学会報告

 研究者はたいていいくつかの学会に入っています。学会に入る目的は、学会誌の定期購読と、年に一回開かれる大会で発表するためと言っても過言ではありません。私自身も国内だけでも、日本生態学会、日本鳥学会、日本行動学会、日本哺乳類学会などに入っています。海外でもイギリスのThe British Ornithologists' Unionと、アメリカ合衆国のThe American Ornithologists' Union、北欧のNordic Ecological SocietyとThe Scandinavian Ornithologists' Unionなどに入っています。海外の学会に入っているのは学会誌を手に入れたいだけの理由で、大会に参加したり、ましてや発表したりすることはありません。国内の学会でも、毎回のように大会に参加して、発表することがあるのは日本生態学会と日本鳥学会だけです。
 学会に入っていると聞くと何かすごいことのような錯覚をおこす人もいるかもしれませんが、たいていの学会にとくに入会資格はなく、会費を払えば入会でき、会費を滞納すれば退会になるだけのことです(ただしイギリスの鳥学会BOUだけは、入会するときに他の学会員の推薦が必要でした)。これだけ多くの学会に入っていると毎年払う会費だけでも馬鹿になりません。円高のせいかもしれませんが、海外の学会は意外と会費が安いわりには、分厚くって内容も充実した学会誌を送ってきてくれます。それに引き替え、国内の学会は内容はともかく、会費は高いは、学会誌は薄っぺらいは・・・。
 以下では、参加した学会の様子を紹介した後、私自身が話を聴いた一般講演の中から、独断と偏見に基づいていくつか選び、印象的だった部分だけを紹介します。もちろん紹介しない発表がつまらなかったというわけではありません(逆に紹介したからといって、いい発表あるいはいい研究だと思ったとは限りません)。また紹介する事実関係に間違いはありませんが、発表者の意図とは異なる可能性があります。なお講演内容の紹介は、それぞれの大会の講演要旨集からの引用と考えてください。

日本生態学会第47回大会 at 広島大学(2000年3月23日〜3月26日)
日本鳥学会1999年度大会 at 東京大学(1999年10月9日〜10月11日)
日本生態学会第46回大会 at 信州大学(1999年3月27日〜3月30日)
日本鳥学会1998年度大会 at 北九州大学(1998年11月21日〜11月23日)
日本生態学会第45回大会 at 京都大学(1998年3月26日〜3月29日)
日本鳥学会1997年度大会 at 新潟大学(1997年9月19日〜9月22日)


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●日本生態学会第47回大会 at 広島大学
 日本生態学会第47回大会は、3月23日〜3月26日の4日間(ただし23日は自由集会のみ)、広島県東広島市にある広島大学の総合科学部を主会場に開催されました。一般講演は、口頭発表が24-26日に10会場で、ポスター発表が24日と26日にありました。さらに口頭発表の合間や夕方から夜には24の自由集会と13つのシンポジウム、総会に宮地賞の受賞者の講演が2つ。疲れました。
 発表数は口頭発表が410題とポスター発表が330題の合計740題。このうちタイトルから判断できる限り鳥に関係あるのは、口頭発表が17題とポスター発表が13題の合計30題。1つの自由集会と、4つのシンポジウムに鳥関連の発表がありました。全体に占める鳥関連の発表の割合は一般講演とポスター講演をあわせて4.05%。自由集会とシンポジウムのタイトルを見ると、保全関係が多いのが目立つ。
 で、611題の一般講演のうちきちんと聴いたのは口頭発表35題(途中でうとうとしてしまったのは抜いてあります)とポスター発表5題(もちろん一通りは眺めましたが)、シンポジウム1つ、自由集会2つ、宮地賞受賞講演が2つといったところです。

○「砂丘の上のfood web:ベッコウバチとクモをとりまく生物群集」遠藤知二(神戸女学院大)・遠藤 彰(立命館大)
 キオビベッコウは、砂丘の砂地に営巣するクモ狩りバチ。営巣に適した場所が限られるので、その周辺のクモの密度の減少が生じる。クモの減少によって、クモに食べられる昆虫にも影響を与えている?

