自然史関係の本の紹介(2018年分)
【★★★:絶対にお勧め、★★:けっこうお勧め、★:読んでみてもいい、☆:勧めません】
●「道具を使うカラスの物語 生物界随一の頭脳をもつ鳥カレドニアガラス」パメラ・S・ターナー著、緑書房、2018年2月、ISBN978-4-89531-324-7、2200円+税
2018/12/21 ★
ニューカレドニアガラスの道具使用の様子や道具を紹介すると共に、飼育下での知能に関する実験の様子も紹介。前半は、ニューカレドニアの野外で、幼鳥の小羽ちゃんとその親の様子が描かれる。親が道具を使って、木の穴の中からカミキリムシの幼虫を上手に引っ張り出すのを見ながら、学習するヒナ。後半は、ムニン君が3段階のステップを経て、ようやく食べ物にありつくという課題に挑戦する。最後は、なぜか著者へのインタビュー。誰がインタビューしてるんだろう?
数ヶ月の間の飼育下での実験が終わったら、その非繁殖期のうちに、カラスは元の島に放すらしい。言い換えれば、捕まえてすぐに実験できるようになるってことで、人見知りのしなさに驚く。
ニューカレドニアガラスの写真がいっぱいで、写真絵本の体裁をとってるけど、説明がとても多くて、とても子ども向きではない。実験デザインの説明に図がないなど、全体に説明不足で、ちょっと判りにくい文章とともに、内容が頭に入りにくい。とても面白い題材なのに…。
よく判ったのは、著者がスターウォーズファンってことと、ニューカレドニアガラスの嘴の形が変わってるってこと。上嘴が真っ直ぐで、下嘴にはっきりgonyがあって曲がってる感じ。しゃくれてるイメージ。
●「イカ4億年の生存戦略」ダナ・スターフ著、エクスナレッジ、2018年7月、ISBN978-4-7678-2499-4、1800円+税
2018/12/21 ★
タイトルにはイカとあるけど、現生と化石を含めた頭足類の本。子どもの頃からタコを飼っていて、頭足類で学位をとった頭足類オタクの著者が、頭足類への熱い想いとともに、頭足類の進化の歴史と、現状を紹介。
現生において、頭足類はバイオマスの多さと栄養価の高さから、海の生態系でとても重要な役割、というか多くの動物の重要な食物資源になっている! という話から始まって、話は一転、頭足類の進化の歴史へ。古生代に生まれ、ゆっくりだけど強力な捕食者として海の王者に君臨していたのが、(捕食者あるいは競争者である)魚類の登場で、とたんに共進化の嵐に巻き込まれる。防御のための殻をまとい、一方で速く泳ぐ必要が…(遊泳革命!)。そして、オルドビス紀末、ペルム紀末、山上期末の大量絶滅で大部分が死滅しながらも、復活&繁栄を繰り返してきたものの(主にアンモナイトが)、ついに白亜紀末の大量絶滅で、アンモナイトを中心とした頭足類の繁栄は終わりを告げた。でも、種数は少なくなり、形態の多様性の減ってしまったが、現在もイカやタコはたくさん生き残っているよ。って話。
話は面白いのだけど、難しい話を簡単に紹介しようという努力も判るけど、ちょっと無理がある感じ。とくに図もなしに、形態を説明されてもさっぱり判らず、興味が半減する。図を増やせばもっといい本になっただろうに。
●「世界からバナナがなくなるまえに 食糧危機に立ち向かう科学者たち」ロブ・ダン著、青土社、2017年8月、ISBN978-4-7917-7005-2、2800円+税
2018/12/16 ★★★
世界における植物性食物によるカロリー取得の割合がまず示される。米、小麦、砂糖で半分を超え、トウモロコシ、大豆、ジャガイモ、ヤシ油、大麦、キャッサバ、ピーナッツ。この辺りまででほぼ3/4。人類は、限られた作物に強く依存して暮らしている。その作物の生産に大打撃があれば、とたんに人類は深刻な食料危機に見舞われる。そして、それはすぐそこにある危機なのだ。というのが、この本の主旨。
危機に陥るリスクは、効率のいい大量生産に適したほぼ単一の品種に依存する傾向があるから、その品種を枯らす病原菌が拡がるだけで、すぐに食料危機は生じる(その例として19世紀に起きたアイルランドのジャガイモ飢饉)。またその品種の病気をばらまくというテロの可能性もある(ブラジルでのチョコレートテロ)。そうした問題は明らかなのに、緑の革命によって、広面積での大量に殺虫剤を撒いての単一品種のモノカルチャーはますます広がり、種子を支配するアグリビジネス企業(モンサントやダウデュポンなど)の台頭で、ますます危機は増大している。
複数品種を栽培し、また新たな病虫害に強い品種を創り出す上でも、さまざまな品種の維持こそが重要だし、新たな遺伝子の供給源としての野生植物の保護も重要。そうした認識のもと、さまざまな品種のタネを守ろうと、さまざまな人々が努力していきたが(20世紀初めにロシアの飢饉の中、さまざまな品種の小麦の種子を守ったヴァヴィロフとその同僚。グローバル種子バンクの設立に尽力したファウラー)、その努力はいまだ充分とは言えず、深刻な食糧危機はいつ起きるともしれない。
安定して繁栄していたシリアが、戦火に見舞われ、多くの難民を出している。その大きな一因が食糧危機にあったと聞くと戦慄する。文明的な生活は、食糧危機であっという間に崩壊する。著者は、食糧危機を回避する方法は、一部のアグリビジネス企業の支配を避け、遠くで作られた大量生産の作物ではなく、地元の作物をできるだけ消費すること。さまざまな品種の作物を購入することなど、消費者の意識改革を提案している。
博物館的に言えば、アメリカ合衆国の農学系の大学で行われているという共同拡張(cooperative extension)が興味深かった。要は、農学研究者が大学だけにとどまらず、そのユーザーである農民のところに出向き、成果を伝授するだけでなく、コミュニケーションを取ることで、研究者の側も新たな何かを得て、さらに研究を進めるという仕組みらしい。ユーザーとともに、さらに進めて行くという意味では、自然史系博物館でも考えられるし、実際に実践している部分もあるかもしれない。それをもっと意識的に進めてもいいかも。
と言う訳で、この本を一言で言えば、多様性をなんとか維持しようとする人々の努力と絶望の物語。
人類の将来にとって、とても重要な論点だと思う。そして、近場で作られた作物を買ったり(地産地消はエネルギー問題を意識して)、道の駅などで変わった野菜や果物を買ったりする(これは変わった物を食べるのが楽しいから)のが、推奨されている。なるほどそういう効果もあるなと。
●「絶滅どうぶつ図鑑」ぬまがさワタリ著、パルコ出版、2018年10月、ISBN978-4-86506-280-9、1000円+税
2018/12/16 ★
近頃は、カラフルなイラスト多めの「〜ないきもの図鑑」的な本が花盛り。勝手に人間視点で“ざんねん”とか、勝手なことを言っていて、タイトル見るだけでムカツク(個人的見解です)。この本も、そんな売れ筋の流れに乗ろうとしてるのは明らかだけど、中身は一線を画しているように思う。面白く紹介はしてるけど、人間の勝手な価値観の押しつけはあまり感じない。根拠のない断定も避けて、複数意見がある点については、そのことも紹介してある。そういう意味で、一見した印象とは違い(?)とても真っ当な本だと思う。
