【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】
●「海のかたち ぼくの見たプランクトン」吉野雄輔著、福音館書店たくさんのふしぎ2017年10月号、667円+税
2017/12/19 ★★
山口県の日本海側にある青海島で撮影された、海に浮かぶ生きものたちの写真集。出だしはサルパの中に入り込んだタルマワシ。中に入り込んで食べながら暮らすからタルマワシと言うんだ!と初めて気付いた。クラゲやゾウクラゲ、イカ、その上に乗ってるウミノミやエビ、そして魚の稚魚、甲殻類・貝・ヒトデ・ホシムシの幼生たち。数mmから数cm程度の小さな動物たち(といってもいわゆるプランクトンとしては大きい!)が次々と登場する。移動力が少ないのを補うためだろうか、その多くは透明で、一部に色が付いている。それがとても美しい。
タルマワシはとても綺麗で格好いい。アミガサウリクラゲはとても綺麗。ミズクラゲに乗ったオオトガリズキンウミノミは、とても格好いい。個人的なお気に入りはハダカゾウクラゲ。一度、大阪湾の海岸で拾ったことがあるのだけど、透明でブヨブヨした塊が、貝の仲間とは思わなかった。水中では、こんなに楽しげな格好だったんだな。ウチワエビの仲間の幼生が、ミズクラゲに乗って“クラゲを操る”という説明があるのだけど、本当なんだろうか?
●「チョウのすきな葉っぱの味」奥山多恵子著、福音館書店たくさんのふしぎ2017年3月号、667円+税
2017/12/19 ★
出だしはちょっと郊外なら普通に見られそうなチョウがたくさん描かれる。花に来て、樹液や糞にも集まるチョウたち。そしてタイトル通り、チョウが産卵すべき食草選びの話に入る。と思ったら、脚で味を確かめて産卵するらしい、と答えがすぐに紹介される。そして、ナミアゲハ、キアゲハ、ベニシジミ、ヤマトシジミ、モンシロチョウ、スジグロシロチョウ、アオスジアゲハ、ジャコウアゲハが次々と食草に産卵。8種の卵、幼虫、蛹が紹介されて終了。その合間に、限られた食草だけを利用する理由や、一年の生活史の説明が挿入される。
シジュウカラとヒヨドリが登場するのだけど、上手な絵なんだけど、目が気持ち悪い。チョウや植物の絵は上手だと思う。知らんけど。
「チョウの幼虫が食べる植物の多くは、ほかの虫がさけて食べたがらない植物です」という説明が出てくるんだけど、本当なのか気になった。ほかの虫ってのは、例えば甲虫やハバチ? ガも含めて? この本で取り上げられてるチョウは確かにそうだけど、一般に言えるのかな?
●「きょうは たびびより」とうごう なりさ著、福音館書店たくさんのふしぎ2017年10月号、389円+税
2017/12/19 ★★
ヒヨドリの渡りの群れが、海を越えようとするけど、ハヤブサが出現して、戻り、もう一度飛び出しては戻り、ようやく海を渡る。それだけのストーリーだけど、消しゴム判子で描かれたヒヨドリたちは生き生きしていて、とても良い感じ。嘴の形をはじめヒヨドリの表情や、翼や尾の形やプロポーションがとても良くできてる。もう一方の主役のハヤブサもとても格好いい。
欲張って言えば、ハヤブサが出現しなくても、海に出ようか戻ろうかと、行ったり来たりしたら、もっと渡りのヒヨドリの群れっぽかったかと思う。
●「海のクワガタ採集記 昆虫少年が海へ」太田悠造著、裳華房、2017年7月、ISBN978-4-7853-5124-3、1500円+税
2017/10/30 ★
昆虫大好きな学生が、なぜか海洋生物の研究室に入ってしまい、上半身だけクワガタムシに似た甲殻類ウミクワガタを研究することになった。で、ウミクワガタなどマイナー甲殻類と、ウミクワガタ研究を紹介した一冊。
第1章はマイナー甲殻類の紹介。聞いたこともないグループが次々と出てくるのは面白いけど、もう少し生態とかを楽しく紹介してくれないと、けっこう読み進めるのが辛い。第2章がこの本の本論。ウミクワガタの紹介からはじまって、著者の研究の経過が紹介されていく。最初はウミクワガタを採集できずに困っていたのが、いろんなきっかけで思いがけない場所で採集できるようになり、次々と新種が見つかり、生態が明らかになっていく。とても面白い。第3章は、著者の研究生活の苦労話。マイナー生物群を研究する悲哀は漂ってくるけど…。
第1章をもっと楽しげにして、第2章をもっと膨らませて、第3章を無くした方がよかったと思う。フィールドの生物学シリーズっぽさは捨てて、ウミクワガタの普及書に徹する感じ。
