ではカラスとの共存の仕方を提案している。
異論はほとんどない。カラス愛にあふれまくった「カラスの教科書」とあわせて、この本を読めばカラスへの誤解もとけ、カラスとどのようにつきあえばいいかを考える参考になるだろう。
●「海と湖の貧栄養化問題 水清ければ魚棲まず」山本民次・花里孝幸編著、地人書館、2015年3月、ISBN978-4-8052-0885-4、2400円+税
2015/9/18 ★★
淡水のプランクトン屋と、海の水質屋が期せずして意気投合。湖と海の貧栄養化についてデータを示して訴えた一冊。
淡水で取り上げられるのは、諏訪湖と琵琶湖。海は主に瀬戸内海。諏訪湖、琵琶湖、瀬戸内海、いずれも富栄養化が問題となって久しい。この間、下水の整備や水質規制などの対策が行われ、陸域から湖や海に入る河川水からリンや窒素などの栄養塩類は
随分取り除かれた。ところが、その結果なにが起きたかというと、漁獲高が減少し、養殖ノリが色落ち。そして、栄養塩類は多すぎてもダメだが、少なすぎるのもまずいの気づく。まあ当たり前だけど、それをデータで示した感じ。
ヒステリシス、カラストロフィックシフト、レジームシフト。似ている語を勉強できてよかった。
●「和食はなぜ美味しい 日本列島の贈りもの」巽好幸著、岩波書店、2014年11月、ISBN978-4-00-006226-8、2000円+税
2015/9/6 ★
マグマ学者の著者が、姪っ子を連れて、美味い物を食べ歩き、そこで食から地学につながる蘊蓄を傾けるという趣向。
1月は京都木屋町でおでん、2月は三宮で寒鰤、3月は北新地でボタンエビ、4月は木屋町で筍と桜鯛、5月は福井でこしび(クロマグロの子)、6月は三宮で鰻と穴子、7月は金閣寺近くで鱧と昆布、8月は木屋町で甘鯛と鯖、9月は芦屋で蕎麦と鮑、10月は自宅で松茸と栗、11月は自宅近くの退任具バーで芋焼酎とワイン、12月はミナミで河豚。ええとこで、ええもんばっかり喰っとる。
で、出てくる話題は、
1月は水の硬度からの変動帯、2月は日本海の拡大、3月は伊豆半島の衝突から大きくなる日本列島、4月は海成粘土層から瀬戸内海の成立、5月は紀伊半島の隆起、6月は海底火山、7月は紀伊水道の三波川帯からのプレート、8月は沈む若狭湾、9月は火山帯、10月は花崗岩、11月は巨大カルデラ、12月は九州。なんかちょっと無理矢理感のある月もあるけど、まあ上手に我田引水して、うまいもんが喰える理由と関連づけている。
誰でも気づくように、完全に美味しんぼの地学版をやってる。海原雄山が、栗田さんを連れ歩くイメージ。時には、自分で作るとこも似てる。姪っ子の妙に鋭い質問もお約束。本当に食べに行ったのか、そもそも姪っ子が実在するかは知らんけど。蘊蓄マンガになれている者としては、読みやすい。マンガ化すればええねん。
●「うれし、たのし、ウミウシ。」中嶋康裕著、岩波科学ライブラリー、2015年7月、ISBN978-4-00-029640-3、1300円+税
2015/8/30 ★
著者は、京都大学の臨海実験所で院生時代、テッポウエビを調べてた。その後、珊瑚礁の魚の研究に転身して就職。それが、今度はウミウシに?! と思って読み始めた。『科学』(岩波書店)に連載していた「星砂Times」からセレクトしたものらしい。5ページ程度のエッセイが25編並ぶ。似たテーマが、4-5編ずつまとめられて、6つの章となっている。
第1章「使い捨てペニス」は、ウミウシやヒラムシのペニスの話。第2章「雌と雄の対立」は、雌雄同体や贈り物、交尾の話。第3章「海の動物たち」は、ラッコ、ペンギン、シーラカンスの軽い話題が並ぶ。第4章「消えたサンゴ礁」は、一転して沖縄島周辺のサンゴ礁の減少の話が中心。第5章「夢に見た臨海実習」は、タイトル通り臨海実習の話。フィールドに出なければできない授業を、というのが長年の夢だったらしい。第6章「博物館の光と陰」は、気になるタイトル。
最後の章の自然史系博物館に関するコメントだけを拾うと、もっと標本の価値がわかる説明が欲しい、もっと最新科学の成果を取り入れた解説をってことらしい。 iPadも推奨されている。解説しすぎ、いったい誰が読むねん、とか言われている身としては、不思議な感じがする。研究者の思う博物館と、一般のニーズは違ってないかな?
ちなみに巻末を見ると、指導教官の名前として、日高敏隆だけがあがっている。これをみて、なるほどね、と思うのは限られた人だけなんだろう。
●「テントウムシの島めぐり ゲッチョ先生の楽園昆虫記」盛口満著、地人書館、2015年8月、ISBN978-4-8052-0890-8、2000円+税
2015/8/30 ★
ご存じゲッチョが今度はテントウムシにはまる。一般向けはいいけど、甲虫好きの人気はいまいちのテントウムシ。ムシ嫌いでもテントウムシは大丈夫という子どもが多いなら、ムシの普及にはうってつけの題材。
というわけで、例によって地元の沖縄島から、東京、大阪、宮崎、屋久島。はてはハワイにグアムまで。あちこちに行っては、テントウムシを探す。例によって、各地の虫屋を巻き込んで。当館からはS学芸員が出演。
テントウムシは春と秋の2回の出現期があったりする、とか。テントウムシの幼虫は、ナミテントウみたいな可愛いタイプと、ニジュウヤホシテントウみたいなオナモミ種子みたいな気持ち悪いタイプがいる、とか。ハワイの青いテントウムシ綺麗なぁ、と思ったら外来生物、とか。いろいろ知らなかったことは出てくる。南港のフタモンテントウが、外来生物とはいえ、そんなにレアだとは知らなかった。どうして広がらないのかな?