取り上げているのは、新生代から現生にかけて絶滅した動物。第三紀22種、更新世18種、完新世36種。多くは哺乳類で、鳥類も少々、爬虫類と両生類も少し混じる。大きく取り上げられる種は2ページに渡り、他は1ページずつ。イラストでの突っ込みが、毎回工夫が凝らされていて面白い。
完新世で取り上げられている鳥類をあげてみると、
エピオルニス、オオウミガラス、ジャイアント・モア、
スティーヴンミソサザイ、リョコウバト、アメリカハシジロキツツキ、オガサワラマシコ、ハーストイーグル、バライロガモ、キゴシクロハワイミツスイ、ヒースヘン、ミイロコンゴウインコ、ミヤコショウビン、メガネウ、ワライフクロウ。メジャーを押さえつつ、バランスの取れた選択かと。ちょーメジャーなドードーは?と思ったら、ドードーは表紙と裏表紙に載っていた…。
最後の数ページでは、現在がヒトによる6度目の大量絶滅期になっていて、絶滅を食い止めるための努力が行われていることも紹介されていて、好感度が高い。
現生だけに限られてしまうけど、絶滅を回避した動物とか、絶滅したと思ってたら再発見された動物の図鑑って企画があってもいいなと思った。
●「オオグソクムシの本」森山徹著、青土社、2018年4月、ISBN978-4-7917-7048-9、1800円+税
2018/10/29 ★
信州大学の先生が、駿河湾でオオグソクムシを手に入れて、研究するというストーリー。第1章は、漁船に乗せてもらって、オオグソクムシを採りに行く。深海からあがってくる深海魚やサメの写真もあって楽しい。第2章はオオグソクムシの形態が細かく紹介される。オオグソクムシについて詳しく知りたければ役に立つだろうが、読んでいて面白いってもんではない。第3章は、オオグソクムシの研究史が紹介される。分布、生理、繁殖、化石などの研究のあと著者自身の
行動研究。第2章よりは読みやすいけど、オオグソクムシに特化しすぎかなぁ。
と言う訳で、タイトルは正しい。オオグソクムシについて知りたければいい本なんだろうけど、軽い気持ちで読んでも楽しくはない。
●「蠅たちの隠された生活」エリカ・マカリスター著、エクスナレッジ、2018年6月、ISBN978-4-7678-2493-2、1800円+税税
2018/10/24 ★★
大英自然史博物館の双翅目担当学芸員が、ハエやカやアブなど双翅目すべてへの愛を表明しまくる一冊。次から次へのさほど脈絡なく、双翅目ネタが連打される。とても面白いネタが多いけど、思いつくままにどんどん投入されるので、それに付いていくのが大変。そして、随所にはさまれる双翅類への偏愛表明にイラッとしないのが肝要。
第1章で幼虫の話をした後は、授粉者、分解者(ここでは植物遺体を食べる者)、糞食者、死肉食者、菜食者、菌食者、捕食者、寄生者、吸血者と、食性毎に双翅類を紹介していく。
面白いネタには事欠かないが、幼虫関連で言えば、原油の池で暮らすセキユバエとか、コフキサルノコシカケに虫こぶをつくるキイロホソヒラタアシバエには驚いた。授粉者では、体長の8倍もの長さの口吻をもつツリアブモドキの一種。分解者では、雄がシカのような角を持つミバエ科のantler fly。糞食者では、コウモリのグアノだけを食べているハエ、ウォンバットの糞だけを食べるトゲハネバエ科のwombat flyはなんと24種もいる! オオヤスデの背に乗って移動して、その糞を食べるフンコバエの一種。死肉食者では、チーズバエのウジにチーズを食べさせて作るカース・マルツゥ。ウジ入りのこのチーズを食べると、ウジが生きて腸管にたどりつき、ハエ幼虫症にかかる恐れがあるとか。菜食者では、目が左右にビヨ〜ンと伸びているシュモクバエ。菌食者では、クロバネキノコバエの一種の幼虫は数千匹が10mにも及ぶことのある大行列をつくることがあるとか、Perissommatidae科のカの成虫には複眼が4つあるとか、大群をつくって煙に集まるsmoke flyとか、シロアリの菌園を狙うノミバエの仲間とか。捕食者では、巻貝を食べるヤチバエ達、ノドアカハチドリをも捕食するムシヒキアブ。寄生者では、メバエの一種が、大型のハエや直翅類などの目に銛型の卵を放って差して寄生するとか。ダーウィンフィンチがイエバエの一種に寄生されて、このままでは絶滅の恐れがあるとか。オーストラリアのカエルバエは、カエルの皮膚の下に寄生して、カエルの体長の70%もの大木産いなるとか。ラクダなど大型哺乳類の鼻腔で暮らすラクダヒツジバエや、アカカンガルーに寄生するkangaroo bot fly。サイの胃にだけ寄生するrhino bot flyは、サイの減少と共に絶滅の危機にあるという。カワモグリバエ類の一種tree squirrel bot flyは、リスに寄生して、体のあちこちから幼虫が幾つも突き出ていたりするらしい。ミツバチシラミバエは、翅どころか平均根も失っていて、ミツバチの体表について、ミツバチの食べ物を横取りする(つまり労働寄生!)。吸血者では、主にヘラジカから吸血するmoose fly、カエルだけを狙うチスイケヨソイカ科のカ、カニの巣穴で暮らしコウノトリなど水辺の鳥から吸血するDeinocerites属のカ。面白い形、不思議な生態が盛りだくさん。
なにわホネホネ団的には、ハエの幼虫が死肉を食べた時のあの臭い臭いが、体にいいとは衝撃的だった。マゴットリウムには死んでも行きたくない。
ジュラシックパークに出てくるあの双翅類は、ガガンボ類のオスやないか!とか。ヒツジバエの幼虫を自分のからだで1週間ほど飼ってみたけど、夜寝静まった時のムシャムシャ食べる音が気になって止めたとか。ハエ屋の定番話題が楽しい。あと希少な種を紹介した後で、繰り返し“でも動物保護団体にこの双翅類を守ろうという動きはない”
という不満。面白おかしく書いてはあるけど、大きな問題だろう。
全体的には図が少なすぎる。面白い形の話をしてるのにその虫の図がないとか、解剖学的な説明に図がないとか、いろんな双翅類の分類群の名前が出てくるのに分類表がないとか。もう少し図表を増やすべき。でないと判りにくい。末尾に文献リストがちゃんと載ってるのは素晴らしい。
●「目に見えない微生物の世界」エレーヌ・ラッジカク&ダミアン・ラヴェルダン著、河出書房新社、2018年5月、ISBN978-4-309-27932-9、2500円+税
2018/10/19 ★★
ただでさえB4変形サイズの大型本。その見開き両側をいっぱい使って、小さな生きものの世界がドーンと描かれる。その説明は、さらにページ毎にある折り返しをめくったところに。ってことで、拡げると、B4を縦に2枚つなげた世界が広がる。
描かれる微生物の世界は、海洋プランクトン、砂浜の間隙、水深30mの海底、ベッドの繊維の中、人の皮膚、台所の床のすみ、森のリターの中、樹皮に付いたコケの中、沼の中、川の底。けっこう面白い環境も出てくる。