●「ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト 最新科学が明らかにする人体進化35億年の旅」ニール・シュービン著、ハヤカワ文庫NF、2013年10月、ISBN978-4-15-050392-5、800円+税
2017/10/20 ★
著者は化石を発掘する古生物学者でありながら、発生学や分子遺伝学的な研究にも手を染める総合的な進化生物学者。近年盛んな進化発生生物学(エヴォデヴォ)の一端を紹介する一冊。
第1章は、自らの体験としての化石探しの話。そして魚類と四足動物をつなぐティクターリクを発見する。第2章は形態学的に魚の鰭に手の起源を探す。第3章は、手の構造を発生させる遺伝子の話。第4章は、歯の化石発掘の話から、歯、毛、羽根、乳房が同じ起源を持つという話。
第5章は頭部、形態学的・発生学的にとくに4つの神経系を取り上げ、ヒトの頭部の構造が、魚の 鰓弓に由来することを説明。第6章は、発生学的・分子遺伝学的に動物のボディプランを制御する共通の仕組みの話。第7章は、単細胞生物から多細胞生物が生まれたのは、どんな理由で、どのような仕組みでなされたかの話。第8〜10章は、順に嗅覚、視覚、聴覚の感覚器の進化の話。定番の話題だけど、進化発生生物学的な近年の成果が紹介される。第11章はまとめ、ヒトの体には魚、さらには微生物にまでつながる進化の道筋の痕跡が残されているって話。
形態に残る進化の道筋という定番のテーマに、エヴォデヴォな成果を混ぜてきたって感じかと。基本的なテーマはいいとして、全体を通した軸が分かりにくく、章ごとの個別の例はつまみ食い感が強い。全体的に化石を用いた研究とのリンクがもっと明確にされれば、新しさも出たんじゃないかと。個人的には第1章から第3章までの流れで最後まで行ってくれればもっと楽しめた。
●「ぼくの村がゾウに襲われるわけ。 野生動物と共存するってどんなこと?」岩井雪乃著、合同出版、2017年7月、ISBN978-4-7726-1316-3、1400円+税
2017/10/18 ★★★
たいていの人は、テレビでアフリカのサバンナに群れる大型哺乳類の画像をみたことがあるだろう。動物好きなら、セレンゲティやンゴロンゴロという場所は憧れの地。一度は動物を見に行ってみたいと思ったりもするだろう。しかしこうした野生の王国の影で、苦しんでいる人たちがいることは、日本ではほとんど知られていない。
著者は、文化人類学(たぶん)の研究者であり、同時に社会活動家でもあるらしい。アフリカの野生動物を密猟者から守るために、勇んでアフリカに乗り込んだ若き研究者の卵は、思いもよらなかった事実に直面して、考えをあらため、地元の人と野生動物との共存について考えるようになる。
白人がやってくる前、いわば持続可能な形で野生動物を狩って暮らしていたアフリカの人々。しかし植民地時代から独立後も、地元の人による狩りは、どんどん禁止されていく。白人ハンターのために、後には観光客を呼び込むために、国立公園などがつくられる。そこでは元々暮らしていた人たちが狩りをすることは禁止され、国立公園内の村々の人たちは、強引に追い出される。元々暮らしていた場所で、元々の暮らし方を続けようとしたら、密猟者と呼ばれ、逮捕され、多くの人が殺された。やむを得ず、国立公園の外で農業で暮らしをたてようとすると、国立公園から出てきたゾウに作物を荒らされ、追い払おうとした人々がゾウに殺される事態も生じる。ゾウを殺したら密猟者と呼ばれ逮捕されるのに、ゾウに殺されても誰も保障してくれず、収穫物はなくなり、日々の生活にも困る人々。
タンザニアのセレンゲティ国立公園のほとりのイコマ民族に寝泊まりさせてもらって、著者はそうした歴史を知り、現実を目の当たりにする。そして、アフリカゾウから畑を守るためにできる援助をはじめる。アフリカゾウとの知恵比べはけっして終わりはなさそう。真の解決は、イコマ民族をはじめとする地元の人たちが、狩りを含めた元々の暮らしを取り戻した時に訪れるような気もする。しかし、そこへの道はまだまだ遠く、すでに以前の暮らしの文化的基盤を失った人たちが、元の暮らしに戻れるかも怪しい。それでも、少しずつ事態が改善するように願わずにはいられない。