●「木の実は旅する」渡辺一夫文・安池和也絵、福音館書店たくさんのふしぎ2015年5月号、667円+税
2015/8/27 ★
くだものから始まって、風や動物による種子散布が紹介される。タネが翼を持ったり、周りに果肉を付けたり、栄養を蓄えるのはどうしてだろう? という問いかけに始まり、3パターンの種子散布を紹介。最後から2つめのシーンは、やはりくだもの。人ががくだものを作り運ぶ話。最後のシーンは、森の中。種子散布の意義が語られる。
タイトルからすると種子散布を一通り紹介してくれるか、それとも何か1つを丁寧に取り上げるかと思いきやさにあらず、なぜか風散布と被食散布と貯食散布だけを取り上げる。なぜ海流散布や付着散布(ひっつき虫)を取り上げなかったのかは謎。人による“種子散布”が混ざってみたり、終わり方も含めて、ちょっと変わった構成。
タネは実物大でリアルに丁寧に描かれている印象。それに引き替え鳥やネズミなど動物の絵はなんか雑で、どこかマンガちっく。この差はなんだろう?
●「川のホタル 森のホタル」宮武健仁著、福音館書店たくさんのふしぎ2015年6月号、667円+税
2015/8/27 ★
日本の光るホタル3種を紹介。吉野川支流や四万十川のゲンジボタル、広島県の水田のヘイケボタル、広島県の山間部のヒメボタル。光る様子が紹介されるのの合間に、ゲンジボタルの一生も紹介。
カメラのシャッターを開放にして、点滅し動き回るホタルの光を、一つの画面にいっぱい捕らえている。林床を埋め尽くす無数のヒメボタルの黄色い光は圧巻。でもまあそれ以上ではない。
●「ジュゴンの上手なつかまえ方 海の歌姫を追いかけて」市川光太郎著、岩波科学ライブラリー、2014年8月、ISBN978-4-00-029629-8、1300円+税
2015/8/15 ★
ジュゴンのヴォーカルコミュニケーションの研究者が、タイで、オーストラリアで、スーダンでのジュゴン研究の経験を紹介した1冊。
タイでは、水中にマイクを仕掛けて、ジュゴンの声を録音。と思ったら、テッポウエビのパチパチいう音ばかり録音されてうるさい。ジュゴンの研究にならん。って話が面白い。オーストラリアではみんなでジュゴンに飛びついて捕まえる捕獲法を修行。それをスーダンで実践。見事に捕獲に成功する。
世界には、まだまだジュゴンが生息していて、オーストラリア東岸やペルシャ湾、紅海には思ったよりたくさんのジュゴンが生き残っている。けど、沖縄島沿岸には3〜4頭だけとは…。
ジュゴン自体の研究は、ジュゴンの保全の上では重要な意味があると思うが、生態学的にはそんなにすごい成果ではないように思う。それでいて海外に調査に行く予算が確保できるのは、やはりジュゴンの注目度の高さだろうか。海中の音の研究自体の方が面白いように思うので、
ジュゴンに軸足を置きつつも、水中の音声環境自体を研究したらいいのにと思ったり。実はしてるのかな?
●「ハトはなぜ首を振って歩くのか」藤田 祐樹著、岩波科学ライブラリー、2015年4月、ISBN978-4-00-029637-3、1200円+税
2015/7/13 ★
鳥の首振り行動の研究者が、歩きながら首を振るハトから、水中で首をふるカイツブリまで鳥の首振り行動についてのあれやこれやを解説。
第1章のイントロの後、第2章では、ヒトや鳥の二足歩行の話。ウォーキングやホッピングが、スピードやエネルギー収支的にどうなのかを解説。第3章は本題。ハトがどうして首を振るのか。重心の移動や視野の固定の両論併記な内容。第4章はおまけ。カモ類などハト以外の鳥が首を振ったり振らなかったりする理由を考える。第5章はさらにおまけ。左右に頭を振るコアホウドリや、水中で頭を振るカイツブリの話。いきおいで、尻尾を振るセキレイや、体を振るヤマシギまで登場。
鳥が頭や尻尾を振るのはどうしてか? よく観察会で訊ねられる質問なので、それなりに答える材料が得られる、と言う意味で博物館的には役立つ本。
●「ムササビ 空飛ぶ座ぶとん」川道武男著、築地書館、2015年2月、ISBN978-4-8067-1486-6、2300円+税
2015/6/16 ★
かつて大阪市立大学助教授だった著者が、奈良公園でおこなった9年間にわたるムササビ研究をまとめた一冊。
目次を見れば中身が分かる。滑空生活、ムササビ観察のコツ、季節のメニューと食事マナー、巣と活動性、行動権となわばり制。交尾をめぐるオスの争い、交尾栓の秘密、交尾期が年二回ある理由、母と子、子どもの独立、ムササビ研究への道。最後の章は、著者の研究略歴紹介だけど、あとはこれでもかと自身のムササビ研究の成果を、他のムササビ研究と絡めつつ、紹介している。なんか博士論文を読まされているかのよう。通常の論文と違って、個々のエピソードがふんだんに盛り込まれている(そこも昔の博士論文っぽい)。観察の際のコツなど、印刷された論文を読むだけでは分からないムササビ観察の実際が伝わってくるのは面白いし、実際の観察の際にも役立ちそう。でも、なにもかも語りたがるので、普及書としてはごちゃごちゃしていて不親切。むしろムササビデータブック的な趣。自身もモノグラフを自負しているので、それでいいのだろう。ムササビについて何か知りたいことがあれば、開くといいだろう。