登場するのは、浮遊幼生、ヒゲエビやソコエビ、放散虫や有孔虫、ホコリダニやヤケヒョウヒダニ、ノミやツツガムシ、サトウダニやコナダニ、トビムシにササラダニ、クマムシ、ヒドラにミジンコ、水生昆虫の幼虫やミズダニなどなど。こうしてみると、どこにでもいるダニ類ってすごい。最後に用語説明や顕微鏡の歴史。
小さな生きものの世界が、とてもにぎやかで楽しい。
●「鳥類学者の目のツケドコロ」松原始著、ベレ出版、2018年7月、ISBN978-4-86064-553-3、1700円+税
2018/10/16 ★
カラス博士が、カラスだけでなく、比較的身近な鳥達について語った一冊。出てくるのは、ハシブトガラス、ハシボソガラス、スズメとツバメ、イエガラス、サギ類、セキレイ、ヒヨドリ、ミヤマガラスとコクマルガラス、カワセミ、カモ類、チドリ、イソヒヨドリ、チョウゲンボウとハヤブサ、トビ、ウグイス。やはりカラスには偏ってる。身近な鳥が多いけど、自分がよく観察した鳥は、身近でなくても選ばれてるような。トビとウグイスがなぜ選ばれたのかは不思議。
全体的には面白いのだけど、評価が厳しくなるのは、知ってるネタが圧倒的に多いから。ってゆうか、こちらの方が詳しいネタも頻出。となると、自分でも書けるような感じになるので…。とくに、身近な鳥を研究者の視点で紹介するとか、単なるバードウォッチングを越えた研究よりの視点で鳥を見てみようとか。日頃から自分でやってる切り口なので、先にやられた感もある。
タイトルに“目のツケドコロ”とあるように、身近な鳥を観察する視点を紹介。って企画なんだろうけど、それを忘れてしまって、ただの鳥の紹介になってる章があるのが(後半に多いような)、不満。多くの人の研究のせいかを紹介しているのだけど、巻末にはざっとした参考文献しか載っておらず、ちゃんと引用していないのも不満。
よく知ってるネタが多いだけに、ちょっと気になる点もあったりする。ヒヨドリが食べる葉っぱは、アブラナ科の野菜だけじゃないし。2000年代までにイソヒヨドリは大阪府全域にほぼ拡がっていて、南部だけじゃないし。ハヤブサは、大阪府で人工物で継続的に繁殖してる。などなど。でも、知ってるネタでも、違った視点から記述されていて、面白かった部分もあったり。まあそんなもんなんでしょう。
140ページに同じ輪郭を塗り分けて、セキレイ3種の絵が載ってるのだけど、キセキレイだけ変。キセキレイは他の2種とフォルムが違うんだなぁ。と改めて確認した感じ。
●「雑草はなぜそこに生えているのか 弱さからの戦略」稲垣栄洋著、ちくまプリマ−新書、2018年1月、ISBN978-4-480-68995-5、840円+税
2018/9/20 ★
雑草とは何か?雑草は強くない。と雑草の総論から始まって。雑草の発芽戦略(休眠と発芽のトリガー)、変異(種内変異が大きい)、生殖生理(風媒花と虫媒花、自殖性の発達)、繁殖戦略(種子散布、セイヨウタンポポなど外来植物)と雑草についていろいろ解説。そして、雑草の防除と話は進む。最後の2章の理想的な雑草、本当の雑草魂は蛇足。
雑草という植物はありません。と言わずに、あえて雑草とは何かを語っていくのは面白いし、今まであまり考えなかったポイントもあった。でも、「雑草は強くない」とか「本当の雑草魂」とか言い放って、得得と説明するセンスは、ちょっとついて行きにくい。
内容面は、わりとスタンダード。植物にあまり詳しくない者としては、ゴルフ場での刈り取りへの適応、スズメノテッポウの畑地型が他殖で水田型が自殖、ツユクサの両掛け戦略など、面白い話題も混じってた。
一方で、種子散布の説明で、被食散布がまったく言及されないのは気になった。「すべての雑草は人類とともに、日本列島にやってきたと考えられているから、在来の雑草は存在しない」ってのもおかしな話。
●「古生物学者、妖怪を掘る 鵺の正体、鬼の真実」荻野慎諧著、NHK出版新書、2018年7月、ISBN978-4-14-088556-7、780円+税
2018/9/17 ★
食肉類化石の専門家が、なにを間違ったか恐竜の普及、じゃなかった、文献に出てくる妖怪の正体を推理する。妖怪や異獣についての記述は作り物ではなく、なにかしらの観察事実に基づいているだろうという仮定のもと、古生物学的知識で検討を加えていく。はまると、とても面白い。
取り上げられるのは、鬼から始まって、鵺、一つ目、雷獣、猿手狸、シイ、一つ目髑髏、野茂利、異鳥・青嶋鳥、石羊。それに絡めて、角のある動物、レッサーパンダ類、ゾウ化石、クジラ化石、イタチ科などが解説される。青嶋鳥はどう見てもヤツガシラやし。不思議なことに、メジャーな人魚と河童はチラッとしか出てこない。
面白いのは、「本書で述べる解釈が絶対的に正しいと私自身が考えているわけではない」といった言説が繰り返されること。「全く異なる解釈が多く出てきて喧々諤々の論争が生まれることこそが本望」としているところ。是非論争に参加してみよう〜。あと、「化石の研究って役に立つの?」という問いかけが繰り返されるのも面白い。古生物学ってそういう圧力をしばしば受けるもんなんだろうか?
●「カラス屋、カラスを食べる 動物行動学者の愛と大ぼうけん」松原始著、幻冬舎新書、2018年7月、ISBN978-4-344-98511-7、820円+税
2018/9/16 ★
次々と本を出版しているカラス博士の1冊。カラス博士の本には、必ずカラスが出てくる。それは当然として、カラス博士の目線で生きものの暮らしを紹介するパターンと、カラス博士の学生時代の思い出話や就職後のこぼれ話をするパターンがある。これは後者。似たような時代に似たような場所で過ごしていたせいで、とても楽しく読めるのだけど、普及教育効果は低い。ということで、評価も低めになる。楽屋オチ感が満載過ぎるというか…。
第1章は、カラスへのエサやり実験が挫折する話。第2章は冠島にオオミズナギドリを調査にいく話。知り合いがいっぱい出てくる。というか、もしかして登場してるんだろうか? 第3章はカラスやマムシなど色々喰う話。世代が違ってもやることは一緒。第4章はアカウミガメの調査を手伝う話。第5章は初めて東京のカラスを観察に行く話。 第6章は博物館での標本の展示作業の話。第7章はクマタカの調査に連れて行かれる話。クマタカ研究してる奴っていたっけかな? 第8章は屋久島でのサル調査ケダモノ5班の伝説。第9章は木津川でチドリ類を調べる話。第10章はウィーンでドナウ川を見た話。第11章は、海洋調査や猛禽調査のバイトの話。
カラス博士が関わった調査関連が総ざらいされてるのかも。
●「菌の絵本 かび・きのこ」白水貴監修・山福朱実絵、農山漁村文化協会、2018年4月、ISBN978-4-540-17175-8、2500円+税
2018/8/17 ★
こうじ菌やなっとう菌だけを取り上げた絵本とともに「菌の絵本」シリーズをなす。その総論的な一冊。