○「霞ヶ浦周辺のオオヨシキリの個体群構造」永田尚志(国立環境研)
 さまざまな大きさのヨシ原を比較すると、繁殖成功率は大きなヨシ原(約60%)の方が小さなヨシ原(約40%)よりも高い。この原因は、捕食ではなく、風雨の影響の差。遺伝的距離から判断すると、雄は出生地近くに、雌は出生地から約10km離れた場所に定着する傾向があった。

○「休耕田のヨシ原を利用して繁殖するオオヨシキリの配偶・繁殖成功」佐藤大輔(立教大)・対馬良一(所沢高校)・上田恵介(立教大)
 休耕田のきわめて小さなヨシ原で調査したところ、一夫多妻が生じる割合が高く、一夫四妻まで生じた。

○「ニホンジカ(Cervus nippon)を仲立ちとして植生間で生じる間接効果」高田まゆら(東大・農・野生動物)・浅田正彦(千葉県博)・宮下 直(東大・農・野生動物)
 田畑が隣接している方が、そうでない場合より、林床の植物の種数が多い。

○「シカが植食性昆虫を変える?−ガマズミの誘導抵抗反応を介した間接的な関係−」島崎彩・宮下 直(東大・農・野生動物)
 シカの採食圧が高いと、ガマズミの葉が硬く・タンニン量が少ない。そして植食性昆虫の食痕が少ない。

○「ブラックバスとブルーギルが在来水生生物群集に及ぼす強いtop-down効果」前園泰徳・小林頼太・加藤直子・宮下 直(東大・農・野生動物)
 ため池群で調査したところ、ブラックバスはアメリカザリガニと魚類を採食し、その存在は他の魚を減らす。ブルーギルはエビ類(アメリカザリガニを含む)、昆虫幼虫、水草をよく採食し、その存在は、エビ類を減らす。アメリカザリガニが減ると、その食物であるヒシが増える。一方で、ヒシは、アメリカザリガニの隠れ場所として機能し、魚による捕食を妨げる。

○「クワズイモ・シマクワズイモを送粉する植食者」三宅崇(京大・農・生態情報)・屋富祖昌子(琉球大・農・昆虫)
 クワズイモは、2種のクワズイモショウジョウバエが送粉する。この2種は、クワズイモの花で産卵・成長・羽化する。この2種は、移入種のシマクワズイモも同じように利用する。

○「タイの熱帯林で発見されたサンバー(Cervus unicolor)によるAcasiaの種子散布」丸橋珠樹(武蔵大)・北村俊平・湯本貴和(京大・生態研)・Pilai Poonswad(Mahidol大)
 鹿糞の56%にアカシアの種子が含まれ、その99%は破壊されておらず、発芽する。

○「重信川流域の湧水池における魚類群集の季節変化」内田有紀・井上幹生(愛媛大・理・生物)
 河川と用水路でつながった複数の池を比較すると、河川からの距離が小さいほど種多様度が高く、池の水位変動が大きいほど魚類群集の変動も大きい。

○「最上位捕食者間の間接効果:2つのInteraction modification」堀正和・野田隆史(北大・水産)
 セグロカモメのエゾヒトエグサの採食が、エゾヒトエグサ第二世代とアオノリの定着を促進し、ハシボソガラスによるヒザラガイの捕食を抑制。

