SF関係の本の紹介(2005年上半期分)

【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】


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●「妻という名の魔女たち」フリッツ・ライバー、創元推理文庫、2003年11月、ISBN4-488-62507-X、760円+税
20050621 ★

 大学で文化人類学を教え、科学を信望する主人公。ところが、その主人公は妻の魔法によって守られていた。魔法を嫌う主人公は、その魔法を排除するのだが…。
 女はみんな魔女で、ひそかに男を操ったり、守ったりしてるわけ。この設定自体が、なぜかとても魅力的。そして、それを認めれられない主人公がさまざまな苦境に立ち、やがて渋々ながら魔法を認めていくところが、とてもおもしろい。
 というわけで、設定もストーリーもとても楽しめる。夫婦愛もとてもいい感じ。

●「天国にそっくりな星」神林長平、ハヤカワ文庫JA、2004年2月、ISBN4-15-030751-2、700円+税
20050620 ★

 光文社文庫から出ていた作品の再版。光文社文庫版を読んでいたのを、途中まで読んで、ようやく気付いた。最初からなんか読んだ覚えがあるとは思ったが…。
 住みにくくなった地球を捨てて、ヴァルポスへ移住した人々の話。ヴァルポスには人間によく似た知的生物がいたが、彼らは人々の移住に好意的。新天地で快適な生活を送っていたが…。探偵の男が主人公。行方不明の女の子の探索と、ヴァルポス人の犯罪者の捜索を依頼されて、やがてヴァルポスの秘密が明らかになる。
 神林作品らしいディックばりの現実が曖昧になる話。真実がわかりやす過ぎるのが難点。

●「シャドウ・パペッツ」オースン・スコット・カード、ハヤカワ文庫SF、2004年10月、ISBN4-15-011491-9、1000円+税
20050613 ★

 エンダーシリーズ3部作の続きで、地球に残された人々をビーンを主人公に描いたシリーズの4作目。直接的に「シャドウ・オブ・ヘゲモン」の続き。
 とりたてて新しい展開はなく、アシルの問題がようやく解決し、ビーンも一応の幸せを手に入れたってところ。まだ続くんだっけ?

●「星空の二人」谷甲州、ハヤカワ文庫SF、2005年5月、ISBN4-15-030798-9、680円+税
20050603 ★★

 8編を収めた短編集。かなりヴァラエティに富んだ作品が並ぶ。
 惑星探査、宇宙の果てをめざす旅、謎の彗星の調査、異星人との接触など、宇宙を舞台になんらかの形のファーストコンタクトを描いた話が4編。宇宙と時間をまたにかけた追跡劇、そして表題作の宇宙飛行士との恋愛物。宇宙を舞台にした作品は、どちらかと言えば真面目で、似たようなテイストがある気がする。そして、良くも悪くもこの著者らしい作品群。ところが、田中啓文みたいなふざけた作品や、コメディのようなパラレルワールド物もあって、驚いた。どちらも「SFバカ本」に掲載された作品。この著者にまでこんな作品を書かせるとは、むしろ驚くべきは「SFバカ本」の力か。

●「タフの方舟」(1 禍つ星・2 天の果実)ジョージ・R・R・マーティン、ハヤカワ文庫SF、2005年4-5月、(1)ISBN4-15-011511-7(2)ISBN4-15-011516-8、(1)840円+税(2)700円+税
20050516 ★★★