真菌や細菌といった“菌”を紹介すると同時に、身近なあやゆる場所にさまざまな微生物がいること。古細菌、細菌、真核生物という3つのドメイン。真菌と細菌とウイルスの違い。といった生物学の基本の紹介から始まる。そして、分解者としての菌、寄生者としての菌、共生者としての菌が紹介され、最後に人との関わりを軽く紹介(シリーズの他の巻があるので)。
最後の方で珍菌もチラッと紹介されてはいるものの、生物分類の基礎知識でページをとった分、菌類の面白さの紹介にさけるページが少し足らなかったような印象が残った。あとイラストの大部分が版画になっているのだけど、ゴチャゴチャして判りにくいページもあるように思う。
●「サメってさいこう!」オーウェン・デイビー著、偕成社、2017年12月、ISBN978-4-03-348380-1、1800円+税
2018/8/17 ★★
著者はイギリスのイラストレーター。特徴をとらえつつもデフォルメされた可愛いサメのイラストがいっぱい並ぶ。
サメの分類(8つの目の検索表が載ってる!)、形態(いろんな歯が並ぶ)、採食生態(水中から見たら、サーファーのシルエットは、オットセイやウミガメに似てる!?) 、社会生活、大きさなどを比べ(一番小さいのは、たぶん20cmほどのペリーカラスザメ) 、形の面白いサメを紹介し(アカシュモクザメ、ヒラシュモクザメ、インドシュモクザメ、シロシュモクザメの見分け方が判る!)、繁殖生態(卵胎生と胎生を区別してる)、人との関わり(マーナというサメの神様) とサメのあれやこれやをいっぱい紹介している。軽く網羅しつつ、面白トピックを取り上げてる感じ。最後は、サメの多くが絶滅の危機にあることを紹介。に留まらず、「わたしたちに、なにができるだろう?」として、エネルギーをあまり使わない生活、ペットを飼うときの注意、「海のエコラベル」の紹介、海のゴミ問題などにまで言及。
よくまとまったサメの普及本だと思う。絵本としても本文はもちろん、表紙、見返し、目次にもたくさんのイラストが並び、デザイン的にも全体的にとても統一感があって、とても綺麗。
●「蜂と蟻に刺されてみた 「痛さ」からわかった毒針昆虫のヒミツ」ジャスティン・O・シュミット著、白揚社、2018年7月、ISBN978-4-8269-0202-1、2500円+税
2018/8/16 ★★
日本語タイトルを見ると、アリやハチに刺されて喜ぶ変なおっさんの話かと思うけど、原題は「The Sting of the World」。刺針を持った昆虫(ハチやアリの一部)を、刺された時の痛さを切り口に、その生態や進化を真面目に紹介した本。
第1章から第5章は、長いイントロであり、基礎知識の紹介的な感じ。単なる産卵管だったものが、狩りや防御に使う刺針に変わっていったこと。社会性昆虫の進化には、その変化が不可欠であったという著者の仮説。刺された時の痛みを評価する「シュミット指数」(著者は単に痛さを、ミツバチを基準に5段階に分けただけらしい。「シュミット指数」という言葉は本文中には出てこない)を作った経過などが紹介される。
第6章から第10章は、順にいろんなハチやアリに刺されたときの事が、その生態や刺された時のエピソードとともに紹介される。第6章はコハナバチとヒアリ。第7章は、スズメバチとアシナガバチ。第8章は、昆虫最強の毒を誇るシュウカクアリ。第9章はオオベッコウバチなど単独性狩りバチ。そして、第10章は一番痛いサシハリアリ。だんだん痛い昆虫が登場しているようなのだけど、第7章以降のには、どれにも刺されたくない。最初はわざと刺されていたのではなさそうだけど、あちこちで痛さを語る内に、わざわざ刺されてみるようになっていった様子もうかがえる。
社会性を進化させると、資源が集中する。必然的に捕食者に狙われやすくなる。その防御のために刺針の進化は欠かせなかったという指摘は面白かった。その傍証として、近縁な種でも、社会性の種は刺されると痛くて、単独性の種に刺されてもあまり痛くない。という仮説を身をもって実験していて面白い。試す勇気はないけど。
●「カラスのジョーシキってなんだ?」柴田佳秀文・マツダユカ絵、子どもの未来社、2018年1月、ISBN978-4-86412-132-3、1400円+税
2018/8/15 ★
同じ著者による「カラスの常識」の多分姉妹編。 Q&A形式になっていて、カラスが答えるという体で、1つの質問に1〜3ページの回答が並ぶ。質問は36あって、「カラスのジョーシキ」「カラスのセーカツ」「カラスのウワサ」の3つにまとめられている。ざっと言えば、カラスの分類・形態についての質問が並んだ「カラスのジョーシキ」、カラスの食性や繁殖などの生態を扱った「カラスのセーカツ」、カラスの都市伝説を追求し、意外な行動を紹介した「カラスのウワサ」ってところ。
子どもには取っつきやすいんだろうけど、カラスが答えるってところで、大人は読みにくい…。
●「昆虫学者はやめられない 裏山の奇人、徘徊の記」小松貴氏、新潮社、2018年4月、ISBN978-4-10-351791-7、1400円+税
2018/7/5 ★
「裏山の奇人」の著者の単著4冊目。虫の普及書の趣が強かった2冊目と3冊目と比べると、一番「裏山の奇人」の続編っぽい趣。ただ、書き慣れてきたせいか、テーマも虫に限らず、自分の主張も全面に強く押し出すようになってる感じ。
第1章は意表をついて、カエル、カラス、ヘビの話。第2章と第3章は虫にもどって、アズマキシダグモ、トビケラ類、ヒメドロムシ、洞穴生のチビゴミムシ、ガ類、フユシャク、ゴミムシ類、ハチ擬態とカムフラージュと興味の赴くままに書いてる感じ。第4章は、洞穴生・地中生の虫の危機の話と、リスを例に外来生物問題、そしてアリの話。
ハチ擬態の話の前振りにアニメ、アリの話の前振りは時代劇。自分の趣味を隠さなくなってきた。最後の第5章は、普通種と珍種の話、新種記載の話、そしてタイプ標本を見にパリに行った話。全体を読んで印象に残るのは、著者のオタク度の高さと、洞穴生・地中生の虫の危機。
●「学校のプールのヤゴのなぞ」星輝行著、少年写真新聞社、2018年1月、ISBN978-4-87981-628-3、1500円+税
2018/6/28 ★
6月、東京都杉並区という大都会の小学校で行われたプールのヤゴ救出作戦。コノシメトンボを筆頭に、シオカラトンボやイトトンボ類など800匹を超えるヤゴが救出された。これを皮切りに、同じ小学校のビオトープのヤゴを見て、東京都西多摩郡の郊外の小学校のプールの生き物も見て、きれいな河川のヤゴも見る。トンボの羽化、体の構造、生息環境、産卵の解説の後、大都会の小学校のプールの様子を追いかけていく。
10月:卵で越冬するアキアカネやコノシメトンボのヤゴはいないが、春に羽化するクロス地ギンヤンマのヤゴはいる。
12月:あまり様子は変わらないが、ウスバキトンボのヤゴは力尽きてる様子。4月:あまりヤゴも卵も見あたらない。5月:アキアカネやコノシメトンボのヤゴを発見! ちなみに4月の近所の公園の池や、5月のビオトープにはクロスジギンヤンマのヤゴが見つかる。6月までには羽化してるらしい。