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●日本鳥学会1999年度大会 at 東京大学
 日本鳥学会1999年度大会は、10月9日〜10月11日の3日間、東京大学本郷キャンパスを主会場に開催されました。
 一般講演は、口頭発表が9日と11日に2会場で、ポスター発表が10日の口頭発表とは別の時間帯にありました。口頭発表が62題とポスター発表が40題のほかに、12の自由集会(一般講演などが終わった午後6時以降に開かれる集まり)と公開シンポジウム、総会、公開講演会がありました。このうち、きちんと聴いたのは口頭発表42題とポスター発表2題(もちろん一通りは眺めましたが)、自由集会2つ、公開シンポジウムと公開講演会といったところです。
 公開シンポジウムは、「鳥類における音声コミュニケーション信号の進化:環境と性による淘汰」というタイトルで、4人の話題提供がありました。初めの二人の話はすっかり寝てしまいました。
 特別講演は、信州大学の中村浩志氏が「托卵する鳥とされる鳥の攻防戦と進化」という題で話をしました。おもに長野県で行われたカッコウの托卵についての研究成果の紹介です。世界に通用する日本での鳥の研究です。オナガへの托卵の変遷や、いろんな地域のオオヨシキリ(それぞれ過去にカッコウに托卵されていた、あるいはされ始めた時期が違う)のカッコウへの反応の違い、カッコウのmating systemや雌の寄主選択、など興味深い話題がいっぱいです。
 12の自由集会のタイトルは、「日・韓鳥学懇談会」「狩猟鳥類について考える」「東京になぜハシブトガラスが多いのか」「音声コミュニケーション」「日本におけるカモ類・ハクチョウ類・ガン類の現状」「海鳥モニタリング体制の確立を目指してII」「干潟の鳥」「ちょっと長めの話を聞く会」→国立科学博物館の西海功さん、「クマタカやシマフクロウなどの希少猛禽類の保護の手法とその進め方について考える」「学会誌改革について考える」「カワウを通じて野生動物と人の共存の道を探る(その2)」「ムシクイ類はどこまでわかっているか?」となっています。

○「ハビタットのパッチ状分布がオオヨシキリの配偶成功、繁殖成功に与える影響」上田恵介(立教大)
 パッチの大きさに関わりなく、なわばりの面積は約500m2。パッチの大きさは繁殖成功に関係なし。

○「放飼インドクジャク(Pavo cristatus)集団における配偶行動」長谷川寿一(東大・総合文化)・長谷川真理子(専修大)
 目玉模様の数・大きさ、上尾筒の長さなどは、いずれも雄の交尾頻度との相関が見られない。

○「琉球列島産シロガシラの分類学的位置」山崎剛史(京大・理・動物)
 沖縄本島のシロガシラは、台湾亜種formosae。八重山諸島のは、oriiで、頭部の白斑が大きいのは夏羽。

○「ウトウの採餌行動と海水温の関係」加藤明子(極地研)・黒木麻希・高橋晃周(総研大)・出口智広・綿貫豊(北大・農)
 6月の海水温が高いと、カタクチイワシの出現が早くなり、ヒナの成長量が多く、繁殖成功率が高くなる。

○「ヤブツバキの花粉媒介におけるメジロの役割とメジロを引き付けるヤブツバキの性質」国武陽子・樋口広芳(東大・農・野生動物)・長谷川雅美(千葉中央博)
 鳥をすべて排除すると、結実率が下がる。2月にはヒヨドリよりもメジロの訪問が多い。ヒヨドリが花びらを食害すると結実しない。メジロは花の多いヤブツバキによく来る。

○「沖縄島産シロガシラの周年活動」笠原雅子・伊澤雅子(琉球大・理・海洋自然科学)
 8月下旬から9月に繁殖していた個体がいなくなり、10月に戻ってきて当歳鳥を含めてなわばりを持つ。12月頃にもなわばりを解消していなくなり、その頃に農耕地で個体数が増加、2月下旬に繁殖地のもとのなわばりに戻る。

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●日本生態学会第46回大会 at 信州大学
 日本生態学会第46回大会は、3月27日〜3月30日の4日間(ただし26日は公開講演会と自由集会のみで、公開講演会はサボってしまった)、長野県松本市にある京都大学の旭キャンパス(理学部がある所です)で開催されました。一般講演は、口頭発表が28-30日に7会場で、ポスター発表が28日と30日にありました。さらに口頭発表の合間や夕方から夜には24の自由集会と10のシンポジウム、総会に宮地賞の受賞者の講演が2つ、さらに公開講演会。
 発表数は口頭発表が370題とポスター発表が313題の合計683題。このうちタイトルから判断できる限り鳥に関係あるのは、口頭発表が18題とポスター発表が23題の合計41題。その他に、鳥に関連する話題提供があった自由集会が6つもありました。全体に占める鳥関連の発表の割合は一般講演とポスター講演をあわせて6.00%。ちなみに1998年の第45回大会では3.76%、1997年の第44回大会では5.86%、1996年の第43回大会では3.78%でした。
 で、683題の一般講演のうちきちんと聴いたのは口頭発表43題(途中でうとうとしてしまったのは抜いてあります)とポスター発表14題(もちろん一通りは眺めましたが)、自由集会2つでした。
 今回の学会の発表の中では、subsidization(援助する、補助するという意味らしいけど)、つまり水中と陸上と言った二つの生態系間での、物質や生物の行き来を通じた交流に関わる研究が目につきました。今年の流行といったところでしょうか。

