SF関係の本の紹介(2002年下半期分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】


和田の鳥小屋のTOPに戻る


●「ねじの回転」恩田陸、2002年12月、集英社、1600円+税、ISBN4-08-774585-6
20021223 ★★

 タイムトラベルが実現した近未来。過去の歴史の過ちを正すべく、歴史に介入した結果、近未来の地球では人類存亡の危機が。そこで、”正しい歴史”に戻すべく、再び過去の重要事件をやり直すことに。で、2.26事件をやり直そうとするプロジェクトが描かれる。
 よく考えれば変な設定だが、読んでる間はそんなことは気にならない。2.26事件を題材にしたタイムトラベル物と言えば、「蒲生邸事件」を思い出すが、かなり違った作品になっている。
 2.26事件の首謀者に事情を説明して、事件を再び”演じてもらう”わけだが、失敗するのがわかっていてあえて”正しい歴史”通りに動かなければならない主人公たちのジレンマ。今度は成功させたいという想いと、あえて失敗しなければならないという使命との葛藤の描き方がうまい。2.26事件をやけに親身に感じてしまう。

●「まろうどエマノン」梶尾真治、2002年11月、徳間デュアル文庫、533円+税、ISBN4-19-905127-9
20021213 ★

 エマノンシリーズの第4弾。「かりそめエマノン」に続いての中編。夏休みに、九州の田舎の祖母のもとに行った少年と、エマノンの一夏の冒険。
 例によってエマノンは舞台回しやけど、今回はマドンナ役としてもちょっとは役にたってるかも。ジュヴナイルSFとしては、ほのぼのと少年の体験を描いていて、いい感じ。婆ちゃんがいい味を出している。
●「ノルンの永い夢」平谷美樹、2002年11月、早川書房、1800円+税、ISBN4-15-208456-1
20021212 ★

 現代でとSFの新人賞をとったばかりの作家と、第二次世界大戦下のドイツに留学した日本人のエピソードが交互に語られ、最後に両者は交錯する。ある種の時間SF。
 二つの時間をつなぐキーワードは、高次元多胞体理論。この理論を用いた一種のタイムトラベルと、通常の時間経過が絡み合ってエンディングに向かう。最後の方では、さまざまな”可能性の世界”が挿入され、ディックばりに何が何やらわからなくなってくる。でもディックとは違い、一応わかりやすいオチをつけて終わる。中途半端にきれいにまとまって終わりすぎな感じ。
●「イリーガル・エイリアン」ロバート・J・ソウヤー、2002年10月、早川文庫SF、940円+税、ISBN4-15-011418-8
20021205 ★

 地球に異星人がやってきて、平和的にファーストコンタクトが成立。地球側の歓迎委員が、地球を異星人に紹介。という中、歓迎委員のメンバーが殺され、その容疑が異星人の一人にかかる。あとはアメリカの法廷を舞台にした法廷劇。
 アメリカの法廷での駆け引きがおもしろく、楽しく読める。しかし、異星人が、外国人でもぜんぜん問題ないなー、という感じ(その意味でタイトルは正しい)。殺人事件の真犯人は、その動機は、ってところは、ごくありきたりのミステリレベル。

●「太陽の闘士」(上・下)ショーン・ウィリアムズ&シェイン・ディックス、2002年10月、早川文庫SF、(上)720円+税(下)720円+税、(上)ISBN4-15-011419-6(下)ISBN4-15-011420-X
20021203 ★

 特殊なAIを運ぶ任務を帯びた主人公が、敵国の攻撃によって、謎の戦士らと共に囚人惑星に不時着。で、囚人たちと協力して、敵国と看守たちを出し抜いて囚人惑星を脱出する話。
 宇宙規模での勢力図やその歴史、AIや謎の戦士の素性、そしてまだ姿を見せない謎の存在など、設定自体に魅力が多く、その謎のいくつかは今後に引き継がれている。今回は、女キャプテンフューチャーの出会い編ってところ。今後は、今回得た仲間とともに、宇宙を飛び回って好き勝手なことをするのかな? 脳天気に楽しめそうなシリーズではあります。
●「アイオーン」高野史緒、2002年10月、早川書房、1900円+税、ISBN4-15-208449-9
20021202 ★★