一年を通じて、プールのヤゴの様子を観察するという企画は面白いけど、
・データを取っていない上に、一貫した記述のパターンがない(それぞれの種がいたのかいなかったのか、多いのか少ないのか等々)ので、結局プールのヤゴの一年のパターンがよく分からない。
・合間に同じ学校のビオトープ、近所の公園の池、郊外の学校のプールの情報が挟まれていて、より一層混乱する。
結局のところ、情報量は多く、それでいて今一つ全体イメージが掴みづらいものになっていると思う。秋から春のプールでヤゴをはじめたくさんの生き物が暮らしているというメッセージはとてもいいのに、なんか読みにくくて残念。
●「まちでくらすとり すずめ」三上修文・長島充絵、福音館書店かがくのとも2018年4月号、389円+税
2018/6/28 ★
スズメがいます。巣があります。から始まって、卵、抱卵、孵化、育雛、雛の成長、巣立ち雛、そして独り立ち。幼鳥の群れを形成して終了。まとまりはいいけど、かなり呆気ないかも。
著者の持ちネタの巣場所の話とか、巣立ちビナ数の話とか、スズメの減少の話は全然出てこない。ちょっと肩すかしというか、物足りない気もする。でも、餌運びなどからスズメの巣を見つけるコツが出てくるので、街中での鳥の観察には役立つ。
●「海中を飛ぶ鳥 海鳥たちのくらし」寺沢孝毅著、福音館書店たくさんのふしぎ2018年5月号、667円+税
2018/6/28 ★
海鳥というものを説明して、カモメ類、アホウドリ類(ニュージーランドアホウドリ)、ミズナギドリ類(ハシボソミズナギドリ)を軽く紹介して、ウ類とアホウドリ類の羽毛の違いを説明。ここまでで半分弱。そしてようやく海中を飛ぶウミスズメ類とペンギン類が登場。同じ海中を飛ぶといっても、小胸筋が発達したペンギン類とウミスズメ類では少し違うよ〜、という解説は勉強になった。元祖ペンギン、オオウミガラスの話から、ウミスズメ類の繁殖の話に入っていく。ウミガラス、ウミスズメ、ウトウが主に取り上げられる。親に連れられるウミガラスやウミスズメの雛は可愛い。
ウミスズメが、ヒナが2日で巣立って採食場で効率よく餌をもらう話をされると、どうしてウミガラスやウトウがそれをしないのかを言わないと気になって仕方がない。
構成の軸があいまいというか、途中で変わる感じ。タイトルと中身の相関が弱い気もする。
●「クニマスは生きていた!」池田まき子著、汐文社、2017年11月、ISBN978-4-8113-2423-4、1500円+税
2018/6/27 ★
秋田県の田沢湖で絶滅したクニマスが、移植された山梨県の西湖で生き残っていた。と報道されたのが、2010年。その再発見のルポかと思いきやそうではなく、昭和初期から再発見の少し後までの地元目線でのクニマスと人との年代記。主人公は最後のクニマス漁師の三浦久兵衛さん。
昭和初期まで田沢湖で行われていたクニマス漁とその養殖事業、玉川からの導水による田沢湖のクニマスの絶滅、そして、どこかに生き残ってるかもしれないクニマスを探す活動が、前半で描かれる。後半では、西湖でクニマスが再発見された後が描かれるが、主として田沢湖の地元の人達の動きが中心。田沢湖の環境をクニマスが暮らせる状態に戻さなくては!で終了。
田沢湖で暮らす人々の目線で描きたかったんだろうとは分かる。が、そのために不自然なくらい、他の人々は描かれない。クニマスがどういう経緯で再発見されたのかの出だしは描かれないし、それに関わった人々の名前も出てこない。田沢湖関係者の名前はきちんと出てくるのに、研究者は「研究者」と呼ばれてるだけ。田沢湖の水質を戻すには、導水を止めるのが一番簡単で、地元からそういう声が出てる。とは書いてあるが、じゃあどうして実行に移されていないのかは充分には説明されない。
謝辞をみると、田沢湖と西湖の地元の人だけに取材しているらしい。少し視野が狭い感じがするのは、そのせいだろうか。
あと、子ども向けの本だからなんだろうけど、実際に本当にそんな会話があったのか?と思うような会話でストーリーを進めようとする。いわばフィクションが混じっているような感じが居心地悪い。
●「ミツバチの世界へ旅する」原野健一著、東海大学出版部、2017年12月、ISBN978-4-486-02145-2、2400円+税
2018/6/24 ★
フィールドの生態学シリーズの一冊。玉川大学を出て、東京農工大、青年海外協力隊、農環研を経て、玉川大学に舞い戻る。脊椎動物をなんとなく研究したかった学生が、ミツバチ研究者になるまでのストーリー。本論とさほど関係ないけど、フィリピンに行くエピソードがしっかり付いている。
第1章はミツバチの紹介。第2章は卒論で扱った巣仲間認識の話。第3章はフィリピン時代。第4章は東京農工大での修論の王台破壊の話。第5章は玉川大に戻っての博士論文の脳内物質の話。第6章はつくばでのポスドク時代のトノサマバッタとケブカアカチャコガネの話。第7章は、ダンスコミュニケーションの基礎知識。第8章は、玉川大にもどってのポスドクから現在に至る話なのかなぁ。とにかく出巣時積載蜜量の話。
つまり自分がどこで何を研究してきたかを、時系列順に並べている。このシリーズで近頃多い半生記パターン。それもこの本の場合は、研究成果の紹介が細かい。いろいろとミツバチの勉強にはなる。特に第1章と第7章はとても勉強になった。この著者の場合、ミツバチを材料にしつつもテーマがどんどん変わってるから、おのずの分厚くなる。第1章、第2章、第7章、第8章で、ミツバチの普及書を書けばよかったと思う。
●「絶滅危惧の地味な虫たち 失われる自然を求めて」小松貴著、ちくま新書、2018年3月、ISBN978-4-480-07126-2、950円+税
2018/5/24 ★★
2〜5ページ程度の短い文章で、希少で地味なさまざまな虫たちとの出会いが綴られていく。甲虫20種、鱗翅類2種、双翅類9種、半翅類11種、膜翅類13種、直翅類6種、クモ9種、ザトウムシ5種、ヤスデ1種、ワラジムシ1種。一つの文に複数種出てくることもあるから、登場虫はもう少し多いけど、とにかく沢山の希少な虫の物語を堪能できる。この配分から著者の好みも見えてくるのも、少し面白い。
子どもの頃や一昔前はたくさんいたのに、今はすっかり少なくなってしまった虫の生息地を再訪する話。ほとんど発見例がない虫を、見事に見つける話。極めて局所的なマイナーな虫の生息地に行ってみた話。著者の体験としてのストーリーは、虫の生息環境についての情報とともに、とても興味深い。同時にほとんど知られないままに姿を消していく虫を残念に思う著者の気持ちもよく伝わってくる。
挿入された4つのコラムは、昆虫採集と社会について、いろいろ考えさせてくれる。とりあえず、少しでも多くの人にこの本を買ってもらって、マイナーで絶滅危惧な虫たちを救う一助になればいいと思う。でも、著者がこの本の収益をどこかに寄付するよりも、この手の本をじゃんじゃん書いて、著者もメジャーになって、普及していく方がより有効じゃないかな、と思うけど?