 宇宙のさまざまな生物種のDNA情報と、バイオテクノロジーの粋を詰め込んだ超巨大宇宙船「箱舟」。これに乗って宇宙を股にかけ活躍する環境エンジニアの物語。7話を盛り込んだ連作短編集。
 簡単に紹介された設定からは、格好いい主人公を思い浮かべるところだが、禿で色白で巨大な主人公の見かけはまるで格好よくない。美食家で、異常なまでにネコを愛し、慇懃無礼な物腰。はっきり言って変人。それでも商人魂と、密かな正義感に裏打ちされた主人公の回りくどーい活躍は、とてもおもしろい。
 第一話「禍つ星」は、タフが箱舟を手に入れる顛末を描く。じっくり計算して自分の利益になる行動を正確に選び、最後に笑うところが痛快。第三話「守護者」は、ある惑星に住む人々の危機を、鋭い分析力で救うといった趣向。惑星在来の動物が次々と植民者の町を破壊する。対症療法的に、さまざまな外来生物を解き放つ部分は、外来種問題が気になるところだが、それはともかく最後は意外な結末が。第五話「魔獣売ります」は、さまざまな名家が凶暴な動物を戦わせて競う惑星を舞台に、手持ちの強力な動物を売りさばいて、大もうけする話。最後にタフのたくらみが明らかになる。第六話「わが名はモーセ」は、ある惑星での環境エンジニアのような手法による政府転覆計画を、これまた環境エンジニアの力で阻止する話。第二話、第四話、第七話は、惑星ス=ウスラムの人口問題を解決するまでの長い道のりが描かれる。この惑星、都市は地下に空中にとこれ以上ないくらい拡大し、その他の陸地はすべて食料生産にあてて、その上、自然はないは、ペットの飼育は禁止だわと、究極の人口問題にあえいでいる。その上、宗教的な理由で避妊は禁止、産めよ増やせよときてるから始末におえない。どうやって解決したかは、読んでのお楽しみ。
 どの話も粒ぞろい。さまざまな不思議な動物が出てくるのは楽しいし、ネコたちは可愛い。ジャック・ヴァンスが好きな人には絶対にお薦め。

●「ゴーディーサンディー」照下土竜、徳間書店、2005年5月、ISBN4-19-862017-2、1900円+税
20050526 ☆

 「千手観音」と呼ばれるシステムによって、市民はまるでプライベートがないまでに警察からの監視を受け、ほとんど完璧なまでに犯罪が未然に防がれるようになった日本が舞台。内蔵と見分けのつかない爆弾「擬態内蔵」を人体に仕込んだテロが多発する。テロ対策担当の警察官が、仕事に苦しむ話。
 「擬態内蔵」は知らぬ間に犠牲者に仕込まれ、一度仕込まれた犠牲者から爆弾を取り除くには、手術して取り出すしかなく、その過程で犠牲者は死んでしまうという設定。まあ、自分の大切な人に「擬態内蔵」を仕込まれたら、担当者は悩むよでしょう。でも、ハードボイルドを気取ったような文章には、リアリティがない。主人公の感情も伝わってこない。おもしろくもない。かっこいい文章のつもりなんだろうか?
 監視システムをかいくぐってのテロに、「擬態内蔵」を使う必然性もわからない。「擬態内蔵」を人体に仕込むプロセスが、監視システムをかいくぐれるなら、ほかのいろんなテロも可能だろうに。

●「ルドルフ・カイヨワの憂鬱」北國浩二、徳間書店、2005年3月、ISBN4-19-862008-3、1900円+税
20050524 ★

 胎児の出生前診断とDNAデータび作成が義務化されているアメリカ合衆国が舞台。治療不能のウイルス病が胎児に蔓延し、人工授精を義務化して、ウイルスに感染した卵子を排除することでウイルス病への対策が講じられようとしていた。そんな情勢の中、探偵は、出生前診断を拒否し、自然出産しようとする妊婦を守る依頼を受けたのだが…。
 非合法に入手したヒトの卵子や胚を使った非合法実験。スペアパーツ用のクローン。遺伝子レベルでの人体の改造。そして、その背景にある国家レベルの陰謀。さほど目新しいアイデアはないものの、その組み合わせは少し目新しいかも。