野生生物を守るためにつくられた国立公園の背景で、こうした人権蹂躙が行われているのは、タンザニアに限らない。アフリカの各地で、北アメリカでアメリカ・インディアンが、オーストラリアではアボリジニーが先祖伝来の地を追われ、苦しんでいる。そうした元々暮らしていた人々の権利を守ろうという動きは、世界各地で起きてはいるが、まだまだ道半ばの様子。
この本では、 イコマ民族の現状から始まり、植民地時代からの歴史、タンザニアの社会的な問題。そして、世界各地で起きている同様の出来事と事態を改善しようとする動きを紹介していく。あえてアメリカ・インディアンという言葉を使っていることを含め、言葉の意味や出典元もきちんと明記されている。そして、日本との関わりにまで目が配られている。是非多くの人に読んで考えて欲しい一冊。
日本でも、近年シカやイノシシ、クマ、サルによる獣害が大きな社会問題となっている。これにはかつての山間部における人と自然の関係の変容が関わっていると考える人が多い。遠くアフリカで起きていることは、けっして対岸の火事ではない。また、日本での象牙製品のニーズなどを通じて、日本の我々の行動は、アフリカでの出来事に直接的な影響を与えてもいる。逆に言えば、日本にいてもアフリカでの事態をなにかしらいい方向に向かわせる手伝いはできるということ。この本の最後、第8章「わたしたちにできること」には、具体的な提案がいくつかあげられている。よく考えて、できる範囲でなにかしたいと思った。
●「歌うカタツムリ 進化とらせんの物語」千葉聡著、岩波科学ライブラリー、2017年6月、ISBN978-4-00-029662-5、1600円+税
2017/9/25 ★★★
あとがきを先に読んだ。「本書では、カタツムリの進化の研究、という限りなくマニアックでローカルな世界から、どれだけグローバルな物の見方が導かれるか、というもくろみに挑戦しました」とあった。さほど深く考えず、いいねぇ、とだけ思って本編を読み出した。確かに陸貝を中心にした貝類研究の話ばかり出てくる。しかし、その歴史が、現代進化論形成の歴史に直結してくるのには驚いた。
登場してくる人物たちも有名人が目白押し。ギュリック、フィッシャー、ライト、ドブジャンスキー、モース、グールドなどなど。日本に縁のある人を強めに出しているとはいえ、現代進化論を語る上ではずせない人の大半が、貝類研究の流れで登場してくるとは。最後に著者の小笠原での研究も紹介される。
この本は単なる貝類から進化の研究史をおっただけではない。進化研究の歴史における、貝類の形態の多型は適応なのか遺伝的浮動なのかという大論争の紹介の書でもある。カタツムリにいろんな模様があるのは知っていても、それでこんなに盛り上がっていたとは知らなかった。返す返すもハワイマイマイがすべて失われたのが残念。小笠原のカタマイマイが生き残ることを祈りたい。
大阪人としては、ギューリクが大阪で過ごして関西のカタツムリ研究に大きな影響を与えたというのが勉強になった。その流れのコレクションは当館にもある。そして個人的には、中学生の頃から知っている貝好き少年が、一人前の研究者になって、その研究を紹介され、謝辞にも載っているのが感慨深い。いろいろ貝を教えてもらって、大先生と呼んでいたのだけど、本当に大先生になりつつあるらしい。そのうち、大先生の本も読んでみたい。
●「鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。」川上和人著、新潮社、2017年4月、ISBN978-4-10-350911-0、1400円+税
2017/8/27 ★
「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る」「そもそも島に進化あり」に続く、著者単著のエッセイ本第3弾。恐竜の話、島の話と全体を通じてのテーマがあった前2作と違い、ただただ好きなことを書いたと言っても過言ではないエッセイ集。
第1章の4編は、島の鳥の話。メグロ、西之島、ハシナガウグイス、ズグロミゾゴイ。最後だけが小笠原から離れる。第2章の2編は、南硫黄島に調査に行く話。第3章はちょっとまとまりがない。鳥の骨、島のヤギ駆除、アカガシラカラスバト、鳥の糞から生きたカタツムリ。第4章はなんのまとまりもない。クルクル回る、鳥の足趾、島にやってくるネズミ、死んだふり。第5章もまとまらない。インドネシアの林と日本の夏鳥、外来鳥類ガビチョウ、小笠原のヒヨドリ2亜種の由来、シカの血をなめるカラス。第6章、まあ好きにやってる。オガサワラヒメミズナギドリ、国際学会に行った、リンゴジュースと鳥の色、恐竜はなぜ水中に進出しなかったのか。