●「サルは大西洋を渡った」アラン・デケイロス著、みすず書房、2017年11月、ISBN978-4-622-08649-9、3800円+税
2018/4/27 ★★★
島に生息する生物がどうやって島に到達したか、遠く離れた場所に同じグループが分布している現象をいかに説明するか。それは、生物地理学の大きなテーマであり、その説明は時代とともに移り変わってきた。このほんの20年ほどの間に、分散を重視する考えが広まった。そのパラダイムの転換を、歴史を振り返りつつ、豊富な実例で示した一冊。
かつて陸上の生物は、おもに陸伝いに移動すると考えられていた。大陸移動説がプレートテクトニクスとして、広く認知されるようになったのが1960年代。それとほぼ同時期に生物地理学の分野では、分断生物地理学と呼ばれる考え方が広まりつつあった。それは、現在は離れた場所に分布しているのは、大陸が移動した結果であるという考え方。プレートテクトニクスと結びつけて生物の分布を説明するのは、1970年代以降、一世を風靡した。その一番の理由は、ゴンドワナ大陸の分離によって、アフリカ、南アメリカ、オーストラリアなど、遠く離れた南半球の大陸や島々に飛び飛びに分布する現象を説明したから。DNAの塩基配列を用いた分子時計の理論や実証研究が積み重ねられる中、ゴンドワナ大陸の分離では説明できないほど、南半球の各大陸に散らばる生物間の遺伝距離は近いことが判ってきた。そして、現在はゴンドワナ大陸の分離の名残を残しているケースはむしろ少なく、驚くほど長距離を生物は分散することがある、という考えが大勢を占めるようになっている。
第1部は、プレートテクトニクスと分断生物地理学の成立の歴史を振り返る。第2部は、その後の展開の中核をしめる分子時計の説明。第3部は、長距離分散としか考えられない実例として、ニュージーランドの植物、アフリカ沿岸の海洋島やインド洋の島々のカエル、大西洋を渡った南アメリカのトカゲとサルを紹介する。第4部は、この生物地理学上の考え方の変遷を、科学革命として考える。
批判的な考えを考慮しつつも、分子時計の有効性を説明した第2部は、とても重要。その上で、分子時計と系統樹から考えて、海を渡ったとしか思えない例の数々は、説得力がある。その上で、第3部の例はいろいろ思うところがある。長期的にみれば、動物よりむしろ植物の方が動くというのは面白かった。もし川を流れる土などの塊で分散したのなら、その通り道にももっと分布していていいのでは? 分散した例を説明しようとばかりしてるけど、分散していない所にも説明すべきパターンがあるように思う。いかに分散したか、どういう分類群でどのような分散パターンが起きやすいか、といった点はまだまだ検討の余地がありそう。第3部までは面白かったが、第4部はいらんと思う。
分断生物地理学という言葉は知らなくても、大陸が移動するなら、生物も移動するのは当たり前。でも、それなりに海を渡ることもあるだろうし、なんでもかんでも分断説で説明しなくても、というのが日本の多くの研究者のスタンスだったと思う。それでもゴンドワナ大陸由来というのは納得してた。むしろゴンドワナ大陸の影響は少なく、分散がこれほど強力だったとは。そういう意味で、分岐年代に基づく見直しには驚いた。
●「歌う鳥のキモチ」石塚徹著、山と渓谷社、2017年11月、ISBN978-4-635-23008-7、1400円+税
2018/4/17 ★★★
クロツグミの囀りと繁殖生態の研究者だった著者が、鳥の囀り全般になわばりを拡げ、鳥の囀りについてのいろいろを紹介してくれる。
第1章は、鳥の囀りについての基礎知識をいっぱい紹介。鳥が囀るのはどんな時か、鳥が囀るのはなんのためか、物真似はなんのため? どうして渡りの途中や秋に囀るのか? 鳥の囀りについてのいろんな疑問に答えてくれる。
第2章は、著者がクロツグミ以外の鳥の囀りについて調べた結果が紹介される。ノビタキの歌の日周リズム、キセキレイの2つの歌、飛ながら歌うビンズイ、エゾムシクイの囀りのモード、クロツグミと区別できないカラアカハラの囀り、夜明けのノジコはアオジのように囀る。囀りでこんなに色々楽しめるとは。
第3章は著者が一番詳しく調べてきたクロツグミの繁殖生態の紹介。ややこしいオスの行動を様々な角度から調べて、よりややこしくなってる。それを上手に整理して紹介しているけど、やはりややこしい。でもまあ、複なわばりのようでそうでないクロツグミのなわばり制の雰囲気。独身メスに向かった囀りと、つがい相手のメスに向けた囀り。囀りを切り口にしての、繁殖生態研究のさらなる可能性も感じさせる。オスの囀りは、メスも聞いていろいろ情報を伝えてしまってるという可能性は、うかつにも今まで気付かなかった。
第4章はおまけ。鳥の声のカナ表記や聞きなしにふれつつ、まとめ。
とくに第2章と第3章はアイデアにあふれていて、とても面白い。鳥の囀りを聞いて色々考えるのに最適。これを読んで、鳥の繁殖生態研究に興味を持つ人もいそう。
●「我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち」川端裕人著、講談社ブルーバックス、2017年12月、ISBN978-4-06-502037-1、1000円+税
2018/4/16 ★★
人類化石といえばアフリカ。とくに猿人などの古い時代の人類化石は今もアフリカが独壇場。しかし比較的新しい時代に関して言えば、近年アジアでもさまざまな人類化石が発掘され、アジアにさまざまな原人(Homo eretus)が暮らしていたことが明らかになってきている。ジャワ原人をはじめ、フローレス原人、澎湖人などの発掘・研究では、日本の国立科学博物館のチームが重要な役割を演じてきた。作家でありサイエンスライターでもある著者が、その国立科学博物館のチームに取材し、監修を受けつつアジアの化石人類の多様性を、最新の情報をもとに紹介した一冊。
著者は、ジャワ島のジャワ原人発掘現場や、フローレス島のフローレス原人が見つかった洞窟や、国立科学博物館の海部研究室に取材に行き、そこでのエピソード、研究者とのやりとりを交えつつ、原人の化石の画像も交えつつ、ジャワ原人やフローレス原人の研究史を紹介。そして、かつては多様だった東アジアの人類世界の一端を描き出す。
フローレス人はどうして、それほどまでに小型化したのか。交雑によってアジアや太平洋の現代人の遺伝子に、ジャワ原人の遺伝子が残っている可能性。まだまだ気になる謎はいっぱい残っている。これからも展開もとても気になる。よく売れれば、すぐに増補改訂版が出るのかも?
●「ざざ虫 伊那谷の虫を食べる文化」松沢陽士著、フレーベル館、2016年10月、ISBN978-4-577-04424-7、1400円+税
2018/4/11 ★★
雪が積もる中、じいちゃんが川床につるはしをふるい、大きな網を沈める。それを上げると大量のざざ虫。ざざ虫ってトビケラの幼虫のことだと思っていたら、ヘビトンボの幼虫もカワゲラの幼虫も、伊那谷ではこうして採れた川虫を全部ざざ虫と呼んで食べるらしい。
ざざ虫漁のことを「虫踏み」というらしく、じいちゃんの帽子には「虫踏許可証」の文字。つるはしで川底の石をひっくり返し、かんじきでひっくり返した石を踏むから虫踏みらしい。石からはがれた虫が下流側の網に入るという仕組み。採ったざざ虫は、すぐに茹でる。茹でて赤紫色になったら食べ頃のざざ虫。佃煮にして食べる。なぜか蕎麦と一緒に? 伊那谷では、ざざ虫の佃煮が給食にも出るらしい。
ざざ虫自体は食べたことがあるけど、どうやって採るかは知らなかった。消えゆくざざ虫の文化を残そうという動きも含めて、貴重な食文化の記録。
●「チョウのふゆごし」井上大成文・松山円香絵、福音館書店かがくのとも2018年2月号、389円+税
2018/4/11 ★