 ローマ文明が高度な科学技術を発達させた後、核戦争で科学技術はあらかた失われたもう一つの歴史の物語。舞台は中世で、ローマ時代の高度な科学技術は、遺跡などとして断片的に残されているのみ。一方、核戦争の後遺症の放射線障害が見られる。ヨーロッパのキリスト教世界では、過去の核戦争の記憶のため科学的知識をタブー視するような時代。科学技術の残滓が残る中世のヨーロッパと中近東での、不思議な話が語られる。6編を収めた連作短編集。
 科学的素養があり聖職者でもある医者の苦悩。ローマ時代の科学技術を再発見しようとする科学者のアラビアンナイトばりの冒険。密かに繁栄するコンスタンティノポリス。ログレスの王となった超能力少女アーサーの運命。ネット社会を思わせるローマの夜に密かにおこなわれる会合。オールスターキャストでの巨人との戦い。いずれも印象的で、甲乙付けがたい。
 「ムジカ・マキーナ」を読んだときは、どうして歴史物のような設定なのに、現代の科学技術(あるいは現代の風俗)が紛れ込むのかわからなかったけど、今回ようやくわかりました。高野史緒の作品は全部この設定なのかな?
●「海を見る人」小林泰三、2002年5月、早川書房、1700円+税、ISBN4-15-208418-9
20021120 ★★

 舞台回しの短い章をはさんではいるが、独立した7編を収めた短編集。著者は、ホラー的な作品で知られているが、収められている作品はいずれもまっとうなSF。というかあとがきに曰く、ハードSFだそうな。
 人工知性体が主人公の1編を除き、変わった条件下で暮らす人々が描かれる。ストーリーが進むにつれて人々がおかれている条件がわかってくる趣向。というわけで、趣向をそぐような、世界の説明はできない。世界のおもしろさだけではなく、そこでの人々の暮らしが描かれているのがいい。
 お気に入りは、「独裁者の掟」と「海を見る人」。これはどちらかといえば、ストーリーのよさで選んだ感じ。
●「ロミオとロミオは永遠に」恩田陸、2002年10月、早川書房、1800円+税、ISBN4-15-208437-5
20021113 ★

 近未来、疲弊した地球に、なぜか唯一取り残された日本。日本各地区の代表で競われる体力勝負の試験を突破してはじめて入学できる大東京学園。卒業すれば安楽な生活が約束され、日本中の受験生の目標である学園が舞台。新入生の目を通した学園の真実が描かれる、ってところ。
 外部にはまったく知らさせれていない過剰な一種のスパルタ教育。ゆがんだ教師に支配された学園と、そこから脱出を試みる”落ちこぼれ”達。収容所のような学園と、そこからの命をかけた脱出劇というわけで、あとがきにもあるように「大脱走」が展開されます。
 ヴァーチャルリアリティを使った設定は、不思議感を出していておもしろいけど、ファンタジックなだけで、SF的な説明に欠けるか。むしろ楽しめるのは、各所にちりばめられた20世紀後半アイテム。未来からの視点ということで、現代を解釈してくれる部分は笑えます。
●「航路」(上・下)コニー・ウィリス、2002年10月、ソニー・マガジンズ、(上)1800円+税(下)1800円+税、(上)ISBN4-7897-1933-2(下)ISBN4-7897-1934-0
20021102 ★