ふざけながら、脱線しながらもけっこう科学者っぽいことを言ってる所は、おおむね前2作と同じ。でも今回の方が、脱線度が高く、ときには脱線したままだったりする。そんな中で、外来生物問題に関しては、ところどころに真面目な口調が混じるのが、おそらく著者自身は少し恥ずかしく思ってたりすんだろうかと思ったりする。
とても読みやすいし、面白いのだが、全体を通じてのテーマが明確な前2作の方が好き。これの評価が低い理由は、もう一つあって、後半に多くなるエッセイのうち、島の話でも外来生物でもない話は、自分でも書けそうな気がするんだなぁ。SNSやってる鳥の研究者にはそう思う人がけっこういるんじゃないかな? そこで。著者の口調をまねてみんなでエッセイを書いて、トリビュート本を出すとかどうだろう? タイトルは「鳥類学者だけど、鳥が好き」とか。。
●「珍奇な昆虫」山口進著、光文社文庫、2017年2月、ISBN978-4-334-03970-7、1000円+税
2017/8/24 ★
著者は、あのジャポニカ学習帳の表紙写真を40年以上にもわたって撮ってきたカメラマン。当然ながら本の表紙も、ジャポニカ学習帳風。昆虫の撮影旅行がらみのエッセイ集。
東南アジア、オセアニア、中南米、アフリカ、日本と地域毎に章立てされている。日本を除けば行ってるのは、もっぱら低緯度地域。1テーマ10ページ内外で24テーマが並ぶ。
第1章:
ハナカマキリ、ウツボカヅラの中を泳ぐアリ、ゾウの糞にくる糞虫、世界最大のシジミチョウ、ツムギアリ、カブトムシ相撲
第2章:
クリスマスビートル、パプアキンイロクワガタ、ミツツボアリ、ハンマーオーキッドにだまされるツチバチ
第3章:ダーウィンのチリクワガタ、タケノコを食べるカブトムシ、スゴモリシロチョウ、オオカバマダラの越冬地、ハキリアリ、ヘラクレスオオカブト、バケツランにくるミドリシタバチ、テナガカミキリ
第4章:霧で露を集めるゴミムシダマシ、砂丘を走るゴミムシダマシ、シロアリを食べるゴミムシダマシ、アフリカの2大巨大チョウ
第5章:アリに育てられるシジミチョウ、化学擬態するトビモンオオエダシャク、サムライアリ
世界のほんとうにあちこちに行きまくっている。かなりの下調べをして、地元のガイドを雇って、何度も訪れている感じ。
選ばれているテーマは、大きい虫、綺麗な虫、面白い生態をもっている虫といった感じ。わりと聞いたことのある虫が多い。撮影に行った年代を見た限りでは、既にそこそこ有名な虫を自分の目で見て、撮影して回っているらしい。
書かれている内容は、旅行記・撮影秘話と、実際に観察した虫の様子。だけに留まらず、関連した研究が紹介されていたりもする。実物を自分で見て書いている部分については、違いを感じさせる。
帯に「お宝写真を一挙披露」とあるけど、写真が全体的に小さいのが残念な感じ。
●「したたかな魚たち」松浦啓一著、角川新書、2017年3月、ISBN978-4-04-082054-5、800円+税
2017/7/3 ★
フグやカワハギの分類屋さんが、魚のあれこれをいろいろ書いた一冊。
第1章は、多様性がテーマかなぁ。なんか魚のことがいろいろ書いてある。第2章はたぶん魚の生息場所の話。第3章は、採食行動や食性の話だろうけど、運動の話もあるような。第4章は対捕食者戦略なのかなぁ。第5章は繁殖戦略、第6章は回遊かな。
知ってる話が多いけど、もちろん知らなかった情報もある。高い体温を保つアカマンボウ。釣りをするタイコウボウダルマ、フグ毒の意味などなど。全体的には、とりとめなく魚のことが次から次への書いてある感じ。とくにオチはなく、蘊蓄を並べていく人の話を聞いてるよう。
それ以上に気になったのは、文章自体。
・“実は”が多用されるのだけど、さほど
“実は”ではないことが多い。
・そんな簡単な疑問ふつうは持たへんで、と思うような自問から話をはじめたりする。
・最初に結論を言って、その説明をはじめて、同じ結論に落ち着く冗長な展開。
これって、この著者と同年代の 、とある知り合いの魚の分類屋さんの文章に似てる。その文章に苦労させられたのを思い出す。この年代の魚の分類屋はなにか申し合わせでもあるの?