○「イワツバメにおける繁殖地への渡来時期の2型による繁殖成績の比較と個体群内の内部構造」増田智久(九州大)
 繁殖期が終わるとコロニーからイワツバメはいなくなるが、11-12月にコロニーに戻ってきて越冬する個体がいる。この越冬個体は繁殖成績がいい。

○「熱帯雨林の伐採が河川生物群集に及ぼす影響」岩田智也・中野繁(北海道大)
 伐採されて10-20年たった熱帯雨林と伐採されていない熱帯雨林で、河川を調べてみると。伐採されてると淵が多く砂地がち、伐採されていないと瀬が多くrocky。落下昆虫量は伐採されていてもいなくても変わらないが、藻類・水生昆虫・魚類は伐採されていない方が多い。

○「シカによるgrazingと造網性クモをむすぶinteraction web」島崎彩・宮下直(東京大)
 シカがいる→土壌が乾燥→土壌性飛翔昆虫が減少→クモが小型で少なくなる。

○「アユとウグイが水生昆虫および藻類に与える影響」片野修・東井純一・前川光司(中央水研)
 魚は水生昆虫は減らし、石の下面に追いやる。ウグイがいる→detritus feederが減少→藻類が増える→アユが増える。

○「猿害と自然林の果実数の相関−屋久島における10年の変動−」野間直彦(滋賀県立大)・鈴木滋(エディンバラ大)
 猿害と果実生産量との間には、弱い逆相関しかない。

○「ナナカマドの散布成功度は何で決まるか?」福井晶子(北海道大)・大串隆之(京都大)
 ナナカマドの果実を食べる昆虫の内、カメムシは種子から吸汁して発芽しなくするが、鳥の果実食に影響なし。種子食のシンクイガと果肉食のミバエは、果実の色を変色させ、鳥の果実食に影響する。

○「ミズナラ上の鱗翅目幼虫:春群集と夏群集の寄主植物を介した間接的相互作用」原拓史(北海道大)・大串隆之(京都大)
 春に毛虫を除去すると、夏には葉のC/N比が下がり、葉は柔らかくなる。

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●日本鳥学会1998年度大会 at 北九州大学
 日本鳥学会1998年度大会は、11月21日〜11月23日の3日間、北九州市立北九州大学で開催されました。
 一般講演は、口頭発表が21日午前と23日に2会場で、ポスター発表が22日午前に口頭発表とは別の時間帯にありました。口頭発表が62題とポスター発表が40題のほかに、3つの自由集会(一般講演などが終わった午後6時以降に開かれる集まり)があり、総会と公開講演会、大会シンポジウムもありました。このうち、きちんと聴いたのは口頭発表29題とポスター発表6題(もちろん一通りは眺めましたが)、自由集会1つ、公開講演会と大会シンポジウムです。
 大会シンポジウムは、「鳥類学におけるDNA研究」というタイトルで、ウグイスとツグミ類、ライチョウとエゾライチョウ、島嶼のモズのDNAに基づく系統や個体群構造の解析例の紹介、それからDNAによる性判定法や保全生態学への応用が紹介されました。日本の鳥類学でもDNA研究をもっと推進しようと言う宣伝のようなシンポジウムでした。印象的だったのは、日本では絶滅に瀕している鳥の分類屋である梶田さんが、DNAと同時に形態も重視しているといった発言をしてたこと。DNA屋さんかと思ってたのに…。
 公開講演会では、東京大学の樋口広芳さんが、「渡り鳥に国境はあるか−鳥の渡りの衛星追跡−」というタイトルで。もっぱら鹿児島で越冬したツルが、どのようなコースを通って、どこで繁殖するかが明らかになった。という話をしていました。
 自由集会4つのタイトルは、「カワウを通して野生動物と人の共存の道を探る.その1」「第8回 ちょっと長めの話を聞く会」→北海道大学の村上正志さん、「干潟の鳥」「クマタカを保護するために」となっています。