 臨死体験(NDE)を科学的に解明しようとする研究者の話。臨死体験を宗教的に解釈しようとする者たちをいかに出し抜いて、まっとうな臨死体験者からいかに客観的な証言を得るか。上巻は主にその苦労話が、かなりコミカルに展開する。やがて主人公は、人工的な臨死体験をみずから体験して、臨死体験の謎を解こうとする。
 それにしても、下巻での展開には驚いた。ひょっとしたらどんでん返しがとも思いながら読んだけど…。そのおかげでお涙頂戴物にはなったけど、肝心の臨死体験の真実があんな形ではねー。読み終わっての感想は、これはSFの終わり方とちゃうなー、ってとこ。
●「歩兵型戦闘車両ダブルオー」坂本康宏、2002年6月、徳間書店、1800円+税、ISBN4-19-861528-4
20021021 ★

 「ΑΩ」がウルトラマンを科学的(?)に描こうとした作品なら、こちらは合体ロボを近未来の日本でリアルに描いた作品。一番近いのは、ゲッターロボかな。
 それにしても、合体があれほど微妙で難しいとは知りませんでした。テレビアニメのヒーローたちを尊敬してしまいました。あと、どうして3つに分けた合体が必要な形でつくってしまうのか、ようやく納得しました。お役所の予算獲得の都合だったんですね。なるほど、よくあることです。
 というわけで、とっても楽しく読めます。公務員のくせに(それも自衛隊や軍隊でもないのに)命をかけて敵と戦う理由も、それなりに納得できてしまう!
●「マーブル騒動記」井上剛、2002年6月、徳間書店、1900円+税、ISBN4-19-861527-6
20021017 ★★

 突然、家畜のウシが話をするようになる話。飼育環境の改善を要求するわ、そもそも食用にできないわで、人間社会はてんやわんや。BSE騒ぎの時に実際に起こったようなことが、描かれていておもしろい。
 趣向としては、ウシ達の目を通して、人間の社会の不合理な点を皮肉るってところ。テレビ討論で、人間がウシに言い負かされる所は笑える。ウシ達の思考は、現代の生物学者風なんやけど、相互に意識を共有しているという設定のせいか、種の利益を強調するのにちょっと違和感を覚える。
 ウシたちの代表者格のモー太郎が、論理的で冷たいようで、愛嬌もあって、とにかくいい味を出している。人間側の主人公やその家族との交流もいいし。最後には、あの有名な知能を高められたネズミの話を思わせ、泣けます。
●「グラン・ヴァカンス」飛浩隆、2002年9月、早川書房、1600円+税、ISBN4-15-208443-X
20021011 ★★★

 ネットワーク上のヴァーチャル世界につくられた仮想リゾートが舞台。そこでは、役割だけでなく、性格から過去まで細かく設定されたAI達が、人間の客をもてなす。しかしなぜか客が来なくなって1000年、仮想リゾートに謎の破壊者たちがやってくる。「廃園の天使」3部作の第一作で、AI達と破壊者との一夜の攻防が描かれる。
 登場のするのは、ほとんどAIだけで、人間はでてこない。限られた過去しか持たないことを悩み、客である人間にされた行為の記憶に苦しみ、自らのアイデンティティを求めるAI達。これほど人間味あふれたAIが描かれるのは珍しいのでは? 与えられた役割の背後にではあるが、確かに存在するAIの感情。AIの心を扱ったという意味で、新鮮だった。
 勇敢だったり、思いやりがあったり、隠された恋心があったり。全体のストーリー以上に、個々のエピソードがすばらしい。
 あと硝視体<グラス・アイ>のテイルがかわいい。最初のページに”流れ硝視<ドリフト・グラス>”とあって、ディレーニをイメージしながら読んだが、このイメージの提示もよかった気がする。
●「ラーゼフォン」神林長平、2002年9月、徳間デュアル文庫、590円+税、ISBN4-19-905120-1
20021008 ☆