●「カラス屋の双眼鏡」松原始著、ハルキ文庫、2017年3月、ISBN978-4-7584-4078-3、500円+税
2017/5/28 ★
「カラスの教科書」でブレイクした松原先生による、生物学者視点の自然エッセイ。もちろんカラスの話は多いけど、カラス以外の動物もいろいろ出てくる。
と言いつつ、第1章はやっぱりカラスの話。学生時代の京都の話もあるし、就職してからの東京の話もある。第2章はカラスを離れて、鳥の話。学生相手に野外実習したときの話と、木津川での調査の話が混じる。木津川の調査プロジェクトにこんなに参加していたとは知らなかった。某教授(当時)の「見つけてねえだけなんじゃねえの」という名文句が登場。第3章は、カラス調査の最中に、違う動物に目が行く話。って感じ。第4章では、ヘビやハエトリグモにも興味があるよって。その合間に、自分の持ち物や服装の話なんかがはさまれる。
カラスの話は今までの著作とかぶってないのか?と思ったりもしたけど、面倒なので確認はしてない。全体的にまとまりなく、思いついたことを好きなように書いた感じ。正直な感想は、同じようなのは自分でも書けるなぁ。ブレイクしていないから、どこも出版してくれないだろうけど。
●「ヒト 異端のサルの1億年」島泰三著、中公新書、2016年8月、ISBN978-4-12-102390-2、920円+税
2017/5/16 ★
著者はマダガスカルに通い、アイアイの研究で知られた霊長類学者。機会を見ては世界の類人猿に出会いに行った経験と、最新のヒトの進化についての研究成果をふまえつつ、類人猿とヒトの進化について独自の考えを開陳する。タイトルの1億年は霊長類の誕生からの時間だが、この本で扱われるのは、もっぱら類人猿進化の2000万年。
短い第1章では、マダガスカルのキツネザルに出会いに行く話からの、霊長類の分類と系統の話。この本で唯一の類人猿以外の霊長類が出てくる。第2章はボルネオのオランウータンとの出会いの話からの、2000万〜1300万年前の初期の類人猿の話。第2章は、ルワンダのゴリラに会いに行った話からの、1000万年前前後、とくにヴァレンシアン・クライシスの話。第4章は、タンザニアのチンパンジーを見に連れて行ってもらった話からの、700万〜500万年辺りの化石類人猿の話。第5章は、アンボセリの話からの400万〜200万年前のアウストラロピテクスの話。第6章は、マサイマラの話からの260万〜150万年前頃のホモ・エレクトゥスの話。第7章は、50万〜3万年前のネアンデルタール人の話。第8章は、19万年前からのホモ・サピエンスの話。最後の第9章は、「最後の漁労採集民、日本人」とある。
ヒトの進化について、最新の研究成果を紹介してくれる本は他にもあるが、類人猿の進化を紹介してくれる本はないので、とても勉強になる。ただ、他の研究者の研究成果を踏まえ、自分の観察から、自分の意見を開陳するというスタイルが繰り返される。初期人類の食性、二足歩行はどのように始まったのか、言語の由来、どうしてヒトはアフリカから拡がったのか、ハンドアックスは何に使われたのか、なぜヒトは毛のないサルなのか。さまざまな人類学上の大問題に対して、著者の考えが示される。既存の考え方をバッサバッサとぶった切るので、とても気持ちいい。しかし、それはあくまでの著者の考えに過ぎないので、完全に鵜呑みにする訳にはいかない。ってことで、どこまでが事実で、どこからかアイデアかを区別できない人にはオススメしにくい。
●「鳥のくらし図鑑 身近な野鳥の春夏秋冬」おおたぐろまり著、偕成社、2016年11月、ISBN978-4-03-437460-3、2000円+税
2017/4/30 ★★
「この羽 だれの羽?」の著者が、39種の鳥の一年の暮らしを、鳥が見られる主な環境ごとに紹介。