ところで、どうでも良いことだけど、面白いことに、ムササビを研究していた頃、大阪市立大学に所属していたことは一言も出てこない。驚いたことに著者紹介にもない。本人が黒歴史認定してることがうかがえる。なぜか、そこが一番印象的だった…。
●「イワナの謎を追う」石城謙吉著、岩波新書、1984年7月、ISBN978-4-00-420272-1、700円+税
2015/6/26 ★★★
北海道の道東の小さな高校で教師をしていた著者が、釣りにはまり、近くの川で2種類のイワナが釣れることに気づき、やがてその調査にはまっていく。大学院に戻り、就職して続けた北海道でのイワナ研究の集大成の一冊。
近所の川で釣れるイワナに、赤い斑点のと白い斑点のがいるなぁ。から始まって、両者の分布を調べ、どんな環境と結びついているかを考察。それぞれの成長段階を追いかけ、両者の形態の違いを明らかにし。さらに降海型との関係を明らかにし、両者が別種であると結論。そこからは両者の種間関係。食性の違い、一緒にいる時の優劣関係、それを北海道での分布の話に結びつけ。最後には地史的な時間の中で、両者の歴史を考察する。
身近なところから書き起こし、自分の観察内容の紹介から、謎を解明していくプロセスを語る。あいまに代表的な生態学の理論の紹介まで挟み込む。構成も語り口もとても上手。この本はすごい。
今回、学生時代に読んだ本を、20数年ぶりに読んだ。当時も面白い本だと思ったけど、今回読んで名著だったんだぁ、と思った。書かれて30年以上経つのに、今読んでも充分に面白いし、科学的な内容も意味を失っていないと思う。当時は、DNAのシークエンスを読む技術もなかったし(酵素多型どまり)、行動生態学の洗礼の前なのに、古びた感じがほとんどない。種社会という単語が出てくるのが時代を感じさせるが、その程度。この30年の間に、生態学にさほど大きな進歩はなかったことを発見した気がする。
●「昆虫科学読本 虫の目で見た驚きの世界」日本昆虫科学連合編、東海大学出版部、2015年3月、ISBN978-4-486-02035-6、2900円
2015/6/4 ☆
昆虫関係の学会などが14団体集まって、日本昆虫科学連合というのを構成しているらしい。で、その連合で「新時代の昆虫科学を拓く」というシンポジウムを3回開いたんだそうな。そのシンポジウムの内容を中心に、一般向けの啓蒙書として出版された本らしい。各学会から1編ずつ執筆というありがちな横並び。
当然予想されるように、一貫した編集方針はない。一般向け啓蒙書らしいが、それすらも徹底されてはいない。きちんと一般向けを意識して、そこに最新の研究成果を盛り込んで、分かりやすく研究を紹介している著者もいれば。専門家向けに研究概要を書いてるんでしょうか?って執筆者もいる。予備知識なく、一般の人が読んでも充分に楽しめる章は限られる。そういう意味ではとてもコストパフォーマンスの悪い本。個々の章は短いので、面白そうな章だけ立ち読みしたらいいんじゃないかと思う。
さて、で、個人的に気になった章を紹介しておく。興味の中心が、生態学や行動学なので、そっちが優遇されている。逆に生理学への興味は薄いし、化学には疎い。物質名ばかりが並ぶのは、それだけで読むのも面倒。そっち方面中心の章は、異様に評価が低くなっている。その分野の単なる総説めいたのは評価は低く、自身の研究を紹介してるのを優先。
1章「トンボの色いろいろ」:アカネやカワトンボの色が変わるメカニズムや、色彩多型の意味を紹介してくれてて面白い。2章「灯りに集まる昆虫はどこをめざしているのか」:虫が灯りに集まるなんて、当たり前。と思っていたが、まだまだ謎がいっぱいあったとは! 4「群れると色が変わるサバクトビバッタ」:いろんな色をつけたケースでバッタを飼う。という自身が書くように小学生の自由研究みたいなので、こんなに成果があがるというのが印象的。5章「クモの網が丸くないわけ」:どこにでもいるクモとその網。それでこんなに色んな事を考えて、研究する余地があるとは!これまた自由研究でもできそうなところに、様々な謎があるのが良い感じ。9章「ウイルスはいかにして宿主を支配するのか 昆虫のウイルスを用いた研究」は、カイコに感染するバキュロウイルスの話。ウイルスの行動制御というテーマがとにかく魅力的。まださほど成果は上がってないように思うけど。11章「ダニと宿主生物の共進化関係にみる生物多様性の未来」:マルハナバチやクワガタムシなどを輸出入するから、それに引っ付いてるダニも広がるって話。日本産マルハナバチがヨーロッパに持ち込まれたりもしてたとは。12章:天敵の育種 飛ばないナミテントウで害虫防除:11章でも取り上げられているけど、外来生物問題が重大視される昨今、なのに、こんなふうに脳天気に天敵を育種して野外に放すって話をしてること自体が驚き。せっかく放したのに、どっかに飛んでいってしまうのを問題視してるけど、それは決して生物多様性を意識してではないという…。