 同名のアニメのシェアワールド・ノベルだそうです。死んでは16歳のある時点に戻ってしまう、という時間ループにつかまっていた主人公が、時間ループを抜けて、敵と戦う話とでもいうか。結局は、多くの平行世界を統べる神々の戦いって感じになっていく。
 時間ループをもっと繰り返して描写して、その脱出に焦点を当てた方がおもしろかったと思う。I章はとてもおもしろい。II章はまあ許せる。が、III章以降、どんどん平行世界を舞台にした戦いの話になっていく。時間ループはなんだったの?MUの存在は必要ないやん?出だしがおもしろかっただけに、不満が残る。
●「鵺姫異聞」岩本隆雄、2002年9月、ソノラマ文庫、600円+税、ISBN4-257-76963-7
20021005 ★

 「星虫」「イーシャの舟」「鵺姫真話」と同じ世界を描いた最新作。「鵺姫真話」のサイドストーリーと言うより、表裏一体の話。それでいて、こちらでは世界をこの宇宙を守るための戦いが描かれる。
 バック・トゥ・ザ・フューチャーのpart 3を見てるように、かつてのエピソードがこの作品の中で、はまっていくのが楽しい。またこの作品の中だけでも、行ったり来たりするので、最後に話がつながると再び読み返したくもなる。
 例によって、正当派ジュヴナイルSF。展開はすがすがしく、読後感もすっきり。気持ちよく読み終えられます。でも、SF的にはとくに目新しくもない。そろそろ新境地が欲しいな。
●「イカ星人」北野勇作、2002年8月、徳間デュアル文庫、505円+税、ISBN4-19-905114-7
20021003 ☆

 例によって北野ワールドが展開される。カメタヌキザリガニクラゲクマ+アメフラシ(発行順というより、読んだ順に)ときて、今度はイカ。動物が変わったのを除くと、あとの中味は似たような感じ。
 さすがにすこし飽きてきた。同じタッチで。同じテーマを繰り返しているだけのように思う。次回作には、なにか新鮮味を期待。
●「内宇宙への旅」倉阪鬼一郎、2002年9月、徳間デュアル文庫、505円+税、ISBN4-19-905121-X
20021002 ★

 小説家の倉阪鬼一郎が、自分の幼少時代を題材に小説を書こうと、自分の過去を見つけに故郷に帰る。で、そこには不思議な出来事が待っていた、といった小説。倉阪鬼一郎の小説の中で、倉阪鬼一郎が小説を書く。作中作という形式を使って、不思議な感じを作っている。
 しかし、あの作中作のトリックは、明かされるまでわからなかった。普通わからんやろ、大体そんなんありかー、と思わなくもない。
 とにかく謎めいた展開で、とても楽しく(というかちょっと恐くなりながら)一気に読めます。SF的設定はとってつけたようですし、SFというよりはホラーってところでしょうか。
●「宇宙生命図鑑」小林めぐみ、2002年9月、徳間デュアル文庫、533円+税、ISBN4-19-905122-8
20021001 ★

 人類が宇宙に広がり、多くの異星生命体(知的生命体を含む)との接触を果たした世界。メスしか産まれない知的生命体のいる惑星ジパスで、大学出たての新米学芸員が、現地の知的生命体の謎にいどむ。といった話。
 ネタ自体は、通常単為生殖を行ない、特定の状況下で有性生殖を行なうというもの。実際にこの地球
で見られる現象のヴァリエーション。あんまり意外でもない。
 唯一の救いは、謎めいた過去を持つ宇宙を放浪している男と、特殊な能力と知識を持ったその連れのネコ型知的生命体。結局、この二人の謎はそのままなので、続編が書かれていくのでしょう。果たして次回は、どのような不思議な宇宙人が現れるか乞うご期待。ってことなんでしょう。
●「星の、バベル」(上・下)新城カズマ、2002年9月、ハルキ文庫、(上)680円(下)760円、(上)ISBN4-89456-944-2(下)ISBN4-7584-3008-X
20020929 ★