○「葛西における鳥類の経年変化」石黒夏美(東京農工大)・桑原和之(千葉中央博)
 旧江戸川河口で1952-1997年の45年間に記録された鳥をまとめた。1970年代にスズガモとコアジサシが増加。1990年代には、ハジロカイツブリ、カンムリカイツブリ、カワウ、アオサギ、ヒドリガモ、オカヨシガモ、ホシハジロ、セイタカシギ、オオセグロカモメが増加。逆に減ったのは、コサギやツルシギ。チュウサギ、ヒシクイ、ヨシガモ、タゲリ、タシギは1950年代まではいたが、現在はほとんど見られない。シロチドリ、キョウジョシギ、ハマシギ、キアシシギ、オオソリハシシギは、埋立の進行に伴って一時増えたが、現在はまた減少。

○「茨城県南部におけるタマシギの生息状況」吉田保志子(農業研究センター)
 水田と比べて、ハス田では、密度が低い。圃場整備をしているかどうかは影響がない。休耕田が水田に混じっていると、生息密度が高い傾向があった。

○「千葉市周辺における1998年のコアジサシの繁殖状況」桑原和之(千葉中央博)ほか
 フロリダのアメリカコアジサシは、建物の屋上で繁殖している(屋上に砂利が敷いてある)。日本では大井で、コアジサシのコロニーを屋上に誘致しようとしているが、今のところうまくいってない。

○「mtDNAの制限酵素切断パターン比較によるヤマガラ亜種間の類縁関係」太田紀子(新潟大)・梶田学・柿沢亮三(山階鳥研)
 7亜種を比較すると、タイワンヤマガラのみが他と異なる。

○「アカコッコTurdus celaenopsの系統関係について−DNA解析と形態の両面から−」梶田学(山階鳥研)・太田紀子(新潟大)・柿沢亮三(山階鳥研)
 アカハラやムナグロアカハラ(ラオスやミャンマーに生息)に近年。マミチャジナイ・アカハラ・シロハラ・アカコッコで上種を形作り、ツグミやクロツグミとは分かれる。

○「イワヒバリの雌は、交尾相手にどのような雄を選ぶのか?」中村雅彦(上越教育大)
 高中位順位雌は、高順位雄を選ぶ。低順位雌は、雄を順位で選ばない。

○「日本におけるチョウゲンボウFalco tinnunculusの生息分布の変化について」川内博(日本大学豊山高校)
 1940-1960年代は、長野県・山梨県・栃木県・山形県・宮城県で繁殖。当時から校舎や橋も巣場所として利用。1970年代以降、北海道から富山の東日本に分布が拡大。人工物を利用した繁殖が主流になる。関東での繁殖例は、1960年代1例、1970年代2例、1980年代13例、1990年代22例。すべて人工物で繁殖。

○「シロガシラの外部形態による性判別と繁殖行動」笠原雅子・伊澤雅子(琉球大)
 雄は雌より翼長と尾長が長く、判別可能。抱卵と造巣は雌のみ、給餌は雌雄とも。

○「ソウシチョウとウグイスの営巣環境の比較」天野一葉・江口和洋(九州大)
 ソウシチョウの巣場所は、ササの上部で、ササは低密度でも可。ウグイスの巣場所は、ササの中位の部分で、ササは高密度(ササ密度の高い道路際を好む)。

○「Effects of environmental factors on the distribution of wintering waterfowls in Higashihiroshima, JAPAN」マハウルパタ ダルシャニー(広島大)・藤井格(生物群集研究所)・中根周歩(広島大)
 急に深くなる池には、カイツブリやホシハジロはいるが、他のカモは少ない。コガモとハシビロガモ以外のカモは、広い池ほど個体数も種数も多い(0.7haを超える池が好まれる)。狩猟禁止の池にカモは多い。