●「イルカの不思議 2時間で生まれかわる皮膚?アゴが耳?驚きの能力に迫る!」村山司著、誠文堂新光社、2015年1月、ISBN978-4-416-61501-0、1500円+税
2015/6/16 ★
イルカの本をたくさん出している大先生が、子ども向けにイルカを紹介しようとしたらしい。
第1章:イルカとはどんな生き物かでは、なぜか海の哺乳類の話からはじまる。海牛類や鰭脚類出す必要ないのに。あとはイルカの体のつくりや食性の紹介。第2章:イルカの驚くべき能力では、速く泳ぐ、長くもぐる、深くもぐる、視覚、聴覚、エコーロケーションが紹介される。第3章:群れをつくるイルカでは、群れの中でのコミュニケーションと社会行動が扱われる。遊びという言葉を、ろくに定義もなく使っている大胆さに驚いた。第4章:賢いイルカでは、イルカの脳とその能力の話。イルカの脳は眠らないとか、ヒトと同じようなエビングハウス錯視に引っかかるとか、数や順番が分かるとか。多少知っていても面白い話題が並ぶ。第5章:イルカと話したいでは、文字通りイルカに言葉を教える取り組みが紹介される。物に対応する文字を覚えても、その逆は分からない。というのはヒトからすると不思議。ところで、この研究のきっかけになった、イルカがヒトの言葉を覚える映画って「イルカの日」やね。この映画のラストは、イルカにヒトの言葉を覚えさせるのではなく、ヒトがイルカの言葉を覚えるべきだった。と登場人物が言うんやけど、著者はこの点をどう考えてるのかな?
研究者によくあるわざとらしい子ども向け口調が気になって仕方がない。無理矢理な読者の経験からの書き起こしも変な感じ。はじめにでいきなり思った。「ちょっと船に乗って海に出れば、野生のイルカにだってお目にかかることだって有るかもしれません」。普通そんな経験してる人おらんし…。
●「ツバメの謎 ツバメの繁殖行動は進化する!?」北村亘著、誠文堂新光社、2015年2月、ISBN978-4-416-11409-4、1500円+税
2015/6/12 ★
若手研究者が、博士論文でやったツバメ研究を紹介。
1章:ツバメはどんな鳥?では、ツバメの形態、鳴き声、近縁種を紹介。2章:ツバメの1年では、春の渡り、つがい形成、産卵・抱卵、子育て、2回目の子育てと巣作り、ねぐらと渡りを紹介。自分の研究の写真や小ネタを交えた話題になっている。3章:意外と知らないツバメの謎では、ツバメは本当に中が良い? という疑問をきっかけに、つがい外交尾について、自分の研究内容を交えて紹介。4章:調べてみようでは、ツバメの巣の見つけ方と観察の仕方の紹介。
ツバメの調査経験に基づく話の中には、知らなかった情報も散見される。春の最初の繁殖では古巣を使うことが多く、6〜7月頃の2回目の繁殖ではむしろ新しく巣をつくることが多いとか。3回繁殖するのは少数派とか。親ツバメは一番最初に口を開けて鳴くヒナに餌を与えるのだけど、すでに餌をもらったヒナはあまり鳴かなくなるので、兄弟間で餌はそれなりに分配されるとか。オス親が入れ替わると、子殺しが起きるとか。でも、全体的にはなんか面白情報少なめだった。もっと調査の経験談を盛り込んで、紹介する内容をしぼった方が面白い本になった気がする。
●「クモと糸」池田博明文・荒川暢絵、福音館書店たくさんのふしぎ2015年3月号、667円+税
2015/4/17 ★★
家の周りにも暮らしていそうな種を中心に、18種のクモの上手に糸を使った生活を紹介。ラインナップは、ワスレナグモ、キシノウエトタテグモ、ジグモ、ミスジハエトリ、ハナグモ、アズマキシダグモ、ヒラタグモ、ナガコガネグモ、ジョロウグモ、クロガケジグモ、アシナガグモ、クサグモ、ミズグモ、ネコハグモ、ボカシミジングモ、オナガグモ、ズグロオニグモ、ムツトゲイセキグモ。基本的には見開きに1種で、片側にクモが生活している環境を単色の水彩イラストで紹介し、反対側にクモとその糸or網の細かい線画(リトグラフ)が載っている。
糸の使い方は、虫をとるための網が多いが、その他のトラップや投げ縄。さらには、命綱、雌へのプレゼントのラッピング、ミズグモも空気室と、多様な糸の使い方も出てくる。
淡々とクモが紹介されていくのだけど、意外と面白く、リトグラフは美しい。水彩画では、少女とネコが、身の回りでクモを見つけていく。というサイドストーリーが展開されているんじゃないか。と、Tさんが指摘していた。
●「暗闇の釣り師グローワーム」小原嘉明文・石森愛彦絵、福音館書店たくさんのふしぎ2015年1月号、667円+税
2015/4/17 ★
グローワームは、ヒカリキノコバエの幼虫で、オーストラリアとニュージーランドの洞穴にすむ光る虫。洞穴の天井から糸でぶら下がった先に巣をつくり、さらに20-40本の糸を垂らす。糸には小さなねばる玉がたくさんついていて、光につられて近づいてきて、これに引っ付いた虫を食べるらしい。著者が、ニュージーランドでグローワームを調べた結果を紹介。
といっても、洞穴で調べたのではなく、実験室で飼育しての観察。巣をつくらせて、糸を垂らさせて、糸に引っ付いた虫をどのように食べるかをいろいろと実験して調べる。糸はどのくらいの重さまで耐えられるか、どうやって虫がかかった糸を感知するのか、どうやってかかったのが虫だと判断するのか。