スズメ、ヒヨドリ、ムクドリと身近な3種から始まる。都市部の留鳥は一通り取り上げられている。それぞれの鳥が一年のどの季節に日本にいて、どんな暮らしをしているかが、季節ごとに紹介されている。同時に日本で繁殖する鳥については、繁殖行動を重点的に取り上げている。日本で繁殖しない鳥に関しても、繁殖の様子を軽く取り上げつつ、冬の暮らしに重点を置いている感じ。採食行動や群れでの行動、集団ねぐらも取り上げ、双眼鏡マークの囲みの中に、主な観察ポイントが紹介される。それぞれの種について、ヒヨドリの渡り、ムクドリのねぐらの変化、メジロの舌、ハトの巣場所といったトピックが紹介されると同時に、混群、繁殖期、渡りについては、大きなトピックとして1ページあてている。絵本というより、絵を多用したバードウォッチング入門の本といった趣。都市部を中心に、本州で比較的身近に見られる鳥が重点的に取り上げられていて、都市鳥のくらしの入門書としても参考になる。
情報量が多いだけに間違った情報も少し混じっているように思う。気になったのは、ヒヨドリ「春になると群れからはなれて、ペアになる。繁殖期は5カラ9月で長い」。少なくとも大阪では繁殖ペアは一年中つがい関係を維持している。群れからペアに分かれるのは、若い個体だけの話だと思う。繁殖期は通常5〜8月。9月にヒナが出る例はほとんどないと思う。そういう意味で繁殖期はさほど長くない。キジバト「真冬以外はいつでも繁殖できる」とあるけど、年中繁殖可能だし、関西では実際に1〜2月でも繁殖例はさほど珍しくない印象。キジバト「ひなは、ふ化してから30〜40日ほどで巣立つ」とあるけど、この表現は長すぎ。実際には15〜25日ほどで巣立ちって感じ。キジバト「群れになることはほとんどなく、1羽か2羽でいることが多い。しかし、まれに、食べ物が多い場所にいるときや、冬には、群れていることがある。」とあるけど、キジバトの群れはまれではない。むしろ若い個体は基本的に群れで生活しているようで、年中、キジバトの群れは普通に見られる。まあ、食べ物の多い場所が中心なのは確かだけど。
とまあ、突っ込みたくなる部分はあるけど、全体的にはとてもいい本だと思う。なにより絵が上手。
●「雪と氷の世界を旅して 氷河の微生物から環境変動を探る」植竹淳著、東海大学出版部、2016年8月、ISBN978-4-486-02000-4、2000円+税
2017/4/24 ★
フィールドの生物学シリーズ。氷河の中に暮らす微生物を調べるために、世界の氷河へサンプリングに行く。
第1章は序章。雪氷生物学と出会い、卒論でチリのパタゴニアの氷河のサンプルを処理する。以降は世界をまたにかけてのサンプリング。第2章と第3章でロシアのアルタイ山脈、第4章でアラスカ、第5章で中国の七一氷河、第6章でグリーンランドのカナック、第7章でウガンダのルウェンゾリ山。氷河って単なる氷の塊かと思ったら、赤くなったり、クリオコナイト粒や氷河ナゲット(著者命名)というコケや微生物の塊があったり、想像以上に生物の活動が豊富。その生物の豊富な層の重なりから年間の氷河の成長具合が評価できるとは知らなかった。
寒い国々に調査と称して出かけるのだから、「菌世界紀行」と同じように、ロシアなどで飲んだくれているだけの話かと思ったら、とても真面目にサンプリングして帰ってくる。研究者としてはあるべき姿だけど、読み物としてはちょっと物足りない。現地で世話してくれるマザコンの奇特な人もでてこないし。
●「カメムシ おもしろ生態と上手なつきあい方」野澤雅美著、農文協、2016年3月、ISBN978-4-540-15223-8、1600円+税
2017/4/7 ☆
中学生の頃から50年以上というカメムシマニアさんが、気の赴くままにカメムシについて書いてみた一冊。