●「終末の海 Mysterious Ark」片理誠、徳間書店、2005年3月、ISBN4-19-861989-1、1900円+税
20050522 ★

 世界的な核戦争か何かで、文明は崩壊の危機に。その中、数家族が船で海に避難したのだが、食料を求めて出ていった大人たちが帰らず、子どもだけになった船の中で、一人また一人と子どもが姿を消していく。いったい何が起きているのか?
 ものすごく特殊な状況設定の中での、失踪事件の謎を解こうと、そして生き残る道を見つけようと、子どもたちが模索する。あてにならない小さな子どもが多く、非協力的な奴がいたりで、機械に強い主人公が孤軍(ではないにせよ)奮闘していく。
 失踪事件の答えは、まあ本格物ではないね、って感じ。展開も結末も不可ではないにせよ、さほど可でもない。

●「トリポッド」(1 襲来・2 脱出・3 侵入・4 凱歌)ジョン・クリストファー、2004 年11月・2005年1・3・5月、ハヤカワ文庫SF、、(1)ISBN4-15-011493-5(2)ISBN4-15-011497-8(3)ISBN4-15-011506-0(4)ISBN4-15-011515-X(1)620円+税(2)640円+税(3)640円+税(4)640円+税
20050522 ★★

 宇宙から謎の宇宙人がやってきて、やがて人類を支配する。その支配から脱却するために少年少女が活躍する話。ジュヴナイルSFの古典。
 すでに宇宙人に人類が支配されている状態から、人類の解放までを描いた三部作が書かれたのが、1967-1968年。20年後の1988年に異星人の襲来の前日譚が付け加えられた。もともとの三部作はかつて学研から出版されていたという。どうやら、それを読んだことがあるらしく、2巻目からは妙に懐かしく読むことができた。
 巨大な三本足のロボットのような宇宙人がやってきて、笑い物にしていたはずが、いつのまにか知り合いが、次々と宇宙人にあやつられるようになっていく様子は、とても怖い。1巻は、少年を主人公にしたホラー物の色彩。2巻目以降の三部作は、少年の勇気と成長を描く、わかりやすいジュヴナイルSF。今読むと自己犠牲の美化に引っかかるが、おもしろいのは間違いない。
 ちなみに発売時に買ったものの、表紙絵からつまらなそうに思えて、ながらく積んだままになっていた。ポップだかなんだか知らないけれど、内容にあった表紙とは思えない。

●「優しい煉獄」森岡浩之、トクマ・ノベルズ、2005年4月、ISBN4-19-850663-9、819円+税
20050517 ★

 死後の人格を保存するヴァーチャル世界。いくつかのヴァージョンがある中で、昭和末期を模した世界が舞台。そこで活躍(?)するハードボイルド志望の探偵の話。連作短編集で4編が収められている。
 ありがちな設定ではあるけれど、細部が妙におもしろい。死後永遠にヴァーチャル世界で暮らせる訳ではなく、支払いが発生し、金がなくなるとヴァーチャル世界からも消し去られ、ある意味で本当に死んでしまう。また、できた頃はリアリティに欠けていた世界が、物語が進むに連れてリアリティが増していく、コーヒーがさめるようになるは、犯罪ができるようになるは。リアリティが増すに連れて、不便になるし、住み難くなっていく〜。
 それぞれの短編も、けっこう好みの人情話だったりする。どうやら引き続き同じ世界が書かれていくらしい。

●「天空の秘宝」ウィリアム・C・ディーツ、ハヤカワ文庫SF、2005年5月、ISBN4-15-011510-9、740円+税
20050517 ☆

 賞金稼ぎが罠にはまって、地球帝国軍の仕事を引き受けさせられる。で、地球帝国の辺境に出向いて、大活躍する話。展開が早く、安っぽいアニメ風のクラッシャー・ジョウって感じか。
 とにかく、展開に無理がありすぎ。頭の悪い主人公の行き当たりばったりの行動は、必ずうまくいくし。なぜか、行く先々で心を許せる仲間に出会い、その仲間はなんの理由があるのかわからんけど主人公に忠誠を誓ってくれる。なかには、きっちり裏切者もたくさん出てくるけど、主人公にさほどダメージを与えない。敵は主人公以上に間抜けだし。行き当たりばったりに書いてるマンガみたいな話。
 シリーズ物らしいが、続きが翻訳されないことを願おう。