 南太平洋のある国で、絶滅危機言語を研究する若き言語学者が主人公。絶滅危機言語の復活と現地に伝えられる神話を背景に、アメリカ合衆国との対立含みの政治状況、そして謎の病気とテロ絡みの事件から、混乱がえがかれる。
 異星の知的生命体(?)を思わせる謎の存在が、ストーリーを引っ張る。自己組織化あるいは自己複製がキーワードでしょうか。アイデア及びその展開には無理があると思うけど、ちょっと惹かれる部分もある。ってとこか。
●「ウロボロスの波動」林譲治、2002年7月、早川書房、1600円+税、ISBN4-15-208430-8
20020929 ★★

 捕らえたマイクロブラックホールからエネルギーを取り出し、宇宙に進出していく人類をえがいた連作短編集。
 コンピュータが人間を攻撃した理由は何か。突然小惑星が回転を始めたのは何故か。衛星軌道上の人物を暗殺する方法は何か。エウロパで見つかった龍の正体は。観測隊が突然連絡がとれなくなった理由は。といった具合に、基本的にミステリ仕立ての短編が並び、最後の作品で宇宙への夢が描かれる。
 こういったメインストーリーと同時に、地球から他の惑星へ移住した人々の意識と、そこで生まれた個人主義に基づいた特殊な社会システム。それが地球人との関わりの中で、描かれている部分が重要な要素となって、全体に厚みができている感じ。
●「ストーンエイジCOP」藤崎慎吾、2002年8月、光文社カッパノベルズ、848円+税、ISBN4-334-07479-0
20020917 ★

 クローン技術の発達した近未来の日本。警察もついに民営化され、コンビニが警察業に進出。そんなコンビニCOPの主人公が、雇い主の命令を無視して、ストリートチルドレンと一緒に、違法クローン事件をあばく。てな話。
 地球温暖化で亜熱帯化して、ペット由来の外来の動物が跋扈する怪しい都市緑地のイメージはおもしろい。そしてその動物を食べて暮らすストリートチルドレン。斬新な都市生態系だ。というか、すでにほとんど実現してるなー。あと、違法クローンの事件自体は、少なくともSFではよくある設定(すでに現実が追いついてきているようやし)。
 とにかくコンビニCOPという設定がいい。タイトルはどう考えてもコンビニCOPの方がよかったのに! 最後にコンビが成立してタイトルがでてきたし、主人公の正体も謎のままやし、きっと続きが書かれるんでしょう。続きはいらん気がするが‥。

●「蒼いくちづけ」神林長平、2002年9月、早川文庫JA、580円+税、ISBN4-15-030701-6
20020916 ☆

 恋人に裏切られて死んだ強力なテレパスが、死後に恐ろしい事件を引き起こすって話。主人公の警官たちが右往左往する。それ以上の話ではないような…。

●「ポストガール」増子二郎、2002年6月、電撃文庫、530円+税、ISBN4-8402-2115-4
20020915 ★

 ホロコースト後の世界を舞台に、心というバグを抱えた郵便配達人の少女型アンドロイドと人々の交流を描く。連作短編風に、少しだけ関連のある人情話風エピソードが5つ収められている。
 ホロコーストの後、郵便配達人が人と人をつなぐというイメージは、タイトルからしてもブリンの「ポストマン」から。こういう連作風に書きつないでいくには、けっこういい設定かもしれない。

●「最果ての銀河船団」(上・下)ヴァーナー・ヴィンジ、2002年6月、創元SF文庫、(上)1260円+税(下)1260円+税、(上)ISBN4-488-70503-0(下)ISBN4-488-70504-9
20020912 ★★

 「遠き神々の炎」と同じ宇宙を舞台にしているが、時代がかなり離れているので、ほとんど独立の話。この作品では、人類は広大な宇宙に広がっているが、まだ超高速技術はないため、冷凍睡眠を用いて長い時間をかけて移動を行なっている。こうした長い時間をかけて、人類集団間を行き来する商売人集団チェンホー。というのが設定。
 チェンホーの船団が、クモ型の知的生命体がすむ惑星を巡って、もう一つの船団と対立する。二つの人類集団の対立と、クモ型知的生命体の社会の変化が交互に語られていき、最後に両者が交錯する。ストーリー自体は、長い雌伏を経ての復讐の話。虐げられていた主人公が、ついに悪者である敵をやっつける。わかりやすく、痛快な展開。
 広大な時間スケールと空間スケールをまたにかけて商業活動を行なうチェンホーの歴史、及びその人類社会を結びつける役割が、話にふくらみを持たらしている。移動の間に100年があっと言う間に過ぎてしまう状況の中での、人々の交流がとても不思議な感じ。