○「スギ・カラマツ人工林における節足動物群集特性とヤマガラ・シジュウカラの餌資源利用様式」水谷瑞希(名古屋大)
 スギ林とカラマツ林の節足動物量を比較すると、下層では変わらず、樹冠ではカラマツ林の方が多い。ヤマガラとシジュウカラを比較すると、下層の利用はシジュウカラで多い。とくにシジュウカラはスギ林で直翅類をよく利用。

○「開花パターンと鳥の吸蜜パターンとの関係」藤田薫(日本野鳥の会)
 キブシは、サクラに比べると、先に咲き、長く咲く。早く咲いたキブシには鳥が来るが、サクラが咲くとキブシにはあまり来なくなる。

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●日本生態学会第45回大会 at 京都大学
 日本生態学会第45回大会は、3月26日〜3月29日の4日間(ただし26日は自由集会のみで、サボってしまった)、京都市左京区にある京都大学の総合人間学部(むかしの教養部です)を主会場に開催されました。一般講演は、口頭発表が27-29日に7会場で、ポスター発表が27日と29日にありました。さらに口頭発表の合間や夕方から夜には22の自由集会と8つのシンポジウム、総会に宮地賞の受賞者の講演が2つ。第44回大会の感想としてもどこかに書きましたが、まじめに出席していたらとても忙しいし、疲れます。
 発表数は口頭発表が404題とポスター発表が207題の合計611題。このうちタイトルから判断できる限り鳥に関係あるのは、口頭発表が14題とポスター発表が9題の合計23題。自由集会に鳥関連はなく、シンポジウムに唯一「ミズナラと鱗翅目幼虫-鳥との関係」がありました。全体に占める鳥関連の発表の割合は一般講演とポスター講演をあわせて3.76%。ちなみに1997年の第44回大会では5.86%、1996年の第43回大会では3.78%でしたので、まあこんなもんでしょう。
 で、611題の一般講演のうちきちんと聴いたのは口頭発表38題(途中でうとうとしてしまったのは抜いてあります)とポスター発表9題(もちろん一通りは眺めましたが)、シンポジウム1つ、自由集会1つ、宮地賞受賞講演が2つといったところです。これまたちなみに、1997年の第44回大会では、口頭発表30題とポスター発表3題しかきちんと聴かなかったので、今回はとても真面目に参加したと言えるでしょう。

○「寄主植物、捕食者との関係を介したモンシロチョウとコナガの相互作用−タテ3者系を介したヨコの関係−」塩尻かおり・矢野修一・高藤晃雄・高林純示(京大・農・生態情報)
 モンシロチョウ幼虫とコナガ幼虫は共にキャベツを食害し、それぞれに特有の寄生蜂(コマユバチの仲間)がいる。同じキャベツを食べる2種なので、互いに相手がいない方がよさそうなものだが、コナガの雌は、モンシロチョウ幼虫がいるキャベツに好んで産卵する。これは、コナガ幼虫を襲う寄生蜂が食痕を頼りにコナガ幼虫を探すため、モンシロチョウ幼虫の食痕が混じると発見効率が下がるためらしい。

○「場所資源を介したアブラムシとカメムシの関係」福井晶子・大串隆之(北大・低温研)
 ナナカマドに虫こぶをつくるアブラムシは、トホシカメムシに空き家になった虫こぶを隠れ家として提供することによって、トホシカメムシによるナナカマドの種子の食害を促進している。

○「アカメガシワ花外蜜腺のアリ類を介した植食性昆虫防除効果」川窪伸光(岐阜大・農・多様性)・小森園猛(鹿児島大・教育・理)
 アカメガシワの葉などの蜜腺から出る蜜をなめに多くの種類のアリがやってくる。アリはアカメガシワにくる植食者をとくに狩らないが、その存在は食害を減らす効果があるらしい。

○「米国の水田における湿地性鳥類の生息状況」藤岡正博・吉田保志子(農研センター・鳥害研)
 合衆国では大規模な米作りをしているが、意外なことに水路はコンクリート張りではない。またザリガニ養殖や雑草を枯らす目的で、冬期に水をはる水田が増えている。これは水鳥に生息場所を提供する結果になっている。

