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本の紹介「イルカと泳ぎ、イルカを食べる」
「イルカと泳ぎ、イルカを食べる」川端裕人著、ちくま文庫、2010年8月、ISBN978-4-480-42744-1、800円+税
=「いるかとぼくらの微妙な関係」川端裕人著、時事通信社
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【萩野哲 20110217】【公開用】
●「イルカと泳ぎ、イルカを食べる」川端裕人著、ちくま文庫
自然・生態系の保全志向として、“人間中心か否か”、“全体か個体か”の縦横2軸に基づき、著者は「一般的な自然保護」(第一象限)、「ディープエコロジー」(第二象限)、「アニマルライツ」(第三象限)および「動物愛護」(第四象限)と定義した。本書は、これら様々な立場からイルカとつきあっている様々な例を紹介し、自ら第一象限に属すると言う著者の目を通した“正論”を展開している。最初、「イルカとぼくらの微妙な関係」(1997年)として出版され、今回の再販にあたり、いくつかの章が抹消され、“長いあとがき”が追加された。追加はより状況の理解を助けているが、タイトルは前のほうがよかったように感じる。
お薦め度:★★★ 対象:イルカに関心を持つ全ての人
【瀧端真理子 20110225】
●「いるかとぼくらの微妙な関係」川端裕人著、時事通信社
●「イルカと泳ぎ、イルカを食べる」川端裕人著、ちくま文庫
イルカと人の関わり方を考える際に重要な14スポットへの取材をまとめた本。同著者の『動物園にできること』同様、非常に読み応えがある。本書では、ドルフィンスイム・ツアーから、イルカ漁師宅でホルモン焼きをご馳走になるところまで、同一人物で経験し、かつ取材相手と良好な関係を保つという難題が見事にクリアされている。典拠がなく、引用困難なのが惜しい。
日本でのイルカと人のつき合い方は、1.イルカを資源と捉える人たち、2.水族館で楽しむ人たち(数としては一番多い)、3.イルカの「権利擁護」に心砕く人たち、と整理できるという。御蔵島のドルフィンスイムの話からは、エコツアーの難しさが窺える。御蔵島で船の数を制限しても、隣の三宅島からダイバーを乗せた多くの船が来てしまう。
『イルカと泳ぎ、イルカを食べる』は『イルカとぼくらの微妙な関係』の文庫化で、旧著の2つの章(精神世界を泳ぐ、さよならバイジー)がカットされているのが残念。どちらも省くべきではなかったと思う。
文庫版のあとがきでは、珍しく川端さんが、自分の立場を明確にされている。『動物園にできること』『イルカとぼくらの微妙な関係』では中立的な立場に立っていた川端さんだが、今回のあとがきでは、水族館でのイルカ飼育を否定的にとらえる方向に舵を切っている。国内飼育ハンドウイルカのうち、施設内で生まれたもの23頭、他の250頭は野生由来、そのほとんどが太地の追い込み漁で捕獲されたもので、水族館へのイルカ供給がイルカ漁を経済的に見合うものにしている可能性は充分あると指摘している。川端さんが、日本国内でイルカを飼育している水族館を本書で取り上げなかった理由を知りたいと思った。
お薦め度:★★★★ 対象:イルカに興味のある人なら誰でも
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