「ふゆになると チョウの すがた みることは ほとんど ありません。ふゆには、チョウは いなくなってしまうのでしょうか?」という問いかけにはじまって。さまざまなチョウの越冬の姿が紹介される。葉っぱの裏で成虫越冬するウラギンシジミやムラサキシジミ。卵で越冬するミドリシジミの仲間。幼虫で冬をすごすヤマトシジミやベニシジミ。蛹で越冬するモンシロチョウやアオスジアゲハ。幼虫で冬を越すパターンはもう少し詳しく、落ち葉の裏に潜むオオムラサキやゴマダラチョウ、巻いた葉っぱの中に隠れるイチモンジセセリやチャバネセセリ。春になって、成虫は産卵し、卵は孵り、幼虫は蛹になり、蛹は羽化するところでおしまい。
身近なチョウが一通り出てくるのはいい感じ。冬にチョウを探したくなるかも。
●「溺れる魚,空飛ぶ魚,消えゆく魚 モンスーンアジア淡水魚探訪」鹿野雄一著、共立出版、2018年2月、ISBN978-4-320-00924-0、1800円+税
2018/4/7 ★
はじめにの最後の方にこんなことが書いてある。「本書を半分でも読んだところでゴミ箱にでも放り込んでいただき、タモ網を持って野外の現場に飛び出していただければ、いよいよパスポートを握りしめてアジアのフィールドに飛び出していただければ、筆者にとってこの本を書いた何よりの収穫である」。そんなつもりだからか、東南アジアや東アジアのいろんな淡水魚とそれを利用する人々、そしてそんな環境の危機をざっくり紹介した一冊。
第1章は「モンスーンアジアの淡水魚類多様性」と題して、淡水魚の区分(純淡水魚、通し回遊魚、周縁魚など)を説明し、αβγ多様性を説明。おもに東南アジアの淡水魚類相の概要を生物地理区を紹介。最後に水田漁労について触れられている。水田漁労という視点はとても重要なので、もっと詳しく扱ってもよかったかも。
第2章は、東南アジアの各地の淡水魚の現状を紹介。カンボジアの氾濫原トレンサップ湖、カンボジアのカルダモン地方のアロワナ、プランテーションに追いやられる半島マレーシアやサラワクの淡水魚たち、ミャンマーの古代湖インレー湖、ダム開発に脅かされるメコン川。プランテーション、外来魚、ダム開発など、さまざまに問題を抱える東南アジアの淡水魚たち。それでも、その多様性には驚かされる。
第3章は、日本を含む東アジアの淡水魚の話。中国の太湖周辺、佐渡島、南西諸島、白神山地。ここでも外来魚やプランテーションの影響は見てとれる。白神山地の話は浮いてるけど。東南アジアのパートに比べると、東アジアの話は、小難しい感じ。分からなければ、読まずにゴミ箱にってことだろうか。
モンスーンアジアの淡水魚類相をそこまでしっかり論じているわけでもなく、淡水魚類相の危機を広い視点で紹介しているわけでもなく、持続的な利用を考える上で重要であろう水田漁労の紹介もそれほど力は入っていないような。全体的に表面をさっとなでたような一冊。東南アジアの淡水魚類相には興味が持てたし、その危機が心配になったし、水田漁労についてもっとしっかりした本を読みたくなった。という意味では意義がある本かも。
東南アジアにおいて、今も人と淡水魚のいい関係が残されている場所で営まれている水田漁労。かつては日本でも水田漁労が営まれ、それが淡水魚の多様性の維持に役立っていたという。日本の淡水の生物多様性の保全にもつながるモンスーンアジアの状況が描かれる。という評価もできる。
●「汽水域に生きる巻貝たち その生態研究史と保全」和田恵次著、東海大学出版部、2018年1月、ISBN978-4-486-02167-4、3000円+税
2018/4/6 ★
奈良女子大のカニの大先生が、なぜか汽水域の巻き貝について書いた本。カニ研究のかたわら、汽水域の動物のレッドリスト作りに関わっているし、その中で汽水域の生物の危機的な状況をよく知ってる。で、卒論生と一緒に巻き貝の調査もしてきたから、その成果を中心に保全絡めて絡めて一冊書いてみたった。ってところだろうか。
第1章で汽水域の環境やそこでの生活の概要をざっくり説明したあとは、各グループごとの暮らしぶりが紹介されていく。第2章はタマキビ類、スガイ(+カイゴロモ)、イシマキガイ。第3章はコゲツノブエ、ウミニナ類、イボウミニナ。第4章は、キバウミニナ、ヘナタリとカワアイ、フトヘナタリ、タケノコカワニナ。第5章は、ワカウラツボ、カワザンショウ類。第6章で汽水環境の保全についてふれてお終い。暮らしぶりといっても、汽水域の中でもどんな場所に暮らしているか、繁殖様式とリクルートのタイミングが主な話題。大きな個体ほど上流側、潮上帯よりにいて、淡水や乾燥に強く、小さい個体は海水の中で暮らすという一般的パターンがあるんだなぁ、とか。タケノコカワニナの分布がそんなに限られているとは知らなかったとか。ヘナタリの分布は高さというより底質で決まるんじゃないの?と突っ込んだりと。いろいろ面白くはある。ただ、自分が調べたことのある貝しか取り上げられていないので、物足りなくもある。
ちなみに密かに一番突っ込んだのは、口絵8ページの内、3ページが本文にほとんど出てこない干潟の二枚貝で埋まってること。口絵を8ページ確保したけど、巻き貝で埋められなかったんだろうなぁ。内容からして普及書を目指しているはずなのに、144ページしかないのに、3000円は高すぎ。
●「カラスと人の巣づくり協定」後藤三千代著、築地書館、2017年6月、ISBN978-4-8067-1540-5、1600円+税
2018/4/6 ★
山形大学の昆虫屋さんが、なぜか電柱で営巣するカラスの問題に取り組むことになり、カラスの巣についていろいろ調べた結果を紹介してくれる。
電柱に営巣するカラスのエピソードで始まった第1章に続き、第2章ではカラスの繁殖の概要からの、電柱につくられたカラスの巣を、残留物のDNAでカラスの種を特定。電柱に巣をつくるのはどうしてハシボソガラスだけなのかを考察。ハシボソガラスは丸見えでも平気というのは事実だろうけど、分布域での議論は無理がありすぎと思う。
第3章では電柱への営巣数を検討。繁殖期の終了に気温が影響しているという議論は初めて見た。データからすると相関はありそうだけど、直接的原因かなぁ。2008年〜2011年まではそこそこ当てはまるけど、2010年はけっこうずれてるし、2012年のデータはうまく説明できてないような。巣を撤去しても再営巣するから、かえって巣の総数は増えるって、当たり前過ぎる。
第4章は、巣を分解して、大きさや重さ、巣材を調べる。カラスの巣を4部構造としたのは面白い。そして部分ごとに巣を詳細に調べたデータは貴重。ハシボソガラスの巣は21巣(内、電柱の巣が17巣)見てるけど、ハシブトガラスの巣は2巣しか見ていないので、種間の違いを議論するのは厳しい。外巣に干涸らびたダイズとカキの枝を使いまくってるのは面白い。東北6県で山形県が突出して電柱のカラスの巣の撤去数が多いのも面白い。しかし、それを巣材が豊富かどうかで議論するのは無理があるかと。むしろ生息密度から議論するのが普通だし、密度を左右するものとして食物資源を考えるのが当たり前。山形県はやたらと撤去に力を入れるから、撤去数が多いんじゃないのかという疑いも持ってるんだけど…。
第5章がいよいよ、タイトルにある。巣づくり協定。電柱に巣をつくっても問題ない場所を設定して、むしろそこに営巣をうながそうという試みを2010〜2012年に行った。その結果を紹介。とてもややこしいデータの示し方なんだけど、人工巣へ誘致することは可能という結果が出てる。で、撤去がなくなり、再営巣がなくなるんだから当たり前だけど、電柱への営巣数が減少する。ただ、むしろ問題のある電柱への営巣がどのくらい減ったかを示すべきではないかな。
第6章は、カラスの巣を分解したときに発見した。アカマダラハナムグリの話題。大きな鳥の巣に生息することは知られているけど、陸鳥の事例は少ない。そして、こんなに短期で撤去されてるのに、すかさずやってきてるのが驚き。
他のカラス研究者があまり調べないことを調べていて、他にはないデータが見られるのは貴重。ただ、考察には納得できない部分も多い。でもまあ、営巣されても問題ない場所にカラスの巣を誘導しようとする試みは重要だし、もっと広めたい。評価が難しい本。
●「うつも肥満も腸内細菌に訊け!」小澤祥司著、岩波科学ライブラリー、2017年11月、ISBN978-4-00-029667-0、1300円+税