○「クマの食性と落葉広葉樹の種子生産の年次変動との関係」三浦志津(新潟大・自然科学)・阿部學(新潟大・農)
 ツキノワグマはブナをよく食べる。種子が豊作の年は種子を食べて、春の栄養状態がいい。それに対して、不作の年は若芽を食べて、春の栄養状態が悪い。

○「捕食回避手段としての分散多型」西田隆義(京大・農・昆虫生態)
 捕食者がいる年には、ダイフウシカメムシに飛ぶ個体が現れる。こういった分散多型が、食物がらみではなく、捕食がらみで生じるというのは珍しい。ましてや捕食者が実際に捕食することはほとんどと言っていいほどないのに、存在自体が効果を持っているらしい。

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●日本鳥学会1997年度大会 at 新潟大学
 日本鳥学会1997年度大会は、9月19日〜9月22日の4日間(ただし19日は自由集会のみで、22日は公開シンポジウムのみ)、新潟市にある新潟大学農学部を主会場に開催されました。新潟大学構内では、関西では見られないオナガの群が見られました
 一般講演は、口頭発表が20日と21日に2会場で、ポスター発表が21日の口頭発表とは別の時間帯にありました。口頭発表が59題とポスター発表が44題のほかに、7つの自由集会(一般講演などが終わった午後6時以降に開かれる集まり)があり、総会と特別講演、公開シンポジウムもありました。このうち、きちんと聴いたのは口頭発表30題とポスター発表3題(もちろん一通りは眺めましたが)、自由集会2つ、特別講演といったところです。公開シンポジウムも一応出席したのですが、途中で寝てしまいました。
 公開シンポジウムは、「希少猛禽類の管理」というタイトルで、アメリカ合衆国とイギリスのオオタカの保護の現状、アメリカ合衆国のカリフォルニアコンドルへの取り組み、日本の新潟付近のイヌワシの生息状況の4つの話がありました。アメリカ合衆国のオオタカへの取り組みの凄さには感心させられます。またアメリカ合衆国とイギリス、そして日本を含めて、オオタカの生息場所や状況がとても違うと言うことが印象的でした。あとの二人の話は半分寝てしまって、あまりよくわかりませんでした。
 特別講演は、ニュージーランドから来たDr.John Cockrem氏が「ニュージーランドの希少鳥類Kakapoの管理」という題で話をしました。Kakapoというのは一時は絶滅したとまで考えられたこともあるオウムの一種で、たしかフクロウオウムと言ったと思います。翼が退化した飛べない鳥で、夜行性で、地面に穴に巣をつくる、というとても変わったオウムです。1997年の繁殖期の終了時点で、雄34羽と雌20羽の合計54羽しかいないそうです。さらに1990年代に入ってヒナは、わずか6羽程度しか育っていないということで、トキよりももっと絶滅に瀕した鳥です。Kakapoがこのように減少した理由は、ニュージーランドにもともといなかったネコやネズミなどの肉食性の哺乳類が持ち込まれて、卵やヒナをはじめ成鳥までも次々と食べられてしまったためのようです。
 自由集会7つのタイトルは、「コアジサシの生息状況と保護の現状」、「日本における猛禽類研究の現状とこれからの方向性」、「第7回 ちょっと長めの話を聞く会」、「ナホトカ号重油流出事故と海鳥」、「モニタリングで未来を語る」、「油流出による野生動物への被害防止体制の確立を目指して」、「鳥散布の生態学−植物側からのアプローチ−」となっています。公開シンポジウムや自由集会のタイトルを見れば、現在の日本の鳥の研究者の興味の方向がおおよそはわかるかもしれません。

○「カワウの巣材採集行動とその営巣地の植生への影響」石田朗(名古屋大・農・森林保護)
 カワウは巣をつくる時、かなりの量の葉の付いた枝を集めてくる。カワウのコロニーができて樹が枯れることが各地で問題となっているが、糞だけでなく巣づくりも樹が枯れる原因になっている。