●「反対進化」エドモンド・ハミルトン、創元SF文庫、2005年3月、ISBN4-488-63703-5、920円+税
20050510 ★

 「フェッセンデンの宇宙」に続いて、創元文庫からもハミルトンの短編集が出版された。1930年代から1940年代に書かれた作品を中心に10編が収められている。
 とくに昔に書かれた作品では、アンタレスの惑星にはなぜか人間そっくりの異星人がいるし、宇宙には超知性種族がよくいるし、アトランティスの超文明がかつては栄え、金星人もいる。さらには生物は放射能をあびれば、突然変異だけで進化するし、動物は言葉を喋るようになる。この銀河は宇宙の中心で、あらゆる他の銀河は中心から逃げていってたりする。とまあ、そんなわけで、古くささが目に付く作品が多い。
 キャプテン・フューチャーにも通じるので、古き良き時代のスペースオペラ好きなら喜ぶかも。ちょっとしたアイデアに基づく馬鹿話として読めば楽しいかも。そういう意味では、フレデリック・ブラウン好きにはお薦め。個人的には、アイデアとして、そして小説としても、「フェッセンデンの宇宙」に収められた作品群の方が楽しめた。

●「銀河おさわがせドギー」ロバート・アスプリン&ピーター・J・ヘック、ハヤカワ文庫SF、2005年2月、ISBN4-15-011503-6、820円+税
20050506 ☆

 「銀河おさわがせアンドロイド」に続く第5弾。オメガ中隊とカジノ<ファット・チャンス>の活躍、というよりは、トラブル処理が描かれます。惑星ゼノビアに駐留するオメガ中隊には、環境汚染の査察に、金持ちハンター。<ファット・チャンス>には、中隊長の父親が乗り込んでくる始末。とってもおもしろいけど、やはりSFではない。ただ、ゼノビア人のコミュニケーションは訳がわからなくって、ちょっとSF臭が漂う。

●「アグレッサー・シックス」ウィル・マッカーシイ、ハヤカワ文庫SF、2005年3月、ISBN4-15-011507-9、720円+税
20050501 ☆

 人類が近傍の恒星系にまで居住範囲を広げた未来、ウエスターと呼ばれる謎の異星人の攻撃を受ける。次々と全滅させられる人類コロニー。その対応策を練るために、敵になりきって作戦を立案するチームが結成された。それがアグレッサー・シックス。果たして、アグレッサー・シックスは人類を救う事ができるのか!? と書くと、とってもおもしろそう、なんだけど…。
 ウエスターは、4つの性を持つ、6個体で1ユニットを形成するらしい。というわけで、人間5人と犬1匹でチームが編成される。1ユニットだけ模しても仕方ないと思うんだけど…。人類は降伏交渉を試みるが意志疎通ができずに、壊滅されつつある。はずなのに、アグレッサー・シックスはウエスター語を簡単に修得する。いったい何語でどんな降伏交渉をしたんだか…。なんとユニットを結成して、ウエスター語を喋っていれば、ウエスターの気持ちも分かってくるらしい。そんな安易な…。
 そんなわけで、相手は意志疎通もろくにできない未知の種族のはずなのに、簡単に模倣できすぎ。それだけ相手のことがわかってたら、なりきりチームなんかいらんやろ。結末も、予想通りの安易なものやし。コミュニケーション不全が背景にあるんだか、ないんだか、中途半端過ぎ。