まずは「パート1 身近なカメムシとことんウォッチング」。カメムシの概要を紹介して、庭、田んぼ、野山、山地、地面、水辺の主要なカメムシをざっと紹介。「パート2 おどろきの素顔と暮らしぶり」では、分類、食性、変態、交尾、子育て、冬越しをざっと紹介。それから、キンカメムシ、カスミカメムシ、サシガメ、肉食系カメムシ、キノコを喰うカメムシ、グンバイムシといったグループをざっと紹介。最後に分布の変化や外来カメムシの紹介。最後の「パート3 カメムシと上手につきあう」は、人との関わり、見つけ方、生活史の話、防ぎ方、カメムシ相を調べる、と並ぶ。
とにかく、全体的に“ざっと紹介”感ばかりがただよう。さまざまな環境のカメムシを紹介してくれていても、どこの話をしているのか、どのくらい網羅しているか判らない。生態の説明も中途半端な感じ。グループごと解説してるけど、これでカメムシの全体像になってるの? 最後のパートは構成自体意味不明。まさに気の赴くままに書いた感じで、割と知ってる話ばかりだったからだろうか、カメムシの全体像を把握できた感じもしなければ、カメムシってこんなに面白い虫なんだ!とも感じられなかった。残念。
●「鳥獣害」祖田修著、岩波新書、2016年8月、ISBN978-4-00-431618-3、820円+税
2017/4/6 ☆
著者はもともと農業経済の研究者で、大学を退官して、農作業を始めたところ獣害に遭遇したらしい。で、人と動物の関係について考えはじめ、こんな本を書いてみました。
第1章は、哺乳類は可愛いけど、農作物を荒らされたらムカつくわぁ。獣害があるから放棄される田畑が増えるのも問題って書いてある。第2章はなぜか農業への獣害から離れて、街中にでるイノシシ、住宅地などでのクマとの遭遇、シカやイノシシが列車と衝突する話。第3章は、大型獣の増加と獣害の増加がデータで示される。「害獣の価値」論としてディープ・エコロジーが紹介される。第4章と第5章は、中山間地で獣害を避けていかに農業をするかという観点から、実例がいくつか紹介される。第6章は獣害とは関係なく、東洋と西洋の動物観の比較。第7章は、近世以降、日本人が大型哺乳類を食物としてどう利用してきたかを紹介。第8章は、著者としての解決案なんだろう。新たな動物観への展望として、もう一度食物として利用しようって書いてある。第9章は蛇足。今西錦司の自然観まで出てきてしまう。
最初から獣害に関わらず、人と大型哺乳類との関係性の話をしているが、ディープ・エコロジーが出てきて、さらに獣害の話から離れていく。学者さんが、現実をちょっと見ただけで分かった気になって、机上の空論を展開してくれただけにしか思えない。東西の動物観の比較するなら、それに対応した獣害への対応の違いの話をして欲しいところ。増えたシカを食肉にってのは、今更教えてもらわなくてもみんな思ってる。知りたいのは、それを軌道に乗せるアイデア。農業経済という少し違う畑から、斬新な提案があることを期待したけど、完全に期待外れ。
●「恐竜はホタルを見たか 発光生物が照らす進化の謎」大場裕一著、岩波科学ライブラリー、2016年5月、ISBN978-4-00-029649-6、1300円+税
2017/3/29 ★★
メインタイトルだけを見て、恐竜の視覚の話?などと思ったら、発光生物の話。ホタルはむしろ端役で、海産動物を中心にした発光生物の多様性・全体像を知ることができる一冊。
第1章「意外に少ない陸上の発光生物」は、発光生物の系統樹上での分布の話。タイトル通り陸上の発光生物が意外に少ない。節足動物の一部を除くと、巻き貝とミミズなどがわずかに光るだけ。陸上脊椎動物は誰も光らない。 第2章
「海が発光生物であふれているのはなぜか」は、海産発光生物の適応的意義の話。獲物をおびき寄せるだけじゃないんだね。第3章「光るなんてことがなぜできる?」こそが著者の専門。同じルシフェリンという名前で呼ばれていても、ホタルとウミホタルではまったく違う物質とは知らなかった。第4章「ティラノサウルスはホタルを見たか」は、本のタイトルに付けたからの付け足し感が強め。白亜紀にホタルはいたかを検討。ルシフェリンは意外と簡単に進化しうるらしい。第5章「イクチオサウルスの巨大な眼は光るサメを見たか」は、発光生物の進化の話。共生発光から発光性の微生物から物質を取り入れての自力発光へ。そもそも微生物はどうして発光するようになったのかという謎はさておき…。