○「小笠原諸島父島におけるモズの現況」上田雅子(奈良女大・理・生理生態)・高木昌興(立教大・理・動物生態)・名越誠(奈良女大・理・生理生態)
 もともと小笠原諸島にモズは生息していなかったが、1984年から毎年観察されるようになり、1988年に父島で初めて繁殖が確認されて、その後増加して、今では普通に見られる。

○「ヒヨドリの営巣環境解析−都市部と山間部の比較−」藤岡健司・阿部學(新潟大・自然科学)
 ヒヨドリの巣の高さは、都市部で平均163.2cm、山間部で平均224.6cmで、山間部の方が有意に高い。また巣場所が覆われている割合は、都市部の方が山間部よりも有意に高い。都市部と山間部で、いろいろな高さにウズラの卵をおいておく実験をすると、山間部では低い位置においた卵がよくなくなったが、都市部ではとく高さによる違いはなかった、つまり山間部で低い場所に巣をつくると捕食者に卵を持って行かれやすいので、都市部よりも巣場所が高いと言うことらしい。

○「12年間の標識結果:イワヒバリの生涯繁殖成功度はすべての個体で等しいか?」中村雅彦(上越教育大・生物)
 繁殖期のイワヒバリは雄雌それぞれ数羽からなるグループで暮らしていて、自分の子供を残すことができるのは雄雌それぞれ順位がトップクラスの個体だけ。雄の順位は年功序列的で順位が下がることはなく、一度トップに立つと死ぬまでトップ。したがって雄がトップになるには自分より上位の個体がすべて死んでしまうまで長生きする必要がある。雌の場合もトップになるには長生きする必要があるが、トップの座を維持できるのは2-3年程度で、その後は順位が下がる。

○「利根川下流域のコジュリンにみられた婚外交尾」永田尚志(国環研・野生生物)・N.S.ソーディ(シンガポール大・動物)・山根明弘(国環研・野生生物)
 コジュリンのヒナの24%が、つがいの雄以外の雄の子。→つまり相当な頻度で婚外交尾および婚外受精がおこっているということですね。

○「オナガのアラームコールとディストレスコールに対する他種の反応」藤岡正博・浦野栄一郎(農研センター・鳥害研)
 オナガのタカに対するアラームコールを聞かせると、ヒヨドリとムクドリは飛び去ることが多いが、キジバトとスズメはあまり反応しない。またディストレスコールには、みんなあまり反応しない。

○「オナガとカッコウの托卵関係の動態」中村浩志(信大・教育)
 長野では25年前からカッコウがオナガに托卵するようになった。その後オナガの個体数は減少していたが、ここ数年は増加傾向にある。同時にオナガが自分の巣に産まれたカッコウの卵を排除したり、托卵された巣を放棄することが多くなっている。

○「ペリットによるカラスの食性 1.イネ科雑草」後藤三千代(山形大・農)
 山形の水田地帯にすむカラスは、スズメノテッポウやオオウシノケグサの果実を6-7月を中心に大量に食べ、その他の季節はもっぱらイネの籾を食べている。→カラスはコメを消化できるのか?

○「夏鳥の減少−どこで何が減っているか−」樋口広芳・森下英美子(東大・農・野生動物)・宮崎久恵(日本野鳥の会研究センター)
 日本各地の野鳥の会の支部の探鳥会の記録やアンケートによると、アオバズク、ヨタカ、アカショウビン、サンショウクイ、サンコウチョウといった夏鳥の減少が激しい。

○「糞尿に含まれるDNAを用いた鳥類の性判定」能田由紀子(京大・理・動物)・竹中修(京大・霊長研)
 PCRして、Hae3で切断して、電気泳動にかけて、鳥の雌雄の判定が可能。混ざりものの少ない尿の方が、糞よりも適している。

○「繁殖期のゴイサギにおける、個体レベルでの活動周期とエサ場利用の変化」大坪瑞樹・小松涼(弘前大・理)・佐原雄二(弘前大・教養)・作山宗樹(ネクサス)
 青森のゴイサギは、昼は川で、夜は水田で採食する。また非繁殖個体は24時間周期で夜行性だが、繁殖個体は48時間周期でコロニーを出入りする。

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