2018/2/19 ★★
「ゾンビ・パラサイト」に続く、岩波の『科学』への連載からの単行本化第2弾。ヒトの体をコントロールしているのは、脳だけでなく、腸も含めた脳-腸軸が重要と考えられるようになってきた。さらに脳-腸軸を通じて、腸内細菌が我々の精神や健康に大きな影響を与える可能性を紹介した一冊。
第1章は、イントロ。脳-腸-細菌軸が紹介される。系統進化を考えると、脳より先に腸-細菌があって、それが体をコントロールしていたという議論は説得力がある。第2章は、ストレスによって起きるIBS(過敏性腸症候群)と腸内細菌の関係。セロトニンの産生と代謝に腸内細菌をどう関わるかが主に取り上げられる。第3章は、ASD(自閉症スペクトラム障害)と腸内細菌の話。腸内細菌叢の崩壊がなにかしら関係があるのかもしれない。第4章は肥満と腸内細菌。食欲のコントロールに腸内細菌が関係しているかも。第5章は免疫システムと腸内細菌の関係。自己免疫疾患やアレルギーの原因にも腸内細菌叢の変化が影響しているのかもしれない。第2章から第5章の内容はとても面白いけど、聞き慣れない細菌や物質の名前、遺伝子やリセプターの記号が、読む意欲をなくさせそう。第6章はここまでとは趣がかわり、人類と腸内細菌の共進化について紹介される。文明と未接触の種族の腸内細菌叢、乳腺を通じた腸内細菌の垂直感染の可能性など。
全体を通じて、健全で多様な腸内細菌叢を維持することが、ストレス耐性、精神の発達、肥満、自己免疫疾患やアレルギーなど、健康のさまざまな側面を健全に維持するのに効果的である可能性が示唆されまくる。その中で、腸内細菌叢に大きな悪影響を与える恐れのある抗生物質の使用はできるだけ控えた方がいいのではないか?という指摘は、もっと大きく取り上げられてもいいように思う。
食と健康を気にする人は興味をもって読めるし、「ゾンビ・パラサイト」的な視点でも興味を持てるだろう。でも、群集生態学に興味があれば、腸内細菌叢という生物群集を、食べ物などのインプットによっていかにコントロールすべきかを、健康や精神状態というアウトプットで評価する話として面白い。ひるがえって、野外の生態系をも同様に考えて新たな展開はないだろうかと思ってみたりする。
●「ボクが逆さに生きる理由 誤解だらけのこうもり」中島宏章著、ナツメ社、2017年10月、ISBN978-4-8163-6345-0、1800円+税
2018/2/16 ★
コテングコウモリの伝道師として知られた(?)著者のコウモリ本。
第1章はイントロ。イメージから種数、衣食住を簡単に紹介。第2章は、進化と系統、そして飛ぶための適応。第3章は、飛行のメカニズム。ちょっと物理学っぽくて難しい。第4章はエコーロケーションの話。第5章は、長寿の話。冬眠が大きく取り上げられる。
飛行の話を除けば、基本的にはいろいろな小ネタが順に並んでる感じで、楽しく読める一冊。世界最大のコウモリが翼を拡げるとなんと1.5m(頭につけたらデビルマンに勝てそう)とか。翼の基部は揚力、先端部は推進力をになっているとか。コウモリの飛ぶスピードの最高記録は、時速75-95kmもあって意外と速いとか。エコーロケーションは声が反射が返ってきてから次の声を出し、割と近くのことしか分からないとか。コウモリは同じサイズの他の哺乳類比べて何倍も長生きで、野生化で41歳の記録があるとか。風力発電で鳥以上にコウモリが死んでいるとか。誰かに話したくなる話題が豊富。
鳥とコウモリの関係もちょこちょこ出てきて面白い。タカ類やフクロウ類がコウモリを捕食するのは知っていたが、コウモリダカとかコウモリハヤブサとか専門家っぽいのまでいるとは知らなかった。鳥もコウモリもどちらも、空飛ぶ恒温動物で、どちらも長生き。という共通点はなんなのか気になる。
●「水辺の番人 カワウ」中川雄三著、福音館書店たくさんのふしぎ2017年11月号、667円+税
2018/2/15 ★
カワウの暮らしを、採食から繁殖まで、写真を多用して紹介してくれる。水中での活動をとらえた画像や、さまざまな魚をくわえた画像は楽しい。現在は数が増えて、その害ばかりがクローズアップされるカ日本のカワウが、一時期、絶滅の危機にあったことも紹介される。大型の魚を多く食べるカワウが、日本の水辺の生態系でどういう機能を持っているのかを考えるのも良い感じ。ただ、“自然界での役割”という表現はいただけない。
そして残念ながら、気になる点が他にも多々ある。とくに気になったのは以下の4点。他にも鵜飼いの説明とか、1980年代以降カワウの個体数増加の説明とかも気になる。
・18ページ:「ふつう、水鳥の羽はよく水を弾きますが、カワウの羽は油分が少なく、水がしみこみやすくなっています」→昔はこういう説明が一般的だったが、現在は、油分は関係なく、羽根の構造(正羽の外寄りの部分に水が染み込みやすくなっている)に基づくと考えられている。
・21ページ:「カワウは前だけに4つのゆびがあり、それぞれのゆびの間に水かきがあります。この4つのゆびを使い、木をぎゅっとつかむのです」→4本の指のあいだすべてに水かきがあるのは正しいが、すべての指が前向きという表現は少し違っている。木にとまる時は、前3本、後ろ1本という形で木の枝をつかむ(その間にある水かきは折りたたまれる)。21ページの写真をよくみれば、そうなってる。カモが枝をつかめないのは、後ろ向きの第1指が短いため。
・27ページ:「夕暮れがちかづくと、カワウたちは集団でねぐらに帰っていきます」→カワウは集団でねぐらに帰るものもいるが、むしろバラバラとねぐらに戻る。それも夕暮れ近くとは限らず、ねぐらで見ていると、昼過ぎから、まだ明るいのに三々五々帰ってくる個体が見られる。夕方にまとまって帰ってくるとは限らない。
・34ページ:「1960年代から1970年代にかけて(中略)一時はコロニーが全国で5ヶ所ほどにまで減り、あわせてたったの3000羽あまりになってしまったのです」→この点は福田ほか(2002、日本鳥学会誌51(1):4-11)に詳しい。著者もこれを参照しているのではないかと思うが、読み方が間違っている。福田ほか(2002)には“1971年頃、日本のカワウのコロニーは2〜3ヶ所にまで減少し、総数は3000羽以下にまで減少したと考えられる”という内容が書いてある(千葉県大厳寺のコロニーが消失して、上野不忍池ができるまでに間があいていれば、愛知県鵜の山と大分県沖黒島の2ヶ所だけになったということらしい)。5ヶ所というのは1970年代を通じてカワウのコロニーが記録された場所の総数。
●「わが家は、野生動物診療所」竹田津実文・あかしのぶこ絵、福音館書店たくさんのふしぎ2013年4月号、667円+税
2018/2/15 ★
北海道在住の獣医で、北海道の野生動物についての多数の著作がある著者の原点の一つ、といっていい話だろうか。子どもたちが飛べないトビを持ち込んだことに始まり、キツネ、カワセミ、カルガモとさまざまな動物の子どもが持ち込まれ、おのずと野生動物診療所となっていく。そして、リハビリテーションセンターとして森の中に「森の診療所」を建てるところで終わる。いわばプロローグのようなストーリー。
どちらかと言えば、後ろについてる付録「ふしぎ新聞」に載ってる話が印象に残った。持ち込まれた43羽ものコムクドリが全部死んでしまい、それをきっかけに減農薬の運動を始める。「私のような獣医師が千人いるより、1パーセントの農薬を減らすほうが野生動物にとってはずっと生存率が高いとわかったからです」という認識は重要と思う。
それを踏まえて、この絵本を見直すと、トビは子ども達と一人の獣医師につよい印象を与えて、半年で死んでしまう。キツネは両親を駆除されて生き残った子ども、カワセミは工事で壊された巣にいたもの、カルガモのヒナは誘拐されてきた。いずれも違法性すらありそうなプロセスを経て、連れてこられている。人と野生動物とのよりよい関係という意味では、もっと違うことをすべきな気がする。むしろ「ふしぎ新聞」に載ってる話を絵本にした方がよかったくないかな?