●「MURAMURA 満月の人獣交渉記」三島浩司、徳間書店、2005年3月、ISBN4-19-861988-3、1900円+税
20050501 ☆

 普通の女子高生が、祖父の形見の銃を使い、オオタカとオオカミを引き連れて、夢の異世界から舞い戻ってきた化け物を退治する。ような、しないような話。
 夢世界、満月、人に憑依する化け物。と、安易なファンタジー設定の中、勢いだけで書かれたようなストーリー。こんな意味不明のものを出版するかなぁ〜。

●「ホミニッド 原人」ロバート・J・ソウヤー、ハヤカワ文庫SF、2005年2月、ISBN4-15-011500-1、920円+税
20050426 ★★

 ネアンデルタール人が文明を発達させたもう一つの地球。量子力学の実験によって、その地球とこちらの地球がつながってしまい、一人のネアンデルタール人の物理学者がこちらの世界に転がり込んでくる話。ストーリーは、こちらの地球ともう一つの地球の様子が交互に語られていく。
 こちらの地球では、ファーストコンタクトの後は、異人から見た我らが地球の奇妙さが描かれる。宇宙人でも何でも通用するありがちなパターン。でも、おもしろい。とくに33節の宗教や死後の世界、そして正しい行ないを何が保障するかの議論は楽しい。キリスト教圏で書かれた小説の限界かとも思うが、宗教を信じるかと死後の世界(or裁き)を信じるかをつなげて論じているのは、残念な気がした。さて、正しい行ないをするのは、神が見ているから? 地獄に行きたくないから? 死んだらそれで終わりだから?
 さて、もう一つの地球では、消えた物理学者の謎が追究される。その中で、ネアンデルタール人が構築した(我々からすれば)不思議な文明社会が描かれる。これがけっこう興味深い。各個人がブラックボックスを持ち歩く世界。ブラックボックス以前の社会がどうだったかが気になるところだが…。
 そんなわけで、けっこう色んなアイデアが出てきて楽しい。ストーリー自体は、ものわかりのいい人達が多くて、とてもすんなり進む。不思議な文明社会から異人がやって来さえすれば、平行宇宙でもなんでもよかった感じ。

●「魔法」クリストファー・プリースト、ハヤカワ文庫FT、2005年1月、ISBN4-15-020378-4、920円+税
20050301 ★★

 爆弾事件に巻き込まれて、事件以前数週間分の記憶を喪失して、保養所に入院していると、見知らぬ美女が訪ねてきて、私を覚えてないかと言う。失った数週間の間にいったい何があったのか? というミステリ風に物語は始まる。が、話は二転三転して、とても奇妙な展開をしていく。ネタばれなしに紹介するのは難しい。
 SFというより、ミステリ風の幻想小説、とでもいった感じの不思議な物語。SF的には、“忘れることは、見られないということの別の形”という部分がポイントか。■な人達の生態はかなりおもしろかったし、そこでほのめかされている可能性はそれだけで小説にしたらいいくらい色々と考えられる。

●「銀河の覇者」(上・下)ショーン・ウィリアムズ&シェイン・ディックス、ハヤカワ文庫SF、2005年1月、(上)ISBN4-15-011498-6(下)ISBN4-15-011499-4、(上)780円+税(下)7800円+税
20050221 ★

 「太陽の闘士」「星の破壊者」に続く、「銀河戦記エヴァージェンス」の最終巻。銀河中を巻き込んでの大騒動が、決着するというか、これから大騒動が銀河中に拡がるというか。一応、すべての謎は明らかになったらしい。そして、主人公は銀河を一人で背負っての決断を迫られる。
 過去に秘められた謎っていうのは、驚くほど大したことはなかった。が、むしろ最後での登場人物達の扱いには驚いた。
 そういえば、高等人類の存在様式がよくわからない。普通人類が種族単位で超越して高等人類になるらしいが、高等人類がそろいもそろって一種族で一個体のように振る舞うのは何故?