グローワームがどうやって暮らしてるかは、興味があるけど。結局、結論は、肉食の動物は絶食耐えれなければならない。だけか…。グローワームで調べてるけど、日本の子ども向けにはクモの話をした方がよさそうな…。とか、いろいろ思う。
●「美しいハチドリ図鑑」マリアン・テイラー著、グラフィック社、2015年2月、ISBN978-4-7661-2635-8、2500円+税
2015/4/17 ★
現在知られているハチドリ全338種を紹介した図鑑。全種について、特徴の紹介、分布、生息環境、大きさ、保全状況が紹介されている。76種はテキストでの紹介だけだが、262種は画像がついている。画像は実寸大。ハチドリならでは企画。
最初に20数ページのハチドリ全般の行動や生態の紹介が付き、あとはハチドリ名鑑と称して、ハチドリ各種の紹介が続く。2ページ費やされる種もあれば、1ページだけの種もある。ハチドリは雌雄で羽衣が違うことが多いが、大部分の種は雄の画像だけしか載っていないのが残念。一部雌雄載っていたり、なぜか雌だけ載っている種もある。画像の多くは、背景が切り取られているのだけど、ちょっと違和感のある画像もある。
ハチドリは綺麗なぁ、と思うにはいい一冊。ただ、いくらハチドリが綺麗でも、これだけ並ぶと、全部同じような感じがしてくる。というか、大部分のハチドリは同じような感じなんだなぁ、と思うにはぴったりの一冊かもしれない。
●「里海の生活誌 文化資源としての藻と松」印南敏秀著、みずのわ出版、2010年3月、ISBN978-4-944173-77-8、2800円+税
2015/4/13 ★★
数十年前の三河湾と瀬戸内海という2つの内海を舞台にした文化人類学的フィールド調査レポート。舞台が湖と内海という違いはあるものの、時代もテーマも「里湖モク採り物語」ととてもよく似ている。残念ながら本と言うよりは、研究資料といった側面が強いところも似ている。
章立てがとてもややこしい。第1部「里海と生活誌」は章が分かれず、里海と失われゆく里海文化について語りつつ、アマモやガラモが漁民にとってどういう意味を持ち、海辺(特に島)の農民がどのように利用してきたかの概要が語られる。第2部「藻と松の生活文化」は2つの章に分かれる。第1章「文化多様性と藻」では、瀬戸内海と三河湾でアマモやホンダワラ(ガラモ)が肥料としていかに重要だったかが、有明海も参照しながら語られる。ちなみに有明海では藻は使わず、干潟の土を肥料に使っていたらしい。第2章「島嶼の藻」では、瀬戸内海の島の段々畑での藻の肥料としての利用が語られる。第3章「文化的景観と松」では、瀬戸内海や三河湾での、肥料としての松の利用が紹介される。第3部は章に分かれず、瀬戸内海の7つの島での藻や松の利用を紹介。第4部「里海生活誌の試み」は2つの章に分けて、藻と松以外の海辺の生活文化が語られる。
島ごとに、藻や松、及びそれに関連した道具などの呼び方が異なるのは、とても面白い。けど、ややこしくて覚えられない。また本文中でも、ろくに説明なしに、島の人の”専門用語”が出てきたりするので、よく判らん部分もある。
なんとなく読んでいると、昔の海辺の生活はこうだったんだなぁ、と納得しそうになる。が、よく読めば、江戸時代末期から昭和30年頃に限定された話だと判る。人口が増えて、食い扶持のために山までどんどん畑にして、燃料も肥料も足りなくて、木を切りまくり、すぐに育つ松を植え、取り合いまでして、肥料となる藻を採集する。松の葉っぱ、小枝、幹などパーツごとに名前が付いてるのをみると、松がいかに大切だったかが判る。藻を取った取らないで集落同士がもめたり、いつから採集するかを取り決めたり、採集した藻を干す場所をクジ引きしたり。藻が生活の中で占める重要性もよく伝わってくる。でも、同時に当時の生活はとても苦しかったんだろう。昭和30年以降、化学肥料が出回って藻を取り合わなくてよくなって、みんなホッとしたんじゃなかろうか。化学肥料が出回って石油燃料が普及して、下水が海に流れ込み、海岸が護岸されて、藻場は次々と姿を消し、魚は少なくなった。生活がよくなった代わりに、生物多様性とそれとともにあった生活は失われた。生活が楽になり、同時に生物多様性も維持され、生物多様性とともにあった海辺の暮らしを残す道もあったんじゃないかなぁ。と今の価値観からみると、そう思う。
ちなみに里海という言葉は、人々が身近に親しみ利用してきた海という意味では、使ってもいいと思うけど。里山とは決定的に違うと思う。里山は、人々の利用がそこでの生物多様性の維持に大きな役割をになってきた。しかし、里海での人々の利用は、知る限り海の生物多様性の維持には貢献していない。むしろ藻場のオーバーユーズは、生物多様性を脅かしていたことだろう。里海の生物多様性が失われたのは、海を利用しなくなったからではなく、水質が悪化し海岸の環境を破壊したから。まあ人が利用しなくなったら、生物多様性の低下が大きな問題にされにくかったという面はあるかもしれないが…。