●「ミラー・ダンス」(上・下)ロイス・マクマスター・ビジョルド、2002年7月、創元SF文庫、(上)960円+税(下)940円+税、(上)ISBN4-488-69809-3(下)ISBN4-488-69810-7
20020831 ★

 ヴォルコシガン・シリーズの最新作。「親愛なるクローン」の次の話で、そのクローンが主人公。マイルズのクローンがピンチに立ち、その救出の最中にマイルズが死亡。蘇生させようにも死体が行方不明に。マイルズの後釜にクローンが?という話。
 クローンの人権のあり方が、主要なテーマの一つ。けっこうタイムリーな話題かと。クローンを使った臓器移植というのは、すでに現実味を帯びているし。
●「言の葉の樹」アーシュラ・K・ル・グイン、2002年6月、早川文庫SF、700円+税、ISBN4-15-011403-X
20020822 ★★

 ハイニッシュ・ユニバースを舞台にした作品。焚書を行ない、文学、哲学、歴史など過去の文化を否定した惑星。そこに派遣された言語学者の物語。
 イメージは文化大革命時の中国か? 物語の中心は、密かに文化を伝えている人々と、主人公との交流。文字とは、歴史とは、文化とは何か、そして異文化との接触(とくにいわば先進国と途上国の)は何をもたらすのか。いろんなテーマが提示される。
 正直言って、とても小説とは呼べないような代物の後に読んだだけに、グインがいかにしっかりした小説を書くか再認識させられてしまった。やっぱりうまい。小説と名乗るからには、こう書いてもらわないと。って感じ。

●「ホロウ・ボディ」米田淳一、2002年7月、ハヤカワ文庫JA、640円+税、ISBN4-15-030697-4
20020819 ☆

 「エスコート・エンジェル」の続編。日本の首都、新淡路市に仕掛けられたバイオ・テロに立ち向かう。といったところ。とくにどうということのな話。
 薄っぺらい政治認識・社会認識を、わかった風な口調で登場人物に言わせたり。もったいぶって説明をはしょってみたかと思ったら、当たり前の事をえんえんと解説してくれる。それがかっこいいと思ってるらしいのも、鼻につく。というわけで、イライラさせてもらいました。
●「クリプトノミコン」(1〜4)ニール・スティーヴンスン、2002年7月、早川文庫SF、(1)880円+税(2)880円+税(3)880円+税(4)880円+税、(1)ISBN4-15-011398-X(2)ISBN4-15-0114001-3(3)ISBN4-15-011404-8(4)ISBN4-15-011407-2
20020817 ★

 西太平洋から西ヨーロッパまでを舞台にした第二次世界大戦中の連合国と枢軸国の暗号戦と、現代のフィリピン周辺を舞台にしたITベンチャー。この二つを軸にストーリーは進んでいく。過去の登場人物の孫あたりが現代で活躍して、そして過去と現在が交錯していく。
 ただし暗号に関する蘊蓄は盛りだくさん。コミュニケーション全般、それどころかあらゆる事象を、暗号/暗号解読というコンテクストで読み解こうとしているかのようなところには、SF的な部分が強く臭ってる。けど、普通に考えてSFではないってことになるでしょう。