●「死都日本」石黒曜、講談社、2002年9月、ISBN4-06-211366-X、2191円+税
20050218 ★★

 南九州で大規模な火山の噴火が起きる。事前にそれを知った政府は秘密裏に対策チームを編成して、準備にあたるが…。520ページの大作の400ページほどは、火山の噴火からの24時間の記述に費やされる。とにかく想像を絶する規模の火山災害、そして右往左往して逃げまどうしかない人間達。24時間で200万人以上が死ぬという大惨事が、描かれていく。
 大規模な火山噴火といえば、火山の冬とかは思いつくけど、火砕流や土石流がこれだけ大規模に拡がることがあるとは知らなかった。火山の想像を絶する破壊力と恐ろしさを疑似体験できる。本自体にも付いているが、手元に南九州の地図を用意して読むといいかも。読み終われば、少しは火山について知った気になれる。サージとかラハールとかいう言葉も頭に残るし。
 地震災害のSFというのはいくつか思いつくけど、火山の大規模噴火を扱ったSFはあまり思いつかない。それに普通火山災害を描くなら、噴火が始まるまでもっと引っ張るか、噴火が一段落してからの復興を描きそうなものだが、この作品はほとんど噴火とその直後だけを描いている。それでいて、驚きも充分一杯で、これだけ読ませる。聞くところによれば、地学関係者の間でもけっこう評判になって、好評な作品だったとか。
 それにしても、旧約聖書から古事記、はてはアトランティス伝説まで、ぜんぶ火山に結びつけて。古代、火山こそが神であったという話は、それはそれでおもしろかった。あれは、真面目な説としては通用してないんだろうか?

●「膚の下」神林長平、早川書房、2004年4月、ISBN4-15-208561-4、2800円+税
20050131 ★

 「あなたの魂に安らぎあれ」「帝王の殻」に続く三部作の完結編。ただし、描かれるのは一番古い時代が中心。荒廃した地球環境を時間をかけて復旧させるために、人類は火星に一時的に避難するという計画が進められている。地球に残ろうとする人たちと、それを見つけて火星へ送り出そうとする組織。人類がいないあいだ地球を管理することになっている機械人と人造人間。4者がさまざまに絡み合って物語が進行する。
 主人公は、アートルーパーと呼ばれる人造人間。遺伝的にさまざまな手を加えられてはいるが、生物には違いない。物語のかなり多くの部分が、アートルーパーとしての主人公のアイデンティティについての自省、そして議論についやされる。神林節満開って感じで、ちょっとくどい。
 「あなたの魂に安らぎあれ」は神林作品の中でも一番のお気に入りの一つ。でも、前後にこんな解説はいらんかったな〜。というのが正直な感想。

●「エンベディング」イアン・ワトスン、国書刊行会、2004年10月、ISBN4-336-04567-4、2400円+税
20050128 ★

 【準備中】

●「アジアの岸辺」トマス・M・ディッシュ、国書刊行会、2004年12月、ISBN4-336-04569-0、2500円+税
20050125 ★

 未来の文学コレクションの1冊。不条理小説といった趣の作品を中心に13編が収められた短編集。どっちかと言えばホラータッチのが多く、SF色はあまり強くない。
 SF色の強い作品は、「リスの檻」と「犯ルの惑星」ってとこか。でも気に入ったのは、資格物とてもいうべき「話にならない男」と「本を読んだ男」。「本を読んだ男」は最初「赤毛連盟」か?と思ったけど、ネズミ講だったのね。