●「唱歌「ふるさと」の生態学 ウサギはなぜいなくなったのか?」高槻成紀著、ヤマケイ新書、2014年12月、ISBN978-4-635-51020-2、800円+税
2015/3/10 ★
ウサギ追いしかの山〜、と「故郷」の歌詞に沿って、近い過去の日本の自然を振り返り、現在の自然を考える。
イントロに続いての章タイトルを見ていけばなんとなく判る。第2章「ウサギ追いし 里山の変化」、第3章「小ブナ釣りし 水の変化」、第4章「山は青き 森林の変化」、第5章「いかにいます父母 社会の変化」と続く。第6章は「東日本大震災と故郷」があってからのまとめ。里山では人の手が加わらなくなり、茅場などが減少し、外来生物が増えていること。淡水環境では、圃場整備や農薬に加えて、ここでも外来生物の問題。林業が抱える現実、さらには生態学から離れて、家族というものの変質からの社会の変化が語られる。
故郷の歌にのって、かつての里山や淡水環境、山の林の変化が語れるんだ! と気づいた時、これだー!と思ったに違いない。著者は、生態学を少しはみだして、社会を語りたくなったんだなぁ、と思った。
●「進化とはなんだろうか」長谷川眞理子著、岩波ジュニア新書、1999年6月、ISBN978-4-00-500323-5、860円+税
2015/3/3 ★★
一般向けに進化を語ってくれる珍しい研究者、長谷川眞理子さんが進化の基礎を解説してくれる一冊。
最初の5章は、進化の基礎講座。DNA、自然淘汰の仕組み、変異の種類と淘汰のタイプ、種分化。後半の4章は、著者も興味をもっているだろう最近の進化研究の成果の紹介。共進化、最適化の理論、ゲーム理論、有性生殖の進化の問題。最後は、進化理論の歴史を振り返る。
さすがの安定のクオリティ。プロらしく、
基礎を丁寧に解説しつつ、新しい内容も盛り込んでくる。子ども向けに優しく解説しているけど、上から目線ではない。さすがに知らなかった!というような話題はないけど、好感度が高い。進化について真面目に勉強したい人に、推薦しやすい。
●「死体につく虫が犯人を告げる」マディソン・リー・ゴフ著、草思社、2002年7月、ISBN4-7942-1150-3、1800円+税
2015/1/30 ★★
ハワイの法医昆虫学者が、自らの活動を紹介(自慢?)。法医昆虫学とは、死体が昆虫などによっていかに喰われていくかを調べることで、いつ死んだかを推定する分野。この本は、2014年に「法医昆虫学者の事件簿」のタイトルで草思社文庫から改めて出版されている。
ダニの研修者だった著者は、とある学会で法医昆虫学と出会い、研究を進め、やがてその筋での第一人者となる。その研究は、人間の死体に見立てたブタの死体を、さまざまな環境に、さまざまな状態で設置して、どのような条件下ではどのようなタイミングでどんな虫がやってくるかを調べるというもの。そのデータを元に、警察などから依頼されて実際に人間の死体を検分・サンプリングを行い、その死亡日時を推定していく。乾燥した死体の場合、死体が覆い隠されていた場合、ハチやアリの巣の近くの場合、海上や吊り下げられた死体の場合、殺虫剤や麻薬の影響があった場合。さまざまな場合で、死体の腐敗分解過程の進み具合がどのように変わるのかを、これでもかと説明してくれる。
著者が行っている実験は、一般の人には眉をひそめるようなものだろうけど、砂場で虫に肉を喰わせて骨格標本を作っている者としては、とても馴染みがある。ハワイでの話なのだけど、出てくる昆虫(おもにハエやカツオブシムシなど)のグループは共通だし、ハラジロカツオブシムシのように共通種もけっこういる。そして、それが、どのような条件で腐敗分解の進み具合がどのように変わってくるかは、骨格標本を作る上でも多いに参考になる。普通の人にどのくらい役立つ知識かは疑問だけど…。
ただ、訳者があとがきにも書いているように、法医昆虫学自体は、死亡日時の推定といった実際的なニーズに対応する分野だけど、生態学的には死体という資源の塊が供給された場合の昆虫相の遷移の研究にほかならない。その意味でもとても興味深い内容を含んでいる。残念ながら、その視点での記述はほぼ見つからないのだけど。
●「自然を名づける なぜ生物分類では直感と科学が衝突するのか」キャロル・キサク・ヨーン著、NTT出版、2013年8月、ISBN978-4-7571-6056-9、3200円+税
2015/1/19 ★★★
環世界センスをキーワードに、分類学の歴史をたどり、読み解く。環世界センスとは、ヒトが進化の過程で身につけてきた周辺世界を、自然を認識するツール。我々の認知システムに深く刻み込まれていて、それを無視するのはとても難しい。しかし近年、遺伝情報をもとに発展した科学的分類学は、生物の系統を反映させた分類と、我々の環世界センスは少なからず相容れないことを明らかにしてしまった。
第1章のイントロの後、第2章、第3章、第4章は、順にリンネ、ダーウィン、マイヤーが紹介される。いずれも分類学の世界の大物。現在につながる分類学を興したリンネ。その2名法はリンネの発案ではあるけれど、広く受け入れられたのは我々の環世界センスにとてもフィットしたからだと指摘。ところが、ダーウィンが進化の概念を広め、分類は進化の道筋、すなわち系統を反映したものでなくてはならないという考え方が広まる。徐々に、分類学と環世界センスの乖離がはじまる。マイヤーは、ここでは古き環世界センスに基づく分類を生き残らせようと頑張った最後の世代として登場する。