発光と反射の違いくらいは知っていたけど、蓄光というのも区別しなくてはならないとは気付いてなかった。自力発光と共生発光も知らなかった。という具合に知ってるようで知らない発光生物のいろいろが紹介されていて、普通に勉強になった。
●「進化の教科書 第1巻 進化の歴史」カール・ジンマー&ダグラス・J・エムレン著、講談社ブルーバックス、2016年11月、ISBN978-4-06-257990-2、1680円+税
2017/2/22 ★★
『Evolution: Making Sense of Life』という原著を、日本語では3分冊で発行。というのはいいけど、3分の仕方が変わってる。「進化の歴史」「進化の理論」「系統樹や生態から見た進化」という3テーマで、原著の関連する章を再編成するらしい。で、第1巻「進化の歴史」では「進化の歴史」というテーマで原著の3章、13章、14章、17章を納めている。なんと“一般的な生物学あるいは応用的な話が多い”原著の1章、2章、5章、12章、18章は訳出しないとのこと。よく原著者がOKしたなぁ。もはや原著とは別の本といっていいかも。
で、訳出された第1巻は、「岩石の語ること」「種の起源」「大進化」「人類の進化」の4つの章からなる。理論の話は第2巻に譲るので、自然選択の説明はまったくなしに、岩石に見られる進化の証拠だとか、
種分化の仕組みだとか、クレイドの存続期間、大量絶滅、ヒトの進化の歴史が紹介される。
それぞれの章は最新の話題を盛り込んだ内容で、論文に基づいてるし、よくまとまってるし、勉強になる。教科書というには、発見につながるエピソードも交えられていて、お話としても読みやすい。ただ、途中の章から訳出してるせいなんだろう、説明無しに専門用語が出てきたりする。クレイドもあまり詳しく説明されずに、ばんばん出てきた。
●「植物をたくみに操る虫たち 虫こぶ形成昆虫の魅力」徳田誠著、東海大学出版部、2016年11月、ISBN978-4-486-02097-4、2000円+税
2017/2/19 ★
フィールドの生物学シリーズの一冊。このシリーズらしく、若者が研究の道を志し、海外に行ったりしながら成長して、一人前の研究者として一歩を踏み出していく。というところで終わるかと思いきや、ポスドクや期限付き雇用やらで5つの研究室を渡り歩き、いろんな経験を積み、ようやく佐賀大学にパーマネントの職を得る。今度こそ終わるかと思いきや、研究室を預かる身になってからの苦労話や教育論が語られる。このシリーズとしては、ちょっと変。著者が”若手”じゃないからだな。
結局の所、成長の物語ではなく、半生記を読まされ、教育論を聞かされる感じ。その合間に、自分が関わった様々な研究が紹介される。虫こぶの話を期待したのなら、微妙。虫こぶの話もあるし、それはそれなりに面白いけど、虫こぶとは関係ない話も何でも盛り込んでくれてる。思い出したら、海外での経験も投入。応募関連での苦労話も混ざってくる。
タイトル通りに虫こぶの話を読みたい人は、第2章、第3章、第5章、第6章だけを読めばいいだろう。細菌が植物にこぶを作る際は、植物ホルモンを作る遺伝子を植物の中に送り込んで、植物の代謝系を乗っ取るのに対して、昆虫が虫こぶを作る際は、自分で植物ホルモンを合成して、植物の中に送り込むらしい。昆虫は虫こぶを作らせることによって、より栄養価の高い食べ物を得ている例があるらしい。タマバエの興味深い生態もいろいろ出てくるし。こういった話ばかりだったら、もっと面白い本になったろうに。