●「ケルベロス第五の首」ジーン・ウルフ、国書刊行会、2004年7月、ISBN4-336-04566-6、2400円+税
20050123 ★

 【準備中】

●「グアルディア」仁木稔、早川書房、2004年8月、ISBN4-15-208588-6、1900円+税
20050122 ★

 【準備中】

●「願い星、叶い星」アルフレッド・ベスター、河出書房新社、2004年10月、ISBN4-309-62185-6、1900円+税
20050117 ★

 奇想コレクションの1冊。9編を収めた短編集。「フェッセンデンの宇宙」と同様、1941年から1963年という大昔に書かれた作品が並ぶ。
 「フェッセンデンの宇宙」に続いて読んだので、どうしても比較してしまう。どうしも古くさい幹事は否めないけど、こっちの方が古さが気になった。こちらの方が、SF色はむしろ強く、人の心理描写はおざなり。それが古さが気になった原因のような気がする。

●「フェッセンデンの宇宙」エドモンド・ハミルトン、河出書房新社、2004年4月、ISBN4-309-62184-8、1900円+税
20050117 ★★

 奇想コレクションの1冊。9編を収めた短編集。作品が書かれたのは、1928年から1962年と大昔。オーソドックスなSFが並ぶ。
 最初に謎を提示して、それを解き明かすといった展開の作品が多く、それが読みやすい理由の一つになっていそう。けっこう印象に残る作品が多かったが、とくに印象的だったのは「帰ってきた男」と「追放者」。SF色は薄かったり、オチが読めたりするけど、こういうの好きなので。
 どうしても古い感じは否めないけど、今でもこれだけ楽しく読めるとは驚き。脳天気なスペースオペラ以外に、こんな作品も書いてたんだなぁ、と再確認できる作品集。

●「時間のかかる彫刻」シオドア・スタージョン、創元SF文庫、2004年12月、ISBN4-488-61902-9、800円+税
20050117 ★

 12編を収めた短編集。有名な短編集「スタージョンは健在なり」を改題したもの。
 スタージョンは「ここに,そしてイーゼルに」が大のお気に入りらしいが、そんなにいい作品とも思えない。気に入ったのは、ありがちではあるけど表題作「時間のかかる彫刻」。恋愛は盆栽だと見破ったわけ。あとは、「<ない>のだった 本当だ!」と「フレミス叔父さん」が印象に残った。
 基本的には人と人との関わりの物語だし、多くは愛の物語。でも、ちょっと不幸な話が多くないか〜。ということで、短編集としてはあまり好きじゃない。

●「パンドラ」(上・下)谷甲州、2004年12月、早川書房、(上)ISBN4-15-208609-2(下)ISBN4-15-208610-6、(上)1900円+税(下)1900円+税
20050115 ☆

 【準備中】

●「暗黒の城」有村とおる、角川春樹事務所、2004年12月、ISBN4-7584-1044-5、1800円+税
20050111 ★

 第5回小松左京賞受賞作品。主人公はゲームソフト制作会社に勤めていて、ヴァーチャルリアリティを使ったホラーRPGを制作している。ところがそのゲームには恐ろしい秘密の目的が隠されていて、制作関係者が次々の謎の死をとげていく。といった感じ。
 集団自殺した教団と、そこで行われていた謎の手術。死の恐怖は人に何をもたらすのか〜。途中までの盛り上げ方はうまいけど、明かされた真相があまりに単純で、拍子抜け。もう一ひねりが欲しい。あと、ヒロインの行動も納得できないし。
 あと、死の恐怖が、ある種のDNAの欠失をもたらすってのは、ものすごい単純な獲得形質の遺伝やね。ウソっぽい設定。死の恐怖を失ったら人類がどうなるのかという問いかけがいいと思うんやけど…。

●「ゼウスの檻」上田早夕里、角川春樹事務所、2004年11月、ISBN4-7584-1040-2、1800円+税
20050111 ★

 木星の衛星軌道上の宇宙ステーションで行われている両性具有人の実験。その実験を阻止しようとするテロリストと、テロを防ごうとする警備隊員。両性具有に対する様々な感情が絡み合って、複雑に事態が進行していく。
 両性具有になった時、人のメンタリティや社会はどうかわるのか。両性具有の人々に対して、片方の性でしかない人は、どう感じどのような行動に出るのか。男性と女性との間での性転換自体は比較的普通に行われるようになった未来社会の中で、あえて両性具有という新たな視点からジェンダーについて問いかけてくれる。問いかけ自体はおもしろいのだけど、登場人物のキャラクターにひきづられて物語が展開してしまい、問いかけへの答えが充分深くは探られなかったように思う。