系統を反映した分類が求められる中、それでも環世界センスの臭いを色濃く残し、客観的に分類の根拠を示そうとしない進化分類学者。数値に客観性を求め、すべての計測値を同等に扱いたがる数量分類学者たち。共有派生形質の重要性を主張する分岐分類学者が、順に現れる。そして、DNAの塩基配列が比較的容易に読めるようになり、DNAの塩基配列という系統分類を考える上で最強の形質を手に入れて、現在の分類学が系統分類学をベースに成立してきた。
そういえば、学生時代、どうしてその2つは別種扱いで、こっちの2つは別亜種扱いなん? と分類屋さんに訊ねたっけ。当然ながら納得できる答えは得られなかった。どうやらマイヤーも似たようなもんだったらしい。違うから違う!と主張するだけの分類学者を残念に思っていたもんだった。その頃の分類学は科学じゃなかった。いまは、妥当性はともかく分類に根拠が示されるようになった。ようやく科学としての分類学が成立したというこの本の書き方は正しいと思う。
一方で、リンネの時代。研究者だけなく、一般市民が広く生物の分類に興味を持ち、酒場での話題にもなっていたというのは驚いた。分類学が身近な時代、それは環世界センスに基づく分類が行われていた時代、いわば生物多様性にみんなが関心を持っていた時代。分類学は一人前の科学になったものの、分類学は環世界センスから、一般市民からかけ離れ。そして、みんなの生物多様性への関心も薄れてしまった。科学的な分類学は必要だけど、環世界センスを架け橋にした生物多様性への関心を広める必要もある。分類学は一つでなくちゃならないのか? と真面目に考えるべきなのかもしれない。
●「狩猟始めました 新しい自然派ハンターの世界へ」安藤啓一・上田泰正著、講談社ブルーバックス、2014年11月、ISBN978-4-06-257712-0、800円+税
2015/1/13 ★★
狩猟者の高齢化が進み、日本の狩猟者数はどんどん減少している。その流れが変わるほどではないが、新たに狩猟者になる人も徐々に増えている。新しい狩猟者は、自然との新たな付き合い方を目指したり、食べ物のあり方について考えるなど、今までにない方向性を持っている。そうした新しい狩猟者から、狩猟について紹介した一冊。
第1章と第2章は、新米狩猟者の狩猟体験。それは新たな自然を視る目を得ること、他にはない自然との付き合い方であることが伝わってくる。第3章では、さまざまなタイプの新たな狩猟者が紹介される。食についての興味から、獣害対策のために、地域興しのために、というのが大きなトレンド。その流れで、第4章は野生肉の利用について。第6章「野生動物と人間の暮らし」では、獣害が増加している原因について考え、その中で狩猟者の役割を考える。
正直に言えば、第3章から第4章はとても違和感を持って読んだ。食物として利用することで、獣害が押さえられ、あまつさえ地域興しにつながるのだろうか? そんな簡単な問題とは思えない。その疑問について、著者は第6章で一定の答を用意している。喰う事だけで獣害はなくならない。そして狩猟と獣害対策は別である。狩猟者は獣害対策のためにいるのではない。じゃあ、狩猟者はなんのために狩猟するのか。それは狩猟者によって違うのだろうが、少なくとも著者の答は、第1章と第2章に書かれている。動物を知り、自然を付き合うために狩猟をする。いろんな意見があるだろうが、とりあえず第1章と第2章は一読の価値がある。その上で、狩猟についていろいろ考えたらいいんじゃないかと思う。
●「協力と罰の生物学」大槻久著、岩波科学ライブラリー、2014年5月、ISBN978-4-00-029626-7、1200円+税
2015/1/13 ★★
数理生物学屋さんが、生物の協力関係の維持のシステムについて、行動生態学的視点から解説。というと、利他行動の進化の話かと思い、血縁選択や相互利他行動の話をするのかなと思うのだけど、もっと広い視野から協力関係が取り上げられる。
第1章では、自然界に見られるさまざまな協力の話が紹介される。バイオフィルム、変形菌、アリの真社会性、鳥の共同繁殖、チスイコウモリの食物分配、ミーアキャットの警戒声、フードコール、チンパンジーの道具の貸し借り、根粒細菌・菌根、クマノミとイソギンチャク、掃除魚。種内の関係だけでなく、種間関係までも一つの流れでとらえようとする。第2章では、種内・種間にかかわらず協力関係を維持する上で問題となるフリーライダーの出現の話。第3章では協力関係の進化のメカニズムとして、血縁選択、直接互恵性(もちつもたれつ)、間接互恵性(情けは人のためならず)の3つの理論を紹介。第4章では、互恵性の理屈が成立するためには不可欠なフリーライダーをいかに検知し報復するか。自然界でのさまざまな罰の実例を紹介する。最後の第5章では、人だけを取り上げ、人がいかにフリーライダーに反応し、罰を使っているかに着目。さまざまな「罰あり公共財ゲーム」での実験結果を中心に、人間の行動について考える。