●「ふわふわの泉」野尻抱介、2001年5月、ファミ通文庫、640円+税、ISBN4-7577-0405-4
20020731 ★

 女子高生が、超軽量(空気より軽い)で超頑丈な夢の新素材(その名前が、ふわふわ)を開発。会社を興して、特許を取って、大金持ちになる話。
 見所は、新素材の工学的可能性の追求。建築素材としては、ビルや橋から、軌道エレベーターや宇宙船まで。飛行船だけでなく、空に浮かぶ島まで作ってしまう。とくに国境を無視して、空中で生活するアウトサイダーたちは魅力的。
 問題は、5章から登場するあれ。あれはいくらなんでも唐突で、必然性もない。ふわふわという新素材だけで通した方がまとまりのある作品になったのに、と思うと残念。

●「ムジカ・マキーナ」高野史緒、2002年5月、早川文庫JA、800円+税、ISBN4-15-030693-1
20020725 ★★

 19世紀後半、ウィーンやロンドンを舞台に、音楽を快楽にかえるドラッグと音楽機械をめぐって、あやしい話が展開する。音楽の都ウィーンで、クラシックを極めることを追求していたかと思うと、なぜか新手の興行師がやってきてディスコを開くし。19世紀なのに、ロンドンのクラブシーンでは、DJがはりきってるし。全体にはゴシック・ホラー的な要素がありつつ、妙に20世紀後半が混ざり合って、不思議な独特の雰囲気をつくり出している。
 ロック好きには、バンド名などでの遊びがあって、妙に楽しめる。「プレジャー・ドームにようこそ」を繰り返してくれるし。彼の名前にそんな意味があったとは、言われるまで気付かなかった。
 謎がちりばめられたストーリーもさることながら、独特の雰囲気が楽しめる。一種のスチームパンクと言っていいのかな?単行本ではパスしていたけど、文庫化を機会に手にとってよかった。

●「妻の帝国」佐藤哲也、2002年6月、早川書房、1700円+税、ISBN4-15-208423-5
20020721 ★

 日本で革命が起きて、民衆独裁国家が成立する。なんと妻がその最高指導者、というお話し。主人公は夫の方。とっても不条理な革命によって、不条理な世界が構築されていく。
 とにかく革命の手段が秀逸。ようは住所も書かずに各革命細胞宛に指令の手紙を出すだけ。妻はもちろん革命の主導者で、毎月大量の切手代を消費して、指令の手紙を出し続ける。その手紙はなぜか”正しい相手”に配達され、革命が進んでいく。この郵便システムを利用して、なぜか革命が進むプロセスが、不条理ながら自己組織化っぽくて楽しい。
 話は、東京近郊の地方都市にほぼ終始する。日本の他の部分でも革命は進行しているらしいが、外国はまるで存在していないかのよう。全体像がわからないのが不満と言えば不満ですが、このシステムをそこまで拡張して描き出すのは難しかったのでしょう。
 民衆独裁国家が成立してからの展開は、恐いしそれなりに納得もするけど、あんまり面白みには欠ける感じ。終わり方は…、まああんなもんでしょう。
●「デューンへの道 公家アトレイデ」(1〜3)ブライアン・ハーバート&ケヴィン・J・アンダースン、2002年6月、早川文庫SF、(1)840円+税(2)840円+税(3)840円+税、(1)ISBN4-15-011397-1(2)ISBN4-15-011400-5(3)ISBN4-15-011402-1
20020708 ★

 あのフランク・ハーバートのデューンシリーズの続きを、息子が書く。という話は聞いたことがあったけど、本当だとは思っていませんでした。アトレイデ、ハルコンネン、ベネ・ゲセリット、メンタート、フレーメンなどなど。とても懐かしい単語が並んでいるので、それだけでも楽しい。
 しかし、残念ながら父親の名作に新たなものを付け加えたわけではなく。「デューン 砂漠の惑星」の前史をえがいて、想像に任されていた部分を埋めただけ。SFとしてはどうということはなく、デューンシリーズのファン以外は読まなくてもいい作品でしょう。これを読むなら、まず「デューン 砂漠の惑星」を読みなさい!

和田の鳥小屋のTOPに戻る