●「象られた力」飛浩隆、ハヤカワ文庫JA、2004年9月、ISBN4-15-030768-7、740円+税
20050110 ★★

 【準備中】

●「奇術師」クリストファー・プリースト、ハヤカワ文庫FT、2004年4月、ISBN4-15-020357-1、940円+税
20050104 ★

 19世紀末の二人の奇術師の確執。それが現代の曾孫の世代にまで波及する、という恐い話。瞬間移動の術を売り物にする二人の奇術師が、互いに足を引っ張り合い、相手の記述の謎を探ろうとし、互いの人生が複雑に絡み合っていき、ついには…。
 現代の曾孫二人の章にはさまれて、二人の奇術師の自伝と日記の章が本の大部分を占める。どちらも自分に都合の悪いことを、注意深く伏せて書いているので、何が真実かはわかるようでわからない。そんな中で、驚きの真相が明かされていく。
 ファンタジー仕立てではあるものの、SFとしても読める。SFネタとしては、“プレスティージ”がちょっと目新しい程度。むしろミステリとして読むべきか。でも、ボーデンの瞬間移動の秘密は、あれで明かされたんだろうか?

●「犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎」コニー・ウィリス、早川書房、2004年4月、ISBN4-15-208553-3、2800円+税
20050102 ★★★

 ヴィクトリア朝のイギリスを舞台にしたタイムトラベル・ラブコメディ(あとがきにもそう書いてるが、まさにその通り)。ちょっと未来の21世紀から、19世紀にタイムトラベル。その目的は、第二次世界大戦で消失したコヴェントリー大聖堂の復元のための調査。とくに消えた「主教の鳥株」なるものを探すためのミッションが学生総動員で行われている中、ふとしたはずみで生じた歴史の齟齬を修復するため、主人公が相棒と右往左往する。そこに色んな恋愛感情が絡まって…。
 これではなんのことかわからんか‥。話の軸は、行方不明の「主教の鳥株」の探索、同時に歴史の齟齬を修正するために、ネコを元の場所に返して、結婚するはずのない二人の仲をさき、歴史上“正しい相手”と結婚させようと奮闘する。この部分はちょっとバック・トゥ・ザ・フューチャーみたいな感じ。果たして、「主教の鳥株」はどこにいったのか? 歴史の齟齬は修復されるのか?
 とにかく、ワクワクしながら最後まで楽しく読めます。副題をちゃんと読んでなかったので、本の半ばに来るまで「主教の鳥株」なるものが何なのか、さーっぱりわからんかったけど、そんなことはどうでもよろしい。単なる、コメディとしても楽しい。ヴィクトリア朝の上流階級と知識階級って、笑えるし。はた迷惑なレイディ・シュラプネルから逃げ回るところは、「航路」を思わせる。シリルとプリンセス・アージュマンドといった脇役のキャラも人間に負けないくらいがんばってる。タイムトラベルを陥る症状タイムラグって設定も楽しい。
 未来から歴史への介入の制限、歴史に齟齬が生じた時の修復など。歴史自体に自己保存的な機能を持たせているのがおもしろかった。それはまるで、神によるグランドデザイン。カオス系において、齟齬を修復するお手並みは、当たり前やけどお見事。そんなわけで、すべての伏線に説明を付けた上で、さらなる余韻(あるいは後日談の予告?)まで残して、事態は収束していく(生花委員会長の名前の部分は納得がいかんけど、歴史変わってるやん!)。
 読後感もとってもよいです。さらに伏線が多いので、もう一度読み返したくまでなる。ぜひ読むべし。

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