動物での例では、第4章で紹介される自然界の罰の例がけっこう興味深い。大腸菌は修飾制限酵素系を用いてファージを罰し、植物はフリーライダーの根粒菌を窒息させ、変形菌の村八分。第5章の人間の例では、利他的罰に非社会的罰。謎はあるけど人間は罰を与えるのが好きなんだということだけは、納得してしまった。最後の4ページ、罰と報酬を比較する。単なる理論屋の机上の空論の話のような気がしつつ読んできたところで、ここにきて実際の我々の社会について考えさせられる。犯罪を罰で抑制するのではなく、報酬によってさらによい社会ができる可能性が開けないものか。SF的な社会を想像しながらの読後感は悪くなかった。
●「はじめましてモグラくん なぞにつつまれた小さなほ乳類」川田伸一郎著、少年写真新聞社、2012年9月、ISBN978-4-87981-434-0、1500円+税
2015/1/6 ★
国立科学博物館のモグラ研究者が、小学生向けに書いたモグラ紹介の本。
第1章「モグラにはなぞがいっぱい」では、モグラの系統、形態、行動、生態を、謎を中心にざっと紹介。齧歯類との比較、目・尻尾・手の形態と機能、トンネル、子育て、捕食者と話が次々と繰り出される。第2章「日本のモグラ 世界のモグラ」では、日本のモグラを紹介して、それとの比較で少し北アメリカのモグラが登場。第3章「「研究者」という仕事」では、ベトナムにモグラ調査に行って、モグラを捕まえまくって、新種を見つける話。
読みやすいのだけど、全体を通じた流れがなく、思いついた順にモグラの話をされただけ、って感が強い。個々のパートでも説明が中途半端な感じがする。たとえば、ヒミズとヒメヒミズの見分け方に触れたところでは、体の大きさと尾の長さでの見分け方を説明しつつ、きっちり見分けるには歯の並び方を見ないと分からないというオチ。それでいて、歯の並びがどう違うかは書かれていない。詳しく説明したかと思ったら、軽く流したり、説明に妙な濃淡があるように思えてならない。あと大人が読むと、「…覚えておきましょう」的な上から目線のフレーズが目について、ちょっとイライラ。
といった気になる点はあるけれど。モグラのトンネルの主道と側道の利用の仕方の違いとか、日本・北アメリカ・ヨーロッパのモグラの違いとか、モグラの一日の行動時間とか、6匹捕まえたら新種記載には充分なのかぁとか。いろいろ興味深いことが書かれているのは確か。モグラを捕まえては、殺して標本にするのをはっきり書いてあるけど、それを読んだ子どもやその親がどんな反応をするのかは、ちょっと追跡調査してみたいかも。
●「ペンギンの不思議 鳴き声に秘められた様々な役割」宮崎正峰著、誠文堂新光社、2014年10月、ISBN978-4-416-11450-6、1500円+税
2015/1/3 ★
音声を中心にペンギンを研究してきた著者が、その経験を交えながらペンギンについでのさまざまを紹介した一冊。
第1章はイントロ、ペンギンの形態・進化・分布について簡単に紹介される。第2章は世界のペンギン全18種を順に紹介。それぞれの種について、最新の研究成果やどんな研究がされているかに触れられているのが面白い。第3章は著者が研究したリトルペンギンについて、繁殖や鳴き声について紹介。第4章はペンギンについてのいろんな疑問に答え、第5章は環境変化に伴うペンギンの減少の話、第6章はペンギン研究のあれこれ。最後の3つの章はおまけめいた感じがぬぐえない。
子ども向けの本なのだろうが、ペンギン研究の最前線がけっこう紹介されていて、とても勉強になる。そもそも現在ペンギンが全18 種とされているのも知らなかった。ペンギンについての質問を受けたら、これを見ながら答えよう。
●「タネのふしぎ」田中修著、ソフトバンククリエイティヴサイエンス・アイ新書、2012年7月、ISBN978-4-7973-6967-0、952円+税
2015/1/2 ★
植物に関する本を量産している著者がタネについてのアレコレを紹介した一冊。見開き2ページで1テーマ完結風。91テーマあって、それが7つの章にまとめられている。
第1章「発芽の条件」は、主に光と温度に対するタネの反応を考える。第2章「タネの役割」は、休眠や果実当たりのタネの個数などの話。第3章「タネの栄養」は、もっぱら穀類と豆類の話。第4章「タネの光感覚」は、第1章の続きで、光と発芽の話。第5章「発芽のしくみ」もまた発芽の話で、発芽にいたるまでの間にタネの中で何が起きているかを紹介。第6章「タネのでき方」は、受精からタネの形成までの話。第7章「タネのふしぎ Q&A」はおまけ。
メインは発芽の話なのは明か。タネができるまでの話もあり、タネは一過性の存在であるかのよう。タネ自体の生物学的な話題としては、種子散布があると思うのだが、それはまるで出てこない。タネ自体の形や色には何らかの植物の生活史における機能がありそうなものだが、それも出てこない。「タネのふしぎ」と聞いて書くべきと考える内容に、こうも違いがあるということを知ったのが、この本を読んでの一番の収穫